19 いざ学校(1)
「はああああああああああああ……」
「盛大なため息ですわね」
「誰のせいだと思ってる」
そう。柚子は教室でため息をついていた。
今日は夏休み明け初めの登校日。そしてあやめが転校生とし始めて学校に足を踏み入れる日でもあった。
……これは予想以上だった。もう少しこう……「よろしくお願いいたしますわね」ニッコリ(悪役令嬢特有の笑顔)とかだと思ってたのに……ちょっと違った、いや、270度くらい違った……。
話は2時間ほど前へと巻き戻る。
柚子は朝から大忙しだった。彼女の朝は朝起きたら全力であやめを叩き起こすことから始まった。マイペースなあやめはなかなか起きない。本当に起きない。ガチで起きない。聞けば、あちらの世界でも執事に呆れられ起こしてもらえなかったため、魔法で頭から水を浴びて起きていたらしい。あやめ曰く「これですと洗顔も一緒にできて便利でしてよ」。本当に公爵令嬢なのか疑った柚子である。
まあそんな魔法はこっちの世界に存在しないため正当な方法で洗顔を行い、日課であるあやめに目覚めの洋菓子とチョコを振る舞う、通称「爆速⭐︎モーニングティーRTA」を行なった。(ちなみに今朝は電子レンジでお湯を沸かしたため4分32秒だった。)もうここまでくると目覚めのモーニングティーの意味合いが変わってくる。目覚めるのは振る舞う方なのかもしれない。そしてあやめを制服に着替えさせ自分も着て、ヘアセットと歯磨きを済ませて前日のうちに準備しておいたスクールバックにおにぎりを詰めて家を出てきたのだ。
まだ1日の半分も生活していないというのに疲労困憊の柚子である。
無事に家を出た柚子は心に少し余裕が生まれた。そのため通学路ではあやめのことを十分に気にすることができ、柚子の長文小言集の上位に君臨するであろう長すぎる小言が彼女の口から炸裂したのである。
「いい?絶対に必要以上に目立ったりしないこと。常に私かあかり……いや、あれは当てにならないな。絶対に私のそばにいること。興味関心を示すのはいいけどいちいち騒がないこと……」
「まあっ!ご覧なさってユズリーナっ!とっても可愛らしい小鳥ですことっ!」
「いったそばから離れて騒ぎ出すなよっ!」
流石はあかり公認1級フラグ建築士である。綺麗なフラグ回収っぷりに全米ならぬ柚子たちを見守っていた全塀が驚いた。
首根っこを掴みあやめを戻す。
「はぁ……。とにかく私から離れないことは絶対。1週間の間はそうすること。いいね?」
「もちろんでしてよ!」
「他の約束は覚えてる?」
「ええ、私が公爵令嬢であることは明かさず『七瀬あやめ』として振る舞う、でしたわね?」
「うん。これ破ったらもう学校連れて来ないから。母さんが何を言おうとお留守番だから」
「わかっておりましてよ。ユズリーナ!完璧な七瀬あやめを演じてみせますわっ!」
「……その言葉が結構心配なんだけど……まあいいや、あと自己紹介は余計なことは言わない、いいね?」
「ふっふっふっ……ユズリーナ、私はもう今までの私ではなくてよ?あの聖書を読んだ今、私はマナー講師も驚きのこちらの世界のベストオブ淑女でしてよ!」
「……どこ調べ、それ」
「自社ですわ!」
「……」
いつのまにそんな言葉をあかりに仕込まれたのか。あかりのカリスマ性が怖くなる柚子だった。
「……それ本当に大丈夫?」
「もっちろん!言いましたでしょう。私は公爵家のれ……んんんっ!」
「自主規制偉い。」
あやめも1級フラグ回収士の資格が取れるかもしれない。
「じゃあ……うん。期待はしないから」
「そこは期待するべきなんじゃない?ほら華々しいルーブランシェ公爵家の令嬢にし悪役れ……おっと」
ここにも1級フラグ回収士がいたらしい。
「まああかり様っ!ご機嫌よう」
「ご機嫌よう〜」
「……おはよ」
「おや、我が親愛なる相棒君はどうやら元気がないようだねぇ?」
「元凶がなんか喋ってる」
「ひどいなあ、どこのどいつだろうなぁ?この塀から声が聞こえた気がするからこの子達かな?」
とんだとばっちりである。自分たちに意思があると気付かれた再び全塀が驚いた。
「そんなわけないでしょ……で?宿題は?」
「なめるでないよ相棒君……なんと……終わったんだよ!」
「大丈夫?文字ちゃんと漢字それ?」
「もちのろんきち!」
「そっか」
「なんでちょっと嫌そうなの!?しょぼんとするの!?」
もちろんあかりをいじるネタが減ったからである。柚子にとっては結構ショックだ。
「で、何の様?」
「ひ、酷いよ、柚子っちぃ……いつも一緒に通学する仲じゃないか……」
「遅刻常連と一緒に通えた試し無いけど」
「……ぐっ……長谷川あかりに3000のダメージっ……」
「で?実際は?」
「はいっ!転校生に転校初日の通学路で絡み仲良くなる生徒ポジを獲得したかったのであります!」
「……なるほど?」
「まあ……あかり様がそこまで私を……感動ですわっ……」
「声震わせるの上手いのやめてほしい」
「で?で?何組何組?」
「本命絶対それじゃん……うちらと同じ」
「よっしゃきた3組!!!よろしくねあやめっ!」
「ええっ!私正直なところユズリーナよりあかり様と同じクラスであることに喜んでおりましてよ!」
「おい」
厄介ごとに巻き込まれるにはごめんだがあやめにそう言われると何かくるものがある。
そんなこんなで時間が時間は過ぎていきあっという間に学校である。




