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いちごミルク  作者: 田島 姫
君と俺との出会い編
11/17

今夜眠る場所

彼女はそう宣言すると、女の子に夕食の支度をするように言った。

女の子が部屋から出ていくと彼女は話を続けた。


「もっと早い時間に行ってもかまわないけど、確実に捕まえるためにいろいろと準備もしたいしな」

「準備??」

「あたしの世界に戻って、ちょっとな」

「え!俺も君の世界に行けるの!?」

「ダメだ」

速攻で拒否られた!!

「あ、もしかして俺を連れていくとなんか問題がある・・・とか?」

「いや、別にあんたを連れていくとどうこうなるわけじゃない。

 準備でやることがてんこもりだから、あんたの相手をしてる暇がないだけ。

 あんたを連れてると知り合いとかにいろいろ説明しなきゃならなくなるだろ?

 その時間すら惜しいからさ。

 悪いな」

「俺のためにやってくれてるんだから謝らないでよ!

 俺の方こそごめん」


正直俺がいる世界と違う世界がどんなふうになっているのかすごく興味はあったけど、迷惑かけるつもりもなかったから、明日はおとなしく待ってることにした。

「いろんなことが立て続けに起きてゆっくりすることもなかったろ?

 明日は出かけるまでゆっくり過ごしなよ」

「・・・うん、そうする」

確かに何もせずにゆっくりするなんてこと、最近はなかった。

だからお言葉に甘えることにした。

これまたイメージとは違うと言われそうだが、まったり過ごすのが実は一番好きだったりする。

友達付き合いはいいほうだからよく遊びに誘われる。

だから休みはだいたい予定が入っていて、なかなかゆっくり休む時間はない。

そういう生活の中でたまに自分だけの時間があるというのがすごく贅沢な気がするんだよね。


「ま、どうせ出かけたら、その後は当分バタバタすんだから」

彼女のその一言で、一気に現実に引き戻された。

ピアーを捕まえたらそれでおしまいってわけにはいかない。

俺は職もなければこれから家も失う身なのだ。


「・・・うぅ、出かけるまでの時間は『贅沢』なんじゃなくて『貴重』ってことか」


それから夕食が出来上がるまでの間に、今日休ませてもらう部屋に案内された。

『はざまの部屋』は外から見た時はビルだったけど、中は二階建ての一戸建てのような感じだった。

二階には、いくつか部屋があって、そのうちの一つに入った。

そこには必要最低限の家具は揃っていたけれど、使われたような感じはなかった。

「他にも部屋はあるんだが、空いてるベッドがあるのはこの部屋しかなくてな。

 あまり使ってないけど、ちゃんと掃除はしてあるから」

「全然大丈夫だよ。

 むしろこんなにちゃんとした部屋にいいの?」

「かまわないさ。

 ただし、タンスは開けんなよ?」

「えっ??」

「ここ、あたしの部屋だから」

「マジすか!!」


なんだ、この展開!

好きになった人と同じ屋根の下で過ごすってだけでもドッキドキなのに、好きな人の部屋に寝るだなんて急展開すぎるでしょ!!

いや、まてよ・・・じゃあ彼女は・・・

「あ、あの、俺が君の部屋で寝たら君はどこで寝るの?

 ま、まさか同じ部屋で・・・」

「んなわけあるか。

 あたしのことはあんたが心配する必要ない」

「あ、さいですか・・・」


まぁ、そうですよね。

にしても「心配する必要ない」とは結構手厳しいこと言うなぁ。

彼女にとって俺はあくまで『依頼人』で、女の子にとって俺はあくまで『おきゃくサマ』でしかないのだから、しょうがないといえばしょうがないのだけど。


「アァ、コチラにいらっしゃいマシタカ」

女の子がドアからちょこっと顔を出して言った。

「オマタセしました。

 アトすこしでデキあがりマス」

「わかった、すぐ行く。」

そう言われて女の子はパタパタと去って行った。


「あたしは基本的に寝ないんだよ」

突然そう言われて俺は彼女のほうに振り向いた。

「寝なくても問題ない、が正確な言い方かな。

 これもあんたとあたしが違う世界の人間であることの証明なのかもな」

「じゃあなんでベッドがあるの?」

「さっき体力の消耗と力の消耗はつながってる部分があるって説明したの覚えてるか?」

「君曰く、ピアーが俺を無理に探そうとしない理由がそれだったよね?」

「そうだ。

 つまりあたし達の世界の力が消耗しない限りは体力も消耗しない」

「だから寝る必要もないってことか」

「逆を言えば力を使いすぎればそれを回復させるための手段が必要となる。

 その一つが『寝る』という行為だ。

 だけど一度眠りにつくと力がある程度回復するまでは起きない。

 その間は無防備だから、万が一そこを狙われたりでもしたら、どんなにすごいヤツでも一発でやられちまうだろうな」

「じゃあなるべく寝ないほうが君達にとってはいいってこと?」

「そういうこと。

 だから寝ないことは元気な証拠。

 心配する必要がないって言ったのはそういう意味」

そう言って彼女は俺の顔を覗き込んだ。

「ちょっと冷たくされたくらいで落ち込んでたら疲れるだけだぜ?」

「うぇ!?

 俺、また顔に出てた!?」

「ふっ、わっかりやすいヤツ」

彼女は機嫌よくそう言うとドアに向かって歩き出した。

その後姿はまるで小悪魔のように見えた。

俺としてもここまで気持ちを読み取られると恥ずかしくて仕方がない。

もしかしたらさっきの『ツンデレ』の仕返しなのかもしれないなと思った。

『ツンデレ』の上に『S』とは最強の組み合わせだ。

ま、ぶっちゃけその組み合わせも嫌いじゃない!


「こりゃ、やっかいな相手になりそうだ・・・」

「ん?なんか言ったか?」

「いえいえいえいえいえ!

 夕食楽しみだなぁって!!」

「あいつの作るご飯は普通にうまいよ。

 クッキーも悪くなかったろ?」

「そうだね。

 たまに抜けてるけど」

「そのたまの抜け方がハンパじゃないけどな」

「でもそれがあの子のかわいいところでしょ?」

「あんた曰く、なんでも完璧じゃつまんないってことだろ?」

「そうそう!

 ・・・あ、気にしてる・・・?」

「さてな」


そんな会話をしていると女の子の大きなくしゃみが聞こえた。

なんともマニュアル通りの反応だな、と感心したのは言うまでもない。




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