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いちごミルク  作者: 田島 姫
君と俺との出会い編
17/17

本当に知りたかったこと

それからピアーは開世の扉を使って彼女の世界へと送られた。

扉の先に見えた場所はお役所のようなところで、数人の男性が見えた。

彼女がピアーに付き添って、その男性の一人に話しかけると、男性はすぐに理解したようで、ピアーを建物の中に連れていった。


「さぁて、一件落着ってか」

彼女は一仕事を終えて満足そうに言った。

「いろいろ聞きたいことがあるんですけど、って顔してんな」

「聞きたいこともあるけど、言いたいこともあるよ」

「お?挑戦的じゃねーの」

「確かに最後に俺に言いたいことを言わせてもらう時間くれたけどさぁ」

そうなのだ。

一度ピアーの態度にイラっとして、その態度を改めさせようと説教してやろうかと思っていたのを、彼女に制止されていた。

話がひと段落して、彼女が「言いたいこと言っていいぞ」なんて言ったけど、雰囲気的に説教かます感じでもないし、ピアーもめちゃくちゃ反省してるっぽかったし、それで俺の口から出た言葉と言えば・・・

「あー、とりあえず人間関係を良好に築くコツは相手をたてることだと思うんだ、うん。

 君って頭いいみたいだし、たぶんちょっと考え方変えるだけで、いろんなことがいい方向に変わっていくんじゃないかな。

 俺もこんな見た目で損すること多くて、いろいろ嫌な思いしてきたけど、結局自分次第ってゆーか、だから君のこれからも君次第ってゆーか、うん・・・」

「あ、あの・・・」

「え?あ、はい」

「謝って済むことじゃないってわかってる。

 けど、本当にごめん。

 俺、さみしかったんだ。

 あんた、ちょっと父さんに似てて、だから余計に気付いてほしかったってゆーか。

 もう二度と会うことないと思うけど、俺ちゃんとやり直すから。

 ほんとに、ほんとにすみませんでした」


そうして今に至るわけです。

「結局俺何が言いたいのかよくわかんなくなっちゃったし。

 ってか一番気になるのが、ピアーのお父さんに似てるって、俺、オコジョ顔ってことなのか?」

彼女はケラケラと笑っている。

「何その笑いは」

「いやぁ、あいつの父親に似てるかどうかはノーコメントだ。

 たぶん知らないほうがあんたのためにもいいと思うぞ」

「な、なにそれ!

