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1話 よくある追放劇

初投稿です。

レビュー、評価、ブックマークなどしていただけると、ありがたいです。


「悪いが、今日限りでパーティーを抜けてくれないか?」


 そう言われた時、バグ・ノートラスが思ったことは「やっぱりか」だった。

 しかし、辛かったのは、幼馴染でリーダーのアレクが邪魔者に向けるような眼差しでこちらを見つめてきたことである。

 アレクはバグにとって憧れの対象であった。

 同年代で顔も良く、背も高く、おまけに10歳になると発現する『スキル』も彼のものは【斬撃強化】と、分かりやすく格好いいものだった。

 今にして思えば彼の横柄な態度はその頃から悪化したように思う。

 しかし、それでもバグにとってアレクの存在は目標だった。

 だから、パーティー『金色の剣』設立の際に誘われた時は、喜んだことをよく覚えている。

 純粋に彼に誘われたことが嬉しかったし、【虫操作】というスキルのせいで周りから馬鹿にされていた自分を受け入れてくれた彼に心の底から感謝した。

 パーティー設立当初は、まずはギルドからランク認定されることを目標に頑張った。

 Eランク、Dランク、Cランク、Bランク。

 最高ランクの1つ下まで到達した時は、パーティーのメンバー数は20人と比較的少数だったこともあって国中の注目の的になった。

 正直、バグも浮かれていた。

 無理もない。

 少年の、承認欲求はこんなものだ。


 しかし、設立してからパーティーメンバーが増えるに連れてバグへの冷遇が目に見えて分かるようになっていった。

 パーティーが受けるクエストの中でも危険度の高いものばかりが割り振られたり、報酬額が他の者に比べて少なかったり、などなど。

 挙げればキリがないが、とにかく他メンバーとの待遇差が理不尽にもあったのだ。

 しかし、リーダーであるアレクには強く言えなかった。言えば彼の反感を買ってより一層扱いが悪くなるかもしれないし、パーティー内でバグの味方をしてくれる人は誰もいない。

 他メンバー相手にも、冒険初日で【虫操作】のスキルを披露して以来、会話が極端に少ないこともあって言えずにいたことが、その環境を作ったのだ。

 バグの不満は日に日に溜まる一方だったが、そんなある日、バグは聞いた。

 パーティーメンバー達が、バグへの陰口で盛り上がっているところを。

 そこで、バグはアレクへの尊敬の念を、感謝の念を、パーティーへの貢献心をなくしてしまった。

 バグは気づく。

 自分の存在はアレクにとって邪魔だ、と。

 だから、アレクの言葉にバグは言う。


「ああ、分かった」


 そう残して、アレクの部屋から出て、自室に戻った。

 長い間、共に学び、研鑽し、苦楽を分かち合った友との会話はこれだけだった。

 いや、もしかしたら友と思っていたのは自分だけだったのかもしれない。

 さっそく荷造りを始める。

 リュックに魔術に関する書物、金貨、ペン、紙、寝袋として使うマントなどを突っ込んで宿舎のドアを開ける。

 当然のことながら、見送りする者など誰もいない。

 だが、それでいいのだ。

 いたとすれば未練が残る。

 これから自分は新たな道に進むのだ。


 そう心に決め、バグは第一歩を踏み出した。


 ◇


  パーティーを追い出されたバグだったが、まずやるべきことがあった。

 それはパーティー脱退の報告をギルドにすることだった。

 バグもその場面に何度か遭遇したことはあった。

 皆、一様に暗い表情で身に纏うオーラは正に負だった。

 当然だ。

 報酬の大きいクエストは複数人のパーティーを想定したものが多く、ソロだと簡単なものしかないので報酬も少ない。

 また、高ランクのパーティーは信頼度も高いので、クエストが舞い込んでくるが、ソロにはまず来ない。

 一人で行動するには理由があり、協調性がない可能性がある。

 一人なので、クエストに失敗しやすい可能性がある。

 簡単なクエストしか頼めない、など。

 故にソロに進んでなりたがる冒険者はまずいない。

 クエストが貰えなければ、冒険者は生きていけないのだ。

 しかし、バグの表情はそこまで落ち込んでいるわけではなかった。

 全く悲しくないと言えば嘘になるが、アレクへの感謝も薄れていたので丁度良い機会とすら思っていた。

 ギルド会館の正面玄関を通る。

 豪華な外装、豪華な内装。仲介料や国からの支援でかなり潤っているようである。

 上を見上げればシャンデリア。

 下は高級な絨毯が敷かれている。

 土足でこの上を歩くのは、いつものことながら罪悪感がある。


「いらっしゃいませ、バグ様」


 受付嬢がにこやかに言う。


「どうも」

「今日はどういったご用件でしょうか」

「あの、パーティーを抜けることになりました」


 と、簡潔に告げた瞬間、受付嬢の表情は目に見えて分かるほどに驚愕した。


「な、ど、どうしてですか!?」


 正直にアレクに冷遇されていたからと言いたい。

 しかし、アレクへの情からか。


「方向性の違いで」


 つい濁してしまう。


「そうなんですか……」


 少し沈黙が流れる。


「では、メンバーを募集しているパーティーをお探しとのことですね。希望のランクなどはありますか?」

「いえ、ソロで活動しようかなって」

「正気ですか!?」


 彼女との付き合いもかなり長いが、リアクションの過剰さはどうにかしてほしい。

 いや、これは自分を心配してくれるからこその反応か。

 ならば、ありがたい限りだ。


「はい」


 にこやかだった表情は厳しいものに変わる。


「一つ言っておきますが、今の時代、ソロで冒険者を続けるのは大変難しいんですよ。クエスト受注も困難ですし、やっと見つけたクエストだって報酬は物凄く少ないものばかりです。バグ様は高ランクのパーティーに所属していた実績があります」


 受付嬢は続ける。


「バグ様は現在、2級魔術師に位置しています。この国で上位15%の価値があるんです。それを活かさずソロで活動するのは賢明ではありません」

「お気遣いありがとうございます。でもやっぱり俺はソロで大丈夫です」

「もしかしてスキルのこと?」


 受付嬢の態度が、昔の懐かしいものに戻る。

 近所に住んでいたこともあって、姉のように接してくれた昔に戻る。

 彼女もまた、アレクと同じく【虫操作】のスキルがあっても避けないでくれた人だ。


「違うよ、カンナ姉さん。脱退は俺の意思だ。スキルは関係ない。だから心配しないでよ」

「そんなわけないでしょ!」


 カンナが声を荒げる。


「だって今のバグ、凄く悲しそうな顔をしているよ」


 その言葉で、バグの中の何かが決壊した。

 唐突に涙が溢れてきて、何度も手で拭う。

 人が大勢見ている前で涙を流すなんて恥ずかしいので取り繕おうとするも、止まらない。

 情けない。

 格好悪い。

 何事か、とバグの顔を覗き込もうとする者もいて「くそっ」と右手で目元を隠しながら舌打ちする。

 悪気はないのかもしれないが、こういう時は本当にウザったい。

 放っといてほしい。

 しかし、そんなバグを受付の出入り口から飛び出したカンナが肩に優しく手を添える。


「大丈夫。二人でゆっくり話そう。私たちは冒険者のためにいるんだから。何とかするから」


 昔から彼女はこうだったとバグは思い出す。

 いつもバグが泣いていたら優しく励ましてくれた。

 もう何年も人前で涙を流すことなんてなかったのですっかり忘れていた。

 久しく感じていなかった人の温もりに触れて、バグの感情は落ち着いていく。


「ありがとう」

読んでいただきありがとうございました。

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