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22話 その後と、そして

 試合終了が宣告されてから、パラパラと小さい拍手があっただけの静かな幕切れだった。

 試合中の盛り上がりが嘘のようである。

 トーレイが負けた試合で、大きな歓声や拍手でもしようものならどんな目に遭うか分からないので、静観しているのだろう。

 そのトーレイはと言うと、何を言うでもなく、取り巻きたちを振り払って1人で後者の方に早足で戻っていった。

 自分の遥か格下だと思っていた相手に負けてしまい悔しいのだろうか。

 彼の心情を想像して、バグは心がスッとした思いだった。

 加えて、何か目標を立てて訓練して、結果に結びついた。

 その成功体験の余韻にバグは浸っていた。

 これで周りから大歓声でも浴びれば文句なしだったのに、などと出来過ぎた願望を抱いていると、

 孤児院の面々が、トーレイの圧力など気にしないかのように、やや柄の悪い賞賛の言葉を投げかけてくれた。

 彼らの言葉に応えるように、バグも手を振る。

 生徒たちが観戦する位置まで移動すると、そこにいたアレクが強めに肩を叩いて来た。

 彼の顔を見ると、ニヤニヤとしていながらそこに悪意のようなものはなく、素直に称えてくれているのだろう。

 たったそれだけでも、バグは嬉しかった。

 いつも馬鹿にしてきて、いじめて来るアレク達が認めてくれたような気がして。


 ちなみに、模擬戦で勝てたのは、このトーレイ戦を含めて僅かだった。

 38戦4勝22敗12分。

 結局のところ、バグの【虫操作】では決定打にはならないし、トーレイ戦でのハッタリも種が割れれば通用しない。

『ファイアボール』も本来は成功したとは言えない完成度なので、有効打にはならなかった。

 それでも、スキルを馬鹿にされることも少しは減った気がする。

 また、自分のスキルを憎み続けるような惨めな学校生活ではなかったので、これも良かったと思う。

 トーレイ一派はバグに全く干渉しなくなった。

 話しかけても無視するし、かと言っていじめに来るわけでもなく、バグの存在をないかのように対応するようになった。

 もっとも、バグとしても彼らと積極的に仲良くなりたいわけではないし、関わってこないのなら別に良いのである。

 それから1か月が経とうとした頃、カンナが言ってきた。


「ノール先生、学校辞めたんだって」

「えっ」


 特訓のきっかけであったノールが教師を辞めると聞いて、突然のことにバグは焦る。

 というのも、彼にまだ礼を言っていなかったのである。

 ノールとの試合後、数日は彼を探してみたものの、上手いことタイミングが合わなかったのか出会えずに、気づけば先延ばしにしてしまっていたのだ。


「それで先生はもう行ったの? どこに? 何で?」

「さあ。私も詳しいことは聞いてないんだけど、国の方から招聘されたんだって。昨日にはもう学校を発ったらしいの」

「そう、なんだ」


 こんなことなら、早く礼を言うべきだったとバグは後悔する。

 彼がいたからこそ今のバグがある。

 過言ではない。

 彼のアドバイスが、目標を定めてくれたことが、スキルを褒めてくれたことでバグは希望を見出すことが出来たのだ。

 つまるところ、彼はバグにとっての恩人である。

 何だか、心にぽっかり穴が空いたような気持ちになる。

 この気持ちも数日たてば忘れてしまうのだろうか、と夕空を見ながらバグは少し考えた。


 ◇


 そして、現在――。


「さて、宮廷魔術師ノールよ。貴殿をここに招聘してから5年、ついに準備が整ったと聞いたが」


 玉座の間にて、王が前方で跪くノールに呼び掛ける。

 毎日よほど豪勢な料理を食べているのかでっぷりと膨れた腹に、威厳を保つように蓄えられた髭。

 しかしながら、小さな体格も相まって豪華な衣装に着られてしまっている印象だ。

 鮮やかに彩られた部屋内にいるのは、王とノール。

 それと、数人の騎士と魔術師、大臣たちだ。

 人数が少ないからか、空間がより一層広大に感じられる。


「はい。今すぐにでも」

「そうかそうか。待ちわびたぞ」


 ノールの素早い返答に、王は喜びを露わにする。


「これで我が国も強力な手駒を得ることになる。早速、始めなさい。場所はここを使ってよい。今回限りは許そう」

「寛大なお心遣い、感謝します」


 指示を受けて、ノールとその部下たちは作業を始める。

 魔力を物質に込めるというノールのスキルによって出来た魔力石というべき物質が、部屋の中央に配置され、それを中心として模様を描き、魔術師たちが所定の位置につく。

 魔術師たちが呪文を唱えだして、魔力石が光り、模様も輝く。


「ほぉ」

「これが、召喚魔術か……」


 などと、周りで成功を見つめる人間たちが感嘆の声を漏らす。

 中には堪らず目を細める者もいて、それほどに眩しいのだ。

 そして、魔術の発動は成功したようで、強烈な火花やら煙やらが巻き起こる。

「うわっ」と誰かが驚きの声を上げた。

 結果をもっと近くで見たいと、ほとんどの者が魔力石のあった中央に集まってくる。


 晴れた煙の中に立っていたのは、1人の少年だった。

読んでいただきありがとうございました。

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次回から新章です。

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