テンプレ7 奴隷は雑に扱うもの(商売人は除く)
ギルドのお姉さんから奴隷商の場所を聞いたヤマトは早速向かうことにした。もちろん馬車は回収してある。
「ごめんください!」
自分で「どなたですか!?」と続けたくなったあなたはきっと関西人。
「はいはい、ようこそおいでくださいました」
出てきたのはでっぷりと肥え太ったおっさんだ。油ギッシュと名付けよう。
「この街の奴隷商はここだけだと聞いてきたんだが」
「左様でございます。わが……」
ヤマトは続く言葉を片手で制した。
「宣伝も結構だが仕事は早く済ませてしまいたい。この装備に見覚えは?」
「こ……これはわが商会の!」
「端的に申し上げよう。盗賊に襲われていたのを助太刀したのだが間に合わなくてな。せめて荷だけでもと思って持ってきた次第だ。外に馬車もある」
聞くや「失礼」と声をかけて油ギッシュは外へ飛び出した。
「おお!」
望外の喜びといった風だ。しかし檻の中を見てやや悄然とする。
「それでものは相談なのだが中のモノをいただけないかと思ってね」
その様子を察したヤマトはすかさずそう提案した。
油ギッシュはそれに飛びつく!
しかし流石にそこは商人。おくびにも出さない振りをして疑問を呈する。
「半エルフと獣人ですぞ……?」
「構わないよ。見てわかると思うが東方の生まれでね。オレもこちらへ来て驚いたんだが美醜のセンスがかなり違う。キミたちにとって売り物にならないレベルでもオレにとっては絶世の美女というわけだ」
「それはそれは」
良いことを聞いた、という言葉を飲む音が聞こえそうなほど気色ばむ。市場開拓の可能性に気づいたのだろう。
「どうかな?」
「そういうことでしたら是非とも」
奴隷商という言葉の雰囲気とはぜんぜん違う清潔な店で契約書を交わす。そして同時にヤマトはこう聞いた。
「奴隷解放になにか条件は?」
「は? 解放なさるのですか?」
「そうだが?」
「その……解放はできます。主人の許可と手続きに必要な料金、それに契約破棄の魔法使いです。そしてそれはもちろん当店でもできます」
少し慌てた調子で油ギッシュは説明する。
「ですが解放はオススメできません。危険すぎます」
「ああ、復讐を恐れているのか。それなら心配ない」
ヤマトの後ろに立つ2人にビクつきながら奴隷商は言葉を継ぎ足した。
「いえ、そのヤマト様の力を疑うわけではないのですが……」
「あるいは奴隷でないと差別的な理由で危険とか、か? 実はこちらには最近来たばかりでな、そのあたりのことがトンとよくわからないのだが」
「そうです」
「ふむ。しかしワザワザ奴隷誓約をするほどのこともないだろう? 首輪を着けていればそれが奴隷のものかなど素人にはわからんのだからな」
「いえ! しかしそれではヤマト様が危険です」
「それはない」
言葉と同時にどこからともなく直径2センチほどの水の縄がとぐろを巻いて部屋の中へと入ってきた。
1本2本と増えて圧迫感を覚えるほどに水の縄があちこちでうごめいている。
「キミは魔法使いではないからわからないかもしれないが」
実に静かにヤマトは告げた。
「“コレ”が常にオレに付き従っている。これを突破できる可能性は万に一つ。そしてオレ自身に勝てる可能性はさらに万に一つもない」
「か、かしこまりました……」
こうして2人は奴隷から解放された。
襲われた商人は捨て駒。
油ギッシュが喜んだのは捨てなきゃいけなかった安くない馬車が返ってきたから。