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そして闇の栄光へ  作者: 瀬古剣一郎
第二章
12/24

狂宴

《登場人物》

ダズト

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。自己中心的な無頼漢。「神の欠片」に魅入られている。


リィナ

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」のエージェント。決して善人ではないが、ノリの良い明るい女性。


ロキ

闇の秘密結社「ダーク・ギルド」の新人エージェント。常に紳士的で冷静な男。その槍捌きは神業である。


ヤマダ君

特殊部隊「ホワイト・ダガー」のA級戦闘員。秀麗な外見だが気弱な性格。酒癖が悪い。


スズキ君

特殊部隊「ホワイト・ダガー」のA級戦闘員。ヤマダ君の相棒。魔道具の扱いに長けている。

 さて、ダズト・リィナ・ロキの三人組は現在。アポロン市街の繁華街より一本裏手に回った、静かな飲み屋通りに来ていた。

 時刻は十九時を回った頃だろう。とっくに日は沈んでおり夜の(とばり)が街に降りていたが、そこは大陸でも有数の都会である。アポロン城を中心に魔力灯が市街を照らし出し、さながら不夜城を思わせる賑わいが城下の通りに続いていた。やはりというか、城の警備は昼間よりも一層厳しくなっているようで、城の近くでは民間人と警備の人間が揉めている声も珍しく無いようである。

 そんな城の警備を尻目に一行は、都会の喧騒からやや離れた通りを闊歩していた。夜の道を色彩豊かな魔力灯が明滅し、小洒落た雰囲気を醸し出す。

「いやん、流石都会ね!お洒落なバーが一杯☆」

「はしゃぐな、騒々しい……田舎者かよ」

目を輝かせるリィナをダズトが牽制する。田舎者呼ばわりされたリィナがむくれてダズトを睨むが、当のダズトは素知らぬ顔で視線を無視した。

 襲撃の日時は明日の正午に城内に突入が決まり、出立はその一時間前となっていた。そしてリィナの発案により、今夜は景気付けに少し奮発した店で食事をする事になったのである。

「おじいさんも来れば良かったのにね」

リィナはロキを見上げて話し掛けた、確かにこの場にナタ老人の姿は見えない。

「ナタは久しぶりの実戦ですからね、今夜は瞑想をして精神を集中させたいそうです」

説明しながらふとロキは思った、ナタ老人は此方(こちら)に気を遣ってくれたのではないかと。

 目立つのを少しでも避ける為にダズトとロキは平服を着用してた。特にロキはハンチング帽を目深に被り、普段とはかなり異なる出で立ちである。とはいえダズトから滲み出る刃物の如き鋭い気迫や、ロキの威厳あるオーラが隠しきれるものでも無い。

 対してリィナは女性らしくお(めか)しをしてドレスを着て来ている。その(あで)やかな容姿に惹かれて時折道行く男達が振り向くも、脇を固める二人の男を見て声を掛けるのを諦めさせていた。

 そうして知らずに悪目立ちしていると気付かぬまま、一行は夜の街の雰囲気を味わいつつ歩を進めて行くのであった。


「おい、あれがジジイの言ってた店じゃねぇか?」

ポケットに手を入れたまま歩いているダズトが顔を上げる。「鶴桜亭」と書かれた看板がネオンによく似た魔力の光の中に浮かび上がっていた。ダズト達はその看板を目印に店へと近づいて行く。

 十五年以上経っているとはいえ、この国の代表格であったロキが大手を振って外食をするのはやはり躊躇(ためら)われた。そこでナタ老人がある飲食店を紹介してくれたのである。

 何でもこの店は決して安くない料金さえ払えば、暴れるなど犯罪行為をしない限り、例え凶悪犯だろうと受け入れるらしい。更に味も超一流であり、その匿名性から各国の要人もお忍びで利用すると風説されていた。当然人気店であり予約もままならないのだが、ナタ老人はここの店主に顔が効くらしく当日に予約する事が出来たのだった。

 煉瓦(れんが)で造られた建物に小さな出入り口が一つ。店の戸を開けると付随していた呼び鈴が鳴って、従業員が出迎えに現れた。

「いらっしゃいませ、ご予約のナタ様ですね」

「はーい♪そうでーす☆」

リィナが明るく返事をして内部に通される、店内は薄暗く足下に注意を払い一行は従業員の後に付いて進んだ。

 しかし流石は高級店の従業員、プロである。ダズトの気迫やロキのオーラに一瞬気圧されるも、素早く持ち直し淡々と席まで案内してメニュー表を渡すと、(かしこ)まりながら下がって行った。きっと裏では何処ぞのマフィアのボスが来たとか、いや某国の将校だとか噂されているであろう。


