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そして闇の栄光へ  作者: 瀬古剣一郎
第四章
21/24

狂ゑる剣は焼き付いて

《登場人物》

ダズト

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。自己中心的な無頼漢。「神の欠片」に魅入られている。


リィナ

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。決して善人ではないが、ノリの良い明るい女性。


ブラッチー

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」の幹部。打算的な野心家だが、組織には忠誠を誓っている。


カイザルド

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」の首魁。複数の「神の欠片」を従え、その力で世界征服を目論む。

 カイザルドが全ての「神の欠片」を手に入れてから早七日。世界治安維持機構が事実上壊滅したのもあり、世界は急速にダーク・ギルドの闇に呑まれつつあった。圧倒的な武力を背景にして世界各国を軍事的に、又は経済的に支配下に収めていったのである。当然の如く反発も小さくは無かったが、もう世界の何処にもダーク・ギルドに抗う力は残されてはいなかった。

 しかし別の視点に於いては、バラバラだった世界はダーク・ギルドの名の下に一つとなったとも言える。新たな秩序の始まりに、胸が高鳴る者も少なからず居るのかも知れない。但し今それを統べる存在は、慈悲深い王や寛大な皇帝などでは無く、混沌と争乱を糧に肥大化して行く暗黒の権化であった。

 そうして現在、その元凶たる闇の魂が二つ。薄暗くも広々とした一室で、何やら怪しく蠢いている。


「……御覧になられている通り、現時点で七割近くの国が、我がダーク・ギルドの軍門に降っております。小国に限って申し上げれば、既に九割を超える勢いです」

其処はモダンな雰囲気の執務室。宙に浮かぶ立体的なスクリーンには、様々なグラフや数値が表示されていた。前に立ったブラッチーが身振り手振りを交えつつ、高級そうな回転椅子に座る一人の男に世界情勢を説明をしている。

「この勢いであれば、我がダーク・ギルドが世界を手中に収めるのは、最早時間の問題でありましょう」

弁舌軽やかに締め括ったブラッチーは、誇らしげに向かい合う男に頭を下げた。説明している相手は勿論、ダーク・ギルドの首魁……カイザルドである。

 頬杖を突きながらスクリーンに視線を運んでいたカイザルドは、(おもむろ)に組んでいた足を組み替えると、概ね満足そうに口を開いた。

「……ふむ、たった七日で大した成果ではないか」

「ありがとう御座います。今後も引き続き、諸国と()()()()を進めて参りたいと思います」

「ふふ……話し合い、か。随分と交渉が得意と見える」

「いえいえ私一人の力では御座いません。『神の欠片』……引いてはカイザルド様の傑出した御威光と御力があっての大成で御座います」

顔を上げたブラッチーは高らかにおべっかを駆使して、全力でカイザルドに(おもね)る。愚直な迄の露骨な胡麻擂りだが、どうやらカイザルドは悪い気はしていない様子あった。確かにこれ程見事に(へりくだ)られては、笑いも込み上げて来るという物であろう。

「ははははは、追従(ついしょう)と分かってはいても耳には心地良い。あれからカジノも最高収益を上げているそうだな、君を指命して正解だったよ。私も鼻が高い」

「これは勿体なき御言葉!これからもダーク・ギルドとカイザルド様の御為(おんため)に、微力を尽くさせて頂きます!」

「うむ、頼りにさせてもらおう」

再度(うやうや)しく(こうべ)を垂れるブラッチーに、カイザルドは上機嫌で頷いた。

(はっはー!決まった!やったぜ!カイザルド様から揺るぎ無い信頼を得て、オレの人生は大成功!絶対安泰間違い無しだぁ!)

図らずもブラッチーが、心中で凱歌の雄叫びを揚げる。地位、名誉、そして肩書き。遂に望んでいた全ての物を手に入れたブラッチーは、たった今人生の絶頂に達したのであった。

 そんなブラッチーのテンションに反比例するかの如く、カイザルドは静かに頬杖を解いて姿勢を正す。ブラッチーが気付いたかは分からないが、周りの空気が少し(よど)んだ様な感じがした。

「……」

「?……カイザルド様、如何なされましたか?」

急に黙してしまったカイザルドを不審に思い、ブラッチーがどうした事かと恐る恐る声を掛ける。つい直前まで機嫌は良かった筈なのだが、今やカイザルドはブラッチーから視線を外しており、その心を窺い知る事は困難であった。

「……ブラッチーよ、君は我々がこの世界で生きていく為に、一番必要な()()は何だと思うかね?」

「は、生きていく為……でありますか?」

唐突なカイザルドからの問いに、ブラッチーは著しい戸惑いを覚える。質問の真意を推し量りかねるブラッチーは、何とかして正解を答えようと思考をフル回転させた。

「危機感だな」

「御名答だよ」

熟考を巡らせてから数秒後に発言した答えは、見事にカイザルドの意中に適合する!だがしかし!それはブラッチーの口から出た言葉では無かった!

 不意に背後から放たれたる聞き慣れた声に、びっくりしたブラッチーが急いで振り返る!

「なっ!?ダズトぉ!?何故この場所に!?」

「死にな」

まさかと驚愕するブラッチーの瞳に映ったのは、決してこの場に居る筈の無い男!そして既に紫電と化していたダズトの剣が、有無を言わさずブラッチーの胸に突き刺さった!得意の時空間魔法を使う暇も与え無い電光石火の一撃!

「クズが」

更に深々と刺さった剣から、炎が噴き出してブラッチーを覆い尽くす!

「ぐわぁ!」

続けてブラッチーを蹴り飛ばし、ダズトが剣を引き抜いた!倒れたブラッチーが地獄の黒炎に焼かれて転げ回る!そんなブラッチーをダズトはゴミ虫の如く睥睨していた!

「油断……これ程恐ろしい物は、他にそうもあるまい」

この凄惨たる光景を、カイザルドは何もせず冷淡に眺めるのみ!堪らずにブラッチーはカイザルドへ助けを求めた!

「うあ、あぁ……カ、カイザルド様……た、助け……助けて下、さい……」

「残念だよブラッチー、この様な最期になってしまうとは。正直な所、君には失望した……もう下がりたまえ」

漆黒の劫火に巻かれ(もが)き苦しむブラッチーが、救いを乞うてその手を伸ばすも!カイザルドは椅子から眉一つ動かさずに一蹴!

「……!がはっ!」

失意の果てにブラッチーは断末魔を叫んで絶命!トレードマークである黒いテンガロンハットとスーツ、加えて濃い色のサングラスが!同じ黒色の炎に焼き尽くされていく!

 業火劫炎、猛々烈々にして(すべ)てを灰燼に帰さしめ!床には煤と焦げた痕だけが残された!本気を出したダズトに()かれば、幹部たるブラッチーとて赤子の手を捻るが如く!其れにしても人生の絶頂から、いきなり絶望のどん底に突き落とされてしまったブラッチーの心境は、如何許りだったのであろうか!?南無三!


 事の顛末を見届けたカイザルドが、座った椅子ごと回転させてダズトへと向き直る。この様な由々しき事態にあるにも拘わらず、カイザルドは至って悠然と構えていた。執務室に突如として現れた招かれざる客に、カイザルドの粛々とした問い掛けが飛ぶ。

「さてダズト、どうして君がこの場所に居るのかね?」

「テメェをぶっ殺す為に決まってんだろうが」

ダズトはブラッチーの残骸に向けていた眼光を、そのままカイザルドへとスライドさせた。その言葉はカイザルドとは対照的に、気色ばんでいる事が聞いて取れる。

「くくく……先日あれだけの実力差を見せ付けられたにしては、又偉く強気に出たな。もっと痛い目に遭わなければ、私には勝てないという事が解らないらしい」

「さぁて、それはどうかしら?」

「む?」

新たな手合いの出現に訝しむカイザルドが、第二の声が聞こえた方へと顔を向けた。

「今回は私が居るもの」

姿を見せたのは……屈託なく笑う、一人の女であった。天真爛漫な笑顔の少女とも、艶やかな微笑みの妖婦とも判らぬ、愛らしさと色香が混在し備わっている女性。

「リィナ……そうか。ダズトが此処に居るのも、君の仕業と思って良いのだね」

登場した人物を意外に思ったのであろうか、カイザルドは僅かに眉根を寄せた。

「これは何か考えがあっての行動なのか、それともー……」

「あなたの時代は~、お・し・ま・い。でも安心なさって、ダーク・ギルドの事業は、私が責任を持って引き継がせて頂きますわ」

詰問するカイザルドに、リィナが挑戦的な台詞を被せる。明らかな叛逆の意志に、初めてカイザルドの顔に怒りの色が生まれ、無意識下で己のこめかみに指を添えた。

「造反する……という訳か」

ひり付く空気が肌を刺すも、笑顔を湛えたリィナは臆さない。瑞々しい薄ピンク色の唇に、立てた人差し指が吸い寄せられた。

「アハ☆覚えておきなさい。女はね、扱い方一つで変わるのよ♪」

「……ふっ、覚えておこう」

不快感を露わにしていたカイザルドだが、リィナの言葉に不思議と口元を緩める。底抜けたリィナの明るさは、例え敵と(いえど)も毒気を抜かれてしまうのであった。

「だが惜しいかな、部下の不始末は上司の不始末。私も上に立つ者として責任を負わねばならん」

自嘲めいたカイザルドが椅子からゆっくりと立ち上がり、傍らに置いてあったサーベルを鞘ごと手に取る。ブラッチーとは違って其処には一分(いちぶ)の隙も無く、それ所か華やかとも思える見事な所作であった。

