お弁当箱の中身は空っぽのはずなのに
平日の朝は、旦那の昼食用にお弁当を作っている。
ご飯と簡単なおかずを揃え、温め、冷まし、弁当箱に詰める。箸箱をセットすると、ランチクロスで包む。
旦那はそのまま鞄に入れて持って行き、仕事から帰ると、流し台の前に置いておく。
それは、変わりのない習慣と言える。
ところが、ある夕方、流し台の前の弁当箱を持ち上げて異常を感じた。
重い。朝より絶対に重い。
どきりとする。
中身を食べているはずだから、持っていく前より軽くなっていないと変ではないか。
何かが。
何かが入っているのだ。
一体何だろう。
ふと、食べ物の残りが急成長したらどうだろう、と考えた。
今朝はミニトマトを入れていた。その種から芽が出てぐんぐん大きくなったら、お弁当箱の中はきっと緑の枝葉に覆われているに違いない。
いや、そんなことより、何か動物が紛れ込んでいるほうがいいような。
タコウィンナーは入れない方がいいだろう。入れるなら、うさぎりんごだ。たこがいたら困るけど、うさぎのようなもふもふだったら、嬉しいから。
蓋を開けた途端に、かわいいもふもふと目が合ったらどうしよう。
りんごなど詰めてなかったくせに、すっかり妙な想像を楽しんでしまった。そもそも旦那がお弁当を残して帰ってきたことは一度もない。
とにかく開けてみなくては。
おそるおそるランチクロスを解く。
心なしか蓋はいつも以上に固く、ぐっと力を込める。
ぱかり、と開いた中にあったのは、丸いオレンジ色の物体。
「み、みかん?」
入れた覚えのない大きなみかんに、思わず声を漏らす。
途端に、柑橘系の甘酸っぱい香りが漂ってくる。しかし、どこか饐えた臭いが交じっており、決して新鮮なものではない。
そのとき、旦那の声がした。
「ロッカーみかん、腐っているのが入っていたんだよ」
こうした販売形態はどこでもあるのか知らないが、うちの辺りでは、みかんが袋入りでコインロッカーに入って売られていることがよくある。
前面は透明なアクリル窓があるが、それを囲っているのはごく普通のスチール素材なので、ロッカー内のみかんは前側からしか見えない。
旦那は通勤途中に透明な面だけで判断して購入したものの、昼食時に中身を確認したら、腐っているのを見つけたという。
そんなロッカーみかんを、そのまま弁当箱に詰めて、持って帰ってきたのだ。
理由が分かると何ということもない。
弁当箱は改めて空となった。
それにしても、随分と余計な妄想をしてしまったような気がする。