因縁の果てに
《登場人物》
ダズト
闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。自己中心的な無頼漢。「神の欠片」に魅入られている。
リィナ
闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。決して善人ではないが、ノリの良い明るい女性。
ロキ
闇の秘密結社「ダーク・ギルド」の新人エージェント。常に紳士的で冷静な男。その槍捌きは神業である。
ロキは走った、かつて自身が闊歩した王城を。一国の武を統べる者として王家に忠誠を誓い、大軍を指揮し敵を打ち破り、数々の武勲と武功を打ち立て栄華を誇った場所を。一つ以前と違うのは、ロキは誉れ高い将軍では無く「神の欠片」を狙う一介のテロリストとして存在している事であろう。
ロキ自身はひたすらに王家を助けて民を思い遣り、より良い国にするべく日々努力を重ねてきた。アポロデアは元々資源や土壌には恵まれた国である。その上でロキの武威により周辺国との情勢は安定し、当時の有能な家臣団が王を補佐し善政を敷いた。結果、国は大いに繁栄し世界でも有数の大国と成ったのである。
そんな中でもロキは決して慢心する事無く、己を律し職務に邁進し生活も最低限の質素な物を好んでいた。だが全ての人々がその様に振る舞える筈も無い、特に王族は顕著であった。その華美で贅沢な暮らしは一部から反発を招き、不満の温床と化していたのである。しかしその様な暗部など全く気にならない程に、この国は栄光に満ちていた。王は放蕩ではあったが残忍ではなく、気前の良い人物であったのも理由の一つであろう。政治を家臣に任せっきりにする王を見限り離れる者も居たが、大多数は残り国を支え続けたのだ。
ロキは王から全幅の信頼を寄せられており、ロキもよくこれに応えた。政治に口を挟む事は無かったが、ある時に佞臣が王を唆し専横しようと企む事があり、又ある時は怪しげな魔道士が王を籠絡しようと近づく事もあった。その都度に心有る臣下と共にロキが王を説き、往々にして邪な輩を排してきたのだ。
そんなロキであるが、一般人の前に姿を現す事は殆ど無かったと言っていい。武名は世界中に轟き国民からの人気も高かったが、本人はあくまで臣下の一人として立ち振る舞っていた。軍部以外の人間とは、努めて接しないようにしてきたのである。
代わりにロキが推挙したのがサリバンであった。実力もロキに次ぐと噂され、まだ若く威風堂々としており更に弁舌も立つという、まさに軍部の顔としては打って付けの人材であった。
重用されたサリバンは期待に応え、いつしかロキの右腕たる副将にまで登り詰める。サリバンはロキを父か兄の様に慕い、その関係はいたく良好な物であった……あの時迄は。
勝手知ったる何とやら。ほぼ自分の家と言っても過言ではない王城内を、ロキがナタ老人と共に疾駆して行く。
「ナタ、付いて来れてますか?」
走りながら後ろを振り返り、ロキがカイ老人を気に掛ける。
「なんのこれしき!……と言いたいですが、ちょっと速すぎますな!老体には厳しいですわい!」
肩で息をするナタ老人が正直に答えると、ロキは微笑んで速度を落とした。
「申し訳ござらん!ロキ殿の足を引っ張るとは心苦しい限り!儂など捨て置いて先を急いで下されい!」
「構いませんよ……むしろナタを私怨の戦に巻き込んでしまって、申し訳無いのは私の方です」
ゼイゼイと息を詰まらせたナタ老人がロキに先行を促すも、ロキは首を横に振りカイ老人が付いて来られる速度まで落とす。
「その様な水くさい事を申されますな!あのロキ将軍が!この老体を頼って下さり嬉しい限りでしたぞ!」
「しかし此度の戦いは大義も何もありません、ナタの名誉に傷を付けてしまいました。……今となっては少し後悔しています」
息を乱し叫ぶ様に話すナタ老人がロキの言葉を聞くと、顔付きを変えて一瞬口を真一文字な結んだ。
次の瞬間。
「喝ッ!」
いきなりの大声に驚いたロキが思わず足を止める。ナタ老人はロキの眼をしっかりと見据えその胸に拳を当てた。
「ロキ坊めが!儂の名誉を気にするなどと十年早いわ!良いか!正義の戦など何処にも在りはしない……そう教えた筈じゃ!戦場に在るのは白刃と魔弾、そして無常の炎と心得よ!よもや忘れたとは言うまいな!」
一気にそう捲し立てるとナタ老人は、直ぐさま不動の姿勢を取り頭を下げる。
「ロキ将軍に対しこの様な非礼な物言い、弁解のしようも御座いませぬ。この戦が終わった後に、罰は如何様でもお受け致しましょう」
「いやはや何十年ぶりでしょう……ナタからお叱りを受けるのは。幼い時分は、毎日の様に叱られていた事が懐かしいですね……礼を言います」
驚きと懐かしさ、そしてダズトとリィナに続きナタ老人からも励ましを受け、ロキは自分の不覚悟を恥じる。
「儂がこの場に居るのは、儂自身が決めた事てす。ロキ殿が思い煩う必要はありませぬ」
「よし、ではナタ。共に闇の組織らしく悪の手先として、この武を存分に振るおうか」
「ロキ殿がその気なら魔王にでも成れましょうぞ!差し詰め儂はその尖兵ですかな!」
やや自虐的な笑い混じりに、ロキがナタ老人の肩を叩く。ナタ老人はカラカラと笑い、二人は再び駆け出すのであった。
(私は兎も角、この短期間でナタもリィナさんに毒されてしまったかな?)