 そんなにひどいの!?」

「まぁ、ドンマイ」

「その一言で片づけるの、やめて!」

「落ち着けって。

 言いたいことはそれだとして、聞きたいこともあるんだろ?」

「うー、そうなんだけど、すげーはぐらかされた感がなんだかなぁ。

 えっと、聞きたいのは俺が危ないって叫んでから、目をつむってる間に何があったのかってこと」

「あぁ、あん時ね。

 最近ゆるーい仕事が多かったから、あんなに機敏に動いたの久しぶりだったな」

「俺、そんなに長時間目を閉じてたわけじゃないのに、なんかすごい展開進んでて、わけわかんなかったもん」

「とりあえず割れたコップ元に戻しとくか」

そう言って彼女は台所へ行き、俺が一番最初に目にした筆法陣を描いた。

さっき俺が破片を一か所に集めていたので、コップはすぐに元通りになった。

改めて思うけど、すごい力だ。

「さて、元通りになったことだし、茶でも飲みながら話すかね」


「あんたが危ないって叫ぶ前にピアーが照明に飛び移っていたのは気付いてた」

彼女は冷たい緑茶を飲みながら言った。

「明らかに照明が揺れてたからな。

 それがわかってすぐに万年筆持って、指輪を取る準備だけして、照明が落ちてくるのを待ってた」

「すでにあの時、臨戦態勢だったんだ。

 全然気付かなかったや」

「あんたに気付かれちゃってるくらいなら、ピアーだって気付いちゃうだろが。

 で、照明が落ちてくるその直前に、指輪を投げ捨てて、筆法陣描いて、落ちてくる照明を消した。

 たぶんあんたが光って目をつむったのがそのタイミング。

 あの筆法陣はどうしてもあぁなるんだよなー。

 ま、瞬間的に次元の間に物を飛ばすから、そのくらいの代償はしょうがないんだけど」

「それでピアーはどうしたの?」

「さすがにヤツも天井にずっとくっついてるのは不可能だから、照明落とした時に床に飛び降りた。

 ヤツも照明消した時に出た光で目がくらんでて動けなかったから、拘束するためにあのグルグル巻きの状態にした。

 突然体の自由を奪われて、ふらついて倒れた。

 びっくりしすぎて声も出せない様子だった」

「だからなんの物音もしなかったのか・・・」

「で、照明消したせいで、リビング暗くなっちゃって、なんかいろいろこのままじゃやりづらいなと思って、筆法陣使って明るくした」

彼女がまた天井を指差して言った。

「そのタイミングであんたが目を開けた。

 これがあの時起こったことのすべて」


彼女は当然のことのように言った。

いや、もちろんほんとにそうだったんだろうけれど・・・

彼女は普通の人間じゃないわけで、それくらいのことやろうと思ったらいとも簡単にこなしてしまうだろうということも理解しているつもりだったけれど、ほんとに起こった出来事として受け入れるのは、少し時間がかかりそうだった。


「あ、そういや指輪探さなきゃ。

 勢いよく取ったはいいけど、どこに行ったかわかんねー」

彼女は一人でブツブツ言いながら指輪を探している。

その後ろ姿は俺達の世界の人間となんら変わりはしない。

でも俺達の知らない力を使い、俺の世界ではありえないことをする。

そういう存在に対して恐怖心を感じたりするのが普通なんだろうか。


もっと知りたい。

もっとそばにいたい。

できることなら守ってあげたい。


そう思うのは間違いなんだろうか?

許されないことなんだろうか?


「ボーっとしてどうしたんだ?」

「あ、なんでもないよ」

「ふーん、こっちは無事に指輪も見つかったし、今回のことの後処理もあるから、そろそろ行くわ。

 永遠のお別れだな」

「え?」

「ここでさよならしたら、あたし達が出会うことは二度とないから」

彼女の言っている意味が理解できない。

「なんでよ!

 せっかく仲良くなれたのに!!」

「仲良くなれたって言ったって、こっちは仕事だしな。

 あたしが言ったこと覚えてるか?

 はざまの部屋はあんた達の世界であたし達の世界の力が強く反応している場所に勝手に移動する。

 そしてその力で迷惑被ってる人間をはざまの部屋に引き寄せるって説明」

「あ、うん、そう言ってたね」

「その続き。

 その原因を突き止め、無事事件解決となれば、はざまの部屋がそこに留まる理由はなくなる。

 つまりまた当てもなく移動し始めるんだよ。

 だからあんたがあの部屋に来ることももうできなくなる」

「俺の意思で君に会いに行くことは不可能ってこと?」

「あぁ」


彼女は断言した。

その一言で、会えるかもしれないという可能性はゼロであると彼女が伝えたいのだとわかった。

でもなぜか俺は根拠もないのに、あの部屋に戻れる自信があった。

それにこんな気持ち残したまま、さよならできるわけない。


「わからないんじゃん、そんなこと」

「わからなくない。

 今まで一度だって、あの部屋に戻ってきた依頼人はいない。

 そしてあたし自身が自分の意思を持って、依頼人に再度会いに行くことはない。

 だから絶対に無理だ」

「俺だけは戻れるかもしれないよ、あの部屋に」

「根拠でもあるのか?」

「そんなのないよ!!

 でも、まだ名前も知らないのに、事件が解決したからって、はいさよならなんてさみしすぎるじゃないか!!!」


そう言いきって俺はハッとした。


「そうだ!名前だ!!」

ずっともやもやしていたもの。

当たり前だけど、とても大切なこと。

お互いを知るうえで、欠かせないもの。

「そう、君の名前だよ!

 あの部屋の女の子の名前だってそうだ。

 俺は君達の名前を知らないし、君達は俺の名前も知らない。

 なんでそんな単純なことに気付けなかったんだろ!」

やっとすっきりしたことで俺はちょっと興奮ぎみに言った。

でも彼女を見ると、その顔は曇っていた。


「それはあたしがそういうふうにしていたからだよ」


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