 急な予約という事もあり案内されたのはカウンター席であった。最も奥の席を逸早くダズトが陣取ると、ロキが透かさず隣の椅子を引いてリィナに着席を促す。

「あら、ありがとうロキ君♪紳士的ね」

「どう致しまして。しかし改めて見ても素敵なドレス姿ですね、やはり服は着る人で価値が決まる様です」

リィナが山吹色をした色鮮やかなドレスの裾を(まと)めると、ロキは(にわか)にリィナの後ろに椅子を近づけた。

「んふふ~、相変わらずお上手なんだからロキ君は☆」

椅子に腰を着けたリィナが笑顔でロキに手を振る。そして独りでに席に着いていたダズトに視線を向けた。

「こんな高級店久しぶりだから少し緊張しちゃうわね、ダズトはテーブルマナーとか大丈夫かしら?」

「ふん、そんなもん知るか」

行儀悪くもふんぞり返って椅子に座るダズトをリィナがジト目で見やる。ここで衣桁にハンチング帽を掛けたロキが、リィナを挟んでダズトと反対側の椅子に着席した。

「高級店ではありますが、この店は特性上マナーとかそういった事は気にしないそうです。フランクに食事を楽しめるそうですよ」

「だとよ」

説明を聞いたダズトは、何故か勝ち誇った様な顔でリィナに視線を合わせる。

「ほんとにもう……」

呆れたリィナがダズトから目線を外しメニュー表を手に取った。そしてページを(めく)(たび)、食い入る様に見つめる。目にも麗しいお品書きの数々がリィナを魅了し、ついつい(はした)なくも心の中で舌を舐めずるのであった。

「ああ、いけないわ私ったら……お料理に目を奪われてないで、まずは飲み物を決めないと。二人はもう決めたのかしら?」

「オレはこのヴィンテージウイスキーにするぜ。ボトルでだ」

「どうせ後から経費で落とすつもりとはいえ、相変わらず値段を考えずに選ぶわねぇ……いいけど。私はジン・ライムにするわ、ロキ君はもう決まったかしら?」

「はい、では係りの者をお呼び致しますね」

ロキが従業員を呼び最初の飲み物と、直ぐに出せそうなつまみを幾つか注文する。

 注文を受けた従業員が下がるのを確認すると、一行はいつもの癖で店の構造や状況の把握に入った。常に公安や敵対組織に狙われる者としては当然の心構えとも云える。

 一行が座っているカウンター席は壁際であり、会話が他人に聴かれる心配もしなくて良さそうであった。但しテーブルは六人掛けであり、もう二・三人は同じテーブルに着く事が予想される。

「さて、同席する人が穏便な方だと良いのですがね」

ロキが今は空いているテーブルの左側をちら見した。

 因みに席順は向かって一番右にダズト、真ん中にリィナそしてロキという順番である。

「なぁに、オレが睨みを利かせりゃ大概の奴は尻尾を巻いて逃げ出すぜ」

「ちょっと折角いい店に来たんだから、トラブル起こさないでよね」

 そんな会話をしている(おり)、店の呼び鈴の音が鳴り響いた。恐らくは新たなお客がやって来たのであろう。従業員の「いらっしゃいませ」という声に伴ってガヤガヤとした複数人が話す声も漏れ聞こえてきた。

「此方でございます」

 従業員がダズト達一行の居るスペースに客を案内してくる。当然いきなりジロジロと見るのは失礼である為、一行は取り敢えず其方(そちら)を見ない様に努めた。

「では、ごゆっくりおくつろぎ下さい」

メニュー表を渡して一行の時と同じ様に従業員が一旦下がっていく。

「うっひゃあ~!僕こんな凄いお店初めてだよぉ!」

「僕もさ!二ヶ月前から司令官の名前で予約しておいた甲斐があったね」

新たなお客から途轍もなく聞き慣れた声が発せられた。反射的にダズト達は一斉に左側へと顔を向ける。そしてそれに驚いた隣のお客も、ダズト達に振り向きお互いの顔が合わさった。

「何ッ!?」

「えっ?うわぁ~!?」

「嘘でしょ?こんな偶然ってある?」

「いやはや……これはまさか、そんな事が?」

「げえっ!先生!何故ここに!?」

びっくりする余り、両者が一様に声をあげる。そう、新しく入って来たお客とは「ホワイト・ダガー」のヤマダ君、そしてスズキ君その人であった!