実はナタ老人、昨日よりリィナをまるで孫娘のように可愛がっていたのだ。リィナも満更でも無くカイ老人に懐いていたのだが、リィナの場合は少々計算高い部分もあるであろう。
何事にもポジティブで明るく話すリィナに影響され、何時の間にかロキも流行りのスラングや言い回しに随分と詳しくなってしまった。ナタ老人の方でもリィナに差し響いたか、昔に比べて随分とノリが良くなったようにロキは感じたのであった。
「謁見の間」それは文字通り王が臣下や衆人を目通りする際に使用される、アポロン城で最も広い部屋であった。この城の場合は玉座も謁見の間に置かれており、戴冠の儀式など重要な式典も行われていた為、かなりの面積を有している。
そんな「謁見の間」の巨大な扉の前まで辿り着くと、ナタ老人がロキに話し掛けた。
「さて、如何致しますかな?」
「そうですね……ではここは一つ、堂々と入って行きましょう」
「はっはっは!それは良いですな!さぞ手厚い歓迎をしてくれますぞ!」
意外にも緊張感の無い掛け合いの後、二人は扉の正面に立つとゆっくりと扉を開けていく。妙に静かな城内に扉の軋む音が響いた。
「……これは、壮観ですな!ひい、ふう、みい……五十人弱くらいじゃな。たった二人にこの人数か!しかしまだ足らんな!」
ナタ老人が顔中の皺を寄せて笑う!
扉を開けたその先に!ホワイト・ダガーの屈強な戦闘員達がひしめき合い待ち構えていた!前衛は重装備の近接部隊、その脇を軽装の近接部隊が!後衛には弓兵や魔道士の遠距離攻撃・支援部隊が控えている!
二人は槍を構え、その身に闘気を纏った!
「私が左半分を、右手はお任せします」
「承知致した!血が滾りますわい!」
ロキとナタ老人が揃って走り出す!扉を潜ると直ぐに床が発光!罠魔法陣か!当然!罠を予期していた二人は、闘気を槍に乗せて床を薙ぎ払った!画かれた魔法陣は吹き飛び一瞬で無力化!罠を突破された事を悟ると!指揮官らしき男が号令を放つ!ロキがその男を見やるがそれはサリバンでは無い!
号令が下ると後衛の部隊から矢と魔法の雨が降り注いだ!ロキとナタ老人は闘気を槍に帯びさせたまま、バトンの様に旋回させこれを防ぐ!ここで一瞬足が止まった所を前衛の部隊が突撃して来た!剣や槍を手に持ち押し寄せる戦闘員の群れ!ロキは身を屈めると、良く通る声で口上を述べる!
「我が名はロキ……あなた方に恨みはありませんが、ここは押し通させて頂きます」
ロキの姿が消えた!戦闘員の一人に爆速で迫ると!その剛槍が唸りを上げる!重装備の戦闘員を鎧ごと貫き通すと、そのまま更に突進!勢いは止まる事無く!その背後に居た戦闘員二人も纏めて貫いた!一思いに槍を引き抜くとロキは跳躍!三人の亡骸が崩れ落ちる前に飛び越えて前方に着地!そこを魔道士部隊が幾つもの攻撃魔法を撃ち込むも、ロキは闘気を帯びた槍を振って魔法を打ち消す!続いて!両脇から軽装の近接部隊が四人!ロキを強襲!ロキは素早い剣の嵐を掻い潜り!一合も交える事無く!四人の剣士の背後を取った!前を向いたまま半身になり、闘気を漲らせた槍で後方を薙ぐ!一顧だにせずに!襲った四人の胴体は横に真っ二つと成り果てた!
恐るべき絶技を前に鼻白むホワイト・ダガーの戦闘員達!臆する彼らに!指揮官の男が激した!恐怖を使命感で押し潰し!再びロキの前に立ち開かろうとする!そんな彼らに!ロキは練り上げた闘気を発した!
神気の如きオーラを目の当たりした戦闘員達は悉く戦意を喪失!緊張と怯えで動けなくなり!恐怖の余りに涙を流して膝を突く!中には失神・嘔吐する者も多数!何という異常な光景か!
ロキの闘気を浴びても!指揮官の男は何とか耐えて踏み留まった!青ざめ震えながら、もう一人の兇賊!ナタ老人を見る!
