24話 ファイリング
「【兵器創造】?」
聞き馴染みのない単語にノールは素直に聞き直す。
「はい。多分僕のスキルはそうなんだと思います。それで、このスキルというのはどうやって発動するんですか?」
「特に意識することはない。そのスキルで何をしたいのか、手足を動かすように自然とできるようになる。創造とあるのなら、何かここで作り出してみると良い」
「分かりました」
ユウトは右手を前方に突き出して、手の平を上に向ける。
すると、その手に黒い物体が現れた。
手の平よりは少し大きく、全体的に黒色で、角材を途中で曲げたような形状。
上部の伸びた部分の先端には穴が空いていて、ユウトは折れ曲がった部分から伸びる下部を握った。
そして、輪の中にある突起に指をかけて、物体の先端を床に向ける。
バンッと大きな破裂音があった。
「おぉ、凄い。ちゃんと撃てた」
床を見ると、穴が1つ焦げ目と共に空いている。
その跡にノールは見覚えがあった。
「これは、鉄砲か?」
「はい。拳銃を創造してみました。この世界にもあるんですか?」
「君のそれとは形状がだいぶ違うが、同じようなものなら、まあ一応は」
しかし、ノールの知る鉄砲は弾を込めてから撃つまでにそこそこの時間を要するし、今のように手軽に発砲できるような代物ではなかった。
だがこれで、ユウトのスキルの見当がついた。
恐らく彼のスキルは、彼が知る鉄砲などの物体を作り出せるのだろう。
そして、ユウトが創造する物は、この世界の技術を優に超えている。
予想通り強力なスキルだ。
「素晴らしい」
ノールが漏らした言葉に、ユウトは照れ臭そうに「ありがとうございます」と返す。
「僕、元々いた世界ではほとんど褒められたことなんてなかったですよ」
「そうなのかい?」
「はい。これまで誰かに馬鹿にされることもなければ褒められることもないつまらない人生を送ってきたんです。別にそれが嫌だったとかは無いんですけど、何と言うか毎日こんな感じで僕の人生は終わっていくのかってたまに辛くなることもありました」
「分かるよ。私も宮廷魔術師になる前は教師をしていたんだけど、平坦な日常だった。同じような日々は安全だが、ひどく退屈なものだ」
「そうですね。なので、この世界に来れてよかったです。このスキルがあれば僕の人生が少しは輝くかもしれないって思うんです」
これは少し危ういぞ、ノールは内心思った。
たまにいるのだ。
強力なスキルを持ったことで、性格面に変化が現れる人間が。
それが前向きな方に変わるのなら問題はないが、高慢な態度をとるようになる子供も当然いた。
往々にして、そういう子供は優秀なスキルなので厄介なのだ。
彼の言葉、年齢からして悪い方にはいかないと思いたいものの、出来ればそのままであってほしかった。
まぁ、それを口にすることはない。
聞くに、彼は自分の軸をあまり持っていない人間なのだろう。
加えて、褒められることに飢えている。
掌握は難しいものではない。
「私の召喚が、君の人生を明るくするきっかけになれたのなら幸いだ」
大切なのは、寄り添われている、一目置かれている、注目されている、それらのような承認欲求を満たす経験を彼に与えることだ。
そうすれば、彼は今以上に心を開くだろうし、この国から離れられなくなる。
「では、スキルなど難しい話はこの辺にして城下町を案内しよう。君がこれから過ごす場所だ。じっくりと見てきなさい。もっとも案内役は私ではないが」
「城下町の外には出て良いんですか?」
「今は推奨しない。君はこの世界に慣れていないからね。恐らくは君が元居た世界とは生活様式がかなり違う。少なくとも1年くらいはこの町から出ない方が何かと問題も起きないだろう」
「分かりました」
部屋を出て廊下を移動しながら、ノールは問う。
「君を召喚した身で聞くのはおかしな話だけど、元の世界に戻りたいとかは思わないのかい?」
「あんまり思いませんね。良い思い出もありませんし、こっちにいてスキルを活用して生きた方が楽しそうだと思うんです。ちなみに帰りたいと思ったら帰れるものなんですか?」
「ああ。召喚した時と逆の手順を踏むだけだ。召喚が出来たのだから、そう難しくはないだろう」
「そうですか」
到着した部屋のドア前で、
「ここで我々が用意した服に着替えてもらう。今の君の格好は目立ってしまうからね。さて、私はここまでだが、最後にこれだけは絶対に守ってもらいたい」
ノールは続ける。
「君は召喚された人間だが、表向きには一般人を装ってもらう。素性は絶対に明かさないでくれ。スキルも人前で使ってはならない。君は我が国の切り札だ。君の正体が万が一にでも他国に知られてしまうと、当然君は命を狙われるし、対策をされるかもしれない。何にせよ、君が正体を明かして得をするようなことは一切ない。それを肝に銘じてくれ」
少し語気を強く忠告すると、それだけでユウトの眉は下がり、目が震える。
「わ、分かりました」
それでも、返事はするのだから彼は立派なのかもしれない。
「うん、よろしい。では、私はこれで」
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