 このタイミングでダズト達が頼んでおいた飲み物が運ばれてくるも、従業員がその異様な空気感にたじろいで動きを止める。

「あら、ごめんなさい驚かせちゃったかしら?偶々(たまたま)お隣に座ったのが顔見知りだっただけよ♪ご迷惑は掛けないから心配しないでね☆」

咄嗟の判断でリィナが飲み物を乗せたお盆ごと受け取ると、従業員にウインクして見せた。元々客に深入りしない信条の店なのと、リィナの愛想に(ほだ)されたのもあって従業員はそそくさと場を後にしていく。


 平服ではあるがダズトは腰に剣を()いて来ていた。今は外して壁に立て掛けてあった剣を手に取り、現れたヤマダ君達に追及する。

「……テメェら、何でオレ達がここに居ると分かった?まさかあのジジイが?」

「あのナタに限って裏切る事など有り得ません、もっと別の所から漏れたとしか……」

ダズトとロキは居場所が割れた原因を推測するが、どうも腑に落ちない。

 ダズト側からすれば、今日この店に来る事が決まったのは、ほんの三時間くらい前であった。ナタ老人から漏洩したので無ければ、既にダズト達の動きはホワイト・ダガーに捕捉されていた事になる。

 しかしヤマダ君から返ってきたのは、これまた信じられない発言であった。

「いやいやいや、こっちの台詞ですよ。僕ら二ヶ月も前から店予約して、この日を楽しみにしてたんですから。フォイゾン大橋の時もそうだけど、ストーカー行為は止めてもらっていいですか?」

「え~?じゃあホントに単なる偶然って事?」

 確かにヤマダ君とスズキ君の服装はどう見ても私服であった。スズキ君はパリッとしたジャケットを上手に着こなしており、なかなかイケてるお洒落ボーイである。一方のヤマダ君はというと、草臥(くたび)れたチェック柄のハーフパンツに、よくわからないキャラクターが描かれたトレーナーを着用していた。極め付けは服のサイズ感がおかしい事であろう、何か全体的にサイズが大きめである。ヤマダ君は紛う事無き超美青年であるが、それで補っても全く補い切れないダサさであった。

 まじまじと見たリィナが、ヤマダ君の余りにもダサい服装に少し顔を引攣(ひきつ)らせる。

「そうみたいッスね姉さん。……ってか今日は一段とお綺麗ですね!女優さんかと思っちゃいましたよ、ねぇヤマダ君」

スズキ君がドレスアップしたリィナを褒め称え、横でメニュー表を見るヤマダ君の肩を叩いた。

「え?あ、うん。そうだねスズキ君」

ヤマダ君は横目で一瞬だけリィナを見ると、即座にメニュー表へ顔を戻す。

 これを見ていたダズトが嫌味な笑みを浮かべて、リィナをからかいに掛かった。

「は!残念だな。テメェよりも料理の方が魅力があるみたいだぜ?」

「……うるさいわね!きっとこんな綺麗な女性を見るのは初めてだから照れてるのよ!」

リィナが悔しそうにギリギリと歯噛みする。そうしている間にロキがお盆から飲み物を二人に配った。やはりこの男、出来る。

「そうだ!いい機会だし今日は一緒に飲みませんか!?良いよねヤマダ君?」

「それは良いねスズキ君!やっぱりお酒は大勢の人と、ワイワイ楽しく飲みたいもんね!」

スズキ君の提案にヤマダ君も顔を上げると、右手の親指を立てつつ二つ返事で答えた。

「ふざけろ!今日がテメェらの命日だ!」

遂にダズトが立ち上がって剣を抜き放つ!この辺りの判断の早さは見事だ!

「良いじゃな~い☆飲みましょ♪飲みましょ♪」

「うわぁい!流石(さすが)姉さん!」

「確かに、敵対業種間交流の飲み会というのも乙ですね」

「先生と一緒に飲めるなんて感無量ッス!」

凄まじい殺気を放つダズトを余所に、他の顔ぶれはかなり盛り上がり、共同の飲み会を行う流れになっている。

「テメェらッ……!ロキまで!何考えてやがる!」

どういう訳かダズト一人が、この場で浮いてしまう形になってしまった。しかし明日の作戦の事を考えると、ここで敵の主力であるヤマダ君とスズキ君を倒すというダズトの判断が正しいのではないか。