「ボス御自(おんみずか)らが構ってくれるなんて、私達も贅沢ね~」

「仕方あるまい。君達の相手が務まるのは、今となっては世界でも私くらいだろう。他の者達への示しも有る……しかしこれからは優秀過ぎる猟犬を持つのも考え物だな、いつ狼に変貌するかも知れぬ」

カイザルドはダズトとリィナにこの上無い賛辞を送る。事実として二人の自信や実力は、虚勢やはったりなどでは決して無い。紛う事無くこの二人は、現世界に於いて最強のコンビなのだ。そう、カイザルドその人自身を除けば。


「どうしたダズト、来ないのか?」

サーベルを手にしながら身構えもせず、泰然自若にダズトを見つめるカイザルド!其れに負けじと睨み付けるダズトの眼光が、より一層鋭さを増した!

「ふん、このくだらねぇ組織も終いだ……片付けてやるぜ」

「やってみろ、木っ端エージェント風情が」

刹那!ダズトが閃雷の如き刺突を放つ!だがダズトが行動を起こすより迅く、カイザルドは鞘に収まったままのサーベルを振り被っていた!転瞬!カイザルドがサーベルを水平に薙ぐと、抜けた鞘がダズトへと投擲される!

「賢しい真似を!」

飛んで来た鞘を紙一重で躱したダズト!しかし避けた事で一弾指の隙が生じ!放った突きは翻ったカイザルドの剣に打ち払われてしまった!ならばと、ダズトは即刻!第二の突きを繰り出す!

「完全に奇襲と思ったのだが、やるな」

ダズトの反応速度を誉めるカイザルドは、既の所で二度目の刺突も剣で捌いた!それでも尚、ダズトの剣は止まる事を知らない!矢継ぎ早に放たれるダズトの攻撃を、カイザルドは巧みに防ぎ続ける!

 ダズトとカイザルド!二人の間で数え切れない程の火花が散った!

「おい、欠片の力は使わねぇのかよ?」

此処らで一旦距離を離し、ダズトは攻めを中断!カイザルドの出方を窺う!

「お互い様だ、君もまだ異能(スキル)を使ってはいまい」

「ふん、大きな世話だぜ」

「私も剣の腕には多少覚えがあるのでね、一つ腕試しをしてみないか?」

「は!いい度胸だ、後で吠え面を掻くんじゃねぇぞ」

予期せぬ剣のみでの勝負の申し出!これをダズトは二つ返事で承諾!そして同時に、チラリとリィナを一瞥した!

「ダズトの好きになさいな」

両方の(てのひら)を上に向けたリィナは、渋々といった感じに答える!本音を言えば!リィナ自身は男達の矜持など、何処吹く風で気に入らないのだが!戦い方は当の本人達に任せるしかないから仕方がない、といった所か!

(はぁ……ヤマダ君の時もそうだったけど、男ってホントこういうシチュエーションが好きよねぇ。女の私には理解出来無い世界だわ)

溜め息混じりに心做らずも腕を組むリィナ、今は二人の戦いを見守るしかないのであった!


 仕切り直して向き合う二人!今度はカイザルドもしっかりとした構えで以て相対す!

 同じ片手持ちの剣ながらカイザルドの持つサーベルは、ダズトのレイピアと比べると刃幅が広く、片刃でより斬撃に適した形をしている。ヤマダ君の使用していたカタナ程では無いが、刀身がやや彎曲しているのが特徴的か。(つか)は短いが鍔はがっしりとしており、指を守る為の拳護が備わっていた。

 そんなサーベルを、カイザルドは腕を伸ばして前方に構えた!持っていない方の手は背中に回し、半身になってダズトを見据える!一方のダズトは普段と変わらず盾を前に突き出し、剣を後ろ手に持つ構え!

「おらぁ!」

先に仕掛けたのは勿論ダズトだ!敵に見辛い角度で、盾の陰から撃ち放たれる高速の突き!だがこれで幾度目であろうか!カイザルドはダズトの切っ先に、するりと自身の切っ先を沿わせ!いとも簡単に刺突を逸らすのだ!

「チッ!」

「そろそろ、私からも行かせて頂こう」

カイザルドはダズトの突きを捌くと、その勢いを駆ってカウンターで突きを放つ!鋭い一撃であったが、ダズトには見切れる速度だ!ダズトが盾で打ち払おうと左手に力を込める……その時!

「何!?」

突如としてカイザルドの剣が、軌道を変えて盾を素通りすると!ダズトの顔面を穿たんと迫る!ダズトは咄嗟に首を捻って辛くも直撃を回避!慌てて盾を逆方向に振り払うも、既にカイザルドの剣は引き戻されていた!

「ふふ……おしい」

「……!」

ダズトの頬に走る一筋の赤い線を見て、カイザルドは静かに笑う!一方の()()られたダズトは、頬の傷など気にも留めず!目前のカイザルドを黙って睨み付けていた!

「あらあら」

少し離れてこの攻防を観覧していたリィナは!意外と言った風に、右手の平で自分の口を塞ぐ!剣でダズトと互角以上に渡り合うなど、おいそれと出来る事では無い!カイザルドは剣に於いても天賦の才を有しているのか!

「欠片の力無しで此処までやるのは……正直予想外ね」

 闇の秘密結社ダーク・ギルドの首魁、カイザルド!闇の頂点に立つ男の実力は未だ未知数!これにはリィナも虚を衝かれ、自身の見立ての甘さを認めざるを得なかった!


「先程から全然喋らないが、どうしたね?」

お互いが剣を伸ばせばギリギリ触れ合える位置!今度はカイザルドから睨み付けたまま動きを見せないダズトへ、会話で揺さぶりを図ろうとする!

「……テメェをどう殺すか、算段を立ててんのさ」

「ならば良いのだがな……戦意が喪失したのかと心配したぞ」

「ぬかせ」

ダズトの性格からして、もっと(いき)り立つのかと思いきや!存外に落ち着いた返答に、カイザルドは更に煽る言葉を織り交ぜて応えた!それでもダズトは心を乱さず、一層純粋な殺意を言葉と眼光に込める!

 頬から流れ出た血がゆっくりと顎を伝い、雫となって滴り落ちた瞬間!ダズトの剣が空気を突き裂いて攻撃を再開!それは(かつ)てヤマダ君との闘いで見せた、流れ星の如き激烈な連続刺突!その迅さはリィナも含め、常人には目視する事が不可能な程であった!

(はや)……凄っ!」

「ははははは!これはかなり忙しいな、目が回りそうだよ」

ダズトの流星雨めいた神速の攻めを、カイザルドは汗一つ掻かずに捌き続ける!流石に反撃する余裕は持ち合わせていないが、的確にダズトの切っ先を弾き逸らす巧みな防御だ!

 数多に繰り出される剣戟の嵐!其の中でも最も鋭い一突きが、カイザルドの心臓を狙う!だがこれも又、妙々たる剣技に防がれてしまった!

(この野郎、矢張り……!)

必殺の一撃をも防がれたダズトは何かを悟り、渋面を浮かべながら一足で飛び退く!構えを解いたダズトは剣を肩に担ぎ、憮然としてカイザルドを見据えた!

「この喰わせ者が、何が剣の腕試しだ……ふざけやがって」

「ほう、気付いたか」

「ん?何々、どゆこと?」

嵐の様な攻めから一転、間合いを離して攻撃を一時中断するダズト!其処から始まった二人の会話を耳にして、不思議に思ったリィナが疑問を呈する!

