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第三章 魔族がやってきた!?

「ん〜!よく寝た〜。あ、お腹すいたかも……」


 ギルドへの登録作業を終え、無事に宿屋に到着してすぐ、夕飯も食べずに眠ってしまったのを思い出した。


「昨日は大変だった……」


 前代未聞の能力値、全属性への適性、そんな能力を少女が持ってたら、誰だって興味を持つ。つまり、質問責めにされたのだ。


 どこの出身か、自分の才能について知っていたのか、どうして魔法使いになったのかなどなど。もう数え切れないぐらい質問された。神様のおかげですとは言えないから、どれもはぐらかして答えるしかなかった。


「この時間ってギルドのところの酒屋はやってるのかなぁ……行くだけ行ってみようかな……」


 酒屋に入った途端、酒屋で朝食をとっている人たちの視線が私に集中して静まり返った。どうやら酒屋は朝でも開いているらしい。


「あ、あの……。なんでしょうか……?」


 私がそう言った途端、彼らはハッとしたように我に返り、また朝食を食べ始めた。


 私は違和感を感じながらも空いている席に着いて、年頃の少女にしては少し多めな量の朝食を頼んだ。


「ん〜!パンがおいしい!」


 朝食を食べ終え、私は受付にいたセーナさんに違和感の原因を聞いてみることにした。


「おはようございます!ノアさん、ですよね。こちら、登録証です。お受け取りください。」


「あっ、ありがとうございます!あの……ちょっと聞きづらいんですけど、先ほどから周囲の視線が少し厳しいように感じるんですが……」


 セーナさんは少し難しい顔をした後、


「えっとですね……ノアさんのステータスって常人離れしてるじゃないですか?というよりしているんですけれども……それがどうやら悪い噂として広まってしまったみたいで……」


「悪い噂ってなんですか?」


「ノアさんは実は魔族が化けた存在なんじゃないかという……」


「えぇぇぇっ?そんなわけないじゃないですか!」


 私は全力で否定した。人族と敵対関係にある魔族が実は私でしたなんてことになったら、間違いなく蜂の巣にされてしまう。


「ですよねぇ……。でも既にかなり広まってしまって、訂正するのも難しいかと……」


 なぜかセーナさんが申し訳なさそうにしている。まさかこの人が噂を流したんじゃあるまいな……。いやないか。セーナさんだし。


「教えてくれてありがとうございます。私の方でどうにかできないか、頑張ってみます!」


 私は要件を済ませると、自分に向けられた視線を無視してそそくさとギルドを出た。


(ひとまず村の外に出よう……。)


 村の外に出た私は、しばらくどうするかを考えていた。噂が広まる前に、別の村や街に行くのが一番無難で安全だろうと考えていると、ふと低い、飛行機が飛んでいるような音が聞こえてきた。


「山脈の方からかな……?あれ、なんだろう?」


 よく見ると空に、小さな黒い点が見えた。獣人族の視力でなければ見えなかっただろう。


 黒い点は少しずつ大きくなり、消えた。刹那、


 ズドォォーーン!!


 自分の十数メートル後ろで爆発が起こった。いや、正確には「何かが猛スピードで落ちてきた」だが。


 あまりの轟音に怯みつつ、私は後ろを振り返った。


「な、何!?」


「ふむ……、どうやら我の思い違いだったようかの?随分とかわいい見た目をしておるではないか」


 土煙が晴れ、爆心地の中心に見えたのは、人だった。ただし、黒いツノと先の尖った尻尾を持った、16歳ぐらいの少女だったが。


「我の名はアルメル。ヘルデーモンの一人じゃ。其方にわかるように言えば魔族じゃな」


「魔族?魔族がどうしてここへ?」


「簡単な話じゃ」


 アルメルという魔族は一呼吸おいて言った。


「其方の息の根を止めるために、であるぞ?」


 その瞬間、少女の姿が消えた。


「……っ!どこに!?」


「後ろじゃよ」


「なっ……ぐあっっ!?!?」


 見た目にそぐわない力をした少女に、後ろから腕を首に回される形で絞められた。


「前代未聞の強さを誇る最強の魔法使いと聞いておったのじゃが……、随分と弱いではないのか?」


「ぐっ……あっっ!?」


 腕に込められる力がどんどん強くなっていく。意識が少しずつ朦朧としてきた。


(そうだ、こんな時こそ……!)


「全くつまらんやつじゃの……っ!」


 アルメルは私の首に回した腕を解き、一気に飛び退いた。直後、私の周囲を取り囲むように爆発が起きた。


「誰が、つまらないんですか?」


 私は笑顔を浮かべて言ってみせた。多分目は笑ってなかったと思う。


 一体何が起きたのか、答えは簡単だ。私が無詠唱で魔法を発動させただけである。それも自分の周囲を吹き飛ばす、なかなかエグい魔法を。


 どうして無詠唱が使えるのかと言ったら、魔法を発動するというイメージを持って魔力を放出すれば、無詠唱が可能になると魔導書に書いてあったからである。熟練の魔法使いですら成功しない事もあると書いてあったけど。


 シルフィーネの書いた魔導書は、魔法に関するほぼ全ての情報が詰まっていたのだった。言うなれば、「神の書」である。


「なかなかにやるではないか。そうじゃな、其方に一つハンデをくれてやろう。その方が面白いからの」


「ハンデ?」


「今から我は10秒の間動かない。それでどうじゃ?」


「別に私はいいですけど、本当にいいんですか?」


「もちろんじゃ、我が其方に負けるはずがないからのう」


 なんだか余裕あるなぁ……。ヘルデーモンって言ってたよね?なら水属性の派生、氷属性の魔法がいいかな?


