32話 新たな依頼
明日の8:20に続きを投稿します。
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『ドラゴンランク』のリーダー室にバグと、レイネは来ていた。
建物の豪華な外装通り、中も煌びやかだ。
まるで王の居室である。
中央手前のソファにバグとレイネが座り、長机を挟んだ先に現リーダーのクロードが座っている。
年齢は50代前後で、筋骨隆々。
鋭い眼光は獣のようで、有り体に言えばこの場には不釣り合いな男だ。
「再び城からの依頼だ」
しわがれた声で伝える。
「明日、サトウ・ユウトを連れてダンジョンに入ってもらう」
「ダンジョン、ですか……」
彼は城にとって重要人物なのに、なぜダンジョンに連れて行くのだろうか、危険ではないか、と疑念を抱くと、それを察してかクロードが言う。
「お前たち2人だけではない。城の方からは護衛として魔術師が1人、兵士が2人来る。それに、今回のダンジョンは踏破されており、難易度も低いと報告は受けている。心配する必要はない。以上だ」
以上だ、と言われた以上は留まっているわけにもいかず2人は退室する。
レイネからは既に気難しく、冗談が通じず、厳格な人間と聞いていたが想像以上だ。
同じ場所にいるだけでプレッシャーが伝わってくるのだ。
彼の近くにいて、息を吸うのを忘れてしまうような、詰まるような感覚から解放されて、廊下を歩きながらバグは大きく深呼吸した。
「大丈夫?」
と、レイネが小さく笑う。
「大丈夫。でも、聞いた通り凄い人だな」
ふと、前方から1人の青年が歩いて来た。
思えば『ドラゴンランク』に入ってから、レイネ以外とあまり話したことがなかった、とバグの方から声を掛けようとしたところ、
「これはこれは副リーダー、また依頼ですか? 早いですね」
青年が先に口を開いた。
しかし、気になるのはこの場にいるはずのバグの名前は呼ばないことである。
「ええ。バグと一緒に城の方から護衛を依頼されたの」
それを聞くと、青年の表情に苛立ちが表れた。
「ふむ。副リーダーは分かりますが、そこの新入りもですか。先の案内役と言い随分と大役が与えられますね」
その口調は刺々しく、バグを見つめる視線もまたどこか冷めたものだ。
「副リーダーも不安じゃありませんか?」
「別に不安に思いませんけど……」
レイネも否定してくれているし、ここは刺激しないように振舞いながらもバグだって気概を示さなくてはならない。
「多分、俺のスキルが今回のダンジョンに相性が良かったんで、選ばれたんだと思います。でも、任された以上はしっかり遂行します。ご心配ありがとうございます」
その返答に青年は舌打ちして、あからさまに不満を露わにしながら「では、失礼します。副リーダー」と最後までバグに挨拶することなく去っていった。
「最高ランクのパーティーでも新人いびりってあるんだな」
「ごめんね。後で注意しておくから」
「でも、彼の意見も分かるよ。確かに、新入りがミスするのはよくあることだ」
「バグなら大丈夫よ」
レイネの励ましが、身に染みる。
「ああ、頑張るよ」
「でも、あまり気負いしないで。私もいるし、優秀な護衛が来るし。張り切り過ぎたことで、かえって何かやらかすかもしれないから。バグはダンジョンに入ったことはあるの?」
「5回ほど」
「じゃあ大丈夫よ。経験者なら注意点とか分かってるでしょう?」
「そうだな。1人で行動しないこと、罠があるかもしれないから地面や壁をむやみに触らないこと、通ったルートを記録すること、とかだろう?」
「ええ」
ダンジョン内は洞窟や、かつて使用されていた地下通路であるため、暗く、入り組んでいたり、侵入者を排除するための罠が現在でも残っているケースがある。
加えて、そこを根城とする魔物も多く、ダンジョン内の貴重な鉱石や宝を求めて入ったものの行方不明になったり、死体として見つかるケースが後を絶たない。
だから余計にサトウ・ユウトを、護衛あり、かつ難易度の低いダンジョンであっても連れて行くのには違和感がある。
何か狙いでもあるのだろうか。
それとも、サトウ・ユウト自身が望んだのか。
どちらにせよ、何も起こらないでほしい、と願うのだった。
読んでいただきありがとうございました。




