プロローグ
白石柚子
現在高校1年生。血液型はA型といっているが真偽不明。
成績は上の中くらい。
友好関係:良好
部活ではインターハイ……ならぬインターホンを目指して日々頑張っている。世間一般で言うところの帰宅部である。
好きな食べ物は餃子
嫌いな食べ物はブロッコリーの葉っぱ(過去に母親が弁当の彩りを気にしてその場にあったという理由で入れてきたものである。ちなみに生だった。)
備考:特になし
改めて見てみると本当に平凡な人間である。特筆すべきことといえば親が少し過保護でそこそこのお金持ちであることぐらいだろうか。
高校入学から早4ヶ月が経とうとしている。
高校は無事第一希望の私立高校に入ることができ、当初は少し不安もあった一人暮らしにもだいぶ慣れてきた。
友人を作るのは得意な方ではないのだがクラスに多数のコミュニーケーション能力お化け、略してコミけがたくさんいるため無事穏やかな友好関係を築き上げ、今日も平穏な学校生活を楽しんでいる。校内は文化祭準備に向けて動き出し、徐々に夏休み明けるのイヤイヤ症候群から渋々抜け出す人も増え出してきた。その光景…というか廊下に響く楽しそうな声を聞きつつ一つあくびをする。
「んーっ!今日も平和平和…うん。平和だよ、平和。」
「柚子っち。いつもに増して現実逃避が激しい気がするけど私の勘違いかな。」
こうやって何かと声をかけてくれるのは好きな乙女ゲームの話題で入学初日に盛り上がったことで友人になった長谷川あかり。茶髪のポニーテールが特徴的な少女でtheスポーツ女子と言った感じだ。そんな見た目の期待を裏切らず春に行われたクラス対抗スポーツマッチでは驚異的な記録を各分野で残し、あらゆる部活からの勧誘が今でもひっきりなしに来ている。昨日もなぜか美術部が勧誘に来ていた。どうやら彼女の筋肉のつきかたは模範的なようで、最近壊れたデッサン人形の代わりになって欲しいとのことだった。
筋肉の付け方を褒められた彼女は満更でもなさそうで、一応検討しておくと言っていた。
「やっぱり平和ってっていいよねぇ、君もそうおもうだろう、あかり君。」
「おーい、戻ってこーい!…だめだ、こいつ完全に現実から目を逸らしてる。」
「こうして夏休みに何があったかなんて気にせずにぼーっとしてると騒音なんて気が付かないね。」
「…気がついてるじゃん、それ。というかそろそろ返事してあげたらどう?おそらく柚子っちが思い出に浸ってたであろう時間中ずっと無視されてたあーや嬢の気持ち考えてあげたら?」
「そうでしてよ、私の言葉を無視するなど豪語道断。私は貴方が話しかけているそちらの廃棄物より身分が高いことをお忘れになって?」
「はぁ……でた、歩く厄災……。私の平穏を悠々と掻っ攫っていった元凶……でも推し……はぁ…葛藤」
「…いつまでそちらの廃棄物に向かってお話しされてますの?私はこちらでしてよ?まあ眼軸がかなり長くいらっしゃる貴方が私をみれないのもしかたなくてよ!おーほっほほ!」
「なんか映像の大切さがわかるよね。言葉だけじゃ語弊を招くよ…」
「現実逃避のためにゴミ箱に向かってしゃべってて何が悪い。」
そうなのである。先ほどから柚子は教室の隅にあるペットボトル専用のゴミ箱に向かって話していたのである。ごきげんようの挨拶が響く中、過去のようにぼーっとどうでもいいことだけを考えれる空間はこの教室では限られているのだ。ああ、ペットボトルフリップでギネス世界記録を更新しようとしていたあの頃に戻りたい。
「自分で現実逃避してるのあっさり認めちゃうくらい苦しいのね。かわいそうに。ちなみに今日コンタクトは?」
「してない」
「そんなこともあろうかと私、コンタクトなるものを持ってきましてよ!」
「これは虫眼鏡!こんなの目にはいるかぁ!!!もとはといえばアイリスが今朝歯磨き粉撒き散らしてその掃除に時間がかかったせいで朝の支度ゆっくりできないまま走って学校来る羽目になったんだからね!?まぁおかげで歯磨き粉まみれになって困惑する推しとかいう謎スチル生で見れたけどっ…!」
「そ、それは申し訳なく思ってはいるのですわよ?た、ただもう中身がなくなりつつある歯洗浄用のクリームは出てきてと念じて振ればいつかは出てくると言っていたのはユズリーナでしてよ!そのためにせっかく腕立て伏せなるものを毎日行いましたの。今朝はその成果ユズリーナにお見せしようとして……そ、それに!そのむしめがね?も空気を操る魔法と縮小魔法でどうにかできましてよ?柔らかくして小さくすればコンタクトに変更可能ではなくて?」
ここまで早口である。さすがは乙女ゲームの悪役令嬢。あの入学式直後のヒロインに対する長台詞を台本なしで言い切っただけある。
「だーかーらーっ!魔法はこの世界じゃあ使える人はいないっていってるでしょ!……何その盲点って顔。」
「…この素晴らしい世界の科学技術とやらを持ってしても不可能なことがあるのかと……」
「うぐっ!や、やめて…そんな目と声で見られるとこっちの心がやられてしまう…」
「あーや嬢の目には科学技術が魔法よりも遥かに上に映ってるんだね……文化の違いって恐ろしいよ」
そう。ここまでくるともうお察しであろう。目の前にいるこの誰もが振り向く鮮やかな金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ少女は柚子の大好きな乙女ゲーム「建国の聖女と7つの秘宝」に出てくる悪役令嬢、アイリス=ルーブランシェである。