 リィナがスッとダズトに近付き耳打ちした。(いろ)っぽい香りの香水がダズトの鼻にふわりと匂ってくる。

「本当にダズトはせっかちね、彼らを酔わせて有益な情報を引き出すのよ☆始末するのはそれからでも遅くはなくて?」

「あ?こいつらは腐ってもホワイト・ダガーだぞ、例え酔わせようが情報を喋るなんて……あるな」

これはダズトも素直に認めざるを得ない。

「でしょ?ま、彼らで無くとも私の美貌で御酌すれば、どんな男もイチコロだけどね♪」

「たった今、料理の魅力に負けたばっかで何言ってんだテメェは……」

それに関しては実際、色気より食い気のヤマダ君側にも問題があったりする。

「いやん、それは言わないお約束☆……それにね、今この場で暴れたらそのボトルも飲めないわよ」

リィナの視線の先にはダズトの頼んだヴィンテージウイスキーがあった。ダズトは「チッ」と舌打ちすると不機嫌そうな顔を更に不機嫌にして、とうとう剣を鞘に収める。

「ふん!勝手にしやがれ」

負け惜しみにも聞こえる捨て台詞を吐き、ダズトは席に戻ると乱暴に着席した。

「しかし此方は構わないとして、よろしいのですか?シチボシ島でカゲムラ殿は、我々と刺し違えるべく自爆したのですよ」

ロキはもう一度彼らの意志を確認するべく、腕を組んでヤマダ君とスズキ君に向き直った。個人的には兎も角、組織としては絶対的に相容れぬ関係性。果たしてそこまで割り切れる物であろうか?

 二人は瞬間、顔を見合わせた。そして平然とした態度のままサラリと答える。

「……まあ、それはそれです。そりゃあ任務で合間見えたなら、僕らも死力を尽くしますけどね。今日は非番ですし」

「そもそもカゲムラさんは、僕達に仇討ちなんて望んでないですよ」

公私混同はしないヤマダ君とスズキ君の決してブレぬスタンスに、ロキは感心半分呆れ半分で頭を掻いた。


「は~い☆それじゃあ『ダーク・ギルド』と『ホワイト・ダガー』の交流を記念しまして……乾杯~♪」

「乾杯!」

リィナの音頭に合わせてダズト以外の全員が、掛け声と共にグラスを持ち上げる。ヤマダ君は待ってましたと言わんばかりに、グラスに注がれたビールを一気に飲み干した。

「プハーッ!この為に生きてるよね!」

「今日はあんまり飲み過ぎちゃダメだよヤマダ君」

「お二人もアポロン城の警備で此処(ここ)へ?」

ロキがビール瓶を手にして、空になったヤマダ君のグラスに新たなビールを注ぎ入れる。

「あ!どうもありがとうございます。そうです!明日から人員の交代で城に詰めるんですよ」

ロキから注がれたビールで早速、喉を潤しながらヤマダ君が答えた。

(ナタの情報に誤りは無い様ですね)

事前に聞いていた通り、明日から大規模な人の入れ替えが行われるのは確実らしい。

「先生は何を飲んでるんスか?」

「私はホットミルクを頂いております。スズキ君もビールでよろしいでしょうか?」

「あ、これはどうも!先生から御酌を貰えるなんて恐悦至極です!」

スズキ君のグラスにもビールを注ぎつつ、ロキはリィナと目で合図をする。

「お仕事も大変ね~、城内は結構な人数が配備されてるのかしらん?」

「う~ん、B級戦闘員が六、七十人くらいかな?A級は僕らとサリバン様の三人だけですけど……」

サリバンの名前を耳にすると、ロキは顔色を変えて押し黙った。リィナは更なる情報を引き出すべく質問を重ねる。

「ふ~んサリバンってどんな人なの?」

「ウチの戦闘部隊隊長です!めちゃくちゃ強いですよ。ただ直属の上司ではあるけど孤高の人なんで、プライベートでの関わり合いは無いですけどね」

既にほろ酔い気味なのか、ヤマダ君が饒舌に口を開いた。

「失礼ながら、お二人は如何にしてホワイト・ダガーに?」

ヤマダ君のグラスに注がれたビールは常に半分以下を切る事は無く、少し減る度にロキが注ぎ足していった。たまらずヤマダ君の頬が、加速度的に紅潮してくるのが分かる。

「僕ら元々は戦災孤児だったんスけど、子供の頃に治安維持機構の訓練所で司令官に見出(みいだ)されて……そのままなし崩し的な感じですかね。ホワイト・ダガーに正式に配属されたのが二年くらい前かな」

