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朗報 知り合いに異世界スローライフを目指す悪役令嬢(推し)がいます。  作者: 椿レイ
第一章

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20 いざ学校(2)

 柚子はハラハラしていた。比喩表現ではなくちゃんと手に汗を握っていた。朝のホームルームが始まるまで時間の流れにバグでもおきたかというくらい柚子は時間の流れを感じることができなかった。あかりがそんな柚子の様子を見て「出産を待つお父さんだね」と言っていたがそれに突っ込む時間さえも忘れていた。それくらい緊張していたのだ。


 学校についたあとあやめは先生に連行された。柚子がお決まりの「転校生を紹介しよう。入っておいで」の裏側を見るという夢はどうやら叶わないらしい。柚子があかりと教室に入ると柚子の隣の席が1つ空いていた。どうやら柚子の知り合いであることは伝わっていたらしく、お世話係として任命された様である。

 あやめの様子を間近で見れるのはどちらかというと幸運である。厄介ごとの種だとしても一応推しなのだ。かろうじて幸運が勝つ。そしてあかりの独り言(あかりは柚子に向かって話しているのだが柚子がそうと認識していないため柚子からしたら独り言である。)を聞きながらあやめを待っているのだ。


「はーい、みんな席につけー」


 担任の倉持が入ってきた。彼はの体型ひょろなが。眼鏡をかけていていかにも古典を教えていそうな風貌だがこう見えてもレスリングの全国大会で優勝したという実績を持つ、立派な実力派の体育教師である。

 ちなみにプロレスラーになったきっかけは高校古典によく出てくる「鬼に負ける男」が意気地なしで嫌いだったため、自身は鬼なんかには負けたくないという思いからであるそうだ。やはり古典と切っても切れない縁があるらしい。


「全員席に着くまで7秒28。ま、夏休み明けだからいつもより遅くても仕方ない。50m苦手なやつもこんぐらいのタイム目指せよ」


 そんな彼の特技は小数点第二位まで正確に秒数が測れることである。そのため彼が受け持つ体育の授業でストップウォッチが登場したことはない。ちなみにその能力はテストの時と10秒ぴったりを当てるゲームで無双する時にしか役立たないらしい。目覚まし必要でなくなるからいいではないかと言ったら寝ている時は脳も寝るんだからわかるわけないだろうと言われた。脳筋ではなかったらしい。


「よーし、日直。挨拶だ」


「起立。気をつけ。おはようございます」


「「「おはようございます」」」


「おはよう。みんな夏休みは満喫できたか?ちなみに先生は脈なしだった」


 この先生は日課にしてるのか知らないが毎朝挨拶の後に自身の恋愛について話してくる。自身がそんなんだからかクラスメイトの恋愛事情も聡く、陰では3組の陰の支配者と言われている。ちなみに彼女いない歴=年齢だそうだ。


「さ、聞きたい人もいるだろうが今日はビックニュースがあるからその辺にしよう。聞きたい人は後で職員室まで」


 えーと何人かから不満の声が上がる。謎にこの儀式(?)を楽しみにするものは多いのだ。男子は「先生の行動が女子に受けない」ということから自分の生活態度を見直すきっかけとしているらしい。

 それはともかくビックニュースという言葉に柚子は割としっかり臓器が口から出そうになった。隣であかりが呆れた様に笑っているがそんなのも気にならないくらいだった。

 ……小学校の入学式の子供の「はい!」って返事待つ親ってこんな感じなんだな。ごめん母さん、前日に逆張りしたいから返事しないとか言い張って……。


「では早速本日のビックニュースだ。なんと……」


「「「なんと……!?」」」


 倉持に合わせてクラスの男女数名がコールをする。いつもはぼーっと外を眺めている柚子だが今回ばかりは彼女の口からも彼らと同じ言葉が溢れる。


「なんとっ!夏休み前から学校中を震撼させていた、我ら学校の7不思議が1つ!制服を着た幽霊が除霊されたっ!」


「「「ええええええええええっっ!?」」」


「……え?」


「俺まだ会ってないのに……くっそ、見れなかったじゃねーかっ!いい感じのとこまで行って付き合ってもらおうと思ってたのにっ……!」


「私も……。せっかく好物だって聞いてたしそジュースの原液作ってきたんだけどな……」


「はああ……会えなかった恨み……呪ってやる……自分から幽霊になってやる……」


「あの子いい子そうだったのに。なんで除霊しちゃったの?幽霊愛護団体に虐待で訴えても勝てるよ!」


「7不思議が6不思議になっちゃったじゃん。まあでもすぐ補給されるか」


「あーあ、一回取り憑いて欲しかったな」


 阿鼻叫喚。一部怖い声も聞こえるが聞かなかったことにしよう。


「……そっち……?っていうかそんな幽霊なんていたんだ……」


 幽霊駆除で一喜一憂するクラスに呆れ返る柚子である。出てこようとしたが柚子の呆れが緊張を上回ってしまったことで居場所を失った臓器たちは元の場所へと戻っていった。


「でた。地味に重要なのか重要じゃないのかわからないどうでもいい日々のニュース。刺さる人には刺さるよね」


「あかりは知ってたの?このこと」


「まあね。夏休み中深夜の学校徘徊した子なら誰でも知ってるよ」


「そもそも対象者が少なくないかそれ」


 何者なんだ長谷川あかり。それはもう自分から7不思議になりにいっているのではないかと思う。柚子は7不思議の存在まで知らなかったというのに。


「だろ?ビックニュースだろ?……実を言うと先生も除霊に反対したんだ。ほら……成績を良くする幽霊かもしれないだろう?だが救えなかった……無力でごめんな……」


 まるで少年漫画のワンシーンだった。柚子が隣を見るとあかりも少し涙ぐんでいた。いや、本当になんでだ。


「まあいい。実はもう一つみんなに知らせないといけないことがある。実は今日からうちのクラスに留学生が来ることになった。」


「「「りゅ、留学生ーーーーーー!?」」」


「……はぁ……??」


 もう先ほどの会話と言い雰囲気と言い何から突っ込めばいいのかわからなくなった柚子である。おそらく留学生というのはあやめのことだろうが、紹介が転校生ではなく留学生だった。そのことに遅れて気づいた柚子は発狂する。


「はあああああああああっ!?」


「白石。反応までのタイムラグが5秒07あったぞ」


「……」


 このクラスに平穏を求めていた夏休み前の柚子こそ狂っていたのかもしれない。

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