The legend
《登場人物》
ダズト
闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。自己中心的な無頼漢。「神の欠片」に魅入られている。
リィナ
闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。決して善人ではないが、ノリの良い明るい女性。
ロキ
闇の秘密結社「ダーク・ギルド」の新人エージェント。常に紳士的で冷静な男。その槍捌きは神業である。
ブラッチー
闇の秘密結社「ダーク・ギルド」の幹部。打算的な野心家だが、組織には忠誠を誓っている。
風が凪ぎ、空間が捻れ歪む。異空間に紛れ込むザラ付いた特有の感覚が、五感を包み込み支配した。
一面が桜色をした靄に覆われ、幾つもの光点が星の様に瞬いては消えていく……かと思えば、一方では光線がオーロラめいて揺らめいていた。それは美しくも寒心に堪えない光景であった。
「チッ……まさか、また封印されたんじゃねぇだろうな」
突如として変貌を遂げた周囲を睨み付け、ダズトが眉間に皺を寄せる。ダズトが手にした剣の先端からは、まだ色鮮やかな血がハタハタと滴り落ちていた。しかし異空間に入った事で、滴る血が小さな血球となりて宙に漂い出す。
「……いや、これは違うな。魔法で創られた空間ではあるが、通常の空間と隔離されている訳では無いぜ」
ブラッチーが魔力解析を行って、今の状況を説明した。小心者のブラッチーが特に慌てていない所を見るに、立所に危険が迫っている訳では無いらしい。
「魔法も普通に使えるし、感じからすると複数人を近場に転送する魔法かしら?」
同じく周囲を包み込む魔力を調べていたリィナが、更に詳しい解析を行って所見を述べる。
ブラッチーもダズトと同じく、手には武器を握っており、その銃口からは硝煙を仄めかせていた。またリィナも両手に魔力を集束・展開させており、いずれも臨戦態勢なのは明らかである。
一行はヒュージの封印を破ったその後、近場の町に潜伏し数日の休息を経た。そして大方の傷が癒えて体力と魔力が回復したのを見計らい、一気に大陸の北上を開始。幾つか在る関所も強引に突破を重ね、恐るべき速度での侵略を成功させる。次第にはその乱行の報告とほぼ同時に、世界治安維持機構の統合本部を急襲したのだ。
統合本部は当然の事ながら、常にそれなりの警備体制を敷いている。しかし、まさかたった四人の兇賊が正面切って襲撃して来るとは、想像だにして無かったのであろう。空前絶後の奇襲攻撃に迎撃態勢も儘ならず、情報が錯綜した本営は混迷混乱を極め、瞬く間に機能不全に陥ってしまったのだ。
只一つ擁護するのなら、四人の内三人は今現在、世界でも十指に入るであろう猛者である事か。警備を務める者の殆どがホワイト・ダガーの様に戦闘に特化した特殊部隊ではなく、普通の装備と訓練をしただけの一般兵だったのも大きい。
そんな混沌の中をダズト達一行は、これまでの鬱憤を晴らすが如く。かつて無い暴力で本部を蹂躙し、破壊と暴虐の限りを尽くして行った。その僅かな時間で犠牲者・負傷者は、合わせて数百名にも及んでいるであろう。既に高級幹部らしき人物も数人打ち取っており、組織的な抵抗も鈍ってきた所であった。そんな状況の最中で折しも、一行は桜色の靄に包まれて、今に至るのである。
「さて、後手後手ではありますが……どうやら相手も我々の狼藉に対して、何かしらアクションを起こした様ですね」
槍を携えたロキが、首を巡らせ言い放った。その槍の穂先からは少量の血痕が見て取れる。
積極的に破壊行為を行っていた他の三人とは違い、ロキは向かって来る者だけを槍で突き伏せていた。ロキは性格的に無抵抗の者を、進んで手に掛けるのは躊躇っている節がある、とは言え別にそれを責める者も一行には居ないが。
ダズトの剣に因る血飛沫、リィナの魔法に因る爆炎、ブラッチーの射撃に因る硝煙の臭い。凄惨極まる酸鼻な情景から一転。桜色の靄が晴れた時、一行はだだっ広い廊下……回廊に立っていた。
「……待ち伏せされているかと思ったが、そんな事も無かったか」
「待ち伏せ所か……人の気配が全然無いわね」
一応天井には一定間隔で魔力灯が灯ってはいるが、必要最小限に薄暗く見通しは悪い。訝しむダズトとリィナが冥冥たる廊下の先を、即応出来る態勢で臨んだ。
「オレのマーカーは統合本部から移動していない。音の反響具合からして、この場所は統合本部の地下だろう」
心配性なブラッチーが早くも現在位置を割り出す。いざとなれば即座にとんずらする気満々なので、位置情報や魔力状況には常に気を配っているのだ。
「またもや地下とは……我々に逃げ場は無い、という事でしょうか?」
ロキは水仙龍骨洞での戦いを思い起こさずにはいられなかった。先の戦いに於いて一行は、激闘の果てに生き埋めにされてしまったからである。
ここでダズトの顔色が俄に変わった。廊下の奥から漂って来る気配を察して、懐が熱くなるのを感じる。
「ちょっと待て……この感覚……『神の欠片』だと?」
「何だと!?まさか在るのか?この先に!」
ダズトの言葉にブラッチーが激しく反応した。ダーク・ギルドの情報では「神の欠片」は残り三個、全てホワイト・ダガーが所持している筈である。確かにその内の幾つかは、統合本部に保管されていてもおかしくは無い。ブラッチーはこの強襲の目的の一つでもある発見に、名誉挽回は近いと内心ほくそ笑む。
「ん~でも、これ絶対に誘ってるわよね?」
そんなブラッチーに水を差すかの様に、リィナは人差し指を唇に当てて言った。
リィナの言う通り、これは十中八九敵の策略なのは間違い無いであろう。だがリィナの大きな瞳に映るダズトは、不敵な素振りで暗がりを睨め付けていた。
「は!向こうからエサを用意してくれてんだ、差し出した腕ごと噛み千切ってやるぜ」
「悪食してお腹を壊さない様になさいね。あなたは平気でも私は繊細なのよ?」
始め威勢良く啖呵を切ったダズトであったが、ジト眼で視線を送るリィナからの皮肉に思わず閉口してしまう。
「お前らぁ!いちいちイチャ付くのは止めろぉ!」
ブラッチーの呆れた怒鳴り声が、地下の回廊に鳴り響いた。
気を取り直した一行は「神の欠片」の気配を辿って勢い良く駆け出す。長い廊下を進むにつれダズトは、欠片の気配がじわじわと濃くなっていくのを感じていた。
想定より廊下は遥かに長く偶に分岐もあったが、レーダーの如くダズトは「神の欠片」の位置を正確に探知していた。ダズトを先頭に一行は、迷う事無く回廊を巡り走り抜けて行く。
ある大きな扉の前を、ダズトが通り過ぎた時であった。ピタリとロキが扉の前で立ち止まると、走っていたダズト達の背中に向けて口を開く。それはどこか緊張感を含んだ口調であった。
「……皆さん、どうやら私は此処までのようです」
「あ?」
「ロキ君?」
振り返った一同はロキが急に足を止めた事は元より、発言の内容に疑問の念を抱かずにはいられない。どうした事かと立ち止まり、不審な視線がロキに集中した。
「おいどうしたんだロキぃ!まさか催してしまったのか!?」
ブラッチーの明らかに的外れな意見を無視して、ダズトがロキの顔を見やる。瞬時にロキと目が合うと、ダズトはその表情を以て胸中を察した。
「……サリバンか?」
ダズトの言葉にもロキは無言であったが、それをダズトは肯定と受け取る。くるりとその場で転回すると、ダズトは肩越しにロキに言い放った。
「ふん……オレは先に行くぜ、今度こそケリを付けてさっさと追って来い」
「あっ、ちょっとダズト!……もう!ゴメンねロキ君、また後で」
ロキを激励?すると直ぐに再び駆け始めるダズト。相も変わらずせっかちな背中を追い掛け、リィナも別れの挨拶もそこそこに走り出す。このダズトの清々しいまでの判断の早さは、ロキと言えども見習う所があろう。
「ちょ、おま!何を勝手に……!」
予期せず二手に別れた事でブラッチーは右往左往する。どちらに付いて行った方が生存率が高いのか、又は功績が大きくなるのか……必死に天秤に掛けているのだ。
迷いに迷った末に結局ブラッチーは、急いでダズト達を追い掛けてゆく。恐らくだがニ・ニに別れるよりも三・一に別れて、人数が多い方に入った方が得策だと考えたのだ。
「……」
無言のまま仲間達を見送ったロキは、直角に向きを変え扉の正面に立つ。一見すると普段の穏やかなロキと変わりは無いが、実は瞳の奥に激情の炎が燃え上がっているのを、ダズトは勘付いていたのだろうか。
ロキはゆっくりと両手で観音開きの扉を押し開けると、敷居の奥へと歩を進めていった。石畳の床と軍靴がぶつかる甲高い足音が、広い静謐な空間によく響く。しかし何故にロキは此処を訪れたのか……そう、彼は感じ取っていたのだ。微かではあるが確かにこの広間には、サリバンの冷たい闘気が漂っているのを。
何に使う広間かは分からぬが、とても広大な間取りであった。等間隔に巨大な柱が配置され、高い天井を支えている。多分違うのであろうが、さながら其れは地下神殿の様にも思えた。そして予想していた通り、空間の中央に仁王立ちしている銀色の影を見付ける。
