27話 頼み事
食事を終えて、食堂から出る。
会計はレイネが済ませるとのことだが、経費で落ちるので痛くはない。
『金色の剣』の時は、クエスト時の支払いは自己負担だったが、やはり最高ランクは違う。
バグはその間、サトウに付き添うことになった。
「サトウさん」
人の移動を見ながら、バグは声をかける。
「何ですか?」
「今後、ノール先生に会うようであれば、伝えてほしいことがあります」
「ええ、今日も恐らく会うと思うので。それで伝えたいことって?」
「5年前、貴方のおかげで俺は強くなれた。ありがとうございます、と。それだけです」
「……分かりました。もしかしなくても、ノールさんと以前交流があったんですか?」
「まあ、ほんの少しだけですけど、彼にアドバイスを頂いたことがありました。当時の俺は模擬戦っていう生徒同士の闘いでコテンパンにやられて自信を失っていたんですけど、彼の言葉があって前に進めたんです。そのお礼をずっと言えてなかったので。よろしくお願いします」
「何か良いですね、そういうの。少し憧れます。僕の世界、時代かな? もう子供同士でちょっとでも喧嘩が起こると大問題になったりして、教師の方も優しすぎて、そこに何か壁みたいなものがあるんですよね。まあ、僕が生まれる前の時代はそれこそ殴って教育とか日常茶飯事だったらしいので、それとどっちがマシか聞かれたら絶対今でしたけどね。ノートラスさんはどうでした?」
「俺の学校は教師もあまり干渉しないし、生徒同士で勝手に学んで勝手に成長しろって感じでした。それに、金持ちの子供がいれば基本的にそいつに従うなんてこともありました。中等部、高等部と進んでいくごとに放任主義は薄れましたね」
「へー、この世界じゃそんな感じなんですね」
「いや、俺が通っていた学校がそうだっただけで、他は分かりませんよ。当然、貴族の子供が通う学校はもっとしっかりした教育方針だと思いますよ」
そんな会話があって、再び街案内が始まった。
もっとも、彼に案内するのは城からそう遠くない範囲に限ったものだったので、日が沈む前には終わった。
城の方に戻ると、また城の関係者であろう男が立っていて、彼にユウトを引き渡す。
「お疲れ様でした。お二人とも。では、我々はこれで」
と、男が頭を下げて、ユウトも続く。
「また、何かあればいつでも『ドラゴンランク』の方に依頼してください」
「勿論でございます」
そんな社交辞令を経て、2人は城に戻っていった。
「どうだった?」
歩きながら、レイネが聞いてくる。
「何が?」
「今日の町案内、あとさっきのサトウ・ユウトって人のこと」
「そこそこだよ。彼も悪い人ではないと思う。一言多いと思うけど」
「もしかして食事前のこと?」
「うん。不便とか大昔とか。彼にとっては実際そうなのかもしれないけど、普通口にするか?」
「確かにね。私もちょっと思った。でも気にすることでもないんじゃない? 悪気があったわけでもなさそうだし」
「そうだな。頼み事は快く聞き入れてくれたし、気になったのはそれくらいかな」
「逆にレイネは彼のこと、どう思った?」
先ほどまで仲睦まじく話していたが。
「うーん。良くもなく悪くもなく、印象は薄目かな。正直、異世界からの転移者って聞かなかったら本当にすぐ忘れちゃうかも。」
「ちなみに初めて会った時はどう思った?」
「あの時? 食堂の時はサトウさんと同じくらいだったけど、テアマト戦に乱入してきてヤバい人だ、って思ったし、カベル戦では結構やるじゃんって思ったかな。つまりは期待してるってこと。じゃあ、帰ろっか。夕ご飯が出来てる時間だよ」
「ああ」
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