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秋の文芸2025

食事

作者: 東ティモール出身のゴヤ
掲載日:2025/10/11

友だちと飯を食べる。あと何回一緒に食べれるのかな。今日が最期かも知れないし。大袈裟だけど感謝してる。キミもいつかそんな風に思うときが来るのかな

テーブルを隔ててキミとボクがいる。


ドレッシングに濡れたフォーク。

サラダを食べ終わると「早くハンバーグ食べたい」とキミは言う。


まだ他の席のお客さんもハンバーグが届いていない。

だからもう少し待たなくてはならない。


じれったそうなキミと今日の出来事を振り返る。


「満足のいく練習はできた?」


「うん、前回よりはハードにこなせたかな」


「次の大会に向けて持久力を上げていかないとね」


キミが小学生の頃から共にトレーニングをしてきたね。


初めは憧れの対象だったボクもすっかり年を取り、現役を退いてしまった。

同じレベルでメニューに取り組むことはできないし、簡単に置いてかれてしまう。

だからボクは無力感に苛まれている。


いくら望んだとしても、シェフが焼き上げて美しい皿に盛り付けるまでハンバーグが決してやってこないように、自分がどれだけ目標を立てて邁進しても叶わないことのほうが多くなってくる。


「たっちゃんも動き良かったですよ?」


「え、そうかな」


「スクワットが効いてるんじゃないですかね。ほら、前に教えてくれたじゃないですか」


高校生になったキミは優しさはそのままで、体はたくましく成長した。

ボクの些細な変化にも気を配って褒めてくれる。


「でももう大会出るわけじゃないし、維持で精一杯だよ」


喉が渇いて氷の浮いた水を飲む。目の奥に溜まった重たい熱を一時的に奪ってくれる。


「もう目標もとくにないしさ」


未来ある若者の前でぽつりぽつりとマイナスの言葉があふれてくる。

ボクは大人失格だ。


「モトキが頑張ってくれたら良いよ」


ハンバーグのプレートが運ばれてくる気配が漂う。

じゅうじゅうと油の弾ける音がする。

甘いニンジンと、焼きめのついたアスパラガスが添えられたハンバーグにはタマネギと肉汁がギュッと詰まってるだろう。


キミはまだタネの段階で、こねこねして、美味しくなあれと声をかけられて、一流シェフの手によって、俵型にまとめ上げられて、これからどんな味になっていくんだろうね。


焼き加減はじっくり弱火で、中身はレアで仕上げるのかな。

それともしっかり焼いて、歯ごたえが特徴になるのかな。


鉄板の隅っこで小さく炭になったカスが今のボクだとしたならば、どうかキミには世界の舞台で輝いて欲しい。


待ちに待ったハンバーグに夢中でかぶりつくキミのからだは、昨日食べた野菜炒め、今口に入れたフライドポテト、明日のお母さんのお弁当でできていく。


そう思ったら、その瞬間を分かち合うことができているボクは幸せなんじゃないか。


「どうしたんです?たっちゃんも食べたら?」


「あ、ああ。そうだね熱いうちに」


大会で結果を出せなくなっても仕方がない。

そう思っていても心のなかは穏やかじゃない。

だから意味を探している。ボクの意味を。


「とっても美味しいですね!ここ良く来るんですか?」


「トレーニングの帰りに、たまに。遠征先にもよるけどね。近くを通るときは寄ることが多いかな」


「へえ。色々知ってるんですね」


「それに前回蕎麦だったじゃん。あれ、腹にたまんなかったから。今日は肉食べたいな、って」


ソース全部使いなよと言ったら、喜んでたっぷりかけていると小学生のときの面影がまだ残ってる。


たっちゃん、たっちゃん、ってボクはキミに何度呼ばれたか分からない。


プレースタイルや仕種がボクに似ていると言われたこともあるんだよね。

顔つきもそっくりだなんて言う人もいるね。

ボクは素直に嬉しいけれど、こんな弱っちいボクに似てるだなんて申し訳ない気持ちもあるな。


「ソッコーで食べ終わりました!」


見事に大盛りライスを完食して、キミは舌なめずりをする。

ぺこちゃんみたいなやつだ。高校生になってもかわいいんだ。


「トイレ行ってくるから待っててよ」


ボクはレシートを持って席を立つ。

トイレに行く前に会計を済ませる。


いつも「いや、払いますよ」とか言ってくれるんだけどさ、大丈夫。

もしもキミが大人になって、後輩とか、子どもたちと練習した帰りにさ、ご飯食べることがあったらさ、そのとき奢ってあげてほしい。


ボクもそうしてもらってきたし、キミもいつかそのときが来る。


てことはあのときの先輩も、今のボクと同じような悩みを抱えていたんだろうか。


キミとの練習、食事はあっという間に終わっちゃう。

悲しいな。

でも次に会う約束をするためには、今日という日は終わらないといけない。


「じゃ、帰ろっか」


ふたりで店を出ると雨上がりの夜空は曇っていた。

天気は悪いけど、心はスーッと晴れていて。







(了)

自分の子どもじゃないけど、積み重ねた時間だけふたりには特別ななにかがあると思ってる。親子ほど離れてるわけでもないし、兄弟でもない。不思議な距離で繋がっている

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