「テメェ、オレの動きを先読みしてやがるな……いや、心その物を読んでいるのか?」

「ふふふ、中々どうして……鋭いな」

恐るべき事実をカイザルドは認めた!なんとカイザルドは、他人の心の内や思考が見えるというのか!

「そうでもなけりゃ……ヤマダ程度の剣気すら持ち合わせて無いテメェが、オレの剣筋を見切れるものかよ」

「読心術……イカサマって事かしら?でも技術としてならアリじゃなくて?」

リィナの言う通り読心術はれっきとした武芸の手法!剣に限らず武道の達人らは皆、大なり小なり心得ているであろう!

「そんなチャチな物か……異能(スキル)に決まってんだろ。最初に会って仕掛けた時から、何かおかしいと思ってたぜ」

「見事だダズト、ほぼ正解と言って良い。通常はその結論に辿り着く前には倒してしまうのでね……戦闘の最中に見破ったのは君が初めてだ」

そう!カイザルドは剣の技量のみでの腕比べを提案しておきながら!其の実!自らは異能(スキル)を駆使して、ダズトの剣勢を凌いでいたのだ!何という欺瞞!加えて看破したダズトを称賛するというのは、至って本気を出していない事の証左でもあった!

「余りオレを舐めるんじゃねぇぞ」

「そう目くじらを立てなくても良かろう、これは飽くまで余興なのだからな。剣に於いては君に軍配が挙がるのだ、もっと喜びたまえよ」

「くだらねぇ……もう遊びは終わりだ」

「そうかね……では、そろそろ本番に行くとしよう」

手玉に取られたダズトが発する、強い憤りの念を軽く受け流し!カイザルドは何処までも鷹揚な態度を崩さなかったが!それとは裏腹に!其の身を取り巻く魔力が、爆発的な増加を見せ始める!それはビッグバンすら彷彿とさせる、未だ嘗て無いエネルギー量!最早疑う余地は無い、カイザルドの持つ「神の欠片」の力だ!

「この強大な力をこんな場所で解放しては、少々後始末に困るか……」

思い立ったカイザルドが矢庭にパチンと指を鳴らす!すると周囲の風景が急に色褪せ、更に一帯が静寂に包まれた!

「テメェ、何をしやがった……!」

俄かにセピア色へと染まった四辺の様子に、ダズトは警戒感を押し出して語気を強める!

「驚く事は無い、神の力でこの空間を現実から切り取っただけだ。外への被害を防ぐ、強力な結界と思って頂いて結構」

「結界……」

反芻するダズトはカイザルドを倒さない限り、この空間から永久に出られない事を理解する!しかし元よりぶっ殺す気満々で、逃げるつもりなど毛頭も無いので関係無かった!

「今でこそ神の力でほぼ全ての魔法を使用可能だが、本来私は時空間魔法は使えないのでね、(いささ)か空間操作にはまだ慣れんな」

そう言いながらも、カイザルドの空間操作は完璧である!全ては思いのまま!複数の「神の欠片」を支配するカイザルドに死角は無かった!


「ふ~……やっと私の出番って訳ね~、待ち草臥(くたび)れちやったわ」

この状況に漸く、暇を持て余していたリィナが動きを見せる。やけに嬉しそうにダズトに近寄って来ると、そのまま笑顔で肩を並べた。隣り合わせのリィナを、素っ気無いダズトの視線が射抜く。

「チッ、一々はしゃぐな鬱陶しい……分かってんだろうな」

「モチのロンよ☆大船に乗ったつもりで、このリィナさんに任せなさい♪」

自信満々に親指を立ててるリィナに、不安そうなダズトが一瞬眉間に皺を作るも、結局は腹を括って視線をカイザルドへと戻した。

「ふん、魔力の……いや『神の欠片』のコントロールは任せたぜ」

「うふふ、任されました。ダズトの方もしっかりね」

「は!誰に物を言ってやがる」

戦闘前の何時もの掛け合い宜しく!リィナの受け取っていた「神の欠片」のエネルギーが、ダズトへと注ぎ込まれていった!増幅するエネルギーに比例して、感情も昂ぶってきたか!不敵に口角の端を上げるダズト!だがカイザルドを取り巻くエネルギーは、この時既にダズトの何倍にも膨れ上がっていた!

 しかし!欠片を所有していないにも拘わらず、その力を発揮する二人に!カイザルドも目を見張って驚く!それは主だって「神の欠片」から力を託されていたリィナへと向けられていた!

「……!ほお……これは興味深い事象だ。欠片に魅入られずに、その力を内に秘めていたのか。全く関係の無い赤の他人に力を授けるなどとは聞いた事も無い。それ程、あの欠片にとってダズトは特別な存在なのだな」

「種族を超えた恋は、万物の(ことわり)すら変えるのよ☆ああ!なんてロマンチックなのかしら♪」

冗談めかしたリィナの台詞が気に障ったのか、ダズトは少し苛付いたみたいだったが、これにカイザルドは意外にも真面目な顔で首肯する!

「なる程、面白い仮説だ……確かに『神の欠片』は女性に似ているかも知れん。次からは力ずくでは無く、優しく口説いてみるとしようか」

 この間も間断た無く、お互いのエネルギーは増幅し続けていった!たった今この空間は!世界中の全魔力をかき集めたよりも、遥かに巨大なエネルギーに満ちている!

「あの欠片はどうした?」

「ははは、欠片が心配かね?」

「……別に」

ダズトの質問にカイザルドが可笑しそうに質問をし返すと、ダズトはムスッと口をへの字に折り曲げた!これは藪蛇な発言!

「安心したまえ、まだ屈服させてはおらんよ。其処のリィナと同じく、芯の強いお嬢さんでね……だが此処で君を殺せば、あの欠片も観念して私に従うと思うのだが」

ダズトとカイザルド!会話を介して二人の間に、欠片の力とは異なる気配も充満していく!人は其れを〝殺気〟と呼んだ!

「そいつは無理だな」

「どちらの意味で?」

「両方だ」

時は満ち!遂に二人の纏うエネルギーと殺気が臨界点に達する!

 禍々しくも神々しい!地獄の蒼炎を我が身に纏い、ダズトがカイザルドへと疾駆!蒼い炎が後を引き、美しい軌跡を作り上げた!その速度は!この世の殆どの人間には知覚出来無いであろう!とはいえカイザルドは心が読める男!どの様な攻撃であろうと、事前に察知する事が出来るのだ!

「うおおおお!」

「はああああ!」

二つの巨大過ぎる力がぶつかり合う!銀河の衝突にも匹敵するエネルギーが、狭い狭い結界内で爆縮した!

「うわぁ……普段なら一億回は死んでるわね……『神の欠片』様々(さまさま)だわ」

リィナもダズトを通じて欠片の力で自身にバリアを張り、どうにかこの衝撃をやり過ごす!しかし一面は閃光に覆われ、何もかもが定かでは無い!果たしてダズトとカイザルドは、どうなってしまったのであろうか!?

 破壊不可能な結界内でも、所詮は狭い部屋での出来事!徐々に光が収束し、状況が明るみになって来る!現れたるは身動ぎもせず、剣と剣を突き合わせる二人の姿!

「チッ!」

「なる程……余りに強大な神の力が激突するとこうなるのか」

ダズトの舌打ちは無音の空間に良く響く!驚く程恙無(つつがな)い二人の様相に!リィナも不思議そうに首を傾げた!

「あらあら?お二人共、もしかして何とも無いのかしら……?あれだけの大爆発なのに?不思議ね~」

超新星めいた大爆発!その爆心地に居たにも拘わらず、二人は衣服に焦げ目すらも付いていない!全くの無傷であった!

 ダズトがカイザルドの剣を弾き、一旦リィナの横に飛び退いて来る!

「ねぇ大丈夫なの?」

「ああ……だが、これは……」

心配するリィナに応じるダズトの顔は嶮しい、但し其れは戸惑いに近い表情であった!そして一方のカイザルドも同様に、やや困惑しているのが見て取れる!

