3 悪役令嬢の本質
「……で?」
目の前に少女を正座させ柚子は問いかける。
…真っピンクと黒のゴスロリ風ドレスをジーンズとキャミソールに変え、その上からピンクのシースルーシャツを羽織らせて。ブロンド縦ロールはポニーテールにし、ピンクの大きなリボンの代わりにバンダナをまかせるといく分かこちらの世界に存在しててもおかしくない見た目になった。
「……でとは?どの言葉に関するものなのかしら?この世界の方々は主語というものを知らなくて?」
「……知ってるもん」
とりあえず現状を整理しようと柚子は彼女が1人で暮らす家へと遺憾ながらもアイリスを連れて帰ってきて今である。
ここまでの道のりは非常に長かった。どれだけ長かったかというと普段柚子が15分で通う道のりを6時間かけたのだ。単純計算24倍である。双眼鏡の基本倍率だったと思う。
それはそうとしてこのお嬢様、見るもの見るものに評価してくるのだ。食レポでもさせればきっとその食材は次の日スーパーから売り切れるほどなのだろうが今その才能を開花させるのはやめてほしかった。
まずは見た目をどうにかしようと近くの古着屋へと連れて行こうとしたところ
「私が歩く?何故ですの?必要性を感じませんわ。そんなの風魔法でどうにかなるじゃない。それに私の臣下は優秀でしてよ。私が足を踏み出す前に目の前に馬車を置くのを生き甲斐としておりますの。」
「……ルーブランシェ家に仕えるものはもれなく皆変人説否定派だったのに……っ!っく!やられた……じゃなくて!はい!つべこべ言わずに歩きなさい!」
から始まり、道路を見ては
「まぁ!石畳がないのに道が凍っておりますわ!それに今の動く物体はなんですの!?ちょっとそこの貴方!魔術式を解明させてくださいまし!!!」
「まて!!!あれは自動車っ!運転手さんには声をかけないの!こっちはコンクリートだし…ってまてっ!信号赤だって!車道横断禁止!」
そうしてやっと服屋に着いたかと思うと
「……外を歩かなければクローゼットに辿り着けないなんて不便ではありませんこと?」
「やめて。店員さんの目が痛い。……お忍びで街に行ったりしなかったの……?」
「……お忍び……?あら貴方もしかして私がお兄様に内緒で何処かへ出かけるような兄不孝ものだと思ってらして?……心外でしてよ」
「……何そのブラコン設定。推せる。いや、元から推してるし確かに兄が攻略対象であればブラコンじゃなきゃ悪役令嬢という立ち回りはかかせないけど…ゲームではそんな描写ひとつも出てこなかった!
というかアイリスの町娘姿見たかったぁ…っ!ああ…きっと作画コストの都合上だろうな…そう設定しておけば悪役令嬢が基本的にいつも服が同じなのも納得だもんな…かわいそうに。私の推し。今から2次創作で…」
「…!こ、これはどれだけ複雑な術式が埋め込まれているのです!?な、なぜ王家にしか存在しないと言われている最高峰の魔道技術を使った魔道具ががここにあるのです…!?…はっ!私…すっかり騙されておりました…ユズリーナ様は王宮魔導士ですわね?私の目は欺けませんわよ!」
「……せめてオタク語りは最後までやらせてほしかった……うん。」
会話内容と言い見た目と言い雰囲気と言い……ここまで全てにおいて疲弊し切った様子がわかることなど早々ないだろう。そんなこんなでこのようなアイリスの「とりあえずなんでも魔道具もしくは魔法だと思い込む病」に対し「とりあえず言葉の弾丸ぶちかます」という脳内処方箋のもと頑張った柚子であったが途中でオーバードーズさせすぎたせいでアイリス相手には効かなくなってしまった。要するに完全にアイリスのペースに飲まれてしまったのである。
そんなこんなで今に至る。とりあえず柚子は現状を飲み込むことから始めることにした。
「うーんっと、まず確認させて。あなたはアイリス=ルーブランシェ、ユーラス=ルーブランシェの妹であり4大貴族ルーブランシェ家の長女。魔法貴族学園に通っていて、アレス=ディーファルニア王子の婚約者。ここまであってる?」
「ええ、完璧でしてよ!……ですがどこでお聞きになさったの?貴方、私の名前を知らなかった割には詳しすぎるのではなくて?」
「そ、それはだね……えっと、そ、そうだよ!魔道具!!!ずっとアイリスが興味示しまくってるその魔道具の影響なのです!」
アイリスはこちらの世界の科学技術によって生み出されたものをとりあえずなんでも「魔道具」という習性がある。それを利用すれば推しに嘘をつかずにとにかく納得させることができるはずである。案の定目を輝かして「すごいわね…すごいわ…」と言っていた。柚子は確信した。もしかしなくてもうちの推しちょろい。
「どうしてゲームの悪役令嬢がこんなところにいるのよーーーーーっ!」
「ユズリーナ様、急に叫ばれないでくださいまし。礼儀がなってなくてよ?」
「なんであんたは冷静なんだよぉっ!」
「……慌てても何も事態は変わりませんもの。取り乱すということは自分の弱みを相手に見せるということ。貴族社会において常に落ち着いた態度で、冷静に物事を多角的な視点から考えるというのは基本でしてよ。」
そう言われ一度我に帰る。そうだ、今おそらく内心で一番焦っているのは等の本人、アイリス自身なのだ。それでも貴族として誇りを持ち続けている。それはゲームの中のアイリスも同じであった。どんな時でも貴族としての誇りを忘れず、常に気高く、絶対にぶれない芯を持っている。柚子はそんな彼女に惹かれたのだ。
前代未聞の「悪役令嬢に転生」ではなく「悪役令嬢が転生」ということが起きてしまっていることを受け入れると決めた以上柚子にも責任が生じる。一呼吸おき柚子はとりあえず彼女が少しでも納得できるように現状をアイリスに伝えることにした。
「……ねぇ、アイリス。簡単にいうとね、今ちょっとよくわからないことが起きてるんだ。今までだったらありえないことが目の前で起きてる。私にはどうすればいいのかわからないし、不確定なことが多すぎてあんまり詳しいことは言えない。でも、絶対にひとつだけわかってることがあるんだ」
「……お聞きしても?」
「ここはアイリスが今まで過ごしてきた場所じゃない。簡単にいうとアイリスは別世界にきちゃったんだよ」




