ロード、侵入者です!
「ロード、侵入者です!」
「ん~?で?」
ちっす。俺、ロード。腐れ縁で魔王やってる。正直面倒ぃ。
金の刺繍の入った漆黒の法衣に身を包み、手には百年近く使い続けた愛用の杖、頭には宝石をちりばめた煌びやかな宝冠。骨だけの身にはちょいとばかし贅沢な装備品だが、まぁ、ただの骸骨魔術師とは出自も格も違うんだ。そんくらいの違いはあって当然ってことでOK?
玉座で頬杖をついたまま報告を受ける。っていうか、面倒ぃんで聞き流す。
「敵は戦戦僧の三騎、既に庭園を突破、エントランスに突入しています!」
「その面子だと通常運行で問題ないっしょ?」
「ですが!」
報告に来た豹戦士が声を荒げるけど、ムシムシ。
曲がりなり?間借りなり?にも此処は魔王城。侵入者にはゴマンとある罠と屈強な配下が容赦なく襲いかかる。今回の奴らだと火力が物理職に依存しているみたいだし、恐らくは1階だけで10箇所ある石の悪魔のエリアのどれかでジ・エンドだ。槌戦がいるか、僧がある程度の攻撃魔法を持っていれば多少善戦はするかも知れないが、それでも1階のフロア・ガーディアンにまみえるのは、お仲間になれたら、の話だろう。
「ん?3人っつったか?」
「はい!」
んんんんん~?最近のニンゲンの侵入者は4人一組で来ることが多かったんだがなぁ?
「一人別行動とってるヤツがいるかもなー?迷彩魔法の使えるヤツだとちょいと話は変わるかー。面倒ぃなー…」
少し悩んで指示を下す。
「取敢えず城内全域に注意Lv2で。別口の侵入者がいたら交戦は避けて居場所の特定を優先」
「はっ」
傍らに控えたソーサラーが返事と共に隣室の指令部へと駆ける。おっと!指令部は企業秘密、関係者以外立ち入り禁止だ。
つっ立ったままの豹戦士にも声をかける。
「お前も行っていいぞ」
「え…?あ、はい…」
報告しか出来ない自分を不甲斐ないと気に病んでいるのだろうか?肩を落とし踵を返したその背中に哀愁が漂う。あーもぅ、面倒ぃなぁ~!
「遊びたいんだろ?行って来い」
「はっ、はい!ありがたき幸せ!」
振り返り深く頭を下げると豹戦士はうぉぉぉぉーっ!!と雄叫びを上げて一目散に部屋を飛び出して行った。元気いいねぇ。若いっていいねぇ。羨ましいよ、全く。
ふぅ、と溜め息を吐いて玉座に腰を下ろす。半跏思惟とかちょいとお行儀がよろしくないが、今はそれを咎める配下もいない。つい、気が弛んで、愚痴が零れる。
「もぅちょい楽さしてくんないかなぁ…?」
†魔王城.1F:西の回廊
「盾、殴りッッ!!」
破れかぶれの体で戦士が盾を石像に打ち付ける。本来の彼の得物である片手剣は既にボロボロになって打ち捨てられている。もう一人、ドワーフ族の戦士も愛用の両手斧を投げ出し、格闘技で立ち回っていた。と言っても石像相手に殴り合いなんて出来るわけもなく、隙を突いてひっ掴んでは投げつけるという作業をさっきから繰り返している。
「どっせぇぇぇい!」
ずぉぉぉん!
「ぐぎぃぃぃっ?!」
床に叩きつけられた一体が胴の所で真っ二つに割れ、しばらくもがいた後、動きを止めた。
「はぁっ、はぁっ、はぁ…ようやく…一体か……」
彼らがこの西の回廊に足を踏み入れた少し後に、気味悪がりながら通り過ぎて来た4体の石像が襲いかかってきたのだった。退路を絶って現れた敵に否応なく応戦するも、二人の戦士は直ぐにその相手に斬撃が通じないと悟り、逃走しながらの個別撃破を狙うのだった。しかしそれも思うようにいかず、遂には乱戦になっていた。兎も角これでようやく3対3、消耗は激しいが数の上ではなんとか互角に持ち込んだ。
と、思ったのは間違いだった。背後、つまり回廊の先から何時の間にか新たに4体の石の悪魔が出現していたのだ。それは徒に戦闘領域を拡げた彼らの失策。これで戦況は3対7。
ならばまだ良かったのだが、実状は違った。新手の石の悪魔の陰に、横たわる白いローブ。既にこの回廊の絨毯と同じ深紅に染まったそのローブはもう、ピクリとも動かない。それを見て戦士達は認識を改める。これは、絶望的――と。
!魔王城.3F:玉座の間
「で、お嬢ちゃんは何しに来たの?」
「!?」
認識阻害の類いは一度見破ってしまえば効果は無くなる。目の前の空間が一瞬揺らぎ、手にナイフを携えた女盗賊が姿を現す。
総じてlucの高い盗賊は実力以上のものを発揮することがままある。極めた隠密行動が幸運に支えられてここまで来ちゃった、って感じか。
取敢えず精神感応魔法で管制に一報入れておくか。邪魔されても面倒ぃし。
「あー、モシモシ管制?侵入者こっちにいたわー。うん、そうそう、注意報は切っちゃって。うん、こっちでヤっちゃうから、むしろ邪魔しないでね?ハイ、そいじゃお疲れー」
こちらの通話が終わるのを待っていた女盗賊が口を開く。
豹戦士「……」トボトボ
ロード「ん?どーした?」
豹戦士「間に合いませんでした…」
ロード「お、おう。おつ…」