「どうやらお互いの『神の欠片』が干渉し合いエネルギーが相殺、力場自体がキャンセルされたのだ。これはこの世界の……いや、元を辿れば一つだった『神の欠片』が互いに打ち消し合わぬ為の仕様……謂わば安全装置なのだろう」

「え~?じゃあ『神の欠片』同士では戦えないんじゃなくて?」

「そうでもねぇさ……今迄にも欠片を持った奴等を、片っ端からぶっ殺して来たんだ。今のは少しばかり張り切り過ぎたが、ある程度出力を抑えれば多分問題無いぜ」

「そのようだな。私もこれ程まで心が躍る戦いは初めてでね、この力が何処までやれるのか……ついつい試してみたくなってしまったよ。此処までせずとも、君達を屠る事など出来ように」

カイザルドが己の不甲斐無さを戒めるべく、一度剣を下げて身嗜みを整え直した!超高級なスーツの皺を伸ばし、今一度しっかりと襟を真っ直ぐに正す!

 この間にリィナはダズトとカイザルドの見解を、改めて自分の中で整理してみた!

「うん?とどの詰まり……『神の欠片』同士で戦う時は、バカみたいなエネルギーを封印して〝お互い節度を持って戦いましょう〟て訳ね」

「……おう」

「……まあ、そうなるな」

キレイに纏めたリィナの言葉に対して、二人は幾分か決まりが悪そうに答えるのであった!


 さて!仕切り直して、ダズトとカイザルドの二人が!再び相対する!

「スタートから躓いてしまったが……それでも君達と私の力の差は、単純に五倍以上はある。どうやって(あらが)うつもりかね?」

ゆっくりとサーベルを擡げて構えを取るカイザルドに、ダズトもレイピアと盾を携え腰を落とす!先程の異次元めいたエネルギー量では無いが!それでも他とは一線を画す力が、これでもかと空間を埋め尽くしていった!

「今から実際に証明するのに、言葉で説明する必要があるのかよ」

「ふ、無粋な質問だったな」

次の瞬間!ダズト周囲に蒼炎の火柱が立ち昇る!刹那!身構えるカイザルドに、蒼炎を纏ったダズトが突進した!しかし!行動を読んでいたのか、カイザルドは流れる様な動きでこれを回避!そしてダズトの背中に向けた剣から、竜巻が生き物の如く伸び上がる!

(あれは……!)

この魔法をリィナは以前に目にした事があった!

 突き抜けたダズトは数メートル離れて着地反転!己に迫り来る竜巻に気付くと、直ぐさま盾を翳しバリアを展開!

「ダズト!防がずに避けなさい!」

「……!チッ!」

リィナの声に反応したダズトが、咄嗟に横に飛んで直撃を回避する!ダズト自身の反応速度と、強化魔法を重ね掛けしている肉体だからこその芸当だ!だが暴れ回る竜巻は!触れただけでダズトを吹き飛ばし、激しく結界の壁に叩き付ける!

「……!ぐっ!」

痛打を受けてダズトは顔を顰めるが、もしリィナの助言が無ければ!竜巻はバリアをも食い破り、ダズトは散り散りに引き裂かれていたであろう!

「風魔法の真空波ね、普通のバリアでは通用しないわ」

それはセインの奥義〝真空波〟であった!しかもセインの使った真空波よりも、十数倍は魔力の密度が高く、威力もその分跳ね上がっている!セインは三本の竜巻を複合して使ったが、カイザルドは一本でその何十倍もの威力を実現していた!

「流石は魔法使いだな、理解が速い……そう、私は風魔法が得意でね。欠片の力で強化すれば、こういった芸当も可能なのだよ」

「ふ~ん、そう……でも気を付けなさい、地獄の凶鳥はどんな暴風の中だろうと翔べるのよ」

壁際まで飛ばされたダズトは、蒼炎の猛禽と一体化!炎の翼を羽ばたかせ、一気呵成に舞い戻ると!そのままカイザルドへ猛襲を仕掛かる!

「地を這う狼かと思えば、(おおとり)となって天空も舞うか……ならば私はそれらを仕留める狩人となろう」

カイザルドが空中から襲い来るダズトに掌底を向けると、凶鳥の羽を(もが)たんと又しても真空の竜巻が撃ち出された!

「二度も同じ手を食らうかよ!」

叫ぶダズトは轟々と唸りを上げて迫る竜巻を、蒼炎の翼をはためかせてひらりと躱す!竜巻が凶鳥を掠めて美しくも蒼い火の粉が、舞い散る羽めいて飛び散った!

「甘いな、それで上手く躱したつもりか?余りがっかりさせないで欲しいものだ」

紙一重で避けられた真空の竜巻は急速にUターン!今度は背後からダズトを粉砕せんと差し迫る!背後を取られたダズトだが竜巻には意を介さず、そのままカイザルドへと一直線に突進!だが遂に竜巻がダズトを捉え、真空波の渦に巻き込まれてしまった!

 立所に真空波に切り刻まれて四散する凶鳥!地獄で生まれた蒼白い炎が、暴風で眼麗しく散華(さんげ)し果てる!同時にダズトの命も散ってしまったのであろうか!?

「つぇええやあっ!」

健在!ダズトは至って健在であった!竜巻に捉えられた瞬間ダズトは即座に凶鳥から分離!蒼炎と竜巻が相殺するのを尻目に飛び抜け、更にその爆風をも利用し加速!カイザルドへ肉迫し必殺の突きを放つ!

 ガギィン!

 カイザルドはサーベルで以て、ダズトのレイピアを絡め刺突を止めた!

「言った筈だぞ、私は君の心が読めるのだ……だがこれは言っていなかったかな?私は剣術と風魔法の他に体術も得意でね」

言葉と合わせてカイザルドから蹴りが繰り出される!強烈なハイキックではあったが、優れた動体視力を有するダズトは盾でこれを軽く受け止めた!

「くだらん児戯だぜ」

「そうかね?」

「……!?チッ!」

何とカイザルドは足の爪先から魔法を発動!超至近距離であったが為に真空波では無かったものの、激しい突風に呑まれたダズトは吹き飛ばされてしまう!

「舐めるなと言ったぁ!」

「舐めてなどいないさ、君の考えが分かると言っただけだよ」

直ぐに受け身を取り、転がり起きてダウンを回避したダズト!しかし距離が開いた事で、真空波がカイザルドの剣から放たれようとしていた!そしてダズトも蒼炎を剣に(ほとば)らせる!

「はあっ!」

「ふぅっ!」

まるで示して息を合わせたかの如く、お互いが同時に剣を閃かせた!カイザルドの剣からは真空波が!そしてダズトの剣からは、蒼炎と瘴気を凝縮したビームが撃ち出される!それはまさしく!ヤマダ君の奥義を参考にして生み出され、あの双覇龍を屠った技!

「これは!?」

驚きの声を上げたのはカイザルドの方であった!ダズトのビームは真空波を真っ二つに裁断し、カイザルドをも焼き切ろうと伸び上がる!

「動きや考えが読めようが、テメェはオレの技を知らねぇだろ」

「それはお互い様だ……!」

カイザルドはバリアを展開!当然ながらそれは普通のバリアでは無い!通常の何倍もの防御力を誇る〝真空バリア〟だ!勿論!セインの其れよりも強力である!

「何だと!?」

所が!その真空バリアでさえも!ダズトの放った蒼き閃光は、バリアの障壁を透過してカイザルドの喉元を脅かした!

「ぬっぐぅっ!」

急遽カイザルドは真空バリアの層を厚くし、どうにかギリギリ蒼炎の刃を抑えきる!

「……!これは危なかったか……しかし神の力を、こうも攻撃だけに全振りするとはな」

「全て防げたと思っているか?」

「白々しい虚言だな、もう君に手立ては無い筈だが……ぐはっ!」

ダズトの心を読んで次なる攻撃は無いと踏んでいたカイザルドだったが!真空バリアが薄くなったを箇所を突き破り、一本の魔法の光矢が肩に突き刺さった!

「ニ対一なのよ、私の事も忘れないで下さるかしら?」

「……リィナ!まさか君までもこのバリアを突破してくるとは……!」

それはリィナの合成魔法!カイザルドの真空バリアはセイン以上の硬度であったが、ある程度薄くなればリィナの合成魔法なら貫通する事も可能であったのだ!


