ロード、敵襲です!
「ロード、敵襲です!」
「っさいなぁ~…知ってるよ」
ちっす、俺ロード。第49代魔王。現在襲撃受けてるなぅ。
「構成は戦魔弓僧です!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「また基本職PTかいっ!!」
最近こんなんばっかだ。魔王城舐めてんのか?
「でも今回は比較的レベル高めですし、攻撃も多彩でけっこうヤるみたいですよ?」
「高めっつっても推奨レベルの半分くらいじゃん?攻略する気あんの?……はぁ…」
ほんんっっと、溜め息出るわ。俺、息してないけど。
「でさ?毎度思うんだけどお前、自分の持ち場は大丈夫なんか?」
「なんだか私が連絡係を勤めるのが定着しちゃってますね…」
豹戦士は本来正門警備隊所属。来客(敵を含む)の取次ぎも彼らの仕事の範疇ではあるが、戦士のクセにバトルを演じない男がそこにいた。戦わない男、豹戦士。「争いなど、虚しいだけだ」とか言わせておけばそれっぽくてイケそうだ。だがしかし、何をやらかしたのか昨日よりも怪我の増えているその様子では、やっぱり残念なMOBの域を脱してはいない。
「お前、戦力として見られていないんじゃないの?」
「そんなことないですよ!私が部隊で一番足が速いからってだけで…」
パシリだった。豹パシリ。
「それよりも対応はいいんですか?石の悪魔は下げた方が…」
「今日は骸骨騎士が玄関まで出張っているからそこでお終い。墓守がスタンバってる以外はもう解散したよ。お、始まるみたいだぜ?お前も見ていけよ」
イビルアイ(亜種)の映像を広げてみせる。豹戦士のしっぽがせわしなく動き、必死に「乱入したい!乱入したい!乱入したい!!」と訴えていた。もちろん、スルーした。
†魔王城.1F:玄関
広く開けたエントランス・ホールは2階まで吹き抜けになっており、巨大なシャンデリアが下げられている。王の居城に相応しい豪勢でいて厳かな内装だ。壁に並べられたキャンドルの火が辺りを明るく照らす中、骸骨騎士は4人の侵入者を退治すべく、対峙していた。
「我が主の居城を荒す不埒な輩め。永遠の沈黙を与えてくれようぞ!」
右手の大剣をリーダーと思しき若い戦士に向ける。
「へっ!何が出てくるかと思ったらただのデカめの骸骨じゃねーか!」
戦士は気勢を張ると仲間の方を振り向く。
「ツヴァイとアイは援護を頼む!」
「あいよ」「了解」
魔法使いと弓師が左右に展開する。
「私も!」
名前を呼ばれなかった僧侶が一歩踏み出すのを戦士が片手で制する。
「クアロ!君の出番はまだだ。下がっていてくれ!」
「でも!」
戦士が無言で首を振る。
「別れの挨拶は済んだか?ゆくぞっ!」
2mを超す長身の骸骨騎士はその一歩一歩の歩みも大きい。傍目には一足飛びに紛う動きで距離を詰め、勢いそのまま大剣を打ち付ける。
「ぐあっ!?」
辛うじてその一撃を盾で受けた――受けてしまった戦士から苦悶の声が漏れる。当たり前だ。大剣は形こそ剣の体裁を持つがその実は超重量武器。特性は「打撃」で、その衝撃は盾で軽減できるものではない。
更に2撃、3撃と追撃を五月雨のように加えるが、初撃で「受けてはならない」と学んだ戦士はそれを全て躱していく。空を切った大剣が絨毯を切り裂き、床を砕く。
「一撃一撃は重いみたいだけど、軌道が読めてるぞ!」
「ふんっ!それしきのことで図に乗るなよ!バスタァァー」
「!」
「スラァァァッシュッ!!」
それっぽく叫んではいるが、ちょっとタメただけのただの横薙ぎだ。戦士も構えからその攻撃を察し、空中へと飛んで難なく躱す。派生した衝撃波が後ろにいた僧侶を襲うが、こちらもすんでのところで地に伏せて難を逃れる。目標を捉えることのできなかった一撃が虚しく壁を揺らす。
「!?チィッ!」
宙へと跳んだ戦士に追撃を加えようと踏み込んだ先に炎が噴き上がり、壁となる。舌打ちしてバック・ステップで躱す。舌打ちする魔法使いに目をやるが、それも一瞬、すぐに視線を戻す。前方の気配。揺らめく炎の壁越しに発せられる、刺すような殺気。その正体を捉えすかさず大盾を掲げる。
ガガガッ!
翳した大盾に破邪の力を宿した銀の矢が雨のように降り注ぐ。
「うおおおおぉぉっ!!」「っいやぁぁぁぁ!!」
防御に手一杯のところに炎の壁を突き抜けて戦士が、左手からはワンテンポ遅れて魔法使いもダガーを振りかぶって迫りくる。おそらくは破邪の力を帯びた、白銀に煌めくダガー。三方向からの連携攻撃。刹那で判断を下す。大剣を引き、
「ふぅぅ……ぬんっ!!」
渾身の突きを繰り出す。
「がはあぁぁっ!?」
突進の勢いに乗っていた戦士は、その突きに自分から飛び込む形となり、やって来たのと同じスピードで真逆の方向へと弾き飛ばされる。連携が崩れ一瞬、弓師の手が弛むのを見逃さない。左足を一歩踏み込み、
「ちぃぇぇぇいっっ!!」
力任せに叩きつけた大盾が鈍い音と共に小柄な魔法使いを吹き飛ばす。大きくバウンドして壁に激突した魔法使いには目もくれず、懐から投げナイフを取り出し、振りむきざまに投げつける。ろくに目標を確認もせず感覚のみを頼りに投げた3本の投げナイフのうちの1本が、弓師の左手の甲を貫く。着弾箇所と弓師の呻き声を確認して前方へと視線を戻す。これで相手の戦力は大幅に削減できたはず。遠距離攻撃をほぼ封じたことで各個撃破は格段に容易となったはずだ。
振り返れば驚いたことに戦士は既に立ち上がっていた。背後の僧侶が発する癒しの光に包まれ、大方のダメージは回復しているように見えた。プレートメイルは歪み、骨を砕いた手応えがあったのだが……やはり、あちらから潰さねばなるまい。
ほぼ消えかけつつもいまだ燻る炎の壁を踏み越えて戦士の方へと駆け寄る。振りおろした一閃を戦士は剣で受ける。篭手に包まれた左手も剣の腹に添えて。その一撃を受けきったばかりか、戦士は更にそれを押し返して見せた。思わず後ずさる。
お互いに2つ深く息をついたところで再び戦況が動く。
「聖なる光っ!!」
僧侶が呪文を唱えると、眩い光が室内に溢れた。
「ぬぅおっ?!目、目がぁっ!?」
豹戦士「えっ?!うそっ!?」
ロード「何やってんだ、あの馬鹿!!」