一方のナタ老人はやや苦戦していた!いや!寧ろ善戦していると言っていいであろう!ロキは容易く蹴散らしていたが!彼らは曲がりなりにも世界治安維持機構は特殊部隊の戦闘員!言うなれば世界最強の軍隊なのだ!
ナタ老人は先ず!向かって来た重装備の戦闘員を迎撃!槍で鎧の間隙を突き一人を絶命させる!更に左右から二人の戦闘員がナタ老人を襲う!槍を引き抜いたナタ老人は猿叫を放ち!左から迫る戦闘員の顔面を槍の石突きで激しく殴打!反動を利用して勢いを増した槍は右から来る敵の首を切り裂いた!殴打された戦闘員が魔法剣を発動し振り被る!透かさず!ナタ老人はその戦闘員に蹴りを入れた!怯んだ所を翻した槍が貫く!息吐く間も無く!そこを弓兵の矢と魔道士の攻撃魔法が飛来!闘気を纏う槍を振り回し防ぐが!対応仕切れなかった一本の矢が肩に刺さった!
「うぐっ!やりおる!」
ナタ老人は咄嗟に矢を抜くと治癒魔法を唱えた!リィナの魔法の様に劇的に回復はしないが!血が止まり徐々にだが傷も塞がっていく!どうやらナタ老人はある程度の治癒魔法を使えるらしい!
一気に畳み掛けるべく!三人の軽装戦闘員がカイ老人を取り囲んだ!闘気を全身から噴き上げたナタ老人が!槍と体を時計廻りに旋回させ!三人からの同時攻撃を全て弾き防御!そしてそのまま!もう一周回転!順繰りに戦闘員を槍で薙ぎ倒す!しかし!最後の一人が盾でナタ老人の槍を防いだ!
「おう!見事!」
ナタ老人が賞賛の声を送る!一合!二合!三合!敵の短剣と打ち合う事五合目!ここで遠距離部隊が味方に当たるのも承知で攻撃を始めた!相討ち上等とばかりに!向かい合う敵が攻勢を強める!ナタ老人も負けじと闘気を槍に乗せた!
「キエェェエエ!」
攻防一体!闘気を漲らせたナタ老人の槍が振り回される!矢と魔法!加えて正面の敵からの攻撃を、ここ迄全て弾き返した!しかし相対する敵も味方からの矢を浴びながら!決死の一撃を放つ!それはナタ老人が防御の為に持ち上げた槍の柄を闘気諸共両断した!振り抜かれた剣はナタ老人を袈裟切りに裂く!
「ぐぬぅッ!」
ナタ老人の胸に血華が咲いた!即座に穂先の無い方を捨てるナタ老人!三分の二程の長さとなった槍で、敵の顎下から突き上げる!槍先が脳髄まで達し敵は絶命!一方のナタ老人も手痛いダメージを負った!
これを好機と判断した敵の指揮官が!残った全戦闘員にナタ老人へ一斉攻撃を命じる!ロキの神気に当てられながらも!何とか正気を保てていた者達がハッとして総攻撃を開始した!
ナタ老人は闘気を練り上げ!短くなった槍を旋回し防御を試みる!だがホワイト・ダガーにも意地があった!凄まじい量の矢と魔法の、飽和攻撃に曝され!ナタ老人が爆炎に沈む!
「ナタ!」
ロキがナタ老人を攻撃する隊列の横から切り込んだ!神速を以て指揮官を突き殺すと!後は枯薄を刈るが如く!闘気を纏わせた槍を一振りする度!二人、三人と命が露と消えていった!本気になったロキの前では!世界最強の部隊も赤子となんら変わりが無い!これが泥黎なのかと錯覚する凄惨さ!殺戮の領域!ものの六十秒と掛からずに、三十人以上の戦闘員がこの地に斃れ伏した!
現世の鬼神、此処に極まれり!
