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第三部 リリシア&ニコロ・メルクは如何に余生を過ごしたか

「という訳で、昔は可愛げがあったのに、今ではすっかり、かかあ天下、女房の尻に敷かれてさ、レオ」

「うちもだよ。家の中ではすっかり居場所が無くなってな、ニコロ」

「誰がかかあで、尻に敷いてるって!?」


 怒鳴り声が響き渡るのは、ラティーナ公国の首都のコーヒーハウスの一角。


「こんなところで油売って愚痴垂れてないで、とっとと働きなさい! まったく、この連中は隙を見つけては逃げ出して。今日は丸薬製造の講義の準備、明日からは薬草栽培の技術指導の出張でしょ」


 リリシアの気迫に、ニコロとレオは一目散に仕事場へ逃げ帰る。


 あれから二十年。リリシアが始めた、ニコロの褒賞金を元に興した事業の数々は、確実にラティーナ公国を変えていた。


 リリシアは、ニコロの資金を元手に、生まれたときからの商人の才覚を活かし、事業を立ち上げた。目的は、国家の独立を守るため、それにより、国民の生命を守るため。


 まず作ったのは、ニコロの屋敷を改装した、全寮制の保育園(キンダーガーデン)と学校だった。当時のラティーナ公国には、夫を戦争で失った騎士階級の女たちがあふれていた。彼女たちは、残された幼い子供の面倒を見なければならず、普段していた機織りの内職に支障が出ていた。夫の収入が無くなり恩給を受けるも、わずかで生活は苦しい。一人あたりでは僅かな恩給も、戦死者が増えるとともに、財政を圧迫していった。


 そこで、子供達を学校に預けて、当番制で保育と教育を行い、時間を作って工場制の機織りに雇い、包帯の量産を始めたのだった。女たちは恩給に加えて収入ができたし、リリシアの事業は資本を蓄積し、工場を建設していった。


 子供が帰った夜の学校では、女たちに薬学と医学、農学の知識を教えた。講師はニコロ、資金はリリシアの工場の利益。薬草の知識を身に着けた女たちは、公国各地に派遣され、薬草の分布と栽培適地の調査に当たった。各種の薬草の量産体制が整うと、戦地での治療薬の生産を拡大した。


 リリシアは、出来上がった包帯と治療薬を、自国の軍隊に送る……、のではなく、オスム王国軍に売り込んだ。ラティーナ公国以外の国とも戦争に明け暮れるオスム王国、戦地での傷病者への需要、軍事費ともラティーナとは桁が違う。そこに喧嘩を売るのではなく、耐え忍んで、通商で実利を取る。


 と見せかけて、国家の独立を目的とした事業であることを忘れていない。オスム王国軍が、リリシアの事業の包帯と治療薬に依存し切ったところで通告した。ラティーナの領土には、一指たりとも触れさせない。もし侵攻のそぶりを見せれば、全ての薬草園を焼き払い、機織り機を破壊した上で、徹底抗戦する、と。


 事業を拡大する中でリリシアが確信したのは、「知は力なり」だった。新しいことに取り組むための指示伝達には、基礎的な学習能力と教養は必須だ。そして、意見を出し合う議論の場においても。多様な意見を集約し、新しい課題の解決に取り組む、自由闊達な議論こそが、小国が生き残る道。そのためには、人への投資、特に教育へのアクセスが必要不可欠だ、と。


 自由な議論の場を設けるために設けたのが、今いるコーヒーハウス。コミュニケーションの場が、貴族の茶会と平民の酒場で分断されている、その垣根を取り払ってみたかった。遠方から運ばれるお茶より、オスム王国との交易で手に入るようになったコーヒーの方が、貴族でなくとも手に入る価格だ。貴族は酔いつぶれることは禁忌だけれど、それがないから、平民と入ることも受け入れられるだろう。作ってみたら、今のところは、愚痴のこぼし合いの場になってしまっているけれど。


 平民の女がでしゃばるな、そのやっかみは今も尽きることがない。けれど、一歩一歩、国は変わっている。危機のとき、座して滅亡を待つか、変革を受け入れるか、どちらを取るかは明らかだ。


 リリシアがここに至るまでに欠かせなかったのが、学園と学問だった。

「平民に進学の資格はない」「女に学問は不要」

 その声に屈していたら、リリシアによる救国はなしえなかった。


 だから、リリシアは今日も大声を上げる。貴族と平民、男と女、そんなことに関係なく、学び、活躍できる、その日が来るまで。


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― 新着の感想 ―
ニコロの状況を考えれば致し方なし、かも知れませんが、リリシアからするとたまったものじゃないですよね……ただ終わり良ければすべて良しなので、本当に良かったです!(´;ω;`) そのままレオに嫁いでいたら…
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