28話 ユウトとノール
「町はどうだった? 良いところだっただろう?」
城の自室に戻る途中、ユウトを待っていたのだろう、前方からノールが歩いてくる。
後ろには部下らしき人物が1人いる。
「はい。食事は美味しいし、街並みは綺麗だし。僕が以前住んでいた場所とは大違いでした」
そこに嘘はない。
確かに電子機器が無かったり、娯楽がないなどの不満点はあるものの、空気は澄んでいて、治安が悪いわけでもない。
暮らすうえでは申し分ないと言えるだろう。
「気に入ってくれたのなら結構」
ユウトの評価に満足したようで、ノールは頷く。
そして、バグから伝言を頼まれていたので、
「あ、そうだ。案内してくれたバグって人からの伝言なんですけど――」
と、話を切り出す。
「ほう」
「5年前、貴方のおかげで俺は強くなれた。ありがとうございます、だそうです」
それを聞き、ノールの表情が過去を懐かしむように穏やかなものになる。
どうやら彼もバグとの出来事を覚えているらしい。
「私はアドバイスをしただけだがね。彼が感謝しているのなら、受け取らないと失礼だな。伝えてくれてありがとう、ユウト君」
感謝され、ユウトは照れながら「いえ」と返す。
そして、食事前の会話から気になっていたことを話す。
「あの、この世界って魔術があるんですか?」
「勿論。君を召喚したのも魔術だ。この世界を生きる者は魔力を有し、皆が魔術を使える。魔術を理解できない獣の類は使えないが。それがどうかしたのかい?」
「僕もこの世界で暮らすわけですから、覚えたいなって思いまして。スキルだけじゃなくて、この世界のもっと色々やってみたいんです」
「殊勝な心掛けだ。だが、今日は遅いからそれは明日にしよう。君も今日は歩きっぱなしだったはずだ。まずは寝て、体を休めなさい」
「……分かりました」
確かにノールの指摘通り、ふくらはぎが痛む。
これは筋肉痛だろう。
久しぶりに長時間歩いたのだから無理はない。
「じゃあ、明日ぜひ教えてください」
「ああ。約束しよう」
◇
ユウトが自室に戻ってから、ノールとその部下は廊下を歩いていた。
バグ・ノートラス。
彼が『ドラゴンランク』に所属しているとは知らなかった。
ノールが聞いた話では、友人に誘われて『金色の剣』で冒険者をしていたということだったので、もうそちらは脱退したのだろう。
面白いスキルを持っていたが、まさか彼がそこまでになるとは少し意外だった。
『ドラゴンランク』への依頼は部下に頼んでいたので、これは嬉しい驚きである。
ノールは横を歩く部下に、
「君はもし自分が虫を操作するスキルだったらどう思う?」
と、尋ねてみる。
すると、部下は困った顔をする。
「それは嫌ですよ。虫なんて操れてもたかが知れていますからね。もし、そんなスキルが発現した子がいたら可哀そうですね。最近の子供はスキルの内容でいじめることもありますし」
「いつの時代も子供は変わらず残酷だよ」
「ノール様はかつて教職に就いていたとお聞きしましたが、やはり?」
「そうだね。ターゲットになる子供は毎年いたね。賢い大人からすればスキルの優劣は付けにくいが、子供は単純だ。派手か、戦闘に使えるか、極度に便利か。それ以外は全て価値を持たないと判断される」
つい言葉に熱が入ってしまい、部下にもノールの心情が悟られたようで、
「失礼を承知でお聞きしますが、もしかしてノール様もそのような経験が?」
「……」
大人になった今でも夢に出てくる。
教室の席でうつむく自分。
それを取り囲むようにして、嘲笑する何人かのクラスメイト。
模擬戦で敗れ、傷だらけの姿で変える後ろ姿。
家に帰り、両親から叱られ、食事を抜かれた最悪の日。
「昔のことだ。仕事に戻ろう」
「……はい」
有無を言わさない指示に、部下もそれ以上追及することはなかった。
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