34話 魔物とは
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ダンジョン内は本当に洞窟だった。
数メートルおきに壁にランプが点けられているものの、それでも暗い。
ランプに泥などが付着していることで、光源としてあまり機能していないのだ。
また、地面には薄い泥水が溜まっていて、歩くたびにビチャビチャと音を立てるのも恐怖心を煽る。
誰も会話しないので、余計にダンジョンの奥から吹く風音や雫の落ちる音にいちいちビクッと体を震わせてしまう。
かつてお化け屋敷で経験した恐怖を上回っている。
肩を縮こませるユウトを心配に思ったのか、前を歩いていたレイネが横の魔術師と場所を替わり、話しかけてくる。
「こういうダンジョンって初めてだと怖いですよね」
「すみません。僕、自分で行きたいって我が儘言っちゃったんです。こんなに怖いなんて思っていませんでした」
「戻りますか?」
「ま、まだ大丈夫です」
「分かりました」
と、だけ言ってレイネは黙ってしまった。
しかし、ユウトは誰かと話していた方が恐怖心が薄れると思い、レイネに問う。
「あの、このダンジョンにも魔物が出るんですよね?」
「出ますね。でも強力な魔物が生息しているわけでないので、私たちで十分対処できますよ」
会話の1つ1つにユウトを不安にさせない、レイネの心遣いがありがたい。
それもあって、ユウトは少しだけ自然体で歩けるようになっていた。
「今更なんですけど、魔物って何ですか?」
何気なく聞いてみる。
「えっとですね。実は魔物と普通の生物に違いはあまりないんですよ。まあ、翼が生えた豚型魔物だったり、首がキリンのように長い狼型魔物など奇妙な見た目もいますが、普通の生物だっておかしな外見を持つ種類はいます。なので違いを挙げるとすれば、どこから来たか、ですね」
「と、言うと?」
「はい。500年前までは、私たちの国や他の国、まあ要するに人間が暮らす沢山の国がある大陸と、冒険者が発見した大陸は海を隔てていました。当時の冒険者は、今まで見たことのないような生き物や、植物で構成されていたと主張していたそうです。ちなみに大陸名は冒険者の名前からノア大陸と名付けられました」
話を聞きながら、学校の授業で似たようなことを習ったな、などとユウトは思う。
「たまにノア大陸から漂着したと思われる不思議な魚や、動物の死骸を多くの人が見たこともあって、彼らの話は冒険譚として広まりました。次第に話に尾ひれがつき、ノア大陸には宝が眠っているなど噂もあったそうです。そんな時、突如として海底火山が噴火して私たちの大陸と、その大陸が繋がってしまったんです。元々、距離が近かったので」
レイネは続ける。
「そこから地獄が始まりました。ノア大陸に生息していた生き物たちが一斉にこちらの大陸に押し寄せたんです。その数は数億体だったとする学者もいます。人間も魔術や様々な武器を駆使して抵抗しましたが、物量で圧倒されてしまい、大陸全土で数百万人規模の死者が出ました。その惨状から、彼らを魔物を呼ぶ者が現れ、それが定着しました」
話の中に出てくる数字が大きく、ユウトには想像が出来なかった。
侵攻を目の当たりにした人たちは、どれほどの恐怖だったのだろうか。
「でも、むしろこれでも少なかったと思います。結局のところ、魔物たちの数は凄まじいのですが、人間のような高度な知能はなかったので、組織的な動きはありませんでした。また、人間側も魔物を効率的に討伐する方法を確立したり、全世界の強力な魔術師たちがチームを組んで戦ったこともあって滅亡は免れました。そして、魔物の侵攻から100年が経って、終結宣言がされました。」
「凄いですね……」
大量の魔物に滅ぼされなかった人間の力も凄いし、戦いが100年も続いたのも驚きだ。
「ええ。ですが、魔物が消えたわけではありません。彼らは世界各地に生息域を広めました。大規模な戦いがなくなっただけで、各地で小さな争いも依然として続きました。また、魔物は自分たちで交配するだけでなく、私たちの大陸で元々暮らしていた生物とも交配することで雑種も生まれていました。現在、魔物に該当するのはノア大陸原産の血が流れているかどうか、であるとされています」
「それって見分ける方法あるんですか?」
「一応、学者が図鑑を出しているのでそれを確認すれば分かりますね。まあ、常識的に考えて、普通の動物ではあり得ないような外見なら大抵は魔物です。ほら、あんな風に――」
と、レイネが前方を指差した。
奥の方に目を凝らしてみると、コウモリがこちらに向かって3匹飛んできていた。
「うわっ」
ユウトは声を上げる。
そもそもコウモリが接近するだけでも怖いのだが、近づくにつれて、その異常性に気づく。
大型で、二対、つまりは4枚の翼で飛行し、首と尾が非常に長い。
明らかに普通ではない。
これが魔物か。
すると、兵士2人が前に出る。
そうだ。
今回のダンジョン探索では、創造した兵器の性能をチェックするため、とノールが言っていた。
今が絶好の機会なのだろう。
銃口が火を吹き、轟音と共にコウモリ型の魔物は撃ち落とされた。
洞窟なので音が非常に大きく、ユウトはつい耳を手で覆い、怖気づいて目も瞑ってしまう。
開けた時には既に、魔物2体は絶命していた。
「おぉ、通用するな」
「これは使えるぞ」
と、兵士たちがAKを見つめながら感嘆の声を上げる。
自分で創造していながら、その攻撃力に驚かされる。
先ほど、魔物の恐ろしさを聞かされていたから余計に。
しかし、自分のスキルが通用したことで、ダンジョンに入ってからあった怯えも和らいだように思う。
指先の震えも、なくなっていた。
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