「ナタ!無事か!」
立つ者を全て屠ったロキが、爆炎揺らめく空間に叫ぶ。程なくして炎と煙を掻き分けながら、ナタ老人が重い足取りで現れた。
「……何の何の、これしきの事で斃るナタでは御座いませぬ」
槍を引き摺り全身傷だらけであったが、どうやら命に別状は無い様である。ナタ老人は自身に治癒魔法を掛けながら、現在の「謁見の間」を見渡した。
「流石はロキ殿……些かの衰えも有りませぬな。相対した者は不運としか言えませぬ」
夥しい屍の山と血の河……変わり果てたかつての居城を眺めて、ナタ老人が嘆息する。次いで視線を上げて「謁見の間」最奥部、以前は玉座が据えてあった場所を見やった。
取り外された玉座の代わりに台座が設けられ、半透明な物が置かれている。ナタ老人があれが「神の欠片」かと思うより早く、その横に佇む人影に目を奪われた。
「……あれは、まさか!」
ナタ老人の言葉にロキが振り返る。そしてその表情が立所に激情を帯びていった。
「サリバン!」
怒気を含ませたロキの叫びに、ナタ老人も肝を冷やして驚く。
ロキは槍を携え闘気を放ちながら、やや大股で歩きサリバンに近づいていった。
「報告を受けても半信半疑だったが……まさか本当にロキ、お前とはな……」
歩み寄るロキにサリバンは抑揚を感じさせぬ声で言葉を発した。
玉座の代わりに設置された台座は、位置的に数段高い所にある。その手前でロキは立ち止まり、サリバンを見上げた。
「貴様と決着を付ける為に、地獄から舞い戻って来たぞ」
「ヒュージの奴め……百年は持つと大言を吐いておきながら、たかだか十五年で破られるとは……口程にも無い」
サリバンはロキの言葉には反応せず、この場には居ないヒュージに対し文句を述べるだけである。
ここでロキの後を追って来たナタ老人が、サリバンを睨み付け声を荒げた。
「サリバン殿……いやサリバン!何故同胞を粛清した!答えよ!」
「誰かと思えば、ナタか……まだ生きていたとはな。内戦が始まった時には、とっくに退役していたから失念していたぞ。お前も始末すべきだった」
冷たい眼で二人を見下ろしながら、サリバンは又しても問い掛けには答えない。
このサリバンと云う男。ロキとほぼ同じ身長と似た様な背格好をした、偉丈夫の豪傑であった。赤毛で凛々しい顔立ちであり、白銀の鎧を着用している。ややたれ目であるがその眼差しは、ダズトに勝るとも劣らない鋭さを有していた。そして立派な装飾を施された大槍を手にしている。
「答えんか!」
ナタ老人が再び叫んだ。
「ふ、俺を認めぬ者など不要だ。お前はどうだ?……訊くまでもないか」
サリバンは憐れむ様な目でナタ老人を一瞥した。
「なんじゃと!?まさかその様な理由で……!?」
ナタ老人は怒りと驚きで言葉を失い、ロキも同様に槍を強く握り締めた。
「老人が……ここで何人殺した?」
「な、何?」
今度は逆にサリバンからの質問に、問われたナタ老人が戸惑い身構える。
「お前の起こした浅はかな行動で、お前の様な老いぼれの為に、どれだけ未来在る若者が犠牲になったか訊いている」
「そ、それは……!」
「お前のエゴで亡くなった命を思えば、俺の粛清などかわいい物ではないか。誇り高いアホロデアの将校が堕ちたものだ、老害も甚だしい聞いて呆れる」
「ぬっ!ぐぐぐ……」
口ごもるナタ老人の肩にロキが手を乗せ、サリバンに敵愾心を向けた。
「相変わらず口だけは達者だなサリバン」
「ほう?」
不遜な態度でサリバンがロキに目線を移す。
「ここで斃れた者達は、相応の覚悟でこの場に臨んでいた筈。勿論未練も後悔もあれば、我らに恨みや憎しみも有ろう。然りとて我らも身一つ、覚悟を以て刃を交えたのだ。その結果、今回は立っていたのが我らだった……それだけの事。厳しい様だが、戦いに於いて最大の悪とは負ける事だ」
「それは強者の論法だな、だが正しい。そう……過去の歴史からも分かる様に、最後に立っていた者、勝った者が正義だ。まあ、こんな議論は疾うに語り尽くされ、目新しい主義・主張という訳でもあるまいか……つまり粛清された奴らも同じ、負け犬という事だ。俺が責められる謂われは無い」
「堂々と戦い敗れるのと、味方に裏切られ背中から刺されるのでは!訳が違うわ!」
ナタ老人が怒りの余り、一際甲高く吠えた。
「結局は同じだ。そもそも奴らは俺が手ずから討ったのだぞ、それこそ正々堂々と戦ってな」
「有無を言わさぬ状況に追い込んでおいて、何を言うか!」
詰め寄ろうとするナタ老人に、サリバンは呆れた表情を作る。
ナタ老人を制し自身も激しい怒りを抑えつつ、サリバンを見据えたロキが口を開いた。ロキとサリバン、二人の間で異様なオーラが渦巻く。
「サリバン、貴様はどうだ?今の戦いで散り逝く味方を見殺しにし、只眺めていただけの貴様は正しいのか?仲間は貴様の事を何と思う?」
「意味の無い問答だ。死んだ者に感慨など有りはしない」
「私も貴様と問答をするつもりは無い。……見れば随分と豪奢な槍を持つ、その槍が飾りで無いなら構えるがいい」
ロキは槍の穂先をサリバンに向けて構えた!凄まじい闘気が溢れ出し、周囲を覆っていく!その気迫はナタ老人でさえ悪寒が走り、冷や汗が止まらない程であった!並みの者であれば、この場に居るだけで昏倒してしまうであろう!