「そうそう今でもイマイチ実感が無いよねスズキ君。危険な仕事だけど、ちゃんと見合ったお給料が貰えるから満足してるけどさ」

ひょんな切っ掛けで、ヤマダ君とスズキ君の身の上話を知る事となった一行。そんな彼らと図らずも交流を持った事に、奇妙な縁すら感じる。

「ほう……あのヒュージ・ゲンダイに認められるとは。お二人にはやはり天賦の才がお有りなのですね」

かつて自身を封印した男の名を耳にして、ロキは何を思うのであろうか。サリバンの時とは打って変わり苦虫を噛む様子も無い、やはりサリバンのみが彼にとって特別な存在なのであろう。

「ねぇねぇヒュージとサリバンってどちらが強いの?」

世界最強の魔道士とホワイト・ダガー最強の戦士。このパラドクスにリィナが、その両人を知る二人に質問した。

「ああ、どちらがか~!サリバン様も強いけど、司令官も凄いからな~!甲乙付けがたいよ!直接戦闘ならサリバン様が有利とも思うけど、司令官には時空間魔法があるからな~!そう簡単に決着しないんじゃないかな?」

ビールを片手にヤマダ君は、想像力を働かせる程にテンションを上げていく。熱を帯びてきたヤマダ君の語勢に、スズキ君もビールをクイッと一口喉に落とした。

「僕らが転移する時に使っている道具、魔宝珠っていうんスけど。あれも司令官の魔法が封入されてるんですよ」


 メジャーな部類に入る魔道具「魔宝珠」これは魔力鉱石で造られ、魔法その物を蓄えておき、誰もがいつでも使用出来るという物であった。転移魔法をチャージしておけば移動手段に、治癒魔法をチャージすれば回復アイテムに、と汎用性が非常に高い。

 大きさと魔力鉱石の純度によってチャージできる魔力の量が決まり、ヤマダ君達が転移に使用しているビー玉大の魔宝珠には0.01%程度の魔力鉱石が含まれていた。魔力鉱石は大変貴重であり、その純度と含有量で値段は指数関数的に跳ね上がっていく。

 リィナが持っている予備魔力を蓄えた小さなブローチには、純度十五%程の魔力鉱石が使用されていた。これで大体、リィナのフル魔力と同じくらいの魔力が蓄積できる。そして驚くべきはこのブローチのお値段、こちらの価値で約二億円は下らないであろう。どうしてリィナがその様な高価なアイテムを持っているのか?それは彼女の生い立ちに関係があるらしい。


「へ~そうなのね。他に何か珍しい魔法の魔宝珠はあるの?」

続く質問の後、リィナはジン・ライムのグラスを両手で持って口に近づけた。瑞々しい柔らかな唇がグラスの縁に押し当てられる。

 この問いにヤマダ君は少し黙りこくって頭を捻った。酔って頭が上手く働かない中でも、頑張って考えているのであろう。(しばら)く左右に首を傾げていたが、何かを思い出し目線を上げた。

「あ!こないだ凄い奴見ましたよ。直径十五センチくらいでほぼ純度100%の魔宝珠!」

「……は?そんなのあったら国が一つ二つ買えちゃう値段じゃない!一体どんな魔法を入れてるのよ!?」

驚愕したリィナが目を見張る。理論上は可能でも、その様な魔宝珠の存在は常識では有り得ない事であった。

 思わずグラスから顔を遠ざけ猜疑(さいぎ)の目線を向けるリィナに、スズキ君もヤマダ君に同調し片手を挙げる。

「僕も見ました、司令官が数十年掛けてある魔法を封入したんですって。よく分からなかったけど、次元転移とか並行世界がどうの言ってましたよ」

「ふぅむ、私ではとても理解出来そうにありませんが……何に使う魔法なのでしょう?」

「司令官は『あくまでも最終手段』とか『この魔宝珠はこの世界の保険だ』とか言ってましたけど。まあ、よく分からないですね!」

ヤマダ君が再びビールを一気飲みしておくびを出す。

 リィナとロキは考えた。詳細は不明であるが、この情報はホワイト・ダガーのみならず、この世界の根幹に(まつ)わる話なのではないかと。途方もない秘密を知ってしまったのではないかと、二人にそう思わせる何かがある。しかしそれが何なのかは、ロキは元よりリィナでさえも見当も付きはしなかった。


「……しかし、訊ねた私がこんな事言うのも何なのですが。お二人共一応は公務員なのですから、守秘義務というか……大事な情報を簡単にペラペラと喋るのは、コンプライアンス的に宜しくないのでは」

ロキはかつて政治の中枢を担っていたのもあり、酔っているとはいえヤマダ君とスズキ君の口の軽さに苦言を呈した。勿論ロキ自身もこんな事言う立場に無いのは重々承知しているのだが、性格的についつい若者に注意してしまったのである。

