23話 サトウ・ユウト
今回から新章です。
煙から現れた少年は、何がどうなって自分はここにいるのか、と困惑した表情で見渡す。
どこにでもいるような少年だ。
歳は16から17くらい。
黒い髪で、中背中肉。
いや、やや痩せ気味か。
とにかく、人混みに紛れれば探し出すのは困難なくらいありふれた外見だ。
が、そんな平凡な人間をノールを始めとして玉座の間に集まった大人たちは、興味深く観察する。
「混乱しているかもしれないが、安心してほしい。私たちは君に危害を加える人間ではない。まあ、君にとってはこの状況自体が危害なのかもしれないが。まずは名前を聞きたい」
「ぼ、僕はサトウ・ユウトです」
外見通り、発声からも特異性はない。
ノールは部下に「スキル鑑定の準備を」と指示しつつ、ユウトに話しかける。
「君は選ばれし人間だ。私の召喚魔術で君が現れたのがその証拠だ」
「い、いや僕、本当に普通の人間で……」
短い会話でも彼が自己肯定感の低い人間だと分かる。
それを決定づけるのは、周りの環境があってこそなので、彼はあまりコミュニケーションに長けておらず、周囲からの評価も実際に高くないのだろう。
当然、現段階でノールも彼が選ばれた人間だとは思っていない。
しかし、召喚魔術で現れた人間が、強力なスキルを持つ可能性が高いことは他国の結果から否定できないことも理解している。
ノールは王にアイコンタクトを送り、王も静かに頷く。
「サトウ・ユウトよ」
「あ、はい」
「我がアルベント国はこれまで幾度となく周辺国と戦争を繰り返し、武器も兵力も疲弊している状況だ。貴殿の類まれな力で我々を助けてくれまいか。もし引き受けてくれるのなら、我々としても最大限のもてなしで応えたい」
外見からは想像できない威厳のある言に、ユウトは「分かりました」と返答する。
そして、
「あの、これって異世界転生ってやつですよね?」
「は?」
唐突な質問に、王は素直に返す。
「あ、でもこの場合は生まれ変わっているわけじゃないから、転移になるのか」
「異世界とは、どういうことかな。サトウ・ユウト」
「いえ、本当にそのままの意味で、僕が住んでいた世界とは別の世界っていう意味で、魔術とかやっぱりあるんですよね。ステータスとか見られる感じですか?」
「貴殿の言うステータスが何かは分からないが、魔術なら存在している」
「へえ、やっぱりそうなんだ……。他にもあるんですか? 例えばギフトとか、スキルとか、そういう感じのやつ」
ノールが回答する。
「この世界では、10歳ごろになると全員がスキルを発現する。君のスキル鑑定はこれからだ」
「なるほど」
急に饒舌になったユウトの態度に、ノールは一瞬面食らったがこの状況をある程度理解しているようなので都合は良い。
恐らくは、彼の周りにも何人か同じ経験をした人間がいたのか、話で聞いたのか。
どちらにせよ暴れたり、無気力にならなくてよかった。
これなら順応も早いだろう。
「では君のスキル鑑定を行うから、私に付いてきてほしい」
「はい」
と、ユウトを先導する形でノールは玉座の間を後にして、専用の部屋に向かった。
そこには、各ギルドに設置されているスキル鑑定装置よりもさらに高性能なものが置かれている。
「これで僕のスキルが分かるんですか?」
「そうだ。ここに手を置いて」
指示するとユウトは素直に装置の中央部にある台座に手を置いた。
表情を見ると、あからさまにワクワクしており、そこには自分のスキルが碌なものではなかったらどうしよう、などの不安はなかった。
自身のスキルが優秀なものである、という確信でもあるのだろうか。
高性能なこともあって、結果はすぐに出た。
「君のスキルは――これは、何なのだろう……」
結果は出たものの、ノールにはそれがどのようなスキルなのか見当もつかなかった。
スキル鑑定では、対象者のスキルのイメージが装置上部に浮かび上がるのだが、いまいち理解できない。
やはり、この世界の人間ではないからこそ、理解の外にあるスキルが発現するのだろうか。
「君も見てほしい」
そうユウトにも装置に浮かび上がったイメージを見せる。
すると、彼は「これって」と何やら自身のスキルが何であるのか分かったかのような反応をする。
「分かったのかい?」
ユウトは頷く。
「僕のスキルは【兵器創造】です」
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