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短歌・連作
『林檎色の午後』
ジョナゴールドが手に入ったと弾んだ声で伝えてきた通話
収穫時期から外れたリンゴにはしゃぐ君はレシピをめくる
皮ごと使い切り過熱してアップルパイかタルトタタンかジャム
お裾分けで貰ったそれはシナモンの香りがする甘いドリンク
『水たまりの距離』
ビニール傘を差すあなたの背中を追いかけた 水たまりを踏んで
カバンの中にある折り畳み傘はあなただけヒミツの帰り道
家の前まで送ってくれたあなたにガーゼハンカチを手渡した
あなたの家で使う柔軟剤の香りに染まって返される
何往復すればあなたは私の気持ちに気がついてくれるの と
『もうすぐ桜が咲きます』
「お休みなさい」一生懸命に生きたあなたに言葉を綴る
あなたの命の灯が揺らいでいると知ったのは寒いあの日
私はかける言葉を失って神さまにお願いをしたけれど
あなたと一緒に一度ぐらい桜前線を追いかけたかった
あなたがくれたプレゼントは形見分けだったのかなと涙が散る