5 同居開始……?
「なるほど、ある程度理解いたしましたわ!つまりこの世界には天才と呼ばれる方々が私を以外にも複数名いらっしゃるのね!」
「うん……そういうこと……」
自分の常識がとことん通じない相手に1から現代の科学の進歩を教えるのは控えめに言って大変難しかった。たとえ通知表で万年理科の成績が5だったとしても相手によってはその輝かしい称号など無価値にも等しいということを学んだ。
「ねえユズリーナ?私帰れる見込みがないのですわよね?」
「……うん、それは……そうなんだよね。多分」
おそらく彼女がもといた世界に帰れることはない。家までの道でなぜこちらにきてしまったのか聞いたところ、「木陰でうとうとしていて、気づいたら目の前の景色が変わっていた」のだという。おまけに魔法や何かショックなことなどがあったわけでもなく、アイリス自身、最初は夢を見ているものだと思ってたらしい。
「……ですわよね……ですわよね……」
「うん……でも、できたら帰りたいよね……そうだよね……」
「……まぁ……仕方がありませんもの……私もこの世界に住みた……」
「うん、そうだよね、帰りたいよね。うん。もちろんだよ、私がどんな手を使ってでも元の世界に返す方法探してあげるから安心して」
「い、いやそんなことはひとこ…」
「帰りたいよね?帰るんだよね?帰りなさいよ……?」
そう、やはり映像というものは大事である。これではどちらが悪役なのかわからない。
「話を聞いて下さいまし!私はこの世界でスローライフを満喫すると決めたのですわ!こうなった以上ここに住ませていただきますわねっ!」
「あああああっ!やっぱりそうなるのかぁぁぁっ!」
そうなのである。柚子が気にしていたのはこれなのだ。推しとの同居生活。しかもその推しは悪役令嬢ときた。模範的な女子高校生として平穏な生活を送ることをモットーにしていたのだがどうやら崩れる未来が見えそうである。嫌、実際にはもう見えているのだが都合の悪いことは見ない主義であるためあくまで推測とする。誰にだって受け止めたくない未来はあるのだ。
「ううう……とりあえず腹が減っては戦はできぬ……うん、ご飯買ってくる。」
「あら。あの袋に入っているものはご飯ではないの?」
「うん、あれおやつ」
「おやつ……」
買いまくった餃子フェアのものである。
餃子好きにかかればただのお菓子に過ぎないのだ。これで腹を満たすなど非常に許し難いことなのだ。
「そう。では私も連れて行きなさい……なんですのその顔は」
「あ、嫌だなぁって」
「せめて出すのは顔だけにして下さいませ……ふん。まあいいですわ。従者の帰りなどいくら待ったことか……。これでも留守番は得意な方でしてよ」
それただ厄介だから置いてかれただけじゃ……とは言えない。
「うん、じゃあ頼むね。行ってきます。」
「ええ、行ってらっしゃいませ〜」
玄関へと向かいながら会話をする。お嬢様は律儀にも玄関まで見送ってくれるようだ。
「あ、何かリクエストとかある?」
「あら、そのためのシェフを連れてきてくださるので」
バタン。心の扉が閉まる音がした。
夜道を歩くこと10分。さっきまでが騒がし過ぎたせいでいつも慣れてるはずの1人での行動に違和感がある。星が綺麗だった。
「異世界転生……ね……。いや、転送……か。」
2次創作を漁りまくる身として何度も憧れたシュチュエーションだ。だがいざ目の前にそんな現象があると思うと何をするべきなのか、してあげるべきなのかわからなくなる。自分が乙女ゲームの中に転生したのであれば国外追放やバッドエンド回避のために頑張ればいいのだろうが、別に何か目的やシナリオなしに常識が通じない異世界に放り込まれても何をすればいいのかわからないだろう。ある意味スローライフを送るのは正解かもしれない。
どうすればいいのだろう。高校生として一緒に生活させるか……?いや、戸籍とか書類の手続きできないし、異世界から来たとか信じてもらえないだろうし、それにあの歩く厄災みたいな子と一緒に学校生活なんて送れる気がしない。
「……早く買って帰ろ」
今考えても仕方ない。早くアイリスが何かを家でやらかす前に帰るのが今一番すべきことだろう。
確かゲーム内スチルでアイリスはスパゲッティを食べていた。他にもスープだとかクレープだとかを食べているシーンもあったので食生活はこっちの世界の洋食とあまり大差ないのだろう。まずいと言われたらその時はその時だ。作るのがめんどくさくて買いにきただけなので食材はある、自分で作らせよう。
そんなこんなでコンビニでスパゲッティとクレープ、自分用のおにぎりと唐揚げを買って帰ることにした。




