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いちごミルク  作者: 田島 姫
君と俺との出会い編
2/17

俺はおきゃくサマ?

ドアは思っていたよりも軽く、すんなり開いた。

俺の中の勝手な想像ではもっと物々しい感じだと思っていたのに・・・

ちょっと拍子抜け。


誰もいないその部屋の中は、やっぱりテレビドラマで見たことあるような探偵事務所のようだ。

だけど誰かが使っているにはキレイすぎる気がした。

床にはチリ一つないし、どんだけ厳しい姑さんが見てもほこりは見つけられそうにない。

生活感がないんだな、たぶん。


ゆっくり足を踏み入れて、後ろ手でドアを閉めると、どこからともなく声が聞こえてきた。


「るーるるー、るるっるるー」

歌ってる?

声の雰囲気は子供のようだ。

その歌声はだんだんここへ近づいている。


「るるっ、るるっ、るんるんるん!」

ガチャ!

突然俺から見て右側にあるドアが開いた。

ドアが開いたのは見えたけど、俺の視線の先には誰もいない。

見えるのは俺の腰上ほどの高さがあろうかくらいの棚だけだ。

でも足音が・・・


「うきゃっっ!」ガシャーーン!!!


び、びっくりした。

叫び声とカップらしきものが割れる音とともに、俺の少し先で小さな小さな女の子がお盆を両手で持ったまま、うつぶせになって倒れている。

それでようやく理解した。

棚よりちっちゃけりゃ見えるわけないよね・・・


「あぅぅ、いたいデス。

 ナンデいつもなにもないトコロでころんでしまうんデショウか」

「あ、大丈夫?」

そう声をかけた俺を女の子はうつぶせの状態で見上げた。

そしてとびきりの笑顔で

「ごシンパイにはおよびません、おきゃくサマ。

 これはイツモのことなのデス!」

そう言いながら、ゆっくり起き上がった。


「アァ、またごシュジンさまにおネガイしなければ・・」

女の子はそうつぶやきながら、割れてしまったカップをお盆の上に集め始めた。

中身は入ってなかったのが不幸中の幸いってやつか。


「危ないから俺がやるよ」

女の子の手つきがあまりにも危なっかしくて見てられなかった。

せっかく怪我がなかったのに、そのまま見てたら余計な怪我が増えそうだった。

女の子は素直に「おテスウおかけいたしマス」と、おじぎをした。

そして、近くのロッカーからその女の子のサイズにぴったりな箒とチリトリを持ってきた。

「われたブブンはぜんぶキレイにあつめナケレバなりまセン」

またそうつぶやきながら細かい破片を集め始めた。


いろいろ疑問に思うことはある。

だけどそのいろんな疑問を、見た目年齢7,8歳の女の子に、怒濤のように聞くのも気がひけた。

だからとりあえず一番気になったことを聞いてみることにした。


「あのさ、さっき俺のことお客様って言ったよね?

 ってことはここは何か経営・・・お仕事みたいなことをしてるところなの?」

小さい女の子はチリトリに集めた破片をお盆に乗せて、満足げに言った。

「ハイ、いいマシタ!

 アナタはごヨウがあって、ココにいらっしゃったノデス」

「え?俺、ここに用があるなんて言ってないよ?」

第一、俺はなんでここに来たのかすらわかってないんだから・・・

ってか、カップの細かい破片をお盆の上に乗せる意味はあるんだろうか?


