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13話 運命のスキル鑑定

今回からは、ちょっとした過去編です。

 ――6年前。


 10歳のバグ・ノートラスは、スキル鑑定を受けるため、孤児院の職員と共にギルド会館を訪れていた。

 同年代の子供たちは、もう鑑定を終えていて残るのはバグだけ。

 終えた者たちは皆、楽し気でスキルを披露しあっていて、バグもその中に早く混ざりたいと思っていた。

 だから、今日の鑑定は凄く楽しみだ。

 一体どんなものが発現しているのか。

 自分に目覚めた未知の力を想像するだけでワクワクする。

 出来れば、戦闘以外でも使えるものがいい。

 戦うことはあまり好きではないし、日常生活で使えるスキルの方が便利だろう。

 そう思いながら、ギルド会館に続く階段を上る。

 正門は既に開いていて、そこには騒がしく人が行き来している。

 彼らが冒険者なのだろう。

 その顔は様々だ。

 疲れ切った者もいれば、楽し気な者、不満げな顔の者だっている。

 孤児院の者たちの中では、冒険者は誰もが自立し、楽しい職業だと広がっていたがそんなことはないらしい。

 まあ、そうだろう。

 楽しいだけの職業なんてないことくらい分かる。

 皆の前では言えなかったが。

 多分、皆も分かっているのだ。

 しかし、1回のクエストで大金が貰えるとか、スキル次第で活躍できるとか、明るい未来を描くためには冒険者は都合が良いので、その夢を壊さないために話を合わせているだけだ。

 また、スキルは運だ。

 確かに血縁によってスキル内容が決まっていることもあるらしいが、不幸なことにバグは自身の血縁をよく知らない。

 生まれた頃から孤児院にいるし、過去に職員に親のことを聞いたが、よく分からないと返されてしまった。

 つまりは、これからバグは運で人生が決まると言っても過言ではないのだ。

 今日は運が良いはずだ。

 だって昨日は、夕食の料理を一品落としたり、転んだりと運が悪かったから。

 運の悪い日の翌日は、良いものなのだ。

 そう信じている。

 バクバクと心臓の鼓動がより一層強いように感じる。

 鑑定が行われる部屋にはバグだけが入ることになっているらしく、職員は部屋の前で待っているとのことだった。

 部屋に続くドアは特別大きいわけでもなく、煌びやかと言うわけでもなかった。

 震える手でノブを回して中に入る。

 部屋の広さは普通だった。

 だが、部屋の中央に設置された、いかにも特別そうな装置が目に入る。

 その奥にはギルド会館の職員が2人いる。


「バグ・ノートラス君だね」


 柔らかな口調だ。


「は、はい」


 急に名前を言われたので、返事に詰まってしまった。


「これから君のスキルをこの装置で鑑定する。痛みは当然ないし、すぐに終わるから」

「分かりました」

「では、装置のここに手を置いて」


 促された部分は、台のような形状になっていて、そこに手を置けばいいのだろう。

 手を置くと、鉄のヒンヤリとした冷たさが伝わってくる。

 装置の台が青白く光る。

 これが鑑定だろう。

 あと数秒でバグの人生が決まる。


「もう離していいよ」


 手を台から離す。

 職員2人は小声で何かを話していて、それが何かは聞き取れない。

 恐らくはスキル内容に誤りがないかの確認のようなものだろう。


「うん。君のスキルはね、『虫操作』だ」

「――え?」


『虫操作』と言われて数秒、理解に遅れてしまった。


「虫ってあの虫ですか?」

「そう。虫だね。ほら、あそこの壁にいるだろ? ああいうのを君の意思で動かせるんだ」


 壁の方を見ると、小さな虫がいた。

 翅が生えていたので、とりあえず指の指す方に飛んで止まれ、と命令してみた。

 内心では何かの間違いであってほしい思いから、命令なんて聞いてほしくなかった。

 しかし、虫は指の指す方、装置の上に飛んで止まってしまった。

 困惑と、落胆がバグを襲う。

 肩を落とすバグに対して、職員は機械的に言う。


「スキルに誤りはないね?」

「はい。合っていると思います」

「それは良かった。では、退出を」

「ありがとうございました……」


 と、部屋を出る。


 職員が「何のスキルだった?」と聞いて来たので『虫操作』のスキルだったと簡潔に答える。

 それを聞き、「あらー」とあからさまに哀れんだ声を発する。

 追い打ちをかけるように、


「気に病むことはないわ。人生、スキルだけが全てじゃないんだから」

「うん」


 追い打ちをかけるというよりは、励ましてくれているのだろう。

 だが、その心遣いすら辛かった。

 虫を操作するスキルなんて、格好悪い依然に気持ちが悪い。

 バグ自身、虫が好きではない。

 何を考えているのか分からないし、脚が沢山ある害虫の類は見たくもないし、当然ながら触れたくもない。

 見た目がもうダメなのだ。

 だから、そんな存在を操作するスキルなんて、この上なくいらないものだった。

 孤児院の皆に何て言えば良いのだろう。

 こんなスキル何に使えば良いのだろう。

 不安感でバグの心は埋め尽くされてしまった。


 ◇


  孤児院に戻ってから、職員は部屋で作業があるという事なので玄関で別れた。

 バグは重い足取りで、皆の待つリビングルームに向かった。


「お、どうだった? バグ」


 アレクを始めとして数人がバグの元に来る。

 期待しているよりは、どこか馬鹿にしてやろうと企んでいるような顔だ。


「『虫操作』ってスキルらしい」


 嘲笑されることが分かっているからバグの声も小さくなる。


「『虫操作』? 何だそれ」

「ははは、馬鹿弱そうじゃん」

「お前そんなスキルでどうやって冒険者やるんだよ」


 などと、散々笑われてしまう。

 しかし、言い返すことは出来なかった。

 彼らが馬鹿にするスキルは生涯を通して付き合っていかなければならないのだ。

 途中で変わることはなく、これを背負って生きていくしかない。

 バグ自身も、笑われてもおかしくないスキルだと思う。


「いやぁ、しょうがないよ」


 と、悔しい気持ちを押し殺して、ヘラヘラと返す。

 自分を馬鹿にされながらも、言い返せないことがこんなにも辛いとは思わなかった。

 この日を境に、バグの馬鹿にされっぱなしの日々が始まった。

読んでいただきありがとうございました。

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