「何時の間にか俺もお前と同じ年齢となったな……今ならば確実に俺の方が強い」
そんなロキの闘気を一身に浴びながら!サリバンは平然とした面持ちで槍を持ち上げた!ロキの怒りが込められた、熱を帯びる闘気とは全く正反対!一切を黙らせ、静止させる冷たい闘気が!サリバンから放たれる!二人の恐るべき闘気が謁見の間を呑み込んでいった!
號ッ!
各々の闘気が部屋に充満し切った瞬間!ロキとサリバン!それぞれの槍の穂先が激突した!衝撃波が城全体を揺るがす!間を置かず再び衝撃!そして衝撃!神速の槍同士が幾度と無くぶつかり合い!城がまるで地震の如く震える!
「これ程とは!ロキ殿と互角に渡り合うなど、サリバンも神域の武技に達したか!」
二人の応酬を目を細めて見ていたナタ老人は、その人ならざる領域に踏み込んだ槍捌きに圧倒されていた!
何十合打ち合ったか!穂先が届く間合いから始まった攻防は!打ち合う度に徐々に二人の距離が接近していった!そして至近距離に達すると!交錯した槍の動きが止まって押し合いとなる!一転して二人は微動だにしなくなった!
「槍捌きは流石だなロキ」
「貴様も鍛錬は欠かさなかったと見える」
お互いニコリともしていないが、互いの力量は認めざるを得ない!動から静へ!槍の競り合いは力が拮抗し、一旦衝撃波が落ち着く!
「槍の技量が同等なら、俺にはお前には無い魔力がある」
「むっ!」
サリバンから凍える魔力が渦巻いた!自身の闘気とよく似た冷たい魔力で!サリバンの周囲に尖った氷柱の様な氷塊が数個形成される!忽ち氷塊はミサイルめいて、ロキに向かって射出された!
「甘いぞサリバン。お互いの力が拮抗している中で魔法を使うなど……それが既に隙だ!」
ロキは一気に闘気を爆発させサリバンを吹き飛ばす!そのまま闘気を纏った槍を急旋回させ!全ての氷塊を木っ端微塵に粉砕した!
「くっ……!やる!」
砕け散った氷の破片が、ダイヤモンドダストの様に光り輝く!飛ばされながらも、踏み止まったサリバンが苦々しい顔でロキを睨め付けた!
「小細工は通じぬか……ならば、これはどうだ?」
サリバンは次に闘気と共に氷雪魔法を、華美な槍に充填していく!魔法剣ならぬ魔法槍か!サリバンが槍を一振りすると!その軌跡に添って鋭い氷刃が追随した!周りで空気中の水蒸気が凝結し!細かな氷晶がキラキラと煌めく!ここに!美しくも恐ろしい冷徹な氷槍が完成した!
ロキに匹敵する神速で!サリバンが氷槍を繰り出す!只でさえ猛烈な剛槍の一突きに!同時に幾重もの氷の刃が重なった!
「むぅっ!」
己と同等の速度で放たれる槍本体に加え!追随する氷刃がロキを襲う!ロキは槍に纏わせた闘気の傘を広げ!どうにかこれをガード!
ガガガガガッツ!
氷の刃でどんどんとロキの闘気が削られていく!氷刃は槍本体よりワンテンポ遅れて到達する為!全ての刃をガード仕切ると!既に次の攻撃が繰り出されているのだ!これではロキは反撃に転じれない!永遠にサリバンのターンだ!
「さあロキ、何処まで耐えれる?」
「ロ、ロキ殿!」
容赦の無い攻撃に曝されるロキを、汗水垂らしたナタ老人が見守る!単身ではどうする事も出来無い歯痒い状況を前に!老武人は拳を強く握り締めた!
「今となってはお前を封印した事を後悔している……」
「なんだと……!?」
防戦一方のロキにサリバンが話し掛けた。まるで過去を悔やむかの様な台詞に、ロキはやや意表を突かれ眉を顰める。
「あの時はヒュージからお前が『イレギュラー』だと聞かされ、俺も焦ってしまった……だが、やはり時が来れば俺の方が強い。今、それを証明しよう!」
「イレギュラーだと?何の事だ?それが貴様が裏切った理由なのか!?」
「もうお前がそれを知る必要は無い……お前はイレギュラーなどでは無かった」
話し掛けておきながら、一方的に会話を打ち切ると!サリバンは戦いその物も終わらせるべく!より一層!攻撃の手を強めた!
「無数の氷に貫かれるがいい」
ガガガガガッガガガガッ!
凄まじい氷の切削音が鳴り響く!この龍の牙を思わせる剛槍と鋭い氷は!相手の命を奪うまで、嵐の様に、無限に放たれるであろう!それでも尚!ロキはサリバンの猛襲を見切り!巧みに防ぎ続けた!
サリバンは決定打を!ロキは反撃の機会を!お互い得られないまま攻防は三分以上続けられる!未だしぶとく粘るロキに、サリバンは又しても踏み込みを強めた!だがここで!サリバンの背筋に悪寒が走る!
