表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/36

20話 覚悟

 翌日。

 登校してから模擬戦が始まるまで、バグは緊張感に苛まれながらも、逃げることなく戦いが始まるのを静かに待っていた。

 前回とは違い、今回は先生からアドバイスを得、特訓も積んでいる。

 不安要素は、誰が対戦相手か、ということだ。

 ルール上、同じ相手と戦うことはないため、臨機応変な戦略が求められる。

 なるべく強くない相手がいいな、と思いながら訓練場に歩いていく。

 その道中、後ろから頭を叩かれた。

 強引に肩に腕を回される。


「俺はてっきり逃げるもんだと思ってたんだが、よくもまぁ、また闘う気になったな」


 と、アレクが小馬鹿にしてくる。


「何やらこそこそやってたらしいけど、その成果は出たのか?」

「多少は。前みたいに一方的に負けることはないと思いたい…んだけど」


 話に割り込むように孤児院のメンバーの1人が笑う。


「ははは、無理無理。バグじゃどうやっても勝てないって。誰が相手でも」

「でもやってみないと分からないから。とりあえず頑張るよ」

「虫なんて操ったところでどうにもならないと思うぞ。俺の【斬撃強化】みたいに分かりやすく攻撃に特化してんなら良かったのになぁ。まぁ、そこは自分の運の悪さを恨むことだ」


 アレクも同調する。


「闘いはスキルだけじゃないから。魔術とか、体術とか」

「でもお前、魔術あんまり使えないじゃん」

「それはそうだけど……」

「じゃあさ、こうしようぜ。今日の模擬戦でバグが勝ったら俺たちの夕食で何かやるよ。逆にお前が負けたら、そうだな、パン貰うぜ」


 その提案にアレクも「いいじゃん、それ」と乗る。


「いいよな、それで」


 肩を組みながらアレクが問う。

 力がやや強くなる。


「分かった。それで良いよ」


 断わるのも面倒なので、了承する。


「決まりだな。精々頑張れよ。応援しない程度には見ていてやるよ」


 アレクの激励なのかよく分からない言葉を受けて、と言うか、負けたらパン1個を失う賭けを受けさせられたことで、より一層気が引き締まった。


 ◇


「バグ・ノートラス。前へ」


 自分の名前を呼ばれて、心臓が跳ね上がった。

 覚悟はしていても、いざ始まるとなるとやはり平常ではいられない。

 みぞおち付近が急激にキリキリと痛む。


「はい」


 小さな返事と共に、前に行く。

 次に呼ばれるのは対戦相手の名前のわけで、バグは心の中で出来るだけ弱い相手であるように願う。

 が、現実とはそう上手く行かないもので、


「トーレイ・アーキネ。前へ」

「はい!」


 自信に満ちた大きな返事と共に、バグの前方に立つクラスの支配者は、ニヤリと笑みを浮かべる。

 前回、自分の取り巻きにコテンパンにやられた相手と戦うのだから、余裕の態度になるのも当然だろう。

 トーレイがクラスを支配しているのは、父親の宮廷商人の地位あってのことだけではない。

 本人の実力の高さ故、周りも逆らえないのである。

 彼のスキル【土塊操作】は、土を操る汎用性の高いもので、これが非常に厄介だ。

 例えば、地面から頑強な土の弾を生成してそれを飛ばしたり、土の剣や槍を作り出したりと、本来なら土属性魔術の領域を、魔力消費なしで使用できるのだ。

 攻撃にも、防御にも、妨害にもうってつけのスキルで、これを駆使してトーレイは全戦全勝の成績を収めている。

 おまけに、本人の身体能力も高く、単純な近接戦闘能力は前回のマルロよりも上だ。

 しかし、バグだって前回のような無策ではない。

 怯えているばかりでは、特訓の成果など発揮できるわけもない。

 両頬をバチンッと強く叩いた。

 鋭い痛みで、緊張と恐怖が薄れる。

 大きく深呼吸しながら、相対するトーレイを見据える。

 覚悟は決まった。

読んでいただきありがとうございました。

レビュー、評価、ブックマークをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