21 いざ学校(3)
「白石。留学生が自分の知り合いであることでマウントを取れると喜ぶ気持ちもわかるが、一旦落ち着け。まずは紹介しない限りはマウントも何もないだろう?」
「……はい」
そういうことじゃないと言っても無駄であるということを知っていた柚子は何も言わない。こういうのは喋ればしゃべっただけ話がめんどくさくなる。
「よしじゃあ紹介する。入ってきていいぞ」
ガラガラと扉が開く音がし、あやめが入ってくる。文字通り柚子の目は彼女に釘付けだったが別に何か恋が始まるわけではない。
「留学生の七瀬あやめだ。七瀬、自己紹介を頼む」
「Bonjour Mesdames et Messieurs!みなさんご機嫌ヨウ、ななせアヤメともうしますワ。ユズリーナの家にとまってマス。えっと……紅茶とクッキーが好きデス。ニホンゴ話す、上手くない、でもいっぱい話してクダさると嬉しいですワ。よろしくお願い致しますワ!」
そう言ってあやめが頭を下げるとパチパチと拍手がなる。
「海外お嬢様きたーーーーーっ!」
「すげー!可愛い!美女!」
「日本語うっま!全然上手上手!」
「なんならお前よりも日本語上手じゃね?」
「それな、俺もそう思ってた」
再びクラスに活気が戻る。どうやら幽霊よりも存在感があったようだ。
「家庭の事情により国籍が明かせないため、偽名の『七瀬あやめ』を使うそうだ。本人が言いたくないと言っている、捜索は止めること。いいな?」
「いや、フランス語使ってる時点でそれは……」
「「「はーい」」」
「……」
素直なのかポンコツなのかよくわからない人たちだ。
「それと彼女は独学で日本語学んだそうだぞ。アニメや小説を見てたらしい。言葉遣いはその影響なのだそうだ。お前たちも独学でやろうと思えばこんだけ多言語喋れるんだ、手本としろよ。あとは……そうそう、本人も言っていたが彼女は白石の家にホームステイしている。だから世話役にも彼女を抜擢してあるが、白石1人に全部面倒を見せるつもりはない。みんなも気遣ってやれ。お、チャイムが鳴ったな。んじゃ、これでHRを終わる。1時間目に遅れるなよ、解散っ!」
こうして一部始終困惑しきっていた柚子を置き去りにし、朝のHRは終わったのだった。
そして時は戻る。
「はあああああああああ……っ」
「……お疲れ様、柚子っち。私でも流石に同情する。好きなものが半額で売られていた時の心境……わかる。わかるよ……」
「……あかり。君は一体誰のどの話を聞いて同情してるんだ」
「……半額……興味深いですわね?」
「あ、なんかあーや嬢が扉開こうとしてる。夕方タイムセール界隈入る?」
「なんだそれ」
「即興で作ったから知らない。たぶん割引シール集めるとVIP会員になれるよ、知らんけど」
「知らんけど…… 不思議な響きですわ……!」
再びあやめが新たな扉を開こうとしている。なんかあやめがだんだん現代社会に染まってきたなと柚子は思った主にあかりのせいであることは知っている。
「あんだけ目立たない様言ったのに……留学生って一体どういうつもりよ……しかも何、国籍秘密って」
「ユズリーナのお母様がどんな言語を学校で話しても違和感がない様に配慮してくださったのですわ!」
「なるほどね……確かにそれなら母国語が出ても違和感ないか」
「……なんでそんなあっさり納得してるの」
「ええ、それに私の言葉遣いも直さなくていいとあのお方はおっしゃいました……っ!」
「……まあ、確かにアニメで日本語学んでそれを受けて日本語喋ってるって設定は上手いな……」
それに彼女のブロンド髪や鮮やかなエメラルドグリーンの瞳も説明が付く。確かに上手い設定だと柚子は思った。だがしかし。
「それはそうとして留学生なんて目立ちまくりじゃん!」
「あ、出た。柚子っちの同担拒否」
「どうたんきょ……?」
「うん、柚子っちの持病。いやまてよ、後天性かな?」
「違うからっ!」
等の本人とマイペースな親友は非常に呑気なことである。
「見てみなよ!このクラス中からの視線!留学生なんて注目の的!あやめの行動にこのクラスメイトの人数×2の視線が注がれるんだよ!?ヘマできないし紅茶コッソリなんて飲めるわけがないでしょ!?」
「視線を目の数で数えるタイプなんだね」
「確かに。今まで無数の人々の目に止まってきましたが、言われてみればですわね。」
「そこじゃないっ!」
……忘れていた。あやめは元公爵令嬢だった。
「あ、そうそうツッコミ忘れてたけど、今みんなから注目されてるのは4割あやめへの好奇心、6割柚子っちのこの大声のせいだからね?」
「あやめよりも私の方に要因が多くあるのは解せない」
実際のところあやめに3割、柚子に6割である。残る1割はあかりの自称ファンたちである。
「あああ……それにあやめ、髪の色が目立つんだよ……移動教室が今から憂鬱……」
「そんな柚子っちに朗報。次の授業は理科室、3棟です。あ、チャイムがなるまであと2分ありません!」
「え、やばいじゃん、行くよ2人とも!教科書と筆箱持ってダッシュ!」
「あらユズリーナ。廊下は走ってはいけないのでは?」
「置いてくぞ!?マイペース令嬢!」
このあと目立つ金髪で廊下を全力ダッシュしたせいで学校中の生徒や職員から注目され、瞬く間に3人とも有名になるのだが、そのことを彼女らが知る由もなかった。