 一連の攻防に区切りが着いたのを見計らい、ダズトは一旦リィナの(そば)へ戻って話し掛けた。

「チッ……折角オレが囮までしてやったのに、急所を外しやがって」

「もう、仕方無いでしょ!まだこの魔法に慣れていないんだから」

ダズトの嫌味にリィナはむくれたが、ダズトは然程(さほど)気にせずに言葉を続ける。

「だが思った通りだったな……あいつの異能(スキル)は複数人の心は読め無いみてぇだぞ」

「……まあ読めてたら最初に会った時に、多分私も一緒に捕まってただろうしね」

ダズトは如何にも「ああ、そうだろうよ」と言いたげな表情のまま、内心で肩を(すく)めた。カイザルドは射貫かれた肩の傷を治癒魔法で回復させつつ、耳に入ってきた二人の会話にいみじくも参入する。

「その通り、この異能(スキル)は私が相手の目を見ているのが発動条件でね……便利ではあるが、少々汎用性に欠けるのが玉に瑕だ」

カイザルドは露見した異能(スキル)の弱点を、自信の表れなのか隠そうとはしなかった。それ所か発動条件をも教えてくるのを見るに、まだまだ絶対的余裕が見て取れる。

「しかし手薄だったとはいえ、この真空バリアを破るとは……想像以上の魔法を使う。それにしても欠片の力を振るうダズトの方を陽動にして、まさかリィナの攻撃が本命とは……私も大変驚いたよ」

「オレの攻撃が読まれてんのなら、それを逆手に取るのが手っ取り早いからな」

「お互い相談も無しにこの連携を?」

「私とダズトは一心同体よん☆この程度の共同作業は朝飯前だわ♪」

何やら含みを持たせるリィナの言い回しに、ダズトは露骨に眉根を寄せた。これにはカイザルドも苦笑いを浮かべて、視線をダズトからリィナへと移し替える。この時点で浅くは無かった肩の傷も、治癒魔法で既に完治していた。

「あらあら、お次は私の心を読もうと思って?ダメよ~、レディの心は誰にも知られてはいけないトップシークレットなんだから」

リィナが喋っている途中から、ダズトがカイザルドからの視線を遮る様にリィナの前に立ち(はだ)かる。

「ほらほら私の騎士(ナイト)様もお怒りよ」

賑やかすリィナへの不快感を露わにして、苦々しく横目で見やるダズトであったが、直ぐにまたカイザルドへと向き直り鋭く睨み付けた。

「チッ、リィナの口車に乗せられるのは忌々しいが……テメェの相手はこのオレだ、余所見している暇はねぇぞ」

「ふむ、だが弱い所を狙うのは定石なのでね」

カイザルドの周囲が震え出し!バリアでは防御不可能な真空竜巻が、此度は三条も作り出された!

「行け!」

荒れ狂う竜巻が一つはダズトに!残りの二つは後方に居るリィナへと迫る!

「ふん、一つは自分で何とかしろよ」

「あら、いいの?お優しいのね」

ダズトはリィナへと向かう竜巻の一つを蒼炎の閃光で切り払うと、自身は凶鳥を身に纏って再びカイザルドへと突進して行った!

「相も変わらずせっかちな事。でも一つ処理してくれたお陰で、こっちも大分楽になるわ」

前方に分厚いバリアを張るリィナ!だが真空波の竜巻は大蛇の如く、強固なバリアを食い破り浸食して来る!

「初見じゃないから対応も慌てなくてすむわね……セインに感謝しなくちゃ」

リィナはバリアに大きな孔が穿たれる寸前、竜巻の目前にて全力で荷電粒子魔法をぶっ放した!

 真空波の強味は攻撃の柔軟性と連続性!普通に迎撃しただけなら竜巻はするりと避けて、無数の刃でリィナを切り刻んだであろう!しかし四方をバリアに囲まれた中ならば、真正面からぶつかる他は無い!欠片の力で大幅に強化されているカイザルドの真空波ではあるが!リィナの合成魔法とまともに衝突してしまっては、対消滅は避けられなかったのだ!

「向き不向きが有るとはいえ、やっぱり私じゃ一つ消し飛ばすのが限界ね~。ダズトの攻撃がどれだけ凄いのかが分かるわ」

瞬間的に魔力を出し切ったリィナは、少し疲弊しているのか溜め息を吐く!そして未だ元気にカイザルドへ向かって行くダズトに目を移すのであった!


「うぉらあ!」

先程と同様に身に纏った炎の凶鳥で真空波を相殺したダズトは、カイザルドに肉迫して本日何度目かの剣戟戦を挑む!

「君も懲りないな、何度やっても同じ事だぞ」

読心術が使えるカイザルドに対して、接近戦(インファイト)は余り有効では無いと思われるが!それでもダズトは白兵戦を主体とした戦闘に(こだわ)っていた!何故なら接近戦ならば、カイザルドも真空波をおいそれと使えないからであろう!とは言えそれは!ダズトのヤマダストラッシュ改(仮)も封じられている事をも意味する!

 白刃が二人の狭間で打ち鳴らされ、激しい火花が無数に散りばめられた!矢張りダズトの動きは全て読まれているのであろう!涼しい顔でダズトの攻撃を()なし続けるカイザルド!そんな中でダズトは、ニヤリとした嘲笑をカイザルドへと向けた!

「はっ!言っておくがオレもリィナも、まだ大した傷を受けて無いんだぜ。テメェは肩を射貫かれたくせに態度がでけぇんだよ」

今度はダズトからの安っぽい挑発であったが!カイザルドの自尊心に傷を付けるのには、得てして十分な効果を発揮する!

「成る程、言われてみれば……それは少し悔しいな。ではもう一段ギアを上げるとしよう」

苛立ちを感じたのか、カイザルドは僅かに眉を顰めると!自身の剣でダズトの撃剣を巧みに捌きながら、蹴り技での反撃を開始した!

「ふっ!はあっ!いやーっ!」

上段回し蹴り!ローキックからハイキックの二段蹴り!そして跳び上がっての後ろ回し蹴り!まるで輪舞曲(ロンド)を舞うかの如く、華麗かつ苛烈な蹴りが連続してダズトを襲った!

「チィッ!」

ダズトは類い希な反射神経を駆使して、上手く盾で蹴りを防ぐも!どうしても攻撃が軽くなり、徐々に防御に比重を強いられる!

「ほらほら、どうしたどうしたダズト!剣筋が鈍っているぞ!」

「ぐっ!こなくそがッ!」

「随分と必死そうだが……まだまだ、これで終わりと思うな!」

歯噛みするダズトだったが、カイザルドの猛攻は更に激しさを増す!次は蹴り技に加えて先程と同じ様に、足先から風魔法を繰り出して来た!

洒落臭(しゃらくせ)ぇんだよ!同じ手は無駄だと言ったぁ!」

だが其処はダズトだ!盾からバリアを発生させて風魔法を無効化しつつ、強力なバリアでカイザルドの蹴りも(つい)でに抑え込む事に成功!

「ふっ、驚嘆に値する戦闘センスだ。流石は我がダーク・ギルドの精鋭エージェント、伊達では無い」

「この期に及んで負け惜しみか?闇の元締めが聞いて呆れるぜ」

熾烈な攻防から一転、お互い一歩も引かぬ押し合いで膠着する!寧ろカイザルドの異能(スキル)を考慮すれば、ダズトがやや優勢とも取れる戦況だ!何せダズトの背後には、まだリィナが控えているのだから!

「欠片に選ばれたのも頷けよう……しかし私は君の心を読めるという事を、失念して貰っては困るな」

「!!」

このダズトの攻撃が止んだ瞬間の隙を突き、カイザルドは後方で魔力を渦巻かせた!あっという間に真空波の竜巻が多数形成される!

「私は弱い所を狙うと言った筈だ……この状況では身動きが取れず、君とて助けには向かえまい!」

そう!カイザルドの狙いはとことんリィナであった!実際「神の欠片」の力をダズトへ供給しているのはリィナである!カイザルドはダズトの挑発に乗ったふりをしながら、本当は虎視眈々とリィナを脅かすタイミングを窺っていたのだ!

 幾つもの真空竜巻がリィナに照準を合わせて蜷局(とぐろ)を巻き出す!ダズトは援護に向おうにも、此処で迂闊に行動を起こせば!忽ち形勢は逆転してしまうであろう!カイザルドはダズトの思考を読んで、意図してこの局面を作り出したのだ!これはリィナ危うし!所がまんまと策に嵌った割りに、ダズトは一向に動揺する素振りすらも見せなかった!

「……この場から動けねぇのは、テメェも同じだ。一つ忠告しといてやるよ、リィナを……あの魔女を甘く見てると痛い目を見るぞ」

ダズトの台詞からは謎めいた迫力と、奇妙な重みが感じ取れる!リィナは魔法使いなので魔女という表現は至って正しいのだが、きっとこの言葉には魔性の女としての意味も多分に含まれている事であろう!