ロキが槍を持つに力を込めた!氷刃に削られ薄くなった筈の闘気が!俄に輝きを増し始める!サリバンの踏み込みに合わせて!黄金の闘気を纏ったロキの剛槍が!直前に繰り出された氷刃諸共!サリバンの神速の突きに衝突した!
「おおお!」
見ていたナタ老人が、思わずガッツポーズを決め!渾身の突きを止められたサリバンが、驚愕して目を見開いた!
「馬鹿なッ!」
「……如何に神速を誇る優れた奥義だとしても、そう何度も繰り返して同じ技を見せられれば対処は可能だ。豪壮な妙技だったが……それ故、自身の技に溺れたなサリバン」
相も変わらず簡単に物を言い、そしてそれをやってのけるが!こんな事が出来るのは!この世にロキ只一人だけであろう!それ程迄に!サリバンの奥義は完成された必殺の技であったのだ!
「化け物め、やはりお前は……いや、まだ決まった訳ではない」
止められたら槍を一度引っ込ませ!サリバンもロキに劣らぬ白銀の闘気を発し、手にする槍を包み込ませた!
「正直、色々訊きたい気持ちもありますが……この機を逃す訳にはいきません。ここは私もダズトさんに習うと致しましょう」
武神の覇気が!黄金色の輝きを見せ槍に充填されていく!ロキは猛々しく槍をサリバンに向けて構えた!
「貴様だけは赦せん、死んでアポロデア王国の全てに詫びろ……サリバン!」
「ちいっ……ふざけるな、今日こそ!俺はお前を超えて頂点に立つ!」
凡そロキが口にした言葉とは思えぬ非情で乱暴な台詞!決意を固めたロキの勇姿は神々しくさえ在った!この人とは思えぬ圧倒的な気迫に!サリバンは一瞬気圧され掛けるも直ぐに持ち直す!逆に峻厳たる鬼鬼しい闘気が!ロキを呑み込もうとサリバンから放たれた!
「サリバン!」
「ロキぃぃ!」
ドッ!……パアァァンッ!
互いの名を叫んだ刹那!二人の闘気を纏った槍が!いや!神気とも云える二人のオーラが激しくぶつかった!凄まじい衝撃と閃光が周囲に広がり!正視出来ず目を閉じたナタ老人も吹っ飛ばされてしまう!
「お!おおう!?」
転げたナタ老人が受け身を取って立ち上がり、直ちに顛末を見届けるべく目を凝らした!
爆ぜた闘気で抉れた床を中心に!当事者の二人も衝撃で弾き飛ばされたか!お互いが三十メートル程離れて、受け身を取って立ち上がる姿が確認された!超新星めいた爆発にも拘わらず!お互い纏った闘気により、鎧には傷一つ付いてはいない!しかし!サリバンの持つ槍には異変が生じていた!
「……!何だ!?」
サリバンの持つ豪奢な槍、その先端から突如として亀裂が入る!そのまま一気に罅が広がると!穂先から持ち手の付近までが硝子の様に砕け散った!
「槍が……砕けた、だと?」
魔法槍の使い過ぎによる悪影響か!はたまたロキの闘気との衝突に耐えられ無かったのか!いずれにせよ!最早サリバンに武器は残されていない!これは勝負が決したか!?
「おおお!やった……!ロキ殿がやり申した!」
「……まだだ、まだ終わっていない……ッ!」
歓喜の声を上げるナタ老人とは対照的に、サリバンが悔しそうに砕けた槍を握り締める。
「……そう、まだ終わりではありません……貴様を屠るまでは」
ロキは冷静であった。闘気を槍に再充填し構え直す。今度こそサリバンに引導を渡し、全ての決着を付ける為に。
大気が震えた。転移魔法と思しき光柱が、丁度ロキとカイ老人の間くらいに降り立つ。
「イヤッハァー!よくやったぞロキ!」
「な、何じゃ!?」
いきなり現れたのは、サングラスを掛け黒いスーツに身を包んだ男。被っているテンガロンハットが妙に印象的だ。驚いたナタ老人が反射的に戦闘態勢を取る。
「ブラッチー殿!?何故ここに!?」
ロキも意外な人物の登場に虚を突かれた声を上げる。それは紛れも無く、ダーク・ギルドの幹部ブラッチーであった。
ブラッチーはニヤついた顔で、ゆっくりとロキの傍らへ寄っていく。
「ふふん……オレはお前達にマーキングを付けて、常に監視してるのさ!それはさて置き、我らダーク・ギルドが散々辛酸を舐めさせられたサリバンの死に際だ……この瞬間だけは立ち会わなくてはな」
リィナが居たらまず間違い無くストーカー呼ばわりされるであろう発言に、ロキは怪訝な表情を浮かべる。しかし直ぐに気を取り直して、丸腰となったサリバンを見据えた。
「さあロキ!奴に止めを刺せ!」
嬉々として拳を振り上げたブラッチーが、勝利を決定的な物にするべく、ロキに攻撃の指示を下す。
何がどうなっているのか!?ブラッチーは拳を振り上げた姿勢のまま!ロキは今にもサリバンに飛び掛からんとする、低い構えで硬直している!
