第二章 私、転生した
第二章 私、転生した
「……ん、眩しい……」
目が覚めると、私は背丈の高い草むらの上に寝転んでいた。青く広い空と公園に生えていそうな大きな木が見えた。さざめきがよく聞こえてくる。
ゆっくりと体を起こして、今の自分の状態を確かめてみた。
どうやらシルフィーネはしっかり服やカバンを用意してくれたようだ。そして、首には小さな羽のような見た目の、綺麗なネックレスもかかっていた。
(カバン、やたらと重いな……)
肩にかかっていた革製の鞄をゆっくりと下ろし、中身を見てみる。
「金貨みたいなのが20枚と……なんだこれ?」
カバンから出てきたのは辞典のような大きさの本だった。木に腰をかけてその本を読んでみる。
「えーっと……これは目次かな?魔法の基礎、初級魔法、初級応用……。って、これ魔導書じゃん!」
いきなりの魔法に思わずテンションが爆上がりした……が、ページをめくるとそこには、ご丁寧に著者の名前が書いてあった。
「著者、シルフィーネ?……大丈夫かなこれ……」
頭にあのハイテンションな少女の顔を思い浮かべながら、私は勝手に一喜一憂した。
(魔法と言えば……。)
ふと目が覚めた時に近くに落ちていたものを思い出し、
「確かこの辺りに……、あった!」
草の背丈が高く見つけにくかったが、そこには確かに木製の持ち手に金属を合わせ、先端に大きな球体の宝石がつけた、今の身長と同じくらいな大きさの杖が落ちていた。すぐさま拾い上げて頭上に高らかに掲げてみた。
「これで私も魔法使いだ!よし、試しに何か使ってみよっと!」
やや、いやかなり浮かれているが、初めての魔法なのでしょうがない。うん。
右手に魔導書、左手に杖を持って魔導書を読んでみる。
「……体内に流れる魔力にイメージを乗せて、空間に放つことでイメージを具現化できる?簡単そうだし、やってみようかな」
目を閉じて、魔導書の内容を反芻する。
(体内に流れる魔力の感じ取り、イメージし、空間に放出する!)
「はあぁっ!」
魔力を手のひらから放った瞬間、わずかな光と共に全身を映せる大きさの鏡が現れた。
イメージ通りの、現代にもある長方形の鏡である。
「本当にできた……っっ!?」
鏡に映った自分の姿に思わず固まってしまった。
そこに映っていたのは、14、15歳ぐらいの幼い顔立ちをした、青髪碧眼の少女だった。まさに魔法使いという感じのローブに、先のとがった帽子、その帽子を外せば、その頭には猫耳のようなものが2つ。体の後ろには尻尾もついていた。
自分で言うのもアレだが、ものすごくかわいい。幼い見た目から溢れ出るあどけなさ、それに加えて低い背と獣人族特有の耳と尻尾が生み出す、小動物のような雰囲気……。女性ですら惚れてしまいそうな見た目だった。
「シルフィーネさん……。力の入れどころが間違ってませんか……?」
喜びと困惑で思考停止中の頭を左右に振って、無理やり気持ちを切り替えた。
(まずは村とか街を見つけないと……)
荷物をまとめ、ゆっくり周囲を見渡してみると、太陽がある方向に建物の群れが見えた。太陽が進む方向からして、多分西だ。村か街かまではわからなかった。
「見つけたのはいいけど、遠いなぁ……そうだ!」
魔法の中に飛行魔法がないか、魔導書を取り出して探してみる。
「あった!でも中級魔法、私に使えるかな……?」
転生したばかりの私に、どれだけの魔力があるのかがわからない。レベルの高い魔法は使えない可能性があるのだ。
しかしやってみなければわからない。魔法は詠唱した方が効率よく発動できるらしいので、魔導書の内容をそのまま読み上げてみることにした。
「風よ、我が身を纏い、我に翼を与え給え。暴風翼!」
言い終えた瞬間、突如突風が吹いたと思ったら、すでに私の体は1メートルほど浮いていた。
「嘘っ!発動した!?」
一体私にはどれだけの魔力があるのやら……。
何はともあれ、速く移動できるようになったのだ。早く宿屋に行ってベッドの上で横になりたい。
私は荷物を全て持ち、猛スピードで西へと飛び立ったのだった。
なんとか村に着いた時には、すでに日が暮れかけていた。
看板を見た限り、ここはライネ村という小さな村だった。
近くにいたおばさんに宿屋の場所を聞いてみると、
「あら、見ない顔だねぇ。あんた、他のとこからきたのかい?名前は?」
矢継ぎ早に質問をしてくるおばさんに、私は少したじろぎながら答えた。
「えっと、そうです。別の村から来ました。名前はノアって言います」
前世での記憶を風化させないために、名前は下の名前を使うことにした。結構それっぽいし。
おばさんはまじまじと私のことを見ながら、
「いい名前だね。村から来たしては良いもの着てるじゃない。魔法使いかい?ギルドに登録はしているのかい?」
「あっ、はい。一応、魔法は使えます。多分、ギルドには登録してないです」
うん。嘘はついてない。中級魔法が使えたとは言っていないだけで。
「それなら、日が暮れる前に宿屋の前にギルドに行った方がいいねぇ。こんな辺ぴな村でもギルドぐらいはあるのさ。案内してあげようか?」
「ありがとうございます!ぜひお願いします!」
「元気があって良いねぇ。私はそういう子は好きだよ〜」
案内してもらう途中で、この村やギルドについて色々教えてもらった。
ここライネ村は王国の端の方にある小さな村で、周囲に危険な動物もいなく、貴族に狙われるような土地でもないため、ここ数十年はずっと平和な暮らしを続けているという。