「はぁい♪ダズト呼んだ〜?」

込められた皮肉を知ってか知らずか、笑顔でダズトに応えるリィナ!その両手には(おびただ)しい魔力で造られた荷電粒子魔法の矢が、燦々たる輝きを帯びながら携えられている!但し今回は先回までとは違い、矢の他に新たにもう一つ!荷電粒子魔法で作られた弓も握られていた!

「魔法とはいえ矢を飛ばすんだから、弓も用意すれば良かったのね……何で今まで気が付かなかったのかしら」

リィナはそう自分に言い聞かせる様に独り言ちる!兼ねてより荷電粒子魔法は破壊力こそ抜群なものの、射程距離や命中精度など幾つかの問題を抱えていた!そこでリィナはどうすべきか考えた末に、射出装置も魔法で作るという事を思い付いたのである!

 踏まえてリィナは荷電粒子魔法で弓を作成!荷電粒子の相互反発作用を利用して、より高速で矢を射出させる事を理論上は可能とした!これにより射程、弾速、そして命中精度は格段に向上するであろう!しかも弓による恩恵はこれだけでは無い!魔法とは言え「矢を弓に(つが)えて構える」という所作が、結果として「矢を撃ち出す」という行為を想像から強化させていたのだ!詰まり魔法は何よりも〝心からのイメージ〟が大切という事!

「アハ☆まるで恋のキューピッドにでもなった気分ね。これは新たなカップリング……ダズト×カイザルド誕生の予感がするわ♪」

凡夫には(およ)そ理解不能な口上を述べるリィナ!当然ながら弓矢を扱うのは初めてなのだが、飽くまでもこれは魔法である!強いて言えば!スズキ君との戦闘で嫌という程味わった経験が、弓矢のイメージを膨らませるのに大いに役立っていた!

「じゃあ、二人仲良く堕ちなさい☆そ〜れっ!」

そして遂に引き絞った光の弦を解き放ち、荷電粒子魔法の光矢が撃ち出される!

「!?何だと!まさか……ダズトごと撃ち抜くつもりか!?」

それでもリィナは弓矢の達人とは違う!動かないとはいえ、がっぷり四つ組んだどちらか一方を、正確に射抜くのは困難であった!なので何方(どちら)にも当たる様に、二人纏めて狙いを付けたのである!実に豪胆!

「くっ!」

超高速で迫り来る光矢相手に、悠長に考えている暇は無い!カイザルドはリィナに向かわせていた真空竜巻を、急ぎ荷電粒子魔法の迎撃に当てた!しかし射出装置を得て、更に強化された荷電粒子魔法の威力は凄まじく!阻もうとする真空竜巻は(ことごと)くぶち抜かれる!これは何もカイザルドの魔法がリィナの魔法に劣っているからでは無く、無数の斬撃でダメージを与える真空波が、一点突破に特化した荷電粒子の矢を防ぐのには相性が悪いからだ!

「はあああ!」

それでもカイザルドは確実に光矢の威力を減衰させて、最終的に分厚い真空バリアで荷電粒子魔法を防ぐのに成功!しかし!こうした続けざまの行動に因って!カイザルドは相対するダズトへのリソースを大きく割いてしまう!そしてダズトがこの隙を見逃す筈が無かった!

 ズンッ!

「ぬおっ!」

不意にダズトが異能(スキル)で岩石を召喚!カイザルドは直撃こそ躱すもバランスを大きく崩す!

「は!いつも異能(スキル)の予測に頼っている分、想定外の事態が起きれば脆いもんだ!」

「がはぁっ!」

流石に剣は警戒され抑え込まれていたので!ダズトは盾でカイザルドの顔面をぶん殴ると、その身に炎を纏って体当たりした!炎はカイザルドに燃え移って全身を包み込む!それは双覇龍すらも苦しめた、地獄より生まれ出し猛毒の蒼炎!

「ぐふっ!このコンビは……強い!」

青白い猛火に焼かれるカイザルド!だが蹌踉(よろ)めきながらも、何とか倒れずに踏み止まった!

「あらあら、思ってたより呆気(あっけ)なかったわね」

「どうだかな……この程度で(くたば)るくらいなら、最初(はな)っからぶっ殺せたろうに」

燃え盛る劫炎を目にしたリィナは、勝負が決したと一瞬勘違い仕掛るも!ダズトの言葉もあって直ぐに考えを改めさせられる!

「……ふは!ふはははははは!実に面白い!これが神に選ばれし者同士の(いくさ)か!」

蒼炎に(まみ)れるカイザルドがいきなり笑い声を上げた!そして火達磨と化してるとは思えぬ程、しっかりとした足取りで背筋を伸ばすと!そのまま正面にて剣を構え、一思いに剣を振り払う!すると驚くべき事に其れまで身体を取り巻いていた炎が、瞬時に掻き消えたではないか!しかも負っていた大火傷も、強力な治癒魔法の光に包まれた瞬間!綺麗に回復してしまっている!

「だが如何に君達が強くても私には届かん。何故ならば五つもの欠片を従える私は、不死身と言っていい存在なのだからな」

「もう、また振り出しから?しつこい男は嫌いよ」

一体!無限の魔力を持つカイザルドを倒すにはどうすれば良いのであろうか!?気が滅入ってしまったリィナから、思わず悪態が吐いて出た!


「……警戒すべきはダズトでは無く、君だったかリィナ」

楽しそうな微笑を浮かべたカイザルドがリィナに話し掛ける。それは意外な程に穏やかな声であった。

「一瞬目が合ったのでね、失礼ながら少し心を読ませて貰った。まさか本気で世界征服を目論んでいるとは、同じく闇に生きる者として畏れ入る」

「あら()だ、バレちゃった♪ま、綺麗な花には棘があるって事よ☆」

此れ見よがしにおどけるリィナを、カイザルドが愉快そうに見る一方で、ダズトは冷ややかな視線を送っていた。

「しかも『神の欠片』の有無に関係無く凄まじい魔法の数々、繊細な魔力のコントロール、実に素晴らしいの一言に尽きる。今からでも再びスカウトし直したいくらいだよ」

「あらあら、私ったらモテモテじゃない……どうしよっかな〜?」

思いも寄らぬカイザルドからの申し出に、リィナはニヤニヤした顔でダズトをチラ見。当然、面白く無いダズトからは怒声が飛ぶ。

「チッ、おい!敵の甘言に乗せられてんじゃねぇぞテメェ!」

「いやんダズト……焼き餅?」

「誰が焼くか!」

「アハハハ☆冗談よ♪」

不貞腐れてムスッとするダズトを一笑したリィナは、目を合わさない様に気を付けながらカイザルドへと視線を戻した。

「折角だけとお断りするわ〜、私にはもうダズトっていう心に決めた人が居るの☆ごめんなさいね♪」

思わせぶりな台詞は一層ダズトを苛立たせるも、それを気にするリィナではない。拒否されたカイザルドはというと、予想通りの返答なのもあって特に動じる様子も無かった。

「それは残念だ……しかし、何故(なにゆえ)にダズトなのかな?私の方が世界征服に近いと思うのだがね」

「う~ん……そうねぇ、確かにあなたも悪くは無いけど……やっぱりダメ。ダズトの方が魅力的だわ」

「ふふふ……そうはっきり言われてしまうと、少なからず傷付いてしまうな。では後学の為にも是非お聞かせ願いたい物だ、私よりダズトが優れている理由を」

「カイザルド、あなたは色々と持ち過ぎてるのよ」

「ほう?」

「……ダズトにはね、何も無いの」

不意を突いたリィナの発言にダズトの表情が変わる。しかしそれは怒りや苛立ちといった、所謂(いわゆる)ネガティブな物では無かった。

「闘う目的も、強くなる理由も、勝利の意味ですら、なんにもよ。ダズトに悲しい過去なんか無いし、実は伝説の血統の持ち主……なんて事も勿論無いわ。はっきり言ってブラッチーにスカウトされてなければ、単なる町の乱暴者で終わっていたレベルよ。それでいてこんなに滅法強いなんて、世の中ってのは不条理に出来てるわよね」

「くくく……言われてるぞダズト」

「チッ」

カイザルドのせせら笑いには舌打ちしたが、其れでもダズトは心静かに、リィナの言葉の続きを待つ。

「……だから私がダズトの〝何か〟になるの。私の見出した男が、私の魔力と共に、私の協力で世界を手に入れる……なんにも無い空っぽの男が、私のサポートで全てを手にするのよ。絵に描いた様なサクセスストーリーの体現……こんな楽しい事が他にあるかしら?これだけでも胸が高鳴るっていうのに、世界を支配したダズトの特別な〝何か〟になれば……それは全世界の何よりも価値のある存在に、私はなれるのよ……」

リィナは恍惚の表情を浮かべて人差し指を口元に付けると、綺麗な薄ピンク色をした艶めかしい唇をゆっくりとなぞった。

「……うふふ☆考えただけでゾクゾクしちゃう……♪」

「ははははは!常軌を逸しているとしか思えん!とんでもない女に見初められたものだな、同情するぞダズトよ」

狂気じみたリィナの真の目的には、流石のカイザルドも笑い飛ばすしかない。

「……全くだぜ」

たった一言だけダズトはそう述べると、げんなりとして天を仰ぐのであった。


「では私はリィナの恐ろしい野望を阻止する、世界の救世主という訳だな。身の程知らずの悪辣な叛徒を排し、大手を振ってこの世界に新たな秩序を築くとしよう」

「……どの口が言いやがる」

サーベルを華麗に振り回したカイザルドは、身構え直して戦闘態勢へと移行!対するダズトも後手に回るのを嫌い、手にするレイピアを握り直す!そんな一触即発となる中で、リィナが唐突に声を上げた!