凍てつく闘気と白銀の鎧を纏うのは赤毛の偉丈夫、嘗ての腹心であり現在の仇敵。
「この前は槍が破損して不覚を取ったが……次はそうはいかんぞ」
「それは私の台詞だ……今度は逃がさん。ナタの仇も含め、何より私自身の大義の為に……貴様を屠る」
やはり待ち受けていたサリバンに向けて、ロキは静かに……だが明確な怒りの意志を込めて言葉を発した。
瞬時に広間は激しい闘気と緊張で満たされ、今にも一触即発しかねぬ空気となる。
しかしロキの鬼神が如き威圧を、サリバンは涼しい顔で受け流していた。余裕にも笑みを浮かべ、手にしていた槍を見え易いよう前方へと回す。
「ふ……ロキよ、これを見るがいい」
「!!まさか……!宝槍ジオバース!」
「もう槍が折れるなどと、まぐれ勝ちは期待出来んぞ」
〝宝槍ジオバース〟それはロキが以前に使用していた愛槍であった。
アポロデア王国の国宝にも指定され、ロキがその功を以て国王から下賜された名槍である。並みの槍とは比べ物にならない頑丈さに加え、切れ味・靭やかさなど全てを兼ね備えた逸品であった。しかしその貴重さ故にロキは後生大事にしており、二度の竜討伐時を除いては、式典や行事の時にしか用いてなかったのである。勿論ジオバースを使わなければならない程の、強敵が存在しなかったのも大きいが。
武人の栄誉として大切にしていた槍が今、己に向けて刃筋を光らせているのだ。あまつさえサリバンの手に握られて。
あのサリバンの脅威的な奥義が、不壊たる槍から繰り出される……それは想像しただけで身震いを禁じ得ない、恐るべき事実であった。そして実際、ロキは震えた。だがそれは恐怖からではない、怒り……それもジオバースを奪られた憤りとも違う。或いはサリバンに対する更なる失望や、憐れみなども折り混ざった感情か。
「……何と……愚かな……ッ!」
「何だと?」
らしくも無く歯を食いしばるロキ、それはどう見ても憤怒の形相であった。もっと痛恨の表情や慙愧の念を期待していたサリバンは、意外に思って逆に顔を曇らせる。
「……如何に優れた得物を手にした所で、己が強くなったと過信するなどとは!思い違いも甚だしい!愚の骨頂ッ!貴様は臣下としてのみならず!武人としても、その身を窶すか!」
あの温厚なロキが余りの怒りに、侮蔑的な怒号を飛ばした。もしかしたらロキ自身も、これ程までに激昂したのは、人生で初めてなのかも知れない。
この怒気には流石のサリバンも一瞬たじろぎ、一筋の冷や汗を垂らした。
「……ふっ今も昔も、騎士道と忠誠心の塊の様な男だな……そこは素直に敬服しよう」
束の間とはいえ怯んでしまった事を恥じ入ってか、サリバンは自身の正当性をロキに説き始める。
「だが俺は民の想いを汲み取り、敢えてこの身を貶めて逆心したのだぞ?」
「嘘を付くな……貴様は私がイレギュラーであると知り、自分の野望の為に国を裏切ったに他ならない」
努めてロキは己の感情を制御し冷静に受け答えをするが、その口調は普段からは有り得ぬ程厳しい物であった。
「だとしても結果として俺は古き体制を壊し、新たな秩序をかの国に与えたのだ。お前こそ闇の秘密結社に身を堕としておいて何が神威将軍か……恥を知って旧態依然の考え方を改めるがいい」
「貴様は小賢しいだけだろうッ!!」
遂に!ロキの心のたがが外れ、激情が止めど無く溢れ出す!
「最早っ!問答無用だ!覚悟せよサリバン!」
最後通牒を突き付けて、ロキは全身から鬼気迫る闘気を放った!槍にオーラを漲らせて翻し!穂先をサリバンに照準を合わせて構える!
「滅んだ王国の亡霊が……イレギュラーか何か知らんが、その伝説をこの槍で撃ち貫いてくれる」
宝槍ジオバースを携えたサリバンも!全く同じ構えでロキに相対した!
過去と未来!野心と忠誠!誇りと名誉!復讐と怨念!お互い様々な想いをオーラに変えて!とうとう今こそ!雌雄を決する時が来たのである!
お互いの咆哮が木霊した刹那!二つの巨大な闘気が激突した!
ズ、ズズズズズ……
空気が震え地面が揺れた。尤も此処は地下なので、四方全てが揺れ動いたのだが。
「な、何?地震かしら?」
リィナが走りながらも不安気な面持ちで、パラパラと砂埃が降ってくる天井を見つめる。
「うおぉ!敵の攻撃かもしれん、気を付けろぉ!」
一方のブラッチーは酷く警戒して魔力を展開、早くも戦闘準備を開始していた。やたら張り切っている様にも見えるが、もし切迫した状況に追い詰められようなら、一人だけ脱出する腹積もりなのであろう。
(ロキめ、始めやがったな……)
只一人ダズトだけは、全てを理解して落ち着き払っていた。
(ふん……だが、ああ言った手前だ。此方もロキが戻って来る前に終わらせねば、恰好が付かんか)
功を競っている訳では無いのに、どうしてかその様な気持ちになってしまう。意図せずにダズトは、口の端を少し上げた。
そんなダズトを、追い付いて来たリィナが不思議そうに眺める。
「ちょっとダズト、何を笑っているの?良い事でもあった?」
「あ?別に笑ってねぇし……それよりそろそろ近いぜ、気ぃ抜くんじゃねぇぞ」
リィナから指摘を受けたダズトが、決まりが悪そうに話をすり替える。もし心中を悟られでもしたら、また揶揄されかねないからだ。幸いな事にリィナも、これ以上は詮索する気は無さそうである。
それでも「神の欠片」にかなり近付いて来ているのは本当であった。薄暗い廊下の先にぼんやりとであるが、此迄で最も大きな門扉が浮かび上がってくる。
「さ~て、鬼が出るか蛇が出るか♪ま、出るとするなら神様かしらね『神の欠片』だけに☆」
緊張感などまるで感じられ無いリィナの呟きを合図に、ダズトも剣の柄に手を添えて臨戦態勢に入った。
一思いに巨大な門扉を突き破り!一行が突入を開始!彼らは知る由も無いが、其処は現在ロキとサリバンが戦っている広間に酷似していた!つまり途方もなく広い空間が内側に広がっていたのだ!
特に罠らしい仕掛けも無くやや拍子抜けする中、巨大な神殿めいた建造物を一行は進んで行く。既に辺りには「神の欠片」の気配が色濃く立ち込めていた。
「現れたか……闇の者共……」
広間の最奥部に壮年の男が一人、行く手を阻むかの様に立ち塞がっている。立派な灰色の髭を蓄え厳めしい顔付きに、相応しい威厳をも兼ね備える英傑……最強の魔道士「ヒュージ・ゲンダイ」その人であった。
大当たりを引いたダズトは、己の運の良さに忍び笑う。
「は!誰かと思えば、いきなり本命か。捜したぜ髭野郎……先日の借り、返させて貰うぞ」
出会い頭に挑発してくるダズトを、ヒュージは忌々しそうにキッと睨んだ。
「封印を破ったのは分かっておったが、まさかこの様な凶行に及んで来るとは……吾が輩の不明であったわ」
「そうか、じゃあ後悔しながら死ね」
ニヤついた笑みのまま、ダズトはゆっくりと剣を引き抜く。同時に赤黒い地獄の炎が、ダズト背後に燃え盛った。
「お主の如き凶漢を、その『神の欠片』が選んだ理由……皆目見当が付かぬわ」
対するヒュージは不動の体勢のままで、自身の魔力を集束し始める。ダズトの目からも、リィナをも凌ぐ超特大の魔力が、周囲に渦巻き出すのが分かった。
この時、ダズトの頭の中で「神の欠片」による共鳴が起こる。直ぐに顔から笑みが消え失せると、不穏な目付きでヒュージを窺った。
「……この感覚、テメェまさか……欠片を複数持っていやがるのか?」
「左様。今、吾が輩は所持している三つの欠片……その全てを身に付けておる」
ダズトの問い掛けに、ヒュージは隠す事も無く答える。
本来ならば直ちに「神の欠片」は退避させねばならない筈なのだ。余りにも此方に都合の良い状況に、ダズトも含め一行は意外な表情を露わにする。
「ふん……鴨が葱を背負って来るとはこの事だ。テメェを殺して欠片を奪えば、このくだらねぇ任務からも漸く解放されるぜ」
敵側に何かしらの企みがあるのは確実……一握りの懸念はあったが、敢えてダズトはこれを好機と受け取った。獲物を狙う豹の様に姿勢を低くし、今にも跳び掛からんばかりに殺気を放つ。
「……む、神の力は使わぬのか?」
「ふん……テメェ如きに必要ねぇよ」
当然ヒュージは知らないのだ、ダズトが「神の欠片」の力を意図して使用していない……いや、出来ない事を。
「神の欠片」の力が発揮された時、それはダズトの意志とは関係が無かった。あくまでダズトの窮地や感情の昂ぶりに呼応して、「神の欠片」自らがそのエネルギーを放って来たに過ぎない。
しかしそんな事実など、敵方であるヒュージが与り知る筈も無かった。その為ヒュージとしても、イレギュラーたるロキや「神の欠片」の威光を借りる事で、ダズト達がここ迄戦って来たと思っていたのだ。
「……どういう積もりかは解せぬが、一切の容赦はせぬぞ」
ヒュージを中心に渦巻く魔力に、明らかに異質な力が混ざり始める!只でさえ強力だったエネルギーは、今や太陽に匹敵する密度を有していた!勿論!単なる人間が、これ程のエネルギーを得る事は不可能!全ては「神の欠片」から引き出した力か!