 所がヤマダ君はロキの諫言に悪びれる事無く、空になったグラスを握ったままでテーブルの上に置いた。

「うーん……でも僕達が話した事って、実際に見ないと本当かどうか分からないですし。魔宝珠の話しも然り……警備の話しだって行ってみたら、戦闘員の数も配置も全然違うかもしれませんよ?」

「え?じゃあこれまでの話は全部嘘なの?」

そのまま吃逆(しゃっくり)をし出したヤマダ君へ、リィナが(いぶか)しむ眼差(まなざ)しを投げる。ここでスズキ君も自身のグラスを空にして、リィナの方へと顔を向けた。

「いや本当ですよ。でも僕らなんてA級戦闘員つっても、しがない現場の人間スから……。そもそも知ってる事なんて高が知れてるし、僕らが本当だと思っている事が真実とも限らないですからね」

「むぅ確かに……スズキ君の言う通りかもしれませんね、これは一本取られましたか」

不思議な説得力に舌を巻いたロキが、感心した唸りを上げた。

(『しがない現場の人間』か……ヤマダ君もスズキ君も組織での立ち位置は、私達と似た様なものなのね)

酔っ払い二人に言い(くる)められて不満そうであったが、その言葉に少なからず共感する部分が有るのは確かである。

 リィナは結露してきたグラスを落とさないように両手で持ち、斜めに目線を上げてもう一度口元に近づけていった。

 ジン・ライムでリィナの薄紅色をした唇が濡れる。

「ククク……どうやら当てが外れたようじゃねぇか、ええ?リィナ」

ここまで一人無言を貫き経緯(いきさつ)を観察していたダズトであったが、とうとうニヤリとした意地の悪い様相でリィナを視界に入れた。

「うるさいわね……で、どうするの?彼らからこれ以上の情報は期待出来ないみたいだけど、やっぱり今から戦うつもりかしら?」

やるせない表情で頬杖を突いたリィナがダズトと視線を絡める。これに対しダズトはやや意外な答えを返してきた。

「ふん、生憎(あいにく)とオレはとっくに興が削がれてんだ。……それに今はこいつを空にするので忙しいのでな」

視線を元に戻したダズトが、氷の入ったグラスにウイスキーを手酌で注ぐ。余程この銘柄が気に入ったのか、周りの会話を(さかな)にしてチビリチビリとウイスキーを(たの)しんでいたのだ。

 その有り様を見たリィナは呆れつつも、安心した様に小さく溜め息を()く。

「そう、良かったわね。お気に召したなら何よりだわ」

「要は、お酒は難しい事は考えずに楽しく飲め!って事ですよ」

「真実ね……」

ヤマダ君の言葉を皮切りに、リィナが残りのジン・ライムを一思いに飲み空けた。

「決めた!今日は飲むわよ♪」

間髪を入れずにヤマダ君とスズキ君から「ワァッ」拍手と歓声が沸く。

 スズキ君は次いでロキにもお伺いを立てるべく、飲み物のメニュー表を広げてやってきた。

「先生!ホットミルクも良いですが、何か別の物をお持ちしますよ!」

ニコニコと屈託の無い笑顔を向けられて、ロキはとうとう根負けしてしまう。例えるなら〝教え子に勧められた酒を断れなかった〟という感じであった。

「こうなっては仕方ありませんね……では私も久しぶりに頂きましょう。スズキ君、ハウスワインの赤をお願い出来ますか」

「アイアイサーッス!」

元気に敬礼したスズキ君が注文を取りに行く為、踵を返して走り出す。

「転ばぬよう気を付けて下さい、急がなくても大丈夫ですから」

心配したロキの声が店の一角に小さく反響した。


「いや~!姉さん良い飲みっぷりでしたね」

先程のリィナの一気飲みを讃えて、ヤマダ君がリィナとダズトの間に入って来る。もうビールには飽きたのか、片手には一升瓶が握られていた。

「あらヤマダ君、席移動かしら?」

「チッ、いちいちこっちに来るんじゃねぇよ!」

リィナが椅子を引いてヤマダ君を迎え入れたのに対し、ダズトは如何(いか)にも渋い顔をしてそっぽを向く。そんなダズトの素振りなど気にも留めずにヤマダ君は隣に座ると、やたら親しげにダズトに話し掛けた。

