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何もかもいとしいひと

 穏やかな日々が続いた。朝から晩まで部屋に籠る瞳の元に、私は足繁く通う。本当は日がな一日中居たいのが正直なところだが、彼女と違い私は外界との交流をもつ。食事時は必ず訪れ、それ以外は時間が許す限り顔を出すようにしていた。

 一緒に食事をする以外何をするのかと云えば、午睡をとったり、彼女に似合う服を見繕い着せてはうつくしさを堪能したり……。殊に近頃の瞳は、私に朗読をせがんだ。私が声に出す小説や詩に瞳が耳を傾ける。最初は外国文学を読み上げ、同時に翻訳もこなしていたがついに在庫は切れた。あれだけの数の本を読み終えてしまうのだから相当な日が過ぎたのだろうが、最早そんなことどうでもいい。

 読み聞かせの最中、時たま、愛を確かめ合う言葉を交わす。蓋を開いた宝石箱を覗くように、うっとりとした煌めく日々。幸福で塗り固めた日常だった。

 何時しか、私はこの部屋に鍵を掛けることを放棄していた。

 「逃げなんて、しない」瞳の発言に深く頷いたのがきっかけだ。言葉通り、彼女は私から離れる気配を感じさせない。今日だって、眩しいくらい白いワンピースを着こなし、ベッドに腰掛け細い脚を揺らして目を閉じている。ただただ、私の声を拾うため。

 最近手に取りページを繰る本は夏目漱石の「こゝろ」。ここ連日、一区切りついてからページを閉じ暫くしてからまた開き、また閉じる。その繰り返しだった。

 何日か読み進めていった今日。こんな台詞をつい感情移入して私は口にした。


「戀は罪悪ですよ。よござんすか。――――そうして、神聖なものですよ」


 ゆうるりと、時計の短針の速で閉じた瞼を彼女は上げた。同じく緩やかに赤い蕾のような唇を開く。


「伊織は、いつまで私を愛してくれる?」


 瞳の愚問に、私は喜んで答えるのだ。


――――Who'll be chief mourner?

       I, said the Dove,

        I mourn for my love,

         I'll be chief mourner――――


 そう此処は、二人の永遠の愛の巣。

終わりました……! もう二度と小説を書きたくないような、いややっぱ書きたい、そんな気持ちです。


これはですね、同じ文芸部の子から「ストックホルム症候群をネタに小説を書いてほしい」とリクエストされたことがきっかけで書き始めました。

ストックホルム症候群とは、監禁された被害者が加害者に恋をしてしまう症状を指します。その過程には自己欺瞞心理操作とか無意識の生存欲求とかなんとかあるそうですが私の少ない脳面積ではせっかく教えてもらったのに覚えられませんでした。

まぁ要するに自分の趣味に突っ走ればいいんだろ! と安請け合いしたのですが、それがこんな結果に……。ここに長編を投稿する方の気力を想像するとただただ尊敬の念です。

それでも何とか完成してよかったです。


そしてやっぱり最後を飾った横文字はマザーグースの「誰が駒鳥を殺したの?」です。最後まで貴女の傍にいますよ~と伝えるために使いました。私の勝手な解釈です。


それからもしよろしければ感想・評価お願いします。

今後の文芸部での活動の参考にさせてもらいます。

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