第4話 天気魔報
王都が崩壊する様子を目の当たりにしたモックが言葉を失う。そして王都全体から何かが上空へゆっくりと昇っていく。
『思念だ……強い思念体も有れば弱々しいものも……これら全てクラウ土の肥やしとなるのか。または俺たちのように精霊となってしまうのか……』
その時、ラナから連絡が入る。
《モック! 大丈夫? そっちはどう?》
《あぁ……栄気を吸われて大地も建物もボロボロになっちまった。光もなく寒さがキツくなって市民が呆然としているぜ。ラナ、本当にこれで良かったんだよな?》
《……この国を救うにはこれしかないわ。モックは王宮入口へ戻ってきて》
《わかった!》
王都では家族、財産を失った市民の国王に対する怒りが頂点に達した。
そして反乱軍が結成され、王宮へ攻め込む。
「行くぞ! 国王をぶっ倒せ!!!」
反乱軍と騎士が王宮敷地内で激突した。王国魔法士が魔法で迎撃する。
そしてその一報が王室でくつろぐ国王の耳に入る。
「なんだと! 反乱軍が攻めてきた? ぜ、全員反逆罪で死刑にしろ!」
王国騎士と魔法士。一般市民とは戦力差があり過ぎた。数の多い市民が次々と襲いかかるが返り討ちにあってしまう。
そこへモックがラナと合流した。
『ラナ、そろそろ助けてやらねぇと反乱軍が負けちまうぞ!』
「うん、私の怒りもね……とっくに限界超えてるから」
一斉に魔法を唱える王国軍を前に王宮手前で足止めされ続ける反乱軍。そして前線が勢いを失ってしまう。
「クソ! 俺たちじゃ、あの王国軍には勝てねえ……ここまでか……」
「くたばれ反乱軍! 一斉にファイアだ!」
巨大な炎の塊が反乱軍へ襲いかかる。
「うわぁ〜!!!」
逃げ回る市民の中からゆっくりとラナが前へ出てきて炎に向かって指を鳴らす。
パチン!
すると炎が一瞬で消えてしまった……
「反乱軍のみんな! 魔法を恐れるな! 私の後について来い!」
そういって魔法士が繰り出す魔法を次々と跳ね返して前進する。
『ラナに地国の民が放つチンケな魔法なんて効かねぇよ。ラナは気を操れるから』
「竜巻きをぶつけて終わらせるわ。この辺り風気で満たされているし」
指をパチンと鳴らすと巨大竜巻が突如発生し、魔法士だけでなく入口を固めていた騎士たちも吹っ飛ばす。
『あらら〜。今日のラナはキレッキレだな』
「この辺一帯が魔天気のおかげて色んなエネルギーで満ち溢れているわ。今ならなんでもできるよ」
笑顔を見せるラナの後ろから少し距離を空けて市民がぞろぞろとついてきた。
「みんな! 今から国王をぶっ倒しに行くよ! 一緒について来て!」
「「「おぉ〜!!!!」」」
そして、王宮内の兵士たちをあっという間に制圧し、王室へ突入するラナと反乱軍。
目の前でドスグロッテ国王とワルダー宰相が怯えながらこちらを見ている。
パチン!
強烈な突風が護衛兵と宰相を吹っ飛ばし、国王だけが残った。
「ドスグロッテ、あなたは王国を統治する資格の無いクズよ! 今日ここで家臣と共に消えてもらう」
「キ、キサマ! 何者だ! 余を侮辱するとはゆる――」
パチン!
国王がラナに向かって指差した右手がスパッと斬られて吹っ飛んだ。
「グアァァ!!!」
「私はラナ。天気魔報士よ」
そう言って再び指を鳴らし、王室全体の天井を削り取る。
「空が丸見え……」
反乱軍全員が言葉を失う。
「あなたはこれまで犯し続けた罪に報いるべきよ!」
ラナが右手をドスグロッテに向かって振り下ろす!
「や、やめろー!!!」
「天気魔報! 雷鳴!」
天空から一直線にドスグロッテの頭に叩きつけられた落雷。そのあまりに激しい音と光でその場にいた市民が尻餅をついて固まってしまう。
「今から私がこれまで犠牲となったフィールディアの民たちの思念へ報いるために王宮全エネルギーをフィールディア全域に解放します!」
その場にいる市民に向かって宣言するラナ。モックが市民を守るように大きくなって包み込む。
『ラナ! いつでもいいぞ!』
頷いて、祈るように両手を握る。そして…………
「天気魔報……風化」
ラナの両手から優しく温かい光が溢れ出す。光はそのまま王宮を呑み込む。
そして建物上部から徐々に消え始める。
『王宮だけじゃない。王都の建物も含めて、すべてのエネルギーが大気に吸収されている……』
市民を守りながらラナの様子を心配そうに見つめるモック。
暫くして王宮が完全に風化して存在が消えた。《気》に戻ったのだ。
王宮跡地となった広大な大地に、一人立った姿勢のままのラナが両腕を天空へ掲げて再び天気魔報を唱える。
「恵の…………雨」
ポツリ、またポツリと天空から雨が……
次第に勢いを増して雨はフィールディア王国全体に降り始めた。その時、王国中の市民は奇跡を目の当たりにする。
「あ、雨が……光っている……」
フィールディア王国に優しい光の雨が降り注がれた。雨による影響なのか、大地や樹々が蘇り、川に魚が戻り、枯渇していた畑では作物が急速に成長し始める。
奇跡の雨は暫くの間、フィールディア王国に降り続いた……
翌朝、王国中に歓喜の声が響き渡る。
「おい! 太陽だ! 太陽の光だぞ!」
ここ数十年、感じることが無かった太陽の存在。その光を浴びて大勢の市民が思わず涙を流してしまう。魔天気で作り出した光とは全く違う。それはエネルギーに満ち溢れた自然の光だ。
そのまま固まってしまう市民を眺めながらモックが尋ねる。
『ラナ、これからどうするんだ?』
すると、笑顔でラナが答える。
「私達がやれることをやり続けるだけよ!」
ポポロ村の外れにある丘の上のとある墓地。
ピピと祖母が大きな石碑の前で祈りを捧げている。先代王家の墓だ。
「国王様、本日フィールディア王国はあの時の光を再び取り戻しました。数十年という長い月日が経ってしまいましたが、こうしてご報告できたことをこの家臣ビビアン、誠に嬉しく思います。どうか安らかにお眠りください」
ふと、ピピが石碑に刻まれた名前に気づいて口にする。
「王女……ラナリア・フィールディア、愛犬モックスと共にここに眠る」