「それ、ウイスキーですよね?僕あんまりウイスキーは詳しく無いんですけど、初心者にオススメの銘柄ってありますか?」

「あ?何でオレがそんな事を教えなきゃならねぇんだ。適当にサカミア産のでも飲んでろ」

ダズトはヤマダ君を顧みずに一人でウイスキーを飲み続け、けんもほろろであったが一応会話だけは成立させる。

「サカミア地方の銘柄っていうとダーボットとかが有名ですよね!」

「……ふん、あれは悪くねぇがサカミア産にしてはクセが強い。テメェみたいなずぶの素人はシュンテルン辺りがスムースだ」

「シュンテルンですか要チェックだ……なる程、勉強になります!」

ダズトのつっけんどんとした態度に気後れする事無く、ヤマダ君はお酒に関する会話でキャッチボールを繰り返した。

 ダズトはここまで一切ヤマダ君の方を視ずに喋っていたが、初めてその仏頂面の中で目だけを其方(そちら)へ臨ませる。ウイスキーのグラスを口に運びながら、ヤマダ君が持ってきた一升瓶へと狙いを定めた。

 この視線に気付いたヤマダ君がその瓶と共に、新たなグラスをダズトの正面に置く。

「あ、これですか……これ〝ポンシュ〟と言って一部の地域のみで造られる、米を醸造したお酒です。美味しいですよ、先ずは御一献(ごいっこん)!」

否応(いやおう)にも差し出してきたグラスに、ヤマダ君は一升瓶から中身をなみなみと注ぎ入れた。極薄い琥珀色をした透明な液体がグラスを満たすと、果実を彷彿とさせる芳醇な香りがダズトの鼻孔をくすぐる。無意識下でダズトは目を見張ると、そのグラスにやおら手を伸ばした。

(まさか罠ではねぇだろうな、そんな兆候は無かった筈だが……まあ、仮に毒だとしてもオレには通じねぇがな)

ダズトは警戒しつつも手を止める事が出来ない。そしてグラスに入った液体を一口、舌の上でるるると転がす。

「!?こいつは……!」

驚きの余りに、見張った目を更に見開くダズト。そのまま大きくもう一口、二口三口と一瞬でグラスの半分以上を飲んでしまった。

「さっさ飲まれい飲まれい」

ヤマダ君が又しても一升瓶を持ち上げると、ダズトは無言でグラスを差し出した。再び目一杯に酒が注がれる。

「こんな酒が有ったとはな……しかし、少々……」

 颯爽とした口当たりに米由来であろう甘味とコクのある旨味、そこから広がるフルーティーなフレーバー……その新境地の味わいに大いに驚愕した。だが今一つ何かが物足りない、そんな気もする。

 お酒に造詣の深いダズトは考えた、もっとこの酒を旨く飲める方法が有るのではないかと。

「ポンシュはチーズにも十分合いますが、もう少し塩っ気の強いおつまみが良いかも知れませんね」

「そいつだ」

ダズトは思わず指を鳴らし、今日初めてヤマダ君の顔をはっきりと見やった。

 そう、ここには今まで飲んでいたウイスキーに合う()()しか用意されていない。より美味しく酒を味わうには、やはりその酒に合う肴が必要だったのだ。


(最初はどうなることやら……と思ってたけど案外仲良くやってるじゃない、心配して損したわ)

二人の会話に聞き入っていたリィナが、安堵の面持ちでナッツを一粒口に放り込む。テーブルには新しく注文したジンジャーラムが、リィナの唇を今かと心待ちにしていた。

(……と言うか、あんなに喋るダズトも珍しいわね。私もお酒のお勉強してみようかしら?)

何処となくヤマダ君を羨ましく感じたのか、リィナがぼんやりとそんな事を考える。

(それにしても、ダズト×ヤマダ君のカップリングが現実味を帯びだしてきたわね)

