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14話 クラスの支配者

 スキル鑑定から2日後、学校に通う日が来てしまった。

 今日からバグも、スキルや魔術を使用した実戦訓練に仲間入りすることになるのだが、それを思うだけで憂鬱な気持ちになってしまう。

 パサパサとした小さなパンと、具の入っていないスープを食べ終えて、孤児院の皆は早々に学校に行くも、バグだけはのろのろとした歩みで向かっていた。

 バグたちの通う学校は、魔術師や兵士育成に重きを置いている学校であるため、他学校に比べて訓練の時間が多く確保されている。

 それ自体は良いとして、問題はスキルを使用した実戦訓練の一環として、大勢の前で1対1の模擬戦をしなければならないことだ。

 バグは魔術も苦手だし、体術も得意ではない。

 と、なると頼みの綱はスキルだけになるが、これも『虫操作』のため実戦で使えるものではない。

 つまりは、皆の前で赤っ恥をかく可能性が高いのだ。

 他の人たちが闘う様子を観戦するのも授業の内なので、バグも何度か見たことはある。

 武器の使用は禁止され、対戦相手を死に至らしめるような行為も禁止されているものの、やはりどこからしらに傷を負う者が多く、出来ることなら棄権したい。

 当然、模擬戦での闘い方、戦績も評価に反映されるので出ないわけにはいかない。

 通学路の先に校舎が見えてきて、より一層気分は沈む。

 歴史を感じさせる建物に、バグと同じくらいの年齢の学生たちが入っていく。

 バグのクラスは1階にあり、ドアを開けると、一斉に注目が集まる。

 数人がニヤニヤと嫌な笑いを浮かべていて、その理由を聞くまでもなかった。

 クラスには、共に孤児院に暮らすアレクやその他の生徒もいて、彼らがバグのスキルのことを話したのだろう。

 1人の男子が特に仲が良いわけでもないのに、馴れ馴れしく肩を組んできて嘲笑交じりに言う。

 名前は、トーレイ。


「お前残念だったなぁ、そんなスキルで。俺なら生きていけないなぁ。でも安心しろよ。お前元々、魔術師とか兵士向きじゃないんだからさ、森で虫と仲良く暮らせば?」


 トーレイの発言に、彼の取り巻きたちが爆笑する。

 それ以外はバグを哀れむような視線を向ける。

 が、トーレイを咎める者はいない。

 彼の父親は宮廷商人であり、バグたち平民と同じ身分でありながらも、同列には扱えない存在だった。

 家も裕福だし、何人もの貴族とのコネクションがあるらしく、いつも幅を利かせている男子だ。

 彼に好感を持っている者は少なく、取り巻き達も陰ではトーレイのことを嫌っている。

 もっとも、嫌悪を表に出すことは決してない。

 クラスでの立場がなくなるのは当然として、自分の親の職すら危うくなるかもしれないからである。

 故にクラスは彼の支配する庭であり歯向かえず、皆、黙っているのだ。

 バグは前々からその標的なることがあり、その延長として今の状況だ。


「なれなかったら、そうするよ」


 言い返すことなど出来ない。

 とりあえず角の立たない返答をして席に逃げようとする。

 しかし、思いの外強い力で押さえ込まれてしまう。


「ちょっと待てよ。お前のスキル、俺たちにも見せてくれよ」


 彼が取り巻きの1人に合図すると、その男子が袋を持ってこちらに走ってくる。

 トーレイの口ぶりから中身が何なのか想像できる。

 虫だろう。

 そして、その袋の開け口をバグの方に向けてきて、肩に虫が落ちた。


「うわっ」


 バグは短い悲鳴を上げる。

 細長く、脚が沢山あって、肩の上を激しく這う姿から正体はすぐに分かった。

 ムカデだ。

 バグは慌ててムカデを手で払う。スキルを使う余裕なんてなかった。

 しかし、地面に落ちたムカデはバグから離れるどころか、再び登ろうとしているのか足元まで近づいて来たので、ここでやっとスキルを使う。

 とにかく遠くに行け、と命じる。

 すると、ムカデはすぐに命令を実行に移して教室から出て行ってしまった。


「ははは、すっげー。本当に虫を操作できるんだ」


 何がそんなに面白いのか分からないが、とにかくトーレイは笑う。

 最悪の気分だった。

 孤児院でも馬鹿にされ、学校でも馬鹿にされ。

 この『虫操作』のスキルのせいで、バグに居場所はなくなっていた。

 スキルさえもっと良ければ、いや、せめて馬鹿にされないようなものならこんな目に遭わなかったのに。

 自分の不運さを呪う。



「もういいだろっ」


 と、早足で席に着く。

 教師が来るまでの間、居心地の悪さに吐き気を覚えながらもバグは耐えた。

読んでいただきありがとうございました。

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