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2話 進路相談


「落ち着いた?」


 正面のソファに座るカンナが優しく聞いてくれる。


「うん。もう大丈夫。迷惑かけてごめん」

「さっきも言ったでしょ。私たちギルドは冒険者のためにあるんだから。こういうことへの対応も仕事の内よ。遠慮することなんてないの」

「ありがとう」

「早速だけど、バグはこれからどうしたいの?」


 カンナに問われて、バグは考える。


「魔術大学に入学するのはどう? 高等部での成績も良かったんだし、テストは大丈夫じゃない?」


と、カンナが提案する。


「大学か……」


 実はバグは高等部を卒業後、そちらの進路に進もうとしていた。

 が、高等部を卒業する間近で、アレクに冒険者パーティーに誘われたので入学を断念したのだ。

 そして、今更大学で魔術を学ぶ気も余り起きない。

 バグが魔術に求めるのは実戦であり、大学では主に研究や座学がメインとなるので、そこが噛み合わないのだ。


「やっぱり俺は冒険者でいいよ」

「魔術師として軍に入らない? その年齢で2級魔術師なんてまずいないんだから厚待遇だと思うんだけど」

「勘弁してよ。あんな地獄に戻るくらいならソロで冒険者やった方が何倍もマシだよ」

「あっ…」


 カンナが自身の口に手を当てる。

 今、バグがこれまでの人生で何が最も辛かったかと問われれば、派遣先の軍での一か月だと答える。

 何百という人間の焼ける臭いは半年経っても鼻腔から消えなかったし、犠牲になった人間の死体がまるでゴミか何かのように重ねられた風景は未だに夢に出る。

 普段相対する魔物とは違う。

 人間の底知れない悪意を目の当たりにした一か月だった。

 スキルが、魔術が、いかに容易に人間を殺し、人間が簡単に死ぬ環境がいかに行動を狂わせるのか理解した。


「分かった。冒険者は続けるという事ね。でもソロはなしよ」

「うん」

「じゃあ私たちの方からパーティーを探しておくから、3日後にまたギルドに来て。その時に入りたいパーティーがあったらギルドのリーダーと話してみよう。私も立ち会うから」

「助かるよ」

「じゃあ、今日はもう帰って美味しいものでも食べてしっかり寝ること。いい? あ、でもパーティーを抜けたから帰るところが……私の家に来る?」

「宿をとるから大丈夫。貯金は沢山あるし」

「そう」

「今日は本当ありがとう」

「いえいえ」


 短い進路相談を終えて、バグはギルド会館を出る。

 彼女と話したからだろうか。気分が軽やかになった気がする。

 ああ、今日も晴天だ。


 ◇


  結局のところ、パーティー探しは難航していた。

 カンナが持ってきた応募は10にも及び、内6つはバグの希望通りだったのでいざ面談と言う形になったのだが、やはりいざスキルを披露すると、話は破談してしまう。

 こうも拒絶されるとショックである。


【虫操作】

 周囲のあらゆる虫を操作する能力。


 簡単に言うと、別に忌避されるようなものではない。

 確かに最初は部屋に出たゴキブリ、ムカデ、クモなどを手も使わず簡単に外に出せるのでむしろ重宝されるくらいだ。

 しかし、部屋に虫が出没するにつれて、スキルを使ってバグが悪さをしているのではないか、と疑われることもある。

 また、バグのスキルが意図せず虫を寄せ付けているのでは、とも思われることがある。

 そして何より虫を操作する能力は、しばしば魔物が使うことが多く、そことの関連性も疑われることがある。

 それに、斬撃や魔術強化などのスキルに比べて自分のものは格好が悪いものなのだろう。

 国民からの人気や信頼を集めたいときに、バグのスキルは邪魔になる。

 これら様々な要素からバグは避けられている現状だ。

 6つのパーティーから不採用と告げられて、へこんだものの、アクションは起こさないといけない。

 貯金にも限りはあるし、ソロで活動しないにせよ一人でのクエスト達成能力は評価点になるだろう。

 何もしないのが一番まずい。

 とりあえず小遣い稼ぎ程度だけど。

 バグが向かったのはギルド会館だった。

 いつも通り人が多く、バグがパーティーを抜けたことを知ったからか周りがヒソヒソと自分のことを話しているような気がする。

 肩身の狭い中、受付に到着する。



「――本当にソロで行くんですか?」


 流石に受付嬢として仕事についている時には、いつもの態度で対応するカンナにバグは言う。


「まあ、これからずっとそうするわけじゃないですし、毎日宿屋で寝っ転がってるのもアレですから」


 バグもカンナに合わせる。


「分かりました。では最低ランクのクエストから始めましょう」


 A級のパーティーに所属していた身から、まさかそんな提案を呑むことになるとは人生何が起こるか分からない。

 とは言え、そのレベルを勧めるのもカンナの優しさだろう。


「はい」

「クエスト内容は、薬草採取はいかがでしょう。最近、治療院で不足気味なので採取して頂けると大変ありがたいのですが」


 薬草採取か。

 あれが生えている場所は魔物の数も少ないし、探し出すのも苦労はしない。


「それで大丈夫です。ちなみに報酬は?」

「銀貨3枚(日本円で約15,000円)です」

「結構もらえるんですね」

「治療院の方もすぐに欲しいそうなので」

「分かりました。じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」


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