25話 案内役
「で、何で俺たちが町の案内なんてするんだ?」
城の前でバグが不満げに、横のレイネに漏らす。
「リーダーから直々の命令よ。新参者の分際で文句言わない」
「分かってるけど……」
それを指摘されると、弱い。
「それに、ただの人間を案内するんじゃなくて、異世界から来た人間よ。ちょっとワクワクしない?」
「まあ、確かにな……」
異国の重要人物ということならイメージも容易いが、異世界というのが引っ掛かる。
レイネから軽く説明されたが、どうやら自分たちが今いる世界とはまた別の世界があるらしく、そちらで暮らす人間を召喚したそうだ。
正直、説明されてもいまいち理解できない。
だが、リーダーとレイネは把握していることを前提に話を進めていたので、ここで何度も説明しては理解力に乏しいと思われるかもしれないので、とりあえずは合わせることにした。
なので、現在進行形でレイネがウキウキと話しかけてくれてはいるのだが、ついていけない。
適当に「そうだな」とか「確かに」などと相槌を打つ。
それからも軽い話で盛り上がっていると、何故か城の方からではなく、町の方から歩いて来た2人組の一方に、
「『ドラゴンランク』の方々ですね?」
と、問われる。
声を掛けた男は30代中盤辺りで、もう一方はそれに比べて若い。
バグたちよりも少し上か、同じくらいか。
恐らくは10代くらいだろう。
黒髪で、何だか特徴のない男だ。
彼らが件の城の関係者だろう。
黒髪の10代の方は普通だが、30代の男は一般人を装っていても、やはり雰囲気、所作から只者ではないことが伝わってくる。
「その方が?」
レイネの確認に、男が小声で答える。
話通り、周りに彼の正体が知られるのは不味いらしい。
だったら、城の中で合流すれば良いのに、そうしないのはバグたちを城のに入れたくないのだろう。
依頼しておきながら、そのような対応をするところが気に食わない。
「はい。お伝えした転移者です」
「承知しました」
それだけの短い会話で、男は去ってしまった。
残された男にレイネが自己紹介したので、バグも続く。
男は頭を下げ、
「サトウ・ユウトです。よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ。では、サトウさん。これから私とバグが町を案内しますので、早速行きましょう」
「あ、はい」
今回の依頼は、このサトウ・ユウトに街を案内しつつ、万が一のことがあった際には彼を守る、という内容だった。
それに、国からの信頼が厚いレイネと、【虫操作】のスキルによって索敵、追跡に長けたバグが抜擢されたのだ。
スキルが評価されてクエストが割り振られたことが、嬉しい。
今回は結構な重要任務と聞く。
平メンバーであるバグとしては、失敗は許されない。
気を抜かないことは勿論で、バグはすぐさまスキルを発動する。
操作するのは、トンボ。
それらが周囲監視の目になる。
しかし、20匹も同時に操作し、視界も共有してみると、非常に疲れる。
頭はズキズキと痛み、とてもじゃないが2人の会話には入れる余裕がない。
まあ、あまり城下町に詳しくないので案内はレイネに任せるとしよう。
読んでいただきありがとうございました。
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