「どうしたんスか姉さん。ぼーっとしちゃって、また腐った事でも考えてるんですか?」

今度はスズキ君が変わらずビールのグラスを手に、リィナとロキの間に入って来た。

 これで席順は右からダズト、ヤマダ君、リィナ、スズキ君そしてロキという並びとなる。

「あら失礼ねスズキ君、いつもそんな事考えている訳じゃないのよ」

実際そんな事を考えていたのだが、リィナは素知らぬ顔で隣に座ったスズキ君へと体勢を切り替えた。

「へぇそうですか、すみません。じゃあ何か悩み事ですかね」

「その様なモノね、でも悩みは常に乙女のスパイスなの。懊悩(おうのう)する姿はより女を魅力的にするものなのよ」

「あ、はあ……凄いッスね。……それはさておき、姉さん……改めまして助けて頂きありがとうございました!」

リィナの意味不明(イミフ)な台詞は粗方スルーしておいてから、スズキ君がテーブルに手を付いて頭を下げる。

 これを受けてリィナは、澄ました顔付きでジンジャーラムをその手に取った。

「言ったでしょ只の成り行きだって、そうでなければ単なる気まぐれ……いいこと?私達はあなたの仲間・同僚を何人も殺してるんだから、頭を下げるなんて止めておきなさい」

「これは僕のケジメです。こうする事で次にお仕事で出会ったら、心置きなく姉さんと戦えますから。その時は姉さんもどうか御覚悟を」

顔を上げたスズキ君はにっこりとリィナに微笑み掛けた。

 これにはリィナも少し意表を突かれたが、直ぐに同じ様に微笑む。そのままジンジャーラムを一口含ませて掌を上にむけると、婀娜(あだ)っぽくスズキ君を指差した。

「……うふふ宣戦布告って訳?でも、そういうのは嫌いじゃないわね。よろしくてよ☆受けて立つわ♪」

「あはは……いやいや、そんな大層なもんじゃないです。姉さんは悪の組織の人ではあるけど、命の恩人でもありますから。だから僕が勝手にそうしたいだけですよ」

リィナの仕草にドキリとしたのか、スズキ君ははにかむ様に下を向き、慌てて両手を横に振る。

 横で静かにワインを含味していたロキが、半ば独り言の様にリィナとスズキ君に話し掛けた。

「やはりいいですね好敵手(ライバル)の存在というのは。所でスズキ君、いつか私とも再戦して頂けるのでしょうか?」

「あ、先生はパスで。勘弁して下さい」

速攻で至極真面目な顔に作り替えたスズキ君が、ロキに対して胸の前で大きくバッテンを作る。

「むむむ、これはしたり」

 ()(はか)らんや、断固拒否されてしまうロキであった。

 続ける言葉も無いのでロキは手にしたワインを二周、スワリングしてから喉に落とし込む。淀みなく行われたその動作は実に華麗なものであった。

 ロキは滅多にアルコールを飲まないが、別に嫌いという訳では無い。特別強くも無いが、味に関してはダズトにも劣らず、かなり違いの分かる男なのだ。

「ふむ……第一印象は少し軽い感じですが、ボディはしっかりとしていますね。やや甘口で適度な酸味、渋味が薄い気もしますが飲み易くはあります。特筆すべきはこのフローラルな香り、素晴らしいの一言。……余韻はそこそこでしょうか、総合評価はかなり高いと言えるでしょう。お二人も如何ですか?このワインお薦め致しますよ」

優雅にワインを堪能するロキの風体は、高貴な気品をありありと漂わせている。ついついリィナとスズキ君が、その姿を畏敬の念を籠めて眺めた。

「……ホント何しても様になるわね~ロキ君は☆流石将軍様」

「はえ~先生、格好いいッス!」

「いやはや、お恥ずかしい限りです」

照れ隠しにロキがグラスを掲げ、ワイン越しに二人を見やる。濃い赤紫色の世界に、リィナとスズキ君の姿が映し出されるのであった。


「何だとテメェ!もう一度言ってみろ!」

矢庭にリィナの背後で、(いかづち)の様なダズトの怒号が鳴り響く。

「ちょっ……いきなり何!?」

何事が起きたのか。リィナを始め(みな)が一斉に、テーブルの右手側に座るダズトに注目した。

「ふざけやがって……調子に乗るんじゃねぇぞ!」

立ち上がったダズトは今にも剣を抜き放ちならぬ勢いの下、ヤマダ君を恐るべき形相で睨み付けている。

「ほらほらダズト落ち着きなさい、一体どうしたっていうの?」

ダズトを宥めるのはお手の物、リィナは殊更に涼しい顔を作って怒りの理由を訊ねてみた。

「この野郎、言うに事欠いてオレを『ダズ君』だと?舐めやがって!」

「え~?ダズトならダズ君……何も変じゃないですよ~」

酔いの回ったヤマダ君が一切悪びれずにダズトを見上げる。何故怒っているのか、全く持って理解出来ていないのだ。

「……いやいや、そりゃダズトも怒るわ」

呆れ果てたリィナが深い溜め息のもと、ヤマダ君の配慮に欠ける失言に心を砕く。どうしようかと思っていた所、怒りの収まらぬダズトから斜め上をいく発言が飛び出した。

「オレの方が年上だろうが!普通『ダズさん』だろ!」

「えっ!?そっち!?」

唖然とするリィナからこれ以上の言葉が失われる。

 ダズトの怒りの原因にヤマダ君は得心すると、ポンと手を打ちあっさりとその非礼を詫びた。