「ばっ馬鹿な!もしかしてヒュージも欠片に魅入られているのか!?」
その凄まじいばかりのエネルギー量に、当てられたブラッチーが驚愕して叫んだ!
「闇の幹部よ、お主は存じているのではないか?『神の欠片』の力を得るには〝魅入られる〟他にも方法が有るという事を……」
「……!そ、それは……!」
図星を突かれたか、ブラッチーが分かり易く動揺する!これに不信感を募らせたダズトとリィナは、共に苦々しい視線をブラッチーに送った!
「へぇ~、そんな方法が有るの……まあでも、そうでも無ければ『神の欠片』を集めても有効に利用する術がないものね」
「本気で信用出来ねぇ組織だぜ……この件が終わったら、少し身の振り方を考えるかよ」
「お、落ち着け!お前らぁ!今は仲間割れしている場合じゃない!力を合わせてヒュージを倒さねば、このピンチは乗り越えられ無いぞ!」
新たに浮上した疑惑を臆面にしたブラッチーが、必死で体裁を保とうと弁解する!だが、これには理由があった!
実はこの時!ヒュージが魔力で造った力場により、既に転移魔法での逃走は不可能になっていたのだ!退路を断たれた事に気付いたブラッチーは、何とかしてこの場を切り抜けようと画策する!その為にはダズトとリィナの協力は不可欠だったのだ!
「さて、この世界に『神の欠片』が出現してから実に八千億年以上……この長大な歴史の中で、最も強い生物とは何か……考えた事はあるか?」
「あ?何を言い出すかと思えば……知るかそんなもん、命乞いのつもりか?寝言は寝て言え」
超高密度のエネルギーを欠片から引き出し、その身に纏わせながら!不意にヒュージはダズト達に、不可解な質問を投げ掛けてきた!当然!そんな事に興味など無いダズトは、つまらなさそうに鞘から剣を引き抜く!
「ま、待てダズトぉ!ここは一つヒュージの話を聞いてみようじゃないか……ヒュージよ!お前はそいつが何なのか知っているのか!?」
少しでも時間を稼ぎ、活路を見出そうとしてか。ブラッチーが慌ててダズトを抑えて、ヒュージの問い掛けに応じる姿勢を取る。ダズトは顰めっ面で唾を吐き捨てるも、此処は一旦見に回った。
「双覇龍……名前くらいは聞いた事があろう?」
渦巻くエネルギーの中心部分で、ヒュージが厳かな声色で答える。
「双覇龍!?約三千億年前に存在したという双頭の龍か?実在していたというのか!?」
冷や汗を流したブラッチーがオーバーリアクションで驚く中、リィナは不思議そうに首を傾げて人差し指を頬に当てた。
「三千億年も前の事なんてよく分かるわね……てか、有名なの?その龍」
「……数百億年もの間、この世界の頂点に君臨し続けたと言われる、伝説の龍だぜ。一説には双子の龍が『神の欠片』に魅入られて、融合した姿だと聞く」
「ふん、それがどうした……テメェはそのなんちゃら龍より強ぇってのかよ?」
ブラッチーの説明を聞き流しながら、ダズトは鬱陶しそうにヒュージに鋭い視線を飛ばす。
この世の物とは思えぬ力を集束させつつあるヒュージが、凛とした表情と態度でダズトを見返した。
「まさか……吾が輩如き、双覇龍の足下にも及ばぬよ」
「けっ、何が言いてぇんだテメェはよ。言いたい事があるなら、もっとはっきり喋れ」
異様な笑みを浮かべて短く、されど力強く言葉を発するヒュージ。これに心做しか、ダズトが唇を噛んだかに見えた。
「ふふふ……察したか?僅かに声が揺らいでおるぞ」
常識の範疇を余りにも超えた魔力とエネルギーを前にして、ブラッチーは疎かダズトとリィナも、これから起こり得る事態を予想して押し黙る。
「確かに我が輩自身は、双覇龍には遠く及ばぬ。しかし神の力を以てすれば、幾千億もの星霜を操作する事も可能だ……我が身を触媒にし、今この時この場所で、その双覇龍を蘇らせてくれよう。さあ……闇の者めが、時空間魔法の真髄を見るがいい!」
……キイィィン……
ヒュージの姿に、巨大な双頭の龍の影が重なった!圧倒的な巨大なエネルギーは時空を歪め!遂に!創世以来最強を誇った生物が!現代に復活する!
……ゴゴゴゴゴ!
深く暗い紺色をした体躯から、長い首が二つ伸び!刺々しい角が幾つも連なっていた!口蓋からは鋭利な牙が無数に顔を覗かせ!それぞれの頭には、小さなオレンジ色の光を放つ眼が二つ輝く!
巨体からは、更に巨大な翼が背中に生え!首以上に長く太い尾が、まるで三本目の首の様に持ち上げられていた!それらを支える四肢は相応しい逞しさと!龍の例に漏れず獰猛な爪が!死神の鎌を連想させつつ並び揃う!
伝説に違わぬ双覇龍の全貌!その威容を目の当たりにしたブラッチーが!蛇に睨まれた蛙の如く!恐怖と絶望に戦き立ち竦んだ!
「あ、ああ……ああ……!」
怯えるブラッチーなど気にも留めず!龍はゆっくりと双首を擡げ、後ろ脚で立ち上がり大口を開け咆哮する!同時に広げられた翼と相まって!激しい風圧が一行に叩き付けられた!これぞ伝説的迫力!
「ふん……」
「あらあら」
舞い散る粉塵と震える空気に目を細めるダズト!リィナも帽子を目深に被り、風圧の衝撃波をやり過ごす!
「もう駄目だ……欲に目が眩み、こんな奴らの無鉄砲な企てに乗っかったのが間違いだった……」
わなわなと身体を震わせ、後悔の念を口にするブラッチー!サングラス越しでも、瞳を潤わせているのが分かるくらいに涙声であった!頼みの綱である離脱用の転移魔法も封じられ、絶体絶命の窮地で自暴自棄に陥る!出世の大チャンスと思っていた筈が痛恨の極み!
そして追い詰められた責任を、まるで部下達に転嫁する様な言い草!その情け無い恨み節を耳に入れたリィナが、呆れ顔でブラッチーを一瞥しダズトに寄り添った!
「まあ、随分な言われ様ねぇ……ねえダズト?」
「好きに言わせておけ。こんな野郎そのまま死んでくれた方が、足手まといが無くなり幸いってもんだ」
かなり辛辣な台詞でブラッチーを捨て置き、ダズトは伝説に挑むべく剣と盾を構える!肩を並べたリィナもダズトに倣って、両手に魔力を集中し始めた!
「……それはそうとして、実際ダズトは勝算があるの?出来れば理由もお聞かせ願いたいわね」
妙に澄ました顔でリィナが訊ねると、ダズトは面倒臭さそうに眉を顰めながら口を開いた!
「簡単な話だ。今日日このトカゲが存在しねぇのは、何時か何処かで斃った……って事だろうがよ。なら殺せるじゃねぇか」
「わお♪流石ダズト!頭良っ☆」
二人は双覇龍を目前としても、一向に気後れする気配は無い!ダズトは不遜に、リィナは笑顔で!余裕すら感じさせる態度で最強たる存在に臨む!今にも膝から崩れ落ちそうなブラッチーとは全く対照的だ!
「作戦はどうするの?」
「オレが直接突っ込む、テメェは死ぬ気で援護しろ」
「いつもと同じって訳ね♪了解よ☆」
案の定ぶっきらぼうに言い放つダズトに、リィナは「ふふっ」と微笑み掛ける!
途端にダズトは全身に力が漲るのを感じた!リィナが強化魔法で身体能力を大幅に向上させたのだ!
「ぶった斬って、トカゲの丸焼きにしてやるぜ」
「これくらい倒せないと、世界征服なんて言ってられないものね。それじゃあ無敵のコンビ……その実力、御覧あれ~」
猛り立つ想いを抑えニヤリと歯を見せるダズトに、リィナは爽やかにウインクして応える!
決して二人が双覇龍の力を過小評価している訳では無い!肌で感じる力、目に見える範囲での彼我戦力差が、一目瞭然なのは勿論承知している!この上!歴史上最強だと紹介されたにも拘わらず!何故二人はこうも平静で居られるのであろうか!?上司のブラッチーなど、まるで産まれたての小鹿の如く!全身をガクブルさせているというのに!
これは恐らく、ロキの存在が大きい!先だって海底での戦いでも、ロキは見事に海竜を単独で撃破して見せた!組織の先輩としては、ここは一つ負けられない気持ちもあるであろう!だがそれ以上に!イレギュラーたる存在であるロキを身近に感じた事が!ダズトとリィナにある種の勇気を与えていたのだ!
この勇気は果たして希望か!はたまた無謀な蛮勇なのか!二人の真価が今、問われる!
ダズトは一度深く身体を沈めると、周囲に地獄の炎を召喚した!赤黒い火焔が渦巻くと同時に!足元では岩石を召喚!得意の岩石カタパルトに乗ると!狙いを双覇龍に合わせる!
「ダズト、あなたなら殺れるわ☆しっかりね♪」
「は!誰に物言ってやがる。何時も言ってんだろ、オレに命令すんなって」
リィナの激励など何処吹く風、適当にあしらうダズトであるが!その眼には力強い意志と闘志が宿っていた!