「この子が言った通りだよ。

 あんたは必要にかられてここに来たんだ」


今度は突然後ろから声がした。

びっくりして振り向くと、そこには女性が仁王立ちしていた。

どうやら女の子と話したり、カップの破片のことを考えていたせいで足音に気付かなかったらしい。

彼女はその姿のまま、割れたカップを拾っていた俺のことを見下ろしていた。

「あ、あの、いまいち意味がよくわからないんだけど・・・」

いきなり謎めいた言葉を言われてテンパる気持ちもあったけど、偉そうな態度ではあるけれど、なぜか嫌な感じはしないな、と思った。


「ごシュジンさま!おかえりナサイ!」

「ただいま。おまえ、またカップ割ったのか?」

「ワタクシなりにキをつけてイルつもりなのデスガ・・」

「まぁいいよ。また直せばいいだけだし」


俺を無視して彼女と小さな女の子の会話は続いていく。

無視されていることよりも会話の内容のほうが気になって仕方なくて、割れたカップが乗ったお盆を持ちながら黙って聞いていた。

すると彼女が「とりあえずそこ座りなよ」と近くにあるソファを指差した。

向かい合わせになっているソファの間にあるテーブルにお盆を置き、俺は言われるがままにソファに座った。

そして彼女は反対側に座った。


相変わらず彼女は小さな女の子と会話を続けている。

「キョウはどうデシタか?」とか「ほんとにあいつはタチが悪い」だとか、俺には会話の内容がさっぱりわからない。


その間、俺は正面に座る彼女を観察していた。

年齢は俺より少し年下に見えた。

25、6歳かな。

凛としているって言葉がよく似合う。

口調は男みたいだけど、黙ってれば女性的な顔立ちだ。

髪は真っ黒で、長い髪を一つに結んでいる。

さっきも思ったけど、眼力(めぢから)がすごい。

それもあって、彼女が言う言葉には説得力みたいなものがあった。

意味はわからないのに、きっとその言葉の通りなんだろうなと思わせる力があった。


服装はなかなか特殊というか、俺の周りではあまり見ない格好だった。

ロングコートなんだけど、腕の部分は半袖。

ショートパンツをはいていて、靴はもうそろそろ季節も夏に入ろうというのにロングブーツだ。

でも暑苦しさはない。

ふと胸ポケットに目をやると、キレイな万年筆が二本ささっているのに気がついた。

なぜかそれにすごく興味を惹かれていた。


「片づけ、悪かったな」


一瞬、万年筆に夢中で何のことだかわからなかった。

キョトンとしていると「なんつー顔してんだよ」と彼女は俺が想像するよりはるかにかわいい笑顔を見せた。


「こいつ、おっちょこちょいにもほどがあるっつーか、ほんと抜けてんだよ。

 カップ割ったの、これで何回目だっけ?」

「もうオボエておりマセン。。。」

「あ、別に気にしてませんから。

 怪我がなくてよかったですよ」

「・・・ふーん、見かけによらず優しいんだな」

「え?優しくなさそうかな?」

「んー、つーよりもチャラい?」


・・・それは俺が前々から気にしていることなんだけど。

そんなこと考えてたら自分でも気付かないうちに顔をしかめちゃってたらしい。

「あー、悪い。

 あんたがどうこうってわけじゃないんだ。

 ただ見た目がチャラいヤツにいい思い出がないっつーか、ついさっきまでそういうヤツと絡んでたもんだからさ。

 完全に八つ当たりだった。気にさわったんなら謝るよ」


さらっと暴言はくくせに、相手の反応には敏感というか、彼女のそういうところは嫌いじゃないと思った。

「いや、俺も君に言われたのがどうこうっていうんじゃないから。

 チャラいってことに俺もいい思い出がないだけ。

 だからそんなに気にしないでよ」


そんな会話をしていたらソファの横に立っていた女の子が「ごシュジンさま。おシゴトのおハナシはいいのデスカ??」とさっきとは一変、真面目な顔をして彼女に聞いた。

「あっ・・・だな。

 いつも話がそれちまう。

 じゃぁ突然だけど、あんたがここに来た理由を教えてやるよ」


急に本題に入って俺の顔がこわばったのか、「心配することねぇよ」とまた想像以上に柔らかい笑顔で彼女は言った。


「なんでかはわからないが、気付けばあんたはドアの前にいた。

 違うか?」

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