「は〜い!ちょっとよろしいかしら。作戦タイムってあり?」

何を言っているのかと、他の二人が暫し停止!始めは面を食らっていたカイザルドであったが、理解すると一旦構えを解いて剣を下げる!

「作戦タイムか……ふむ、認めよう」

「認めるのかよ」

簡単に提案を受け入れたカイザルドを不審がるも、剣を収めたのを見てダズトも臨戦状態を一時中断した。

「全ての欠片を手に入れた今、この様な血湧き肉躍る戦いは、これで最初で最後になるだろうからな。せいぜい足掻いて藻掻いて工夫して、出来るだけ長く私を楽しませてくれたまえ」

「随分と見(くび)られたものだぜ……油断は嫌いじゃあ無かったか?」

「これは王者の余裕というものだよ、どうせ最後には私が勝つのだ。せめて思い残す事の無い様、全身全霊を懸けて挑んで来るがいい」

まだカイザルドの喋っている途中であったが、リィナは早速ダズトの元へと駆け寄って来る。

「想像以上に厄介ね、一応聞くけど……ダズトはどうやって彼を倒すつもりなの?」

「やる事は変わらん。不死身だとぬかすなら、死ぬ迄ぶっ殺し続けてやるだけだぜ」

「はぁ、だと思ったわ……まあ、付き合ってあげるんだけどさ。あ、やっぱり毒の方は効果無いの?」

「駄目だな」

「そうよね〜全部の魔法が使えるって言っていたし……解毒魔法くらい簡単よね」

ダズトの切り札ともいえる、地獄を発生源とする猛毒の瘴気!生きとし生けるもの、全ての生命を蝕むこの猛毒は!史上最強と謳われた、あの双覇龍すらも絶命に至らしめたのである!しかし!全魔法を駆使し無限の魔力を誇るカイザルドには、何ら効果を見出(みいだ)せなかったのだ!

 僅かな沈黙の後。ダズトは顔を上げると、妙な事をリィナに訊ねる。

「……力の制御はどうなっている?」

「欠片の力?今でもやってるわ、結構大変なんだから。出力を上げ過ぎたら緒戦みたいになっちゃうし、低かったら上手く戦えないだろうし……私だから過不足無くコントロール出来てるのよ、感謝なさいね」

敢えて最後の台詞を無視したダズトは、少し逡巡する仕草を見せると、急にリィナに詰め寄った。

「おい、耳を貸せ」

自分からダズトに顔を近付けた事は多々あれど、ダズトから来るのは初めてだと気付いた時、リィナはらしくもなくドギマギしてしまう。だがそんな純情乙女めいた感情も、ダズトから耳打ちされた言葉を聞くと全部吹っ飛んでしまった。

「はぁ?何だってそんな事……」

「勝つ為に決まっている、黙ってやれ」

「考えがあるのは分かるけど、また無茶ばっかりして……下手したら死ぬわよ」

「何言ってやがる、ついさっきオレごと撃ち抜こうとした分際で」

「あれは……あなたなら何とかするだろうって、信頼して射ったんだから」

「じゃあ今度も信頼するんだな」

ぶっきらぼうなダズトの物言いに、リィナは短く嘆息する。

「はいはい、分かったわよ……コンビを組んでから、あなたの勝利を疑った事なんて一度も無いわ」

「そうだ、それでいい」

リィナの返答に満足したのかダズトは不敵に笑うと、改めて鍔を鳴らし剣の鯉口を切った!


「作戦は決まったかな?ならばそろそろ始めよう」

ダズトがぬるりと剣を抜くのを確認すると、カイザルドも再び身を屈めて剣を前方へと押し出す!対峙する二人が構えを取る事で、それまで止まっていた空気が俄に動き出し始めた!

「随分と込み入って相談していたが、その分楽しませてくれるんだろうね?」

「ああ、死ぬ程な」

瞬間!またしても死闘が再開される!

 中距離では蒼炎と真空波が交錯!灼熱の旋風が巻き起こった!比較的近間では二人の振るう撃剣が互いに打ち合い、数え切れぬ火花を散らす!接近戦ではダズトの盾とカイザルドの蹴りが、唸りを上げて衝突した!まさに修羅と魔王!世界の命運を懸けるに相応しく、ダズトとカイザルドの戦いはどこ迄も熾烈を極める!

 刻一刻と目まぐるしく変遷する戦況の中、少し離れた場所ではリィナがダズトを見守っていた!並行して魔力の充填を行っており、どの様な事態にも即応出来る態勢を維持する!

 そんな激闘の真っ只中で!珍しくもダズトが自分からカイザルドへ話し掛けた!

「一個だけ訂正しておくぜ……リィナはああ言ったがよ、オレにも目的くらいはある」

「くくく……それは是非とも知りたいな、君にどんな目的があるというのかね?」

恐らくリィナに「空っぽの男」呼ばわりされたのが気に食わなかったのであろう!炎を纏ったダズトは、刺突を撃ち込み続けながら口を開く!方やカイザルドもダズトの剣を捌きつつ、蹴りで猛襲を繰り出しながら興味を示した!

「……こんな面倒な事や煩わしい事から解放され、毎日旨い酒を飲んで過ごすのさ。その上で(たま)に強い奴と闘ったり、時折面白ぇ事があれば……それで良いんだよ、オレはな」

「ははははは!リィナに比べると、それはそれは慎ましい夢だな。思わず応援したくなる程に素敵だよ」

盾で蹴りを打ち払うダズト!だがその動きを読んでいたカイザルドが余勢を利用し、反対の脚でダズトの鳩尾(みぞおち)を鋭く抉った!

「……!ぐはっ!」

「しかし儚くも、その夢は今此処で潰える!」

ダズトは強烈な一撃を食らって苦悶の形相を呈する!しかも蹴り飛ばされて間合いが広がり、カイザルドが爪先からの真空波で追撃を仕掛けた!

「……ちぃッ!」

炸裂する斬撃音!直撃こそ躱したものの、ダズトの頰肉は真空波に削ぎ落とされ!奥歯まで露出し血塗(ちまみ)れとなる!

「ダズト!」

直ぐにリィナが治癒魔法を送り込み!ダズトの頰は数秒で元通りとなるも、どうしてかダズトはリィナに怒鳴り声を上げた!

「おい!下らねぇ事に魔力を使うんじゃねぇ!戦闘に支障が無い限り全て掠り傷だ!コイツを殺す事だけに集中しろ!」

「ははは!苛烈だな。しかし意気込みとは裏腹に、時間が経つにつれて君は不利になるぞ」

そう!カイザルドの心を読む異能(スキル)により、ダズトの行動はどんどん制限されていく!ダズトの打つ手打つ手が先回りされ、形勢は少しづつカイザルドへと傾いていった!

 カイザルドの蹴りで多数の打撲を負い!真空波で皮膚が裂け(ころも)が赤く染まる!しかしダズトは決して怯まない!依然としてダズトの繰り出す攻撃は、全て容赦無くカイザルドの命を狙って放たれていた!

「こんな物で、オレを止められると思うなよ……!」

それは牙を剥き出しにした餓狼の如く!満身創痍となりながらも、ダズトの攻撃の手は緩まる所か!寧ろ研ぎ澄まされていったのだ!

「まるで戦う為に生まれて来た男だな……五分の条件下で短期決戦なら、私とて危うかったかもしれん」

まるで鬼神が憑依した様なダズトの気迫に、思わずカイザルドは背筋に冷たい物を感じる!