次の瞬間!灼熱の刺突が超高速で放たれる!ミサイルめいて炎を後に引く程、凄まじい勢いで肉迫した剣が!双覇龍の胴体中央に吸い込まれた!
ガギン!
その殺気を感じ取ったか!双覇龍が長い尾を前方に廻し、ダズトの刺突を打ち払う!双覇龍の尻尾は只でさえ硬い鱗が更に硬質化しており、加えて一つ一つの鱗が長く逆立っていた!それはさながら鋭利な刀剣が、何百本も束になっている様な代物である!
しかし双覇龍の真に驚くべきはその反応速度!身体能力を大幅に強化されたダズトの乾坤一擲の一撃を!いとも簡単に弾き返すとは!並大抵の動体視力ではない!
「チッ……!」
切っ先を払われつつも突進力を保ち、脇をすり抜けたダズトが舌打つ!そして直ぐに龍の尾が翻りダズトを強襲!ダズトはこれを難無く回避!
リィナの魔法で向上しているのは身体能力だけに留まらず!五感を始め!あらゆる感覚も強化されている事で成し得る動きだ!但し常人ならば!これ程肉体が強化されてしまうと、思考が追従出来ず逆に弱体化してしまうであろう!例えるなら何の訓練も受けていない者が、いきなり暴れ牛や大型バイクに乗るみたいな物か!
双覇龍は巨大な体躯からは想像も出来ぬ俊敏さで向き直ると!前脚で覆い被さりながら、鋭利な爪で攻撃してきた!ダズトは敢えて前進し、龍の足下を駆け抜けるも!そこを再び龍の尻尾が襲い掛かった!これをリィナの魔力支援を受けて強化された盾を使い、バリアで衝撃を吸収・分散させ上手く退ける!
「……!あれは」
ここでダズトはある事に気付いた!初撃の刺突を打ち払われた際に付いたであろう傷が!容易には消えぬ地獄の炎と共に、僅かではあるが硬い鱗に刻まれている!それを見てダズトは表情を変えぬまま鼻を鳴らした!
「ふん……」
今持てる渾身の突撃で与えたダメージはこれだけか、と取るのか!若しくは比類無い存在にも攻撃が通じる、と感じるかはダズト次第だが!この結果は事実として受け入れなければならない!
(……もしロキと闘争り合ったなら、こんな感じなのかもな)
何とは無しに浮かんで来た妙な気持ちが、ダズトの心に波を立たせる!この一瞬の隙!
双覇龍が翼を羽ばたかせ、飛び上がると反転して着地した!ほんの数メートル上昇しただけだというのに!強烈な下降気流が、直下のダズトに吹き付ける!不意の出来事に思わず、ダズトは盾で顔を覆った!
「クソが!」
風圧でやや構えを崩してしまったダズト!ここで双覇龍の口から吐息が吐き出された!見た事も無い規模の雷と炎が混じり合い!プラズマとなってダズトに放たれる!
「舐めるな!」
叫ぶダズトが即座に体勢を立て直すと、驚異的な身体能力で横に跳び回避に成功……したかに見えた!だが、そう!覇たる龍の首が二つで〝双覇龍〟である!
もう一つの首が僅かな時間差を付けて吐息を放つ、ディレイアタックを仕掛け!着地直後の隙を曝すダズトに、容赦無くプラズマ熱線が浴びせられた!
「……ッツ!」
咄嗟に盾を突き出すダズト!幸いにも!盾はリィナの魔力によって、強力なバリアを張る事が可能だった!凄まじいプラズマの奔流が!バリアで弾き・打ち消され流れを変える!吐息によって瞬く間に、ダズトの周囲の地面が抉れ散った!
「はん……どんな吐息を吐くかと思いきや、火と雷光をごっちゃにしただけの代物か。何の面白味も無ぇな」
正面から双覇龍のプラズマ吐息を受け切ったダズト!辺りが灰燼に帰する中、バリアのお陰でほぼ無傷である!ついつい余裕の感想を述べるが、これは避けられなかった事への強がりかも知れない!
「ちょっと!幾ら私の魔力でも、そんな直撃ばかり受けてたら保たないわよ!ちゃんと避けなさいな!」
「チッ……うるせぇな、言われるまでもねぇよ」
少し離れた場所からリィナの激が飛ぶ!其の実!今の攻撃を防ぐ為にリィナの魔力、その凡そ五分の一が消失していたのだ!膨大な魔力量を誇るリィナではあるが、流石に双覇龍の吐息を封殺するのはしんどいらしい!ダズトもそれを分かっているので、少しバツの悪そうに眉間に皺を寄せた!
「さて、どう料理してやるか……」
結局の所、ダズトは最高最大の一撃を繰り出しても!高硬度を誇る双覇龍の鱗には、矮小な傷を付けるのが精一杯であった!これを踏まえ如何様に戦うのか、考えを巡らすダズトであるが!当然、敵はそんな暇を与えてはくれない!
双覇龍は素早い動きでダズトに迫ると!再び前脚の爪と尾を用いて攻撃を開始!当たり前の話しだが、まともに相手してはとても身が持たない為!ダズトは基本、回避に専念する!幸運にも唯一、単純な速度だけはダズトが上回っていた!
五月雨の如く襲い来る鋭い爪と尖った尾!この未曾有の嵐を!あらゆる能力を向上させたダズトは、全てを見切り躱し続ける!しかし!この間に双覇龍は吐息のチャージを完了させた!二つの口から放つのは、プラズマ熱線に因る吐息のディレイアタック!この脅威を何とかしなければ、ダズトに勝ち筋は見えない!
「……ふん、所詮はトカゲだな。馬鹿の一つ覚えに、同じ事を繰り返しやがる」
それでも尚!ダズトは冷静であった!
一発目の吐息は、先程と同じ様に横に跳躍して回避!そして今度は跳躍中に、異能で岩石を隆起させた!透かさず、これに跳び乗るダズト!時間差を付けた二発目の吐息が、本来の着地地点に照射される中!飛翔したダズトは、一発目を放った龍の頭に急速接近する!その狙いは龍の眼球!
「喰らいな!」
炎を纏ったダズトの刺突が!龍の片目を穿った!龍の全身を覆う堅牢な鱗には、傷一つ付けるのにも骨が折れるが!唯一外気に触れている臓器、眼球だけは別!他の生物と同様に、普遍的な急所でもあったのだ!
怒りと驚きの咆哮を上げ、仰け反る双覇龍!ついでにダズトは龍の額に蹴りを入れ、反動利用して剣を引き抜き離れる!所謂、一撃離脱戦法!見事に着地したダズトが、したり顔で双覇龍を見上げた!
「は!これで最強だとは笑わせる……何ッ!?」
一転してダズトの顔が強張る!貫いた筈の眼球が、柔らかな魔力の光に包まれ、徐々に再生していってるではないか!
「魔物が治癒魔法を使えるの?前代未聞ね……」
リィナもこれには驚嘆の声を漏らした。
攻撃魔法や補助魔法ならいざ知らず、治癒魔法はかなり複雑な魔法体系で成り立っており、一部の特殊な例を除けばかなり珍しい事である。とある魔法学者などは「人類がここまで進化・発展したのは、治癒魔法が使えたからだ」などと発言している程であった。
「しかも『神の欠片』のお陰で魔力は無尽蔵……厄介よね」
「チッ……だが、どうやら炎は有効みてぇだな」
困り顔で頬に手を当てるリィナ!ダズトも渋い顔で双覇龍を睨んだが、ここである事象を認める!
治癒魔法は確かに傷を回復しつつあった!それでも剣と共に撃ち込んだ地獄の炎は、容易に消す事は出来ない!双覇龍自体が元より、治癒魔法が余り得意では無いのもあるであろうが!炎が再生を著しく阻害・遅延させていたのである!
しかし!この攻撃は双覇龍の怒りを買うのに十分であった!けたたましく雄叫びを叫ぶ双覇龍が、二つの頭と今は三つの眼でダズトを見据える!
「くくく、生意気にも怒りの感情なんてもんがあるらしい……爬虫類風情がよ、ご立派なもんだ」
双覇龍の心情を読み解いたダズトは、その怒気を一身に浴びながらも小さく嘲笑!この状況下でもダズトのふてぶてしい態度は健在!双覇龍の方も挑発されたのを感じ取ったか!当に逆鱗に触れたかの如く、激怒の咆哮を放つ!
例え違う生物同士!言葉が無くとも心を通わせる事は可能であった!そんな感動的な場面とは程遠く!双覇龍は怒濤の勢いで、又してもダズトに襲い掛かって行く!
「いい感じに怒り狂ってやがるな……おら、来いよ。ぶっ殺してやるぜ」
(うん?何か態と怒らせて、隙を誘ってる様に聞こえるけど……偶然そうなっただけよね?)
やたら強気で双覇龍に臨むダズトに、リィナは何処か引っ掛かる様子であったが!まあ、そこは結果オーライ!
そうこうしている内に、双覇龍の猛烈な攻撃が開始される!先程より更に苛烈に!爪!牙!尾!そして吐息を用い!ありとあらゆる手段でダズトを脅かした!
「トロくせぇ攻撃だぜ」
それでもダズトは落ち着き払い、各種フェイントや牽制を織り交ぜ!異能を駆使して回避し続ける!ダズト勘の良さや判断力も大したものだが!もし、リィナの魔法で各種強化がなされていなければ!一瞬でミンチと化してしまうであろう!そうで無くとも、僅かなミスがあれば!如何に強化されていようも、忽ち命を落とすのは確実!
