30話 恐ろしいスキル
ノールの指示に、ユウトは鉄砲をもう一丁創造する。
その際、使い切った方は消滅していないので、複数個の兵器を創造できることを確認する。
「それを私に」
と、ノールは手を伸ばす。
ふと、ユウトの表情に注目するとどこか暗い。
恐らくは弾を当てられなかったことが原因だろう。
だが、フォローよりも今はスキルの確認を優先したいので一旦保留する。
ノールは鉄砲を構え、先の甲冑目掛けて発砲した。
ユウトと同じく弾は外れた。
自分で撃ってみて、これは素人が一朝一夕で使えるものではないと理解する。
相当な訓練が必要だ。
加えて、収穫もあった。
『兵器創造』で造られたものは、他人でも使用できるのだ。
これは大きい。
ユウトの創造する兵器は、この世界の技術を凌駕している。
それを彼以外も使用できるとなれば、魔術に長けていない者も遠距離を攻撃する手段を持つことになるし、近距離でも役立つ。
あとは、この鉄砲が何日残っていられるかだ。
もし30分程度しか形を保っていられないのなら、意味がないので、
「しばらくこの鉄砲は預かっても良いかな」
「あ、はい」
「ちなみに、これは君の意思で他人に使わせないように出来るのか?」
これも気になる。
ユウトの意思で他者の使用を制限可能なら、色々と厄介なことになる。
彼がそのような判断をした場合、鉄砲を持たせた兵士たちが戦闘において窮地に立たされかねない。
「いや、無理ですね。それに、一度創造したものは消せないみたいなんです。昨日の銃も部屋にまだ残っていて……何かすみません」
その返答に、ノールは一安心する。
つまり、創造さえさせてしまえばあとは誰でも自由に扱えることが証明された。
「別に謝る必要はない。それを把握することが大切だ。次に、君はこれと同じものを何丁創れる?」
「とりあえずやってみます!」
名誉挽回を図っているのか、えらく気合の入った返事だ。
ユウトはすぐさま大量創造に取り掛かる。
1丁、5丁、10丁と、同じものが地面に並べられる。
取り上げて、比べてみても差は全くない。
部下たちもその創造スピードに驚きを隠せないでいた。
100丁に差し掛かった頃、ノールは「それくらいにしておこう」と一旦中断させる。
「え、まだまだ全然いけますよ?」
「それは素晴らしい。だが、やるべきことはまだ残っている。余力は残しておくべきだ」
予想以上の能力だ。
内心、ノールも驚愕する。
恐怖すら覚える。
我が国が半年以上かかってやっと届く鉄砲の数を、この短期間で創り終えるとは。
しかも性能はユウトが創ったこちらが断然上。
もしも彼が敵国に寝返ることがあったならば、最大の脅威となる。
扱いには気を付けなければならない、と再度認識させられる。
「じゃあ続いて、この鉄砲以外の兵器を創ってみてほしい。私たちには君が創り出した兵器への知識は全くない状況だ。君の知識、記憶が頼りだ」
自分たちの力の無さをアピールしつつ、頼りにしていると訴えかける。
「はい、頑張ります!」
大きな返事だ。
子供一人一人の性格を把握し、どのように接すれば不満なく動いてくれるか、ノールはある程度心得ているつもりだ。
教師時代の経験が活きる。
さて、ユウトがまず創造したのはこれまでの鉄砲とは大きく異なる形状の兵器だった。
ノールたちの世界で製造されている鉄砲とも違う。
銃身は先ほどと比べて長いものの、この世界のものよりは短く太い。
引き金の前には、弾丸を入れる部分だろうか、それが下に伸びている。
「僕も詳しいことはあんまり分かりませんけど、AKってやつらしいんですよ、これ。こう構えて――」
と、ユウトはそのAKの最後尾を肩に押し当てて、頬を乗せ、構えると、発射した。
ガガガガガガガッと超高速で連続的に弾が飛び出て、かなりの反動だったのだろう。
銃口が跳ね上がり、制御を失ったAKから前方のあちこちに弾が放たれる。
引き金から指を離したことで、弾は止まり、その性能に皆は目を見開く。
「こ、こんな感じです」
言葉が出なかった。
次元が違う。
魔術の有無で、スキルの有無で埋められるような差ではない。
決定的な技術力の差をノールは目の当たりにした。
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