11 いざ外出
「こ、これは……!?この魔法の紙はなんですの!?この紙があれば魔道具が手に入りますわよっ!」
「だからそれは紙のお金でこの国の……って、待って待って!破っても数は増えないから!価値下がるだけだから!」
井沢からあやめが受け取ったらしいポーチの中にはとんでもない量の首里城が描かれた紙幣が入っていた。
なんでこんなに2000円札を持っているんだ。この世の中で1家庭が持っていていい量では絶対にない。この2週間で自分の家庭のことをだいぶ知った……いや、知ってしまった気がする。
そのことに初めはげんなりとしていた柚子であったが、あやめが買い物を始めるとそれどころではなかった。柚子の話を一切聞こうとせずにあかりおすすめの雑貨屋へと入っていくのだ。
「あはは、楽しそうでなによりじゃん。あ、あそこのカフェのミルフィーユ絶品だよ。どう?」
「行きますわっ!あかり様はまるでうちの従者のようですわね!」
「褒めに預かり光栄です、お嬢様」
「そしてなんでお前は扱いに慣れているんだ。」
まだ出会ってから1日経っていないにも関わらず自身より上手くあやめを操るあかりに柚子は驚愕を通り越して呆れる。
「ふっ!私は君よりも適応力があるのだよ」
「宿題手つけてないくせに?」
「ぐっ……」
Q.いつまでそのネタを擦り続けるつもりですか。
A.半永久的に。
そうなのだ。悲しいことに現時点の柚子にはこれくらいしか擦るネタがない。あかりに勝とうと思ったら勉強面しか武器はないのである。
カランカランと軽快な音をたてるはずのベルはあやめが入った勢いでギャランッと鳴る。流石は悪役令嬢補正がかかっているだけある。音が違う。
「皆様ご機げむごっ……!ふむむっむごむごっむごっ!」
「3名、個室で」
「……かしこまりました。ご案内いたします。」
あやめが挨拶、柚子が(口の)扉を閉め、あかりが店員に声をかける。なんというファインプレー。店員もびっくりである。
「いやーやっぱりいい雰囲気だね、しかも個室付きとか……最高だ。流石だよ、あかり君。」
「雰囲気を堪能するのはいいけれどもそろそろ話してあげたら?」
「……あー、ごめんごめん。忘れてた。テヘペロッ!」
「貴方……テンションの落差が激しすぎて心配になりましてよ」
柚子の手から解放されたあやめは先ほどから雰囲気をガラッと変えた柚子を前に恐怖を覚える。
自分の婚約者の護衛が限界突破した時と同じ気配を感じた。
「あげられるところはあげとかないと。これ生きてくコツね。」
「……あーや嬢。こうなった柚子に話通じないからね、放置しか手段はないよ」
「そうですわね。私も経験がありましてよ、あらこっちのタルトも美味しそうですわね……」
頭を悩ませている元凶共が何か言っている。
「この紅茶もおすすめだよ。ほらどうせお金出すのは柚子っちだからさ、頼んじゃお頼んじゃお」
「私貴方の分まで奢るとは言ってない」
「ごちでーす!」
「まずは話を聞けよっ!」
「あら、……とりあえずアールグレイのティーセットと季節のタルトのメロンといちじくそれから葡萄をそれぞれ1つずつ、3段のアフターヌーンティー2つもつけて欲しいわ。それとマカロン5つセットを3つと……ふごっ!?」
「以上でお願いします。」
「……かしこまりました。少々お待ちください」
柚子もやる時はやる女である。有無を言わせぬ視線と笑顔で合法かどうかは不明だが店員に圧をかけると店員は速やかに調理場へと戻っていった。
あやめも柚子とあかりが話している間にとりあえずメニューの中から目についたものを注文しまくるなんてなかなかの肝の座り具合だ。
こうして乙女達による楽しい(?)女子会は幕を開けた。