「見ていて危なっかしいったら無いわね。ちょっと私も攻撃に参加してみようかしら」
綱渡りめいたダズトの攻防に、やきもきするリィナ!己も直接戦闘に介入するべく、残して於いた魔力で中型の火球を多数生成!持ち上げた左手を双覇龍に向けると、機関砲の如く連続で撃ち出した!
ドドドドドド!
高速で飛翔した火球はばっちり命中!そして爆発!しかし双覇龍は、片方の頭がチラリとリィナを一顧だにしただけ!全く動じる事無く、怒りの矛先は未だダズトだ!
「あらあら、やっぱり龍の鱗は硬いのね。全然魔法が通じないわ……どうしようかしら」
火球ではダメージを与えるどころか、双覇龍の気すら散らす事も出来ず!リィナはアンニュイに、立てた人差し指を唇に付ける!仕方無く!次は巨大な雷の束を作って、照準を双覇龍に合わせた!
「威力が強過ぎてこっちに来ちゃっても困るから……匙加減が難しいわね」
放たれた雷撃が双覇龍にぶち当たると!殆どが体表で霧散し、美しい光となって四方に放電!相変わらずダメージは無い様だが、双覇龍は煩わしそうにリィナへと首を回そうとする!
「は!いい嫌がらせだ!」
無論!それを見逃すダズトではない!直ちに攻勢に転ずると!再び龍の眼に狙いを定める!その強烈な殺気を感じ取り!双覇龍がやはりダズトに注意を向け直した!結果としてダズトの攻撃は双覇龍に阻まれ失敗!
「んもう、ブラッチー!あなたも少しは手伝ったらどう?」
必死にダズトを援護する傍らでリィナは、横で呆けた顔をしつつ戦闘を眺めるブラッチーを諫めた。
このリィナの言葉に、やっと我に帰るブラッチー。所が泣き笑う様な絶妙な表情を浮かべると、今度は取り乱しながら騒ぎ立て始める。
「無駄だ無駄だ!戦力差が有り過ぎる!お前達も解っているんだろう!?ダズトもさっきからギリギリ避けているだけで、攻撃は殆ど通じていないじゃないか!リィナ、お前の魔力もジリ貧の筈!蟷螂の斧!完全に無駄な抵抗だよ!もういっそ楽に殺してくれえ!」
言いたい事だけ言っておいて、ブラッチーは仰向けに倒れ込んだ。迷惑千万極まり無し。この余りにも無様な醜態に、リィナは蔑む視線と共に「はぁ……」と大きな溜め息を吐く。
「……本当にそうかしら?よく考えて御覧なさい。ダズトはまだ自分の『神の欠片』の力を使っていないのよ?」
この台詞にブラッチーは顔だけを起こすと、訝し気に双覇龍と鎬を削るダズトを見た。
「それだけじゃないわ、あの龍……双覇龍って言ったかしら?確かに強いけど、歴史上最強とは言い過ぎな気がするのよね~。だってロキ君なら独りで何とかしちゃいそうだもの」
ロキ独りで云々は誇張ではあったものの、このリィナの言葉はブラッチーの関心を引くのに成功する。
「じゃあ何か?あいつは偽物って事か?」
「というか〝正真正銘〟の本物では無いんじゃないかしら?幾ら『神の欠片』の力を借りても、何千億年も前の時空を簡単に操れるとは思え無いもの……ヒュージ自身も、こんな魔法を使うのは初めてでしょうしね。それに召喚する場所も問題よね、広くても此処は地下だし……多分色々と制約が大きいのではなくて?」
「むう、言われてみれば……」
サングラスの奥でブラッチーの目が怪しく光った。彼は臆病ではあるが決して無能では無い、ある意味その優柔不断さは慎重の裏返しともいえる。
「想像だけど……姿も実力も本来の三分の一くらい出てたら、この状況としては良いとこよ」
(……確かにこの戦力差の中で、ダズトは善戦していると言っていいかも知れん。双覇龍が万全では無いと仮定すれば、ダズトと『神の欠片』の融合率次第では、戦況をひっくり返す可能性もある……か?)
ぶつぶつと独り言を喋り始めたブラッチーに、リィナは最後の一押しをするべく言葉を紡いだ。
「もし、あの龍を……引いてはヒュージ・ゲンダイを倒す事が出来たら。間違い無く組織の中でも頭一つ抜けるわね、出世に昇進……約束された様なものよ」
リィナの柔らかく艶やかな唇から囁かれる甘い響きは、黄金色をした蜜の如くブラッチーを虜にする。
テンガロンハットを目深に押さえ!くぐもった笑い声が、ブラッチーの口から漏れ出た!
「ふっくくく……古来より、男は敷居を跨げば七人の敵があると言うが……何よりもスマートなオレ様が!ここで部下を見捨てるなど、あろう筈が無いぜ!全員このブラッチー様に続けぇ!」
リィナの甘美な一言は、ブラッチーに劇的な効果を齎した!飛び起きたブラッチーがリィナを押し除け!腕を振り上げながら、双覇龍と戦うダズトにも聞こえる様に叫ぶ!しかし!リィナの言葉は猛毒を含んだカンフル剤でもあったのだが、それをブラッチーが気付いている素振りは無い!
ダズトの方でも何事が起きたのかと、一瞬怪訝な顔してこちらを見るも!直ぐにげんなりとして目を逸らした!
「オレ様の魔法をリィナの魔力に乗せてダズトに送る!やれるな?リィナ!」
「え?ええ……まぁ……」
馴れ馴れしくリィナの肩に手を置くブラッチー!何か鬱陶しく感じ始めたリィナが、歯切れ悪く返事をするも!取り敢えず作戦案は了承する!
「よし!ダズトぉ!今のお前は、オレのエレガントな魔法!縮地魔法が使える筈だぜ!存分に力を振るうがいい!」
ブラッチーの声が届いたダズトの眉間に、心ともなく溝が刻まれた!気乗りはしなかったが不承不承、ダズトは魔法を発動させる!
ブトゥウウゥゥム!
ダズトの姿が双覇龍の前から忽然と消える!刹那!ダズトが突如と双覇龍の目と鼻の先に出現した!予想だにしていなかった出来事に驚く両者!
「なっ!?しぃっ!」
息を呑みながらも咄嗟に刺突を繰り出すダズト!双覇龍も反射的に頭を下げ!もう一方の頭が反撃!体勢が悪く避け切れないと判断したダズトは、再度ショートワープを発動!双覇龍足元の地面に転移、着地した!
「……なる程、こいつは使えそうな魔法だな」
類い希な戦闘センスの塊!早くもダズトは、授けられた魔法の有用性に気付く!ショートワープは視界内の近距離(十数メートルくらい)を瞬間移動する魔法!こと接近戦に於いては、強力無比な武器となるであろう!
ダズトの行方を探していた双覇龍が、気配を察知してダズトを見つける!戦略を考え見上げていたダズトと視線が交錯すると!そのまま熾烈な攻防の続きが始まった!
「ふん、鈍臭いトカゲが……掻き回してやるよ!」
リィナの魔法で強化されたダズトに、ブラッチーの魔法も追加!三人の力が合わさった事で、機動力だけは完全に双覇龍を上回る!
魔法で増大した身体能力と異能による眼幕、更に瞬間移動を以てダズトは双覇龍を激しく翻弄!縦横無尽!変幻自在!八面六臂の大活躍!伝説的存在を相手に、ダズトは互角以上の立ち回りを演じた!
「うんうん!いいぞぉダズト!その調子だ!」
健闘するダズトを称え、ブラッチーが拳を握り小さくガッツポーズ!但し回避の方は万全でも、肝心なダメージソースは依然として有してはいない!
今でこそ優勢に見える戦況ではあるが、言い換えればダズト達の戦闘能力はここがピーク!リィナとブラッチーの魔力も、ダズトの生命力にも当たり前だが限りがあるのだ!早急にダメージを与える手段を講じなければ、後は階段を転げ落ちる様に衰退していくのみ!
「……それで、ダズトは何時『神の欠片』の力を使うんだ?」
有利な状況下に笑みを浮かべつつ、ブラッチーは反撃の糸口となるであろう「神の欠片」の使処をリィナに尋ねた。
「さあ?そんなの『神の欠片』の気分次第でしょ」
「おいおいおい、何を悠長に場当たり的な事を言っているんだ!今が千載一遇のチャンスなんだぞ!何時やるんだ!今だろ!」
あんましブラッチーに関わりたくないのか、殊更に素っ気なく答えるリィナ。この態度を呑気していると違え捉えたブラッチーが、遺憾の意を露わにしてリィナを叱り付ける。
一瞬ムッとしかけるリィナだったが、やはり相手にするのを面倒臭く思い、取り敢えず極力ブラッチーを刺激しない程度に、適当に言葉を選んで申し開いた。
「そんな事言ったって……ダズト自身『神の欠片』から力を引き出す方法なんて、知らないと思うけど……」
「なっ!?じゃあ、どうするんだ!」
「まぁ、大丈夫じゃない?その内に発動するでしょ」
「かっ!何を根拠にそんな!」
結局、何食わぬ顔であっけらかんと答えるリィナである。確かにこれでは呑気していると思われても仕方ないか。
焦りでフラストレーションが鰻登りのブラッチーであるが、続くリィナの台詞により一層驚愕する事になる。
「まあ勘よ♪女の勘☆ダズトに恋してるのよ……あの欠片。最初は違ったのかも分からないけど、今となってはすっかりダズトにゾッコンね」
「はあ!?恋だと!?欠片が!?ダズトに!?どうしてそんな事が言える!?」
開いた口が塞がらないブラッチーが、何時もより大きめのリアクションを交えつつ、やけに澄ました様子のリィナを見つめた。
「だって私は恋敵ですもの、解るのよ……だからあの欠片が、ダズトをみすみす見殺しにする筈はないのよね。必ずその力を発揮して、ダズトを護ろうとするわ」
「何!?何だと!?何を言っているんだお前は!全く意味が分からん!イカれてやがるぜ!」
リィナの突拍子も無い見解に、ブラッチーは自身の頭を抱え激しく振るしかない。完全に理解不能となったブラッチーは、これ以上の受け答えがとてもでは無いが耐えられそうも無かった。
そんな遣り取りをしている間にも、時間が経つにつれて!ダズトを支援しているリィナとブラッチーの魔力は、どんどんと目減りしていった!勿論ダズトもそれを感じ取っており、消耗をなるべく抑えようとするも!双覇龍を相手に出し惜しみしていては、あっと言う間に窮地に陥いってしまう!
逆に双覇龍は、徐々にダズトの速度に慣れつつあった!少しずつではあるが!ダズトの動きが制限されていくのが傍目にも分かる!ショートワープがある為、完全に補足されてはいないが!このままではいずれ、完璧に対応されてしまうであろう!
「チッ!」
流石のダズトにも焦りの色が見えるか!時折、鋭い一撃を試みたりするも!全て硬い鱗の前に弾かれてしまっていた!辛うじて機動力の優勢は保てているが、未だに双覇龍攻略の道筋は見えない!
「オラァ!」
双覇龍の攻撃を何とか回避しながら、ダズトは幾度目かの刺突を放つ!狙いは先程傷付けた治療中の眼!しかし!この動きは双覇龍に読まれていた!
「……!がはっ!」
数回のフェイント挟んでから、ショートワープで龍の眼前に転移したダズトであったが!転移先を予測していた双覇龍の尻尾に打ち据えられ!地面に叩き付けられてしまう!
コオオォォオ……!ゴヴァアアアァァ!!
受け身こそ取ったものの、遂に動きを止めてしまったダズトに!双覇龍の無慈悲なプラズマ熱線が襲い掛かった!それも二つの頭から同時に!
「ちいぃっ……!」
ダズトは咄嗟に盾を構えバリアを張る!それこそ吐息は防ぐ事が出来たが!これによりリィナから支援された魔力を、一気に湯水の如く消費してしまった!
「ダズト!もう魔力が残り少ないわよ!」
「皆まで言うんじゃねぇ、分かってる……!」
悲鳴に近いリィナの劈く声が、ダズトの耳に届く!もしリィナの魔力が枯渇してしまったら、バリアを張るのは疎か!魔法で強化された身体能力まで失ってしまうのだ!最早、一刻の猶予も無い!どうにかして龍にダメージを与える手段を構築しなければ、このままでは敗北は必至!
「あああああ~!やっぱダメだあぁ~!無理だったんだ~!オレ達に明日は無いんだ!あああああ!」
続けてブラッチーの悲痛な叫びも聞こえてきたが、ダズトは勿論これを無視!残量が僅かとなったリィナの魔力を、どうやって使用するのか!ダズトは急ぎ知恵を絞る!
「ふん、オレとした事が。さっきから避けたり守ったり……らしくもねぇか」
やや自嘲気味にダズトが嗤った!果たして出した答えは如何になる物か!?
「……なら、やる事は一つだ。テメェの自慢の鱗、今度こそぶち抜いてやるぜ!」
そう叫ぶや否や!ダズトは残った魔力の殆どを使って、更なる自身の強化を図る!だがこれは諸刃の剣!既に限界までダズトの肉体は強化されているのだ!確かに一時的に身体能力は、より一層向上するだろうが!その後に起こり得る、負の反動は計り知れない!非常に危険な行為なのだ!
「それ以上はおよしなさい!完全にキャパオーバーだわ!」
リィナの警告をも顧みず!ダズトは己に強化魔法を重ね掛け、命と引き換えに刹那の超パワーを獲得!このブーストした生命力を以て!ダズトは異能で地獄の門を、普段より大きく開いた!急速に辺りに地獄の瘴気が立ち込め、どす黒い炎が燃え上がりダズトを包む!
只ならぬ気配を察知した双覇龍も!激しく警戒し間合いを取ると、吐息をチャージし迎撃の態勢に入った!
「ケホッ……ダズト!あなたまさか……!」
瘴気に咽ぶリィナは見た!
天井まで伸びる黒炎の塊から、雷が跳ねて双覇龍へと向かう!それは紫電そのものと相成ったダズトであった!しかし!苦しくもこれに反応した双覇龍の口から、プラズマの吐息が放たれる!時を同じく!ダズトがショートワープを発動!次の瞬間!雷光が龍の左肩を貫き、その腕ごと吹き飛ばすと!翼の硬膜も貫通し、背後へと突き抜けた!切断面には地獄の黒炎がまとわり付き、尚もじわじわと危害を与える!
「お、おお……おおおお!やった!ダズトがやったぜ!」
初めてまともに入った大きなダメージに、ブラッチーが狂喜乱舞して拳を上げた!
「まだよ!ダズト後ろ!」
リィナの叫び声にダズトは振り向くも、既にその肉体は活動限界を迎えていた!重ね掛けした強化魔法の反動である!眼光こそ鋭いものの、とても動ける状態では無く!ただ双覇龍を睨み付ける事しか出来ない!
ここで双覇龍の吐息によるディレイアタック!チャージしたまま待機していた、もう一方の口から!ダズトに向けてプラズマ熱線が吐き出された!最早バリアを張る余力は残されてはいない!この攻撃にダズトは全くの無力!
ドドドドドドド!
「……終わった。ダズトは消し飛んだ……オレ達も直にそうなるだろうぜ……」
双覇龍の絶望的な吐息の威力に、力無くブラッチーが膝から崩れ落ちた!立ち昇る爆煙と砂埃!直撃を受けたダズトは周辺の地面諸共、蒸発してしまったのであろうか!?
リィナも不安めいた嶮しい顔付きで、ダズトの安否を憂いていたが!やがて煙りと砂埃が晴れるに従って、その顔からも曇りが消え去っていく!
「はぁ、心臓に悪いわね~全く……ハラハラさせてくれるじゃない。でもこれでやっと役者が揃ったわね☆さあ、反撃開始よ♪」
其処には!強固なバリアで護られ、傷一つ受けていないダズトが身構えていた!その無愛想な面持ちからは矢張り〝訳の分からない物に助けられるなど面白く無い〟と考えている事が容易に想像できる!
「チッ、いけ好かねぇな」
又しても再三に渡って「神の欠片」に窮状を救われたのにも拘わらず!この期に及んでも、ダズトは不満を述べる始末!だが文句を付けた割に、己の身体には凄まじい力の滾りを感じていた!
「凄い……私まで澄んだ魔力に満ちていくわ。幾らダズトに魔力をリンクさせていたからといって、こんな芸当が可能なのかしら……?」
使い果たしたリィナの魔力も「神の欠片」から溢れる魔力が逆流し、瞬く間に回復・チャージされて平常に戻っていく!何というエネルギーの出力!
過剰ともいえるエネルギーを纏うダズトは、少しの戸惑いを見せるが!早々に吹っ切れると、目の前で立ち開かる双覇龍を睥睨した!
「……ふん、まあいい。毒を喰らわば何とやら、とことん利用してやるぜ。手始めに、あのトカゲを丸焼きにするのを手伝え」
ダズトは語り掛ける様に独白すると!「神の欠片」のある己の懐に手を当てる!
もうダズトに強化魔法の反作用など存在せず!むしろ「神の欠片」から溢れ出るエネルギーを受けて、バイタリティは嘗て無い程に満ち足りていた!この生命力を以て、ダズトは異能を解放!地獄の劫火を発現させる!
この光景はリィナの想像を遙かに越え、つぶらな瞳を大いに丸くさせた!
「……!?わ~お……あれが『神の欠片』の力を宿した炎?いえ……もしかしたらダズトの炎、その本来の色なのかしら?」
それは初めて見る色の炎であった!そもそもダズトが召喚する炎は赤黒く、非常に禍々しい物である!事実先刻!肉体を強化して呼び出した際は、ほぼ真っ黒な黒炎であった!所が!現在ダズトの周りから噴き上がっている猛火の色は、まさかの神聖性さえ感じられる青白い蒼炎!
余りにも変貌を遂げたダズトの炎!だが、双覇龍は一切の身動ぎもせず!又しても二つの頭が大きく息を吸い込み、吐息を吐く準備動作に入る!これに対しダズトは!剣を握った腕を伸ばし、切っ先を龍に向けた!蒼炎がダズトを取り囲み、生き物の様に蠢く!いや!蒼い炎は文字通り、とある生き物の姿を形造っていった!
「あれは何だ!?と、鳥!?」
「火の鳥というと……不死鳥かしら?ううん、違うわね。あれは青藍の猛禽、地獄の凶鳥だわ……」
ブラッチーとリィナが息を呑み!蒼炎の凶鳥が翼を広げ、最強の双覇龍と対峙する!ダズトの新たな力は、果たして通用するのであろうか!?
ズズッ……ドッバアアアァァッツ!!
剣先だけを向けて微動だにしないダズトに!双覇龍のプラズマ熱線が、左右の頭から同時に吐き出される!そして間髪を入れず!ダズトの纏った蒼炎の凶鳥が羽ばたき、双覇龍に突進していった!
凶鳥はプラズマを消し飛ばしつつ前進!全ての吐息を受け切ると、双覇龍を炎で包み込もうと両翼が開く!しかし!ここで凶鳥も相殺して消滅!驚くべき事に!ダズトの蒼炎は双覇龍の吐息と比べても、遜色のない威力を示したのだ!
「はっはー!凄いぜぇ!双覇龍の吐息と互角とは!なんと素晴らしい力だ!勝ったぜ!これは!」
「言って、そう油断出来る相手ではなくてよ?何せヒュージは三つの欠片を使って、あの龍を呼び寄せたんだから……」
ブラッチーが小躍りして喜びの声をあげる!しかし一体、何度目の転身であろうか!そんな中でもリィナは極めて冷静である!そう、ヒュージは三つの「神の欠片」を所持していた!それに対してダズトが持っているのは一つだけ、単純なエネルギー量なら三倍の開きがあるのではないか!?
(もし違いがあるとするならば……ダズトは元から欠片に魅入られていた、ということね。使用者と欠片のシンクロ率なら、ダズトの方に分があるわ)
鋭いリィナの考察!これで戦況は凡そ五分にまで待ち込めたが、未だ楽観視は出来ない!ここからが踏ん張り所だと認識を新たにする!
ダズトもそれを理解しているのであろう!決して気を抜く事無く!燃え盛る蒼炎同様の敵愾心を、睨み合う双覇龍に向けているのであった!
只の一撃であった。只の一撃で勝敗は決し、勝者は見下ろし敗者は見上げる。
片膝を付き、獅子の歯噛みを行うのは……そう、サリバンであった。
「ぐうぅ……ロ、ロキぃぃ!」
槍で穿たれた肩には大きな穴が空き、大量の出血が見られる。肺か喉にも傷が及んでいるのであろう、口からも幾ばくか血を流していた。
そんなサリバンを上から凝視するロキも、当たり前だが無傷では無い。サリバンとは反対側の肩は、やはり大きな穴が穿たれ流血していた。しかしサリバンの傷とは違い貫通はしておらず、数段浅いのは明白である。但しサリバンの傷も、致命傷という訳ではなかった。
ロキはあくまでも無言で、サリバンに止めを刺すべく、ゆっくりと歩を進める。その顔は一見しただけでは、感情を読み取る事が出来ない。怒っているのか、悲しんでいるのか、笑っているのか、喜んでいるのか、若しくはその全てか。例えるとするなら、悟りを開いた菩薩像の如く。
重傷を負って肩で息をするサリバンであったが、淡々と迫り来るロキに怖気付き、我知らずの内にじりじりと後退し始める。
「く、来るな!来るなぁ!」
いよいよ恐怖に耐えきれなくなったサリバンが、あろう事かロキに背を向けて逃げ出した。この予想外な行動にロキは何か言おうと口を開きかけたが、即座にまた唇を固く結ぶ。
致命傷には至っていないとはいえ、本来ならまともに動く事すら儘ならない怪我である。サリバンは宝槍ジオバースを杖代わりに逃走を試みるも、そんなほうほうの体ではロキから逃げ切るのは到底不可能であった。
「ぅおのれぇええ!」
尚も迫るロキに向かってサリバンが氷雪魔法を放ち、ロキの足が氷に覆われて固定される。しかしロキが足下で闘気を弾けさせると、瞬時に氷は粉砕してしまった。
「ぬっぐうぅ……!」
それでもサリバンは逃走を止めようとしない、広間の奥へ奥へと必死に足を引き摺って行く。そしてとうとう追い詰められると、大きな柱の前で動きを止めた。
ロキはこれ以上、サリバンの見苦しい姿を見ていたくは無かった。自分の過去と感情を精算するのが最優先ではあったが、往時は己が右腕として活躍し……何より誇り高きアポロデア軍の副将だった男が、無様にも敵前逃亡する姿は、胸が掻き乱されるのを覚える。
「観念しろサリバン、もう逃げ場は無い……此方を向け、尚も晩節を汚すな」
だがロキの決意は揺るがない。せめて苦しまぬ様に屠ってやろうと、ロキはあらゆる感情渦巻く闘気を槍に充填させた。
その時ロキは、サリバンの肩が震えている事に気付く。(まさか泣いているのではあるまいな)とロキの槍を持つ手が僅かに固くなるも、直ぐにそれが誤りだと判った。
「ふ……ふは、ふははははは!」
突然振り返り高笑いを始めたサリバンを見て、ロキは死の恐怖で狂ったかと勘違いする。
「はは……流石だよロキ。認めよう、お前は間違い無くこの世界のイレギュラーだ。今の俺で敵う相手では無い!」
サリバンの叫びと共に、ロキの足下で魔法陣が輝いた!サリバンは逃げるふりをして、この場所までロキを誘い込んだのだ!解放された魔法がロキを直撃!
ロキはこの感覚に身に覚えがあった!それは先だってヒュージが使用した魔法である!
「むっ!空間固定魔法の罠魔法陣か!?こんな物で私を止められると思うな!いい加減、悪足掻きが過ぎるぞ!」
とはいえ神気の如きオーラを纏ったロキに、今や通用する物では無い!何より一度見た技である!今のロキに掛かれば、ほんの数秒で打破されてしまうであろう!
「ははは、どうやら間に合った」
疾うに闘気が尽き果て、重傷を負い、魔力も残り少ないサリバンにとって!これはたった数秒間だけ命が長らえたに過ぎない!それでもサリバンは不敵に笑い続けた!この上、その手には一つの大きな魔法珠が握られている!この魔法陣の場所に隠してあったのであろうか!?
他の魔法珠とは一線を画す大きさと透明度!ロキは以前ヤマダ君とスズキ君が教えてくれた、未知なる魔法珠の話しを思い出した!
「……!その魔法珠は!まさか次元転移用の!?」
「ほう意外だな、知っているのか?そう、元来これは『神の欠片』を集めている者……なんなら『神の欠片』その物をこの世界とは違う〝別の世界〟へと飛ばす為にヒュージが造った物であり……そして、それすら叶わぬ時は〝少数の選ばれし者が、この世界からの脱出を図る〟その為に用意された物だ」
〝この世界からの脱出〟と聞いてロキは俄に焦りを感じる!予想が正しければ、この機を逃そうものなら!サリバンを討つ機会を永久に失ってしまう可能性に気付いたのだ!
「ま、待て!サリバン!貴様は……!」
「魔力が皆無のお前には、辿り着く所か知覚すら出来ぬ世界だ。お前に使うべきかとも考えたが、この世界の先はそう長くはない気がするのでな……俺に使う事にしよう」
そう答えるや否や!サリバンは巨大な魔法珠を握り潰した!直ちに魔力の力場が発生し、サリバンが眩い光に包まれていく!
「俺は征くぞ、この敗北の先に理想を追い求めて……お前は終生この世界にしがみ付いて生きるがいい。俺を憎み怨み続けながらな……」
と、ここで!魔法陣を打ち破ったロキが!闘気を込めた全身全霊の一撃を繰り出す!だがロキの槍に手応えは感じられない!
「残念、半瞬遅かったな。もう転移は始まっている……俺の実体は既に此処には無い。行き掛けの駄賃にジオバースも貰っていくとしようか」
狼狽するロキは槍を翻し!オーラを漲らせた凄まじい攻撃を!幾度も!何度も!どこまでも!光の中で佇むサリバンに叩きつけた!当然、その全てが徒労に終わり!代わりに周囲の柱や壁そして広間全体が、いとも無惨に粉々に砕け散っていく!
「うおおおおお!サリバンーーーッ!!」
「もう会うことも無かろう、さらばだロキ……ははははは!」
闘いの勝者が悔恨の叫び声を上げる一方!敗者が高笑いを残して、時空の彼方に消えて行く!未だ嘗て!これ程不条理な結末があったであろうか!そう、この世は常に理不尽で満ちているのだ!
そして遂に、魔力の煌めきに覆われたサリバンの姿が消失!その瞬間!ロキの咆哮が地下空間に激しく木霊する!
「オオオオオオォォオオォォ……!!」
ロキは物心が付いてから、生まれて初めて哭いた!その慟哭は!とても人の放った音とは思えぬ程に、地下空間に響き渡ってゆくのであった!
……一体どれ程時間が経ったのであろう。一頻り悲憤慷慨したロキは今、釈然としないままサリバンが最後に立っていた地面を見つめている。
(何でもいい……方法は無いのか?奴を追う手立ては……!何か、何か有る筈だ!)
本来の落ち着きを取り戻したロキは、一心不乱に善後策を思考していた。
(……ヒュージなら、この魔法を造ったヒュージ・ゲンダイなら……サリバンの行き先が分かるかもしれぬ。だが恐らく現在はダズトさん達と交戦中……今から行って間に合うであろうか?そもそも敵である私に、ヒュージが教えてくれるかどうか……しかし、他に方法は……)
ロキは必死なって思索に耽る。最早どんな事をしても、何を犠牲にしようと、サリバンを討ち果たす為ならば……そう心に決めたのだ。例え復讐の鬼神と化そうとも。
(待て……確か『神の欠片』はこの世界とは別の所から現れた……と、ブラッチー殿は言っていた。ならば如何にヒュージの協力が得られずとも、最悪『神の欠片』の力を使えば……)
ロキの両目が大きく見開かれる。但しこれは一縷の希望……細い細い蜘蛛の糸である事は、当然承知していた。それでもロキは何か行動を起こさなければ、前に進み続けていなければ、己は死んだも同然だと感じているのであろう。
「こうしてはいられない……!」
外套を翻すと同時に踵を返したロキ。急いでこの広間を後にすると、足早にダズト達の元に向かって行くのであった。
蒼炎を帯びるダズトと貫かれた眼を漸く回復した双覇龍は、睨み合ったまま暫く動かなかった。互いに相手の出方を警戒していたのである。何時しか双覇龍はダズトを獲物ではなく、同等の力を持つ敵と認めた様でもあった。
(欠片が何時までオレに力を貸すのか、何の保証も確証も無い……だから早めにケリを付ける)
色々と考えていたダズトだが、とどのつまり「攻撃は最大の防御」という結論に達する!しかしこれは決して焦りからでは無い!既にダズトの頭の中には、勝利のビジョンが浮かんでいたのだ!
「こいつで終いだ!」
蒼炎を燃え盛らせて再度、凶鳥を呼び出すダズト!これを見た双覇龍も吐息を準備すると共に!翼を大きく広げて迎撃態勢に入る!そしてダズトは!先程は単体で放った凶鳥を、今度は自身に纏わせた!凶鳥が羽ばたくと、ダズトの身体も宙に飛び上がる!
「なんてこったダズトの奴!空を飛んでやがるぜ!」
額に手を当てて驚くブラッチーは、宙に浮かぶダズトを仰ぎ見た!
空中で一旦静止したダズトは盾を翳し、凶鳥をその身に纏わせたまま双覇龍に突進!この空から急襲する様は、さながら狩りを行う猛禽類を想わせる!双覇龍は二つの口からのダブル吐息でこれを迎撃!それでも構わずダズトは突撃した!
ズババババッー!
蒼炎とプラズマがぶつかり合って、激しい音と光を放つ!炎の主幹たるダズトが中心に在る事で!双覇龍の吐息を跳ね返しつつも、蒼炎の凶鳥は威力を保持したまま肉迫!だが激突寸前!凶鳥を残したままで、ダズトの姿だけが消え去る!これはショートワープを使ったか!凶鳥はそのまま双覇龍に抱き付き大爆発!炎焔と青白い炎が立ち昇った!
ゴオオオォォ!
凄まじい蒼炎に包まれた双覇龍!それでも龍の鱗は丈夫であり、見た目的にダメージはそれ程与えていない様にも見える!所が不可思議な事にも、明らかに双覇龍は苦しんでいた!
「おおっ!よく分からんが効いてる!効いてるぞぉ……おお!?ガハッゴホッ!ゲホゲホッ!ウゲェ!」
いきなり激しく咳き込み出したブラッチー!その横には「やっぱりね」と言いたそうな目付きをするリィナが、布で鼻と口を押さえていた!
(地獄の瘴気が濃すぎる……思った通り毒よね、これ。ダズトは毒が効かないから大丈夫でしょうけど、私達には距離を取っていても結構辛いわ。……まさかお肌にも悪いって事は無いでしょうね?)
そう!蒼炎には濃密な地獄の瘴気が、ふんだんに含まれていたのだ!しかもこれは只の毒ではない!死せる亡者が住まう地獄の瘴気は!恐るべき猛毒として、全ての生命を蝕み死に至らしめるであろう!それは双覇龍とて例外では無かった!そしてリィナの危惧した通り、多分お肌にも相当悪い!
グギャアアアァァ……!
咆哮と言うよりは絶叫!生半可な事では消せぬ、猛毒の蒼炎に焼き包まれた双覇龍がもがき苦しむ!しかし!肝心のダズトは、一体何処に行ってしまったのであろうか!?
「はん、良い声で鳴くじゃねぇか……!」
悶える双覇龍の背後上空!転移したダズトが剣を脇に構え、自由落下しながらその手に力を込めた!
「断末魔も、さぞ良い声を聞かせてくれよな!」
一閃!ダズトが剣を思いっ切り振り上げると!文字通り剣先から青白い閃光が迸る!それは蒼炎を凝縮して、瘴気と共に鋭い剣先から撃ち出した物!
まるでレーザービームめいた光が!あれだけ苦労させられた鱗を、嘘の様に裁断していく!光線の軌跡が消え去った時!双覇龍の二つの頭は、首の付け根から胴体まで!縦半分、綺麗に分割!単なる二匹の覇龍と化していたのだった!
「どうだ、トカゲの丸焼き……開きで一丁上がりだ。ざまぁ見やがれ」
だが龍の生命力は強靭である!躯を真っ二つにされても、尚も蒼炎の中で暴れ続けていた!生きてさえいれば、治癒魔法で回復される恐れもあるが!蒼炎の海に沈んでいては、それも上手くはいかない!そして胴体を両断されてしまった儘では!双覇龍と云えども、そう長くはないであろう!
所でこの技!何処かデジャヴを感じるのは気のせいであろうか!?
後にリィナはダズトにこう尋ねている。
「双覇龍を斬った技、あれヤマダ君のパクりじゃなくて?」
「あ?威力も射程も全てオレが上回っている。少し原理を真似したみたいで、気に入らねぇのは確かだが……オレのオリジナルだ」
(……それをパクってるって言うんじゃないかしら?)
ダズトの回答は甚だ腑に落ちない物であったが、この議論はきっといつまで経っても平行線だろうと思い、リィナはこれ以上の追求は止したのであった。
突然!蒼い炎に焼かれる双覇龍の巨体が発光!いや発光というよりは、躯が光に取って代わっていった!
「ちょっと……まだ何かあるの?」
リィナが心配そうに蒼炎に巻かれる双覇龍を見やるも、これはどうやら杞憂に終わる。
光に変わった龍の躯は崩れる様に地面に零れていき、やがて残った光が人の形となって蒼炎の中に横たわった。
「……ぐはっ……まさか、こんな事が?この男はもしや……!」
魔力が霧散し力場が解放される。その中でヒュージは、苦悶と驚愕の表情で平臥していた。
ここでダズトの「神の欠片」からも力が失われ、炎の色がいつものダズトと同じ赤黒い物へと変わる。勝利者である当のダズトは、既にヒュージに興味を無くしたか、一瞥しただけでそのまま剣を鞘に収めた。
「はっはー!勝負あったなヒュージよ!」
勝ち誇った顔で駆け寄ってきたブラッチーが、倒れ込んだヒュージに慎重に近づく。
「……闇の者よ……お主らの、勝ちだ……」
「そうかそうか!どれ、何か言い残す事があれば聞いてやるぞ!」
既に抗する力を失った事を認めたヒュージに、ブラッチーがやたら高圧的に話し掛けた。実際ヒュージの命の灯火は、もう幾許も無いであろう。
(……この時空の震えは……サリバンめ、矢張り愚かな選択をしおったな……予備を残しておいて正解であった……)
ヒュージは諦念めいて目を瞑り、この世界の行く末を憂いた。もう退場する身としては詮無い事であったが、無駄だとしても伝えておこうと口を開く。だがその口調は瀕死とは思えぬ程、とてもしっかりした物であった。
「……よいか『神の欠片』とは、この世界の業……この世界に住む全ての生命が、背負わねばならぬ宿命その物……」
ゆっくりと語り出すヒュージに耳をそばだて、ブラッチーは余裕な態度で「ふんふん」と頷いていたが、次の瞬間ヒュージは急に声を荒げる。
「そしてもし!もし!全ての欠片を集めてみよ!その時こそ世界は最期を迎えるであろうぞ!」
驚いてひっくり返るブラッチーを余所に、ヒュージは末期の叫びを上ると遂に力尽きた。
(……ヤマダ、それにスズキよ……後はお主らに託した……)
死の瞬間。それ迄どうにか原型を保っていたヒュージの肉体は、地獄の炎で瞬時に焼き尽くされ、焼け跡に三つの「神の欠片」が転がる。起き上がったブラッチーは炎が消えた後、しめしめと目敏くそれを回収した。
「熱っあちち……!はっはー!ヒュージめ驚かせやがって!しかし!とうとう全部の欠片を、我が組織が手に入れたぞ!」
まるで自分の出世の踏み台にするかの如く、ブラッチーは今し方ヒュージだった焼け痕の上で歓喜の声を上げる。
だが、そう!これで「神の欠片」十三個全てが、ダーク・ギルドの保有する事となった!この結末が、世界に及ぼす影響は計り知れない!言うまでも無く悪い意味で、世界は回天していく事になるであろう!既に賽は投げられたのだ!
「ダズト大丈夫?……なんて愚問よね♪惚れ直しちゃったわよ☆」
ダズトが剣を鞘に収めて直ぐ、笑顔のリィナがダズトの肩に掴まって来る。ダズトは迷惑そうに眉を寄せるも、その視線は懐から取り出した「神の欠片」に注がれていた。
「あ!また浮気して~……でもいいわ。その子のお陰で勝てたんだもの、今回は許してあげる♪正妻の余裕ってやつかしらね☆」
「……何言ってんだ、テメェは」
うんざりと溜め息を吐いたダズトが、欠片を懐に戻してリィナを振り払う。
「ああっ……!もう、つれないわね~」
追い払われたリィナが、軽い恨み言をダズトに浴びせた。そんなリィナを意に介さず、ダズトはある事を考え続ける。
(こいつはオレに何をさせたい……?何をやらせようとしてやがる?)
今回の戦いでダズトと「神の欠片」の融合率は飛躍的に向上した。これに拠ってダズトは不本意ながらも更に、この欠片の意思に少しだけ触れる事に成功したのである。其処に垣間見えたのは宇宙の真理か原子の理か……。
何れにしてもダズトの持つ「神の欠片」には、明確な目的があるのを感じずにはいられない。しかし、それは未だに濃い霧のヴェールに閉ざされているのであった。