20話 覚悟
翌日。
登校してから模擬戦が始まるまで、バグは緊張感に苛まれながらも、逃げることなく戦いが始まるのを静かに待っていた。
前回とは違い、今回は先生からアドバイスを得、特訓も積んでいる。
不安要素は、誰が対戦相手か、ということだ。
ルール上、同じ相手と戦うことはないため、臨機応変な戦略が求められる。
なるべく強くない相手がいいな、と思いながら訓練場に歩いていく。
その道中、後ろから頭を叩かれた。
強引に肩に腕を回される。
「俺はてっきり逃げるもんだと思ってたんだが、よくもまぁ、また闘う気になったな」
と、アレクが小馬鹿にしてくる。
「何やらこそこそやってたらしいけど、その成果は出たのか?」
「多少は。前みたいに一方的に負けることはないと思いたい…んだけど」
話に割り込むように孤児院のメンバーの1人が笑う。
「ははは、無理無理。バグじゃどうやっても勝てないって。誰が相手でも」
「でもやってみないと分からないから。とりあえず頑張るよ」
「虫なんて操ったところでどうにもならないと思うぞ。俺の【斬撃強化】みたいに分かりやすく攻撃に特化してんなら良かったのになぁ。まぁ、そこは自分の運の悪さを恨むことだ」
アレクも同調する。
「闘いはスキルだけじゃないから。魔術とか、体術とか」
「でもお前、魔術あんまり使えないじゃん」
「それはそうだけど……」
「じゃあさ、こうしようぜ。今日の模擬戦でバグが勝ったら俺たちの夕食で何かやるよ。逆にお前が負けたら、そうだな、パン貰うぜ」
その提案にアレクも「いいじゃん、それ」と乗る。
「いいよな、それで」
肩を組みながらアレクが問う。
力がやや強くなる。
「分かった。それで良いよ」
断わるのも面倒なので、了承する。
「決まりだな。精々頑張れよ。応援しない程度には見ていてやるよ」
アレクの激励なのかよく分からない言葉を受けて、と言うか、負けたらパン1個を失う賭けを受けさせられたことで、より一層気が引き締まった。
◇
「バグ・ノートラス。前へ」
自分の名前を呼ばれて、心臓が跳ね上がった。
覚悟はしていても、いざ始まるとなるとやはり平常ではいられない。
みぞおち付近が急激にキリキリと痛む。
「はい」
小さな返事と共に、前に行く。
次に呼ばれるのは対戦相手の名前のわけで、バグは心の中で出来るだけ弱い相手であるように願う。
が、現実とはそう上手く行かないもので、
「トーレイ・アーキネ。前へ」
「はい!」
自信に満ちた大きな返事と共に、バグの前方に立つクラスの支配者は、ニヤリと笑みを浮かべる。
前回、自分の取り巻きにコテンパンにやられた相手と戦うのだから、余裕の態度になるのも当然だろう。
トーレイがクラスを支配しているのは、父親の宮廷商人の地位あってのことだけではない。
本人の実力の高さ故、周りも逆らえないのである。
彼のスキル【土塊操作】は、土を操る汎用性の高いもので、これが非常に厄介だ。
例えば、地面から頑強な土の弾を生成してそれを飛ばしたり、土の剣や槍を作り出したりと、本来なら土属性魔術の領域を、魔力消費なしで使用できるのだ。
攻撃にも、防御にも、妨害にもうってつけのスキルで、これを駆使してトーレイは全戦全勝の成績を収めている。
おまけに、本人の身体能力も高く、単純な近接戦闘能力は前回のマルロよりも上だ。
しかし、バグだって前回のような無策ではない。
怯えているばかりでは、特訓の成果など発揮できるわけもない。
両頬をバチンッと強く叩いた。
鋭い痛みで、緊張と恐怖が薄れる。
大きく深呼吸しながら、相対するトーレイを見据える。
覚悟は決まった。
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