 そのほんの一瞬!コンマ何秒にも満たない刹那!僅かな隙を突いてダズトの剣が、カイザルドの心臓を目掛けて閃く!しかしこの攻撃すらもカイザルドは読み切っていた!待ち構えていた巨大な真空波が、ダズトを正面から呑み込まんと迫る!

「ダズト今よ!」

「!?」

不思議な事が起こった!ダズトが其れまで纏っていた蒼炎が急に消失する!それと同時にカイザルドが放った真空波も掻き消えたのだ!

「ドンピシャだ!思った通りだぜ!」

「何だと!?」

千載一遇の好機に滾るダズト!対して驚愕するカイザルド!しかし!これは一体どういった現象であろうか!?


 鍵は余りにも強大過ぎる「神の欠片」のエネルギーであった。この凄まじい力を人が制御するというのは、技術的にも精神的にも並大抵の者には不可能である。ダズトと役割を分担していたリィナでさえ、欠片のコントロールにはかなりの負担を強いられていたのだ。少し前リィナと作戦タイムに臨んだ時、()ずダズトはこれに疑問を感じる。

練達者(スペシャリスト)のリィナですら苦労する力の制御を、カイザルドはオレと戦いながらワンオペで出来るものか?だが奴から発せられる欠片の力は、常にオレと同程度だった筈……)

ここでダズトは一つの仮定を打ち立てた。

(奴はオレが使用する力に合わせて、自身の力を自動で調整・制御しているとしたら……)

緒戦みたく力をインフレさせるのは厳禁。しかし絶大な「神の欠片」のエネルギーを、その都度必要な分だけ制御するのは至難の(わざ)。此処に来てリィナも、ダズトの意図を理解していた。

(魔法でもそうだけど……(あらかじ)め使い易くプログラムしておいた制御方法を幾つか用意して、状況に合わせて選択するのが一番効率が良いものね。カイザルドは欠片の力をダズトと同じか少し多めのエネルギーで、自動的に出力する仕様にしていたんだわ……あ、私はいつでも手動(マニュアル)よん♪)

(詰まりオレの力が無くなれば、必然的にカイザルドの力も失われる……!)

(でもそれは分の悪い賭け……例え成功しても一時的なものよ。()って数秒……その間に決着を付けなければ、如何にダズトと雖も勝機は無いわ)

 リィナはダズトに耳打ちされた言葉を思い出す。

「状況を見計らい、オレに流れる『神の欠片』からの力を完全に遮断し(ゼロ)にしろ……魔力は勿論、異能(スキル)の力もだ。仕掛るタイミングはテメェに任す」

(……本当にダズトの勝負勘は世界一ね。ま☆それでこそ私が相棒に選んだ甲斐があるってものだわ♪)

戦いに於けるダズトの洞察力と気概に、リィナは改めて感服するのであった。


「くっやる!だがそれで勝ったつもりかね!?残念だが異能(スキル)が使える位の力は残っているぞ!」

それでもカイザルドの力は完全には失われず!まだ心を読む異能(スキル)だけは機能していた!カイザルドが力の制御をマニュアルに切り換え、全てが元通りになるまで数秒!ダズトが一切の能力を使えない中を凌ぎ切るには十分である!

 カイザルドはダズト渾身の刺突を見切り、己の剣を翻した!このまま行くとダズトの剣は、カイザルドの剣に防がれてしまうであろう!

「カイザルド、確かにテメェは強ぇ……認めてやるよ。だがオレは、もっと強い化物(ばけもの)を知っているんでな」

その時!ダズトの剣の切っ先からは欠片の力とは違う、全く別のエネルギーがオーラめいて渦巻く!

「あれは……まさかロキ君の?ダズトったらいつの間に……!」

それはロキが得意としていた技術!「神の欠片」に()らず、修練を重ねて会得する人間由来の(わざ)!ロキが闘気と呼んでいた力だ!

「終わりに、するぜ……!」

「ダ、ダズト!ぐっおおぉぉお!……がっはぁ!!」

紫電一閃!ダズトが繰り出した闘気を纏う刺突が、カイザルドの剣を弾き返し!心の臓を穿つ!カイザルドは胸部に大穴を開けられ、その衝撃で吹っ飛ばされた!

「ま、まだだ……!」

但し即死には至らず!本来なら致命傷ではあるものの!遂にカイザルドの魔力が回復し、強烈な治癒魔法の光がカイザルドを包み込んだ!

「させない!ダズト伏せて!」

その瞬間!リィナが密かに展開し、待機させていた彗星魔法を発動!この機を逃せばもう後は無い!リィナは自身の持つ膨大な魔力、その全てを此処に解き放った!

 ズドドドドド……!

 万を超える氷の爆弾がカイザルドに向けて射出される!当然それは近くに居るダズトをも巻き込む形だ!彗星魔法のフルバーストアタック!其れは大量の爆炎と氷片を生み出し、周辺一帯を高熱の水蒸気が覆い尽くした!


 …………。

「ダズト無事!?返事をなさい!」

彗星魔法による未曾有の爆撃が一段落した折、リィナは未だ蒸気が立ち込める爆心地付近でダズトの姿を捜した。そして幸いにも、仰向けで倒れているダズトを早くも発見する。

「……がっ!」

「ダズト!待ってて、直ぐに欠片の力で治すから!」

見付けたは良いものの、それは散々たる姿であった。ダズトの左腕は盾ごと肩から消失し、酷い裂傷と火傷が全身を隈無く覆い尽くしている。更に内臓にもダメージを負っているのであろう、吐き出した血反吐(ちへど)で口周りも真っ赤であった。速やかに治療しなければ命が危うい。

 駆け付けたリィナは即刻「神の欠片」のエネルギーをダズトに送り込もうとする。これはリィナが「神の欠片」から魔力を受け取るには、ダズトを仲介しなければならないからだ。

「……何で!?欠片の力が引き出せないわ!」

突然の事態にリィナは大いに狼狽える。原因は不明だが「神の欠片」の力が、急に使用不能になっていたのだ。リィナ自身は今し方の彗星魔法で全魔力を使い果たしており、とても治癒魔法を唱えれるコンディションでは無い。しかしダズトの容態は一刻を争っている。

「早く予備の魔力を!」

リィナは胸のブローチを引き千切ると、そこから潤沢な魔力が一斉に溢れ出した。透かさず治癒魔法を唱え、漸くダズトを温かな光が包み込む。

 実際のところ魔法や異能(スキル)が使えぬ状況下で、あの爆発の中を生き残ったのは奇跡的であった。しかしこの奇跡を呼び寄せたのは、他ならぬダズトの生き抜く意志であろう。怪我の具合からしてダズトは、唯一の防御手段である盾に闘気のシールドを重ね、彗星魔法の暴風雨を亀の如く耐え忍んだのだ。

「ぐ……あ、リィ……ナか……」

意識を取り戻したダズトが薄っすらと目を開けると、安堵したリィナが優しくダズトの額を撫でる。

「まだ喋ってはダメよ。ごめんねダズト……でも、あの場はああするしか……」

「……何も、問題……ねぇ、良くやった……褒めて、やるぜ」

真っ先に口を衝いて出た謝罪の言葉をダズトは遮り、却ってリィナの行動を高く評価した。ホッと胸を撫で下ろすリィナであったが、安心したのも束の間。思い出したかの様にハッとすると、慌てて辺りを見回し始める。

「そう言えばカイザルドは?どうなったのかしら……」

ダズトが意識を回復して魔力に若干の余裕が生まれたリィナは、直ちに魔力探知を行い周囲の警戒に当たった。もしダズトと同じくカイザルドも生き残っていたとしたら、そして今この状況で襲撃されようものなら、其れこそ絶体絶命に陥るのは火を見るより明らかであろう。

 そんな危惧するリィナを見てダズトは、一度大きく深呼吸するとやおら話し始めた。

「奴は……カイザルドは、テメェの魔法で……粉々に砕け散ったぜ……この世に、塵一つ残らねぇ程に、な」

「じゃ、じゃあ!」

ダズトの言葉にリィナはパッと顔を(ほころ)ばせる。其れに応えてダズトはニヤリと笑うと、右の拳を固く握り締めリィナに突き出した。

「ああ、オレの……いや、オレ達の……勝ちだ……!」


 死闘の末、遂に勝利を手にしたダズト達!これは詰まり「神の欠片」と共に、この世界の覇権を獲得したという事である!果たしてダズトとリィナはどんな決断をするのか!そしてこの世界の行方は如何に!?

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