 魔導書の内容は、村にいく途中である程度覚えていた。シルフィーネの作ってくれた魔導書には上級魔法も載っている。ありがとうシルフィーネさん。


「全てを凍てつかせし冬よ。我にその偉大なる力を分け与え、あらゆる熱を薙ぎ払い給え!氷結冽凍波!」


 詠唱を終えた途端、私の周囲が瞬く間にして凍った。それはすぐに波となってアルメルのところにも届き、アルメルの足を凍らせた。この魔法には相手の魔法を封じる効果もある。魔族には有効だろう。


「なっ!?上級魔法じゃと!?」


「まだまだっ!水槍!」


 この魔法は初級魔法なので、無詠唱でも発動できる。でもかっこいいので魔法名は言ってみた。


 初級魔法単体ではアルメルには効かないだろう。だが、


「魔法を同時に、それも大量発動!?」


 そう、今私の背後には百を超える水の槍が展開されている。しかも絶対氷結波の影響で、既に全て氷の槍に進化している。


 数秒の静寂の後、


「ぐっ……。降参じゃ、我の負けじゃ……。頼む、その魔法を止めてくれんか……?」


 身の危険を感じたアルメルは白旗をあげた。


 しかし、


「……魔法って、どうやって解除すればいいんですか……?」


 私は弱々しい声でそうつぶやいた。


「なん、じゃと……?」


 その言葉を引き金に、彼女に大量の氷の槍が降り注いだ。


 氷の槍を全身に受けたアルメルは、半分死にかけていた。そのままならおそらく死んでいただろう。

 だが、私は既に上級の回復魔法を2、3回かけ、アルメルの傷を完治させている。そのうち意識が戻るだろう。


 しばらくして、アルメルの目が開いた。


「……我は、死んだのか?」


「生きてますよ、アルメルさん」


「そ、其方は……!?我を、助けてくれたのか?」


「もちろんですよ。私だって殺し合いは望んでないですから」


 これは本音だ。一回半殺しにしちゃったけど。


「だが我は負けたのじゃぞ?本来なら殺されていてもおかしくないはずじゃ。それなのになぜ……」


「なぜと言われましても……。私は誰にも死んでほしくないんです。誰も死なないのが、一番ですから」

 前世で事故死を遂げたせいで、かなり死に敏感になっているのも理由だろう。


「そ、其方は、優しいのじゃな……。こんな扱いをされたのは初めてじゃ、なんだかむずがゆいのう……」


 なんかアルメルさん、私に熱っぽい視線を送ってない……?


「ノアさーん!大丈夫ですかー!」


 突如村の方向から聞こえた声に、私は驚きつつ振り返った。


「セーナさん!どうしたんですか?」


 よく見ると、後ろから村の人たちもついてきている。


「どうしたも何も、何かが山脈の方から飛んできたものですから、村中大騒ぎになりまして……。見に行ってみれば、ノアさんが魔族と戦闘していたんですよ!?村の人たちもただ眺めることしかできなくて……」


 確かにあの修羅場に突っ込むのは自殺行為だろう。


「ところでそちらの方は……?」


「えっと……、魔族のアルメルさんです」


「ヘルデーモンのアルメルじゃ、よろしく頼むぞ」


「えっ?ええええっ!?!?」


 お姉さんに加えて、村の人たちの間にもどよめきが走った。


「あ、安心してください!今は大人しいですし安全ですよ!」


「そうなんですか……。安心しました……」


「あの〜、私が魔族だっていう噂はどうなったんでしょうか?」


「ノアさんが魔族と戦っていたことで、ノアさんは魔族ではないという話になっています!」


 良かった、これでまた村で生活できる。


 でも、まだ問題は残っている。


「そう言えば、アルメルさんはこの後どうなるのでしょうか……?」


「一応ノアさんが安全だとおっしゃったので、魔族の土地に無理に帰すようなことはしなくても大丈夫だと思いますが……。村の中に入れるのはあまりお勧めできないですね……」


「ですよねぇ……。この辺りに、家を建てることって可能ですか?」


「大丈夫だと思います!ノアさんは村の救世主ですし、村の人々も喜んで受け入れてくれると思いますよ!」


 よしっ!これでアルメルさんも保護できて、他の人を気にすることもないまったりした暮らしを送れるぞー!


 私が心の中でガッツボーズをしていると、アルメルが少し気恥ずかしそうに視線を向けてきた。


「ノアよ……、我も、その家に一緒に住んでも構わんかの……?」


「元々そのつもりで家を建てるんですから、大丈夫ですよ!」


「ノ、ノア……」


 なんだこの空気は……なぜかセーナさんもにやにやしている。


「あの〜……。ノアさん、今回の件でノアさんにギルド側から特別に報奨金を授与することになりまして……」


「仕事が早いですね……。それって、いくらぐらいなんですか?」


「えっとですね……。金貨、千枚です」


「千枚ですか……。えっ?千枚?」


 こうして私は、土地と同居人(悪魔)、そして大金を手に入れたのであった。

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