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6話 激闘後の誘い

 テアマトとの戦闘を終えて、少女を治療院に連れて行こうとしたところ、前方に数十人の兵士が見えた。

 皆、武器を携えてこちらに走ってきている。

 兵士の1人がバグに向かって、困惑した様子で尋ねる。


「お前がこれをやったのか?」

「はい。俺と『ドラゴンランク』のメンバーで倒しました」

「で、そのメンバーはどこに?」

「そこにいる人以外は食べられました」


 少女を見た後、兵士は「そうか」と淡白に呟いた。


「ご苦労だった。怪我人の移送、そこの怪物の処理は我々が行う。お前はもう帰って結構だ」


 何だか、ひどく軽く済まされたような気がする。

 自分たちは死に物狂いで戦ってやっと討伐できたというのに、あっさりと機械的に対応されてバグは憤りを覚えた。

 褒められたいわけではないが、もう少し尊重されるべきことをしたはずだ。

 しかし、反抗的な態度を示せば反逆罪と言いがかりをつけられかねないので、顔に出すことはしない。


「その子は俺が送るんで大丈夫です。じゃあ、失礼します」


 と、言ったところで、少女が跳ね起きた。

 上半身だけを起こした姿勢のまま、周りをキョロキョロと見渡す。

 そして、事態を把握したようでゆっくりと立ち上がった。


「目覚めはどう?」

「最悪な気分。頭痛いし、首も痛い」


 首を押さえつつ、テアマトの死骸を見る。


「私ってあいつの首を切ったんだっけ。何かこう突き刺したような気がするんだけど」


 どうやらテアマトの攻撃を受ける少し前の記憶を失っているらしい。

 加えて、討伐したのは自分だと思っているようでもある。

 止めを刺したのは自分なのだが、魔物を使って倒したとは言えないので、癪だがこちらの方が都合が良い。


「あいつの首をぶった切った瞬間に攻撃を失って気絶したんだ」

「そう、なら良かった。皆の仇は討てたってことね」


 その言葉に込められた感情を察して、バグは何も言えなかった。


「この後、貴方はどうするの?」

「とりあえず薬草採取の報酬を貰いにギルド会館に行く。そっちは?」

「私は報告のためにパーティーの宿舎に戻るわ」

「じゃあ、ここで解散だな。あ、それと――」


 バグの言葉に少女が耳を貸す。


「――名前を教えてくれないか? 共に死線を潜り抜けた人の名前を知らずに別れるのは寂しいだろう? 俺はバグ・ノートラス」


「私は、レイネ・イヴェール」


 ◇


 ギルド会館で薬草採取の報酬を受け取って、疲れた体を引きずって、宿に戻った。

 あんな壮絶な戦闘をして受け取ったのは、銀貨たったの3枚か。

 薬草採取として貰うのなら嬉しいが、テアマト戦を経てからは全然足りなく思う。

 最低でも金貨5枚(日本円で約250,000円)くらいは欲しい。

 銀貨が入った袋をベッド横においてバグは泥のように眠った。


 ◇


 翌日、ドアのノックする音でバグは起こされた。

 寝起きの覚醒しきっていない脳は、宿の従業員が何か知らせに来たのか、という考えに至り、ドアを開けた。

 そこに立っていたのは、3人の男だった。

 明らかに宿の関係者ではない。

 身に纏う服も、目つきも、オーラも一般人ではない。


「バグ・ノートラスだな」


 高圧的な問いかけに、バグは子犬のように小さくなって、


「はい…」


 バグがまず疑ったのは彼らが治安維持隊という可能性だ。

 と、するなら彼らが来た理由はバグが魔物をスキルで使役したことへの取り調べのためで、任意同行を求められるかもしれない。

 任意としながら結局は、ほぼ強制。

 油断した。

 あの場にレイネ以外いなかったらスキルを使ったが、よくよく考えれば遠くを視認できるスキル持ちがいたことを想定すべきだった。


「我々は『ドラゴンランク』だ。ご同行願いたい」


 治安維持隊ではなかったが、これは予想していなかった。

 と言うか、なぜ自分がここに宿泊していると分かったのか。

 いや、それは昨日の朝、レイネと朝食を共にしたのだから、その情報を共有すればすぐに分かる。


「何で俺が?」


 そう問いながら、実は期待してもいた。

 ここに彼らが来たことから、テアマト戦で『ドラゴンランク』のメンバーが死ぬ中で、レイネと協力して討伐したことは知られている。

 もしかすると、これは加入の誘いではないのだろうか。


「理由については、後で話す。付いてきてもらおう」

「分かりました」


 着替えてから部屋を出て、宿の前に停められていた馬車に乗る。

 Aランクパーティーが用意したとあって、外装も内装も見事に豪華だった。

 全員が乗り込んでから馬車は動き出した。

 車内に沈黙が流れる。

 どうやらこの3人は自分から話し出すタイプではないらしいし、バグとしても口火を切りたくはなかった。

 案内役を手配するのなら、もう少し社交性のある人間にしてほしかった。

 何だか本当に自分が連行されているかのような気分だ。

 そうして重苦しい時間を過ごすこと2時間弱。

 馬車が止まった。

 3番目に降りてから、周囲を確認する。

 石で舗装された地面の先には、大きな噴水があって、その先には巨大な宮殿が見えた。

 宮殿は余りにも荘厳で、圧倒される。

 白っぽい色を基調とした石造りの外装で、細やかな装飾が施されている。

 一体、これを建てるために『ドラゴンランク』はいくら使ったのだろうか。

 ここでもまた、Aランクパーティーの経済力を見せつけられる。

 また、建物は宮殿だけではない。

 別邸だろうか。他にも大きな建物はある。

 しかし、そういったものに関する知識がないバグにとっては、どれもが未知だった。

 旅行客のような面持ちで、バグは宮殿に向かった。

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