しかし、最近魔族の間で人族たちを排除しようという動きがあり、この村は人族と魔族を隔てる高い山脈の近くにあるため、いつ魔族が襲撃してきてもおかしくない状況だとか。
ギルドについては、依頼人と冒険者を仲介し、依頼金をやりとりする役割があると教えてもらった。魔獣や魔族からは魔石や希少な素材も取れ、ギルドで売ることも出来るらしい。時にはギルドが大規模な討伐依頼を出したりすることもあるのだという。私のように、ギルドに登録をしていないけれど、冒険者を目指しているような人は、まずギルドに向かって登録をするのが鉄則らしい。
「さ、着いたよ。あとは1人でも大丈夫かい?」
「はい。ありがとうございました!」
私はお礼に金貨を1枚渡して、さっさとギルドの中に入っていった。一瞬、おばさんの驚いた顔が見えた気がした。
これはすぐ後に知ったのだが、金貨1枚は日本円でいう1万円に相当している。つまり、あのおばさんは道案内しただけで1万円を稼いだわけである。
ギルドの中は夕暮れの時間だからか、活気に溢れていて、外の落ち着いた村の雰囲気とは対照的だった。
どうやらギルドは酒場も兼ねているらしい。私は人混みを避けながら奥にあるギルドの受付へと急いだ。その途中でどこからか視線を感じたが、気にしないことにした。
ギルドの受付には、二十代前半ぐらいの若い女性が何やら考え事をしながら立っていた。随分とスタイルが良いようで。羨ましい。胸元の名札から、どうやら名前はセーナというらしい。
「……はっ!すみません!本日はどんなご用件でしょうか?」
「えっと……ギルドに登録をしたいのですが……」
「冒険者登録ですね、承知しました!ではまず、お名前と年齢を教えてください」
「名前はノアといいます。年齢は……」
この体、多分15歳ぐらいだよね……。でも歳は取らないし、別に元の年齢でいいかな。
「えっと……19歳、です」
「じゅ、19歳ですか!?わ、わかりました。では次に、この水晶の上に手を乗せてください」
私は言われるがままに水晶の上に手を置いた。
その瞬間、水晶が淡く光り、その光が収まったと同時に水晶の上にスクリーンが表示された。なんだかハイテクだ。
「ノアさん、19歳ですね。登録が完了しました!次にステータスですが…」
ステータスなんてものがあるのか。ワクワクしてきた。
セーナさんがスクリーンに向かってなにか操作をすると、画面が切り替わった。
そこには私のステータス、能力値が書かれていた。
名前:ノア
年齢:19
LV:1
体力:9
攻撃:6
防御:5
魔力:173
敏捷:17
知力:198
属性:全属性
これって高いのだろうか……
少なくとも、魔力と知力がずば抜けていることはわかるけども。
「LV1、体力9、攻撃6、防御5、至って普通の数字ですね」
至って普通……。今、後ろでお酒を飲んでいる冒険者っぽい人が鼻で笑ったな。
「続いて魔力ですが……、ひゃ、ひゃくななじゅうさぁぁん!?!?」
その絶叫とも言える声に、あれだけ騒がしかった酒場の空気が一瞬で凍りついた。あ、さっき鼻で笑った人、酒の入った木樽ジョッキを落とした。
「わっ!?びっくりした……。急に驚かさないでくださいよ……」
「驚いたのはこっちですよ!なんですかこれ!LV1で魔力がこんなに高い人初めて見ましたよ!」
「えっと……、それってどれぐらい高いんですか?」
「LV50の熟練魔法使いですら、130にギリギリ届くくらいです!」
「えええっっ!?」
ちょっとシルフィーネさん……いくらなんでも張り切りすぎでしょ……。
転生してからシルフィーネの暴走に驚かされてばっかりである。
「これは恐ろしい才能ですね……!私、今日のことを武勇伝にさせていただきます!」
セーナさんは胸を逸らしてなぜか自慢げにしている。本人は無自覚なのだろうけど、ラインが強調されて後ろの冒険者さんが鼻血を垂らしてるのでやめてください。
「えっと……、私はこの後どうすれば……?」
「あっ!すみません!全てのステータスを確認した上で登録証を作成させていただきます!登録証ができるまでは時間がかかるので、明日受け取りにきていただきます!」
「わかりました。今日は元々宿に泊まるつもりだったのでちょうどよかったです」
「そうなんですね。では、ステータスの続きです。敏捷17、知力、ひゃ、198……。も、もう驚きませんよ……」
セーナさん、声が震えてるよ。
知力は人の潜在的な思考力によって変化する……らしい。詳しいことは私にはわからなかった。
ちなみに知力が高いほど、魔法に使う魔力の効率が良くなるらしい。どうやら私のステータスは魔法に特化した形になっているようだ。
「魔法属性に対する適性も確認させていただきますね」
どうやら適性のある属性の魔法は、少ない魔力で大きな効果を発揮できるらしい。普通は1つか2つ程度の属性に適性があるんだとか。
ちなみに属性は、火、水、風、土、光、闇、さらにそこから派生した様々な属性があるらしい。
「属性……、ぜ、ぜんぞくせいぃぃぃ!?!?!?」
「うわぁぁっ!?」
またもや空気が凍りついた。あ、ウェイターさんがお皿を落としちゃった。
結局、全ての登録作業が終わってギルドから出られたのは、日が完全に沈み、星が綺麗に見えるようになった頃だった。
こんにちは、またはこんばんは。猫取です。
投稿遅くてすみませんでした()
読んでる人はいないと思いますが……(泣)
次回はなんやかんやあって仲間が増えます、お楽しみに。