「こ、これは……!身体が動かない!」
「ぐっがが!空間固定魔法だと!?一体誰が!」
僅かに動かせた口でロキとブラッチーが狼狽する!余りにも不可解な状況に!心配したナタ老人が、不動の二人に近づこうとした……その時であった!
「サリバン……ここは退くがいい」
何処からか、立派な髭を蓄えた五十代くらいの男が現れる。男はブラッチーとは反対側、サリバンにやおら近づくと撤退を促し始めた。
「……遅かったな、ヒュージ」
(ヒュージ……!ヒュージ・ゲンダイ!この男が!)
サリバンの言葉に、ナタ老人の目がこれでもかと剥かれる。そう!新たに現れたるこの男は、ホワイト・ダガー創設者にして現司令官「ヒュージ・ゲンダイ」その人であった。
祖国を滅ぼす遠因となった男を前にして、ナタ老人が忸怩たる思いを胸に男を凝視する。
「正面から挑むとは迂闊な真似を……言った筈だぞこの男、ロキはイレギュラーだと」
「槍が折れなければ俺が勝っていた……大体元はと云えば、お前の封印が破られたのが原因ではないのか?」
やや不満気な顔で話し掛けたヒュージに対し、サリバンも負けじと批判的な口調で言い返す。
「強がりを……だからこうして出向いて来たであろう」
お互い殆ど相手の顔を見ないで会話するのを見るに、二人はそれ程親密な関係では無さそうであった。
「まあ良い、少々犠牲は大きかったが……お主、それにヤマダとスズキが足止めしたお陰で、こ奴らを一網打尽に出来るのだからな」
ヒュージは徐に指をパチンと鳴らす。すると何も無い空間から人が二名、ロキ達の前に落ちて来たではないか。
「がはっ!」
「痛~、何よもう!」
「ダズトさん!リィナさん!」
それは大会議室でヤマダ君・スズキ君と戦っていた筈のダズト達であった。彼らもまたヒュージにより拘束され、強制的にこの場に転移させられたのだ。
ロキは目の前に落下したダズトとリィナに駆け寄ろうとするが、思うように身体が動かせず足を引き摺らせた。ダズトとリィナそれにブラッチーは、今でも殆ど身体を動かす事が出来無い有り様である。
「確実に空間を固定しているのに、この男は未だこれだけ動けるのか」
ヒュージは息を呑んでロキを見やった。
空間固定魔法は実に高度な術式を誇る高等魔法である。使用できる者は世界中探しても、片手で数えれる程しか居ないであろう。その中でもヒュージは圧倒的な魔力量を駆使して、かなり大規模な空間を固定する事が出来たのだ。世界最強の魔道士と呼ばれているのは伊達ではない。されどその魔力を以てしても、ロキを完全に行動停止させる事は出来無かったのだ。
「ヒュージだと?まさかそんな、なんてこった!出て来るんじゃ無かったぜ!」
眼前の男がヒュージだと知ると、ブラッチーは血の気が引いて青ざめる。彼自身も時空間魔法の使い手であるが、ヒュージと比べると格が違い過ぎて、全く勝負にはならないであろう。リィナは魔力量だけならヒュージと見劣りしないが、彼女は一般的な汎用魔法しか使えない。
このままでは座して死を待つも同じ、ロキはブラッチーに打開策を訊ねた。
「くっ……ブラッチー殿、この魔法に有効な手立ては何かありませんか!?」
「無理だぜ……一度術中に嵌まってしまえば、この魔力の力場に居る限り固定は解かれない。……しかし、この魔法は相当な魔力と共に集中力が必要な筈、ヒュージの注意を大きく逸らす事が出来れば或いは……」
返ってきた答えにロキは難しい顔をする。もう少し時間があれば練り上げた闘気で打ち破れるかもしれないが、今はそんな悠長な事をしている暇は無いのだ。
「キエエェェエァァアー!」
「!?」
けたたましい猿叫と同時に!ナタ老人がヒュージを強襲!槍は短くなっていたが、これ迄で最も気合いの乗った刺突が放たれた!とはいえヒュージも特殊部隊の長である!直ぐさま反応し剣を抜くと、紙一重で切っ先を防ぎ抑える!
「ロキ殿!ヒュージは儂が抑えとります!今の内にサリバンを!」
魔法は完全に解かれてはいないが、ナタ老人がヒュージの意識を逸らしたお陰で、一行は八割方動ける様になっていた!
ドッ!
「ナタ!」
ロキが叫ぶ!いきなりナタ老人の胸に風穴が空いた!
サリバンがロキに折られた槍の柄に、氷の闘気を込めて投擲したのだ!ロキに匹敵する剛力で投げられた即席の氷槍が!ナタ老人の胸部を貫通し、背後の床に突き刺さる!
「……ロキ、殿……わ、儂に構わず……や奴、を……!」
致命傷を負いながらも最後まで気迫は衰えず、そう言葉を絞り出すとナタ老人の身体は崩れ落ちた。
「サリバン貴様!ぐっ……!」
ヒュージの固定魔法が五割程まで回復して来たか、再び身体が重くなりロキの動きが鈍る。
「……ここはお前に任せるぞ、ヒュージ」
ロキを無視してサリバンがヒュージに告げると、撤退するつもりか転移用の魔宝珠を上空に放り投げた。
「待て!貴様はどこまで……!」
「別に俺はお前との決着など、元来どうでもいいのだ……一人で復讐心に駆られていろ」
「逃げるな!サリバン!」
光柱に消え行くサリバンに向けて、ロキの怨嗟の叫びが謁見の間に木霊する。
「ロキ君……」
余りに突然の事であったが、リィナは何となく状況を理解した。そしてこれ迄見た事の無いロキの様相に、その心情を案じる視線を送る。
「おい、お前達!早くずらかるぞ!ヒュージの魔法が弱まっている今がチャンスだっが!……ががっ!」
「させんよ。お主達はここで……ぬっ!」
どうにかこうにか逃走を図ろうとするブラッチーであったが!仕切り直したヒュージの魔力が強まり、又しても強力に拘束されてしまう!圧倒的実力を見せ付けるヒュージ!だがここに来て、そんなヒュージの予想を上回る事態が起きる!
「どけヒュージ……今の私は機嫌が悪い」
ロキの闘気が蜷局を巻いて立ち昇る!怒れる鬼神のオーラが!ヒュージの魔力をどんどんと押し返していく!そしてダズトも!
「何処の何奴か知らねぇが……テメェ、余りオレを舐めるんじゃねぇぞ……!」
リィナ同様!ある程度の事情を察したダズト!その苛立ちに呼応するかの如く!その懐に入った「神の欠片」が発光し魔力が溢れ出した!
「おお……!何という禍々しさだ!澆季末世を招く者らめ!やはり!こ奴らは危険だ!此処で対処せねば、今に大変な事になる!」
事態を重く見たヒュージが、何処からか直径十センチ程の魔宝珠を取り出す!
(あれは……!スズキ君達が言ってた魔宝珠!?……いえ、聞いてた物より二回りくらい小さいわね)
ロキとダズトに因って身体の自由を取り戻したリィナは、立ち上がるとヒュージの待つ魔宝珠に釘付けになる!
(例え違う物だとしても……あれが全て魔力鉱石だとすれば、とんでもないお値段……じゃなくて、とんでもない魔法が封じられているわ!)
リィナの危惧は正しかった!ヒュージが魔宝珠を掲げると!先だって魔法で固定されていた空間が捻曲がっていくではないか!風景が螺旋を描き渦を巻いて歪んでいく!
「これは……幻術か!?」
「チッ!洒落臭ぇ真似を、何だってんだ!」
「もう!さっきからこんなのばっかり!」
「空間が固定されてるせいで、転移魔法が使えないだとぉ!?」
ロキの発する怒りの闘気も!ダズトの欠片から溢れる魔力も!リィナが咄嗟に張ったバリアも!逃げようとするブラッチーの転移魔法までも!歪曲した空間にブラックホールの如く吸い込まれていった!
「この世を破滅へ導く兇徒共めが!誘ってやろう、我が世界へ!」
ヒュージのこの声を最後に!ダズト達一行の視界が反転する!全てが真っ白に染まり!その他五感の全てがシャットアウトされる感覚に陥いった!
(くそったれめ!)
ダズトは心の中でそう毒付いて意識を失う!
遂に宿敵サリバンと合い間見えたロキだが、結局この場で決着を付ける事は出来なかった。ダズトもヤマダ君との勝敗は次回に持ち越しとなってしまう。
世界最強の一人と謳われるサリバンと互角以上の戦いを見せたロキ、ダズト達もヤマダ君らとの戦闘を優位に運んでいた。しかし、もう一人の世界最強と目されるヒュージの介入によって、戦況は一変してしまう。何よりも先ずは、この不明な状況をどうにかせねばならなくなってしまった。
一行はこれから如何なる事になるのか?何が待ち受けているのであろうか?そしてヒュージが使った魔法は一体!?
(悔いは無い……最後にロキ将軍と共に戦い、その戦場で死ねるとは……儂は何と果報者であろうか。例えサリバンが地の果てへ逃げようとも、いつか必ずロキ殿が討ち果たしてくれよう。ああ、良き生であった……一足先に地獄でお待ちしておりますぞ)
血溜まりに突伏したナタ老人は、今際の際で己が道を振り返る。そして最期に満ち足りた笑顔を浮かべ、この世に別れを告げた。
剛毅な老武人ナタ……老将は長年仕えた王城の謁見の間にて、静かにその生涯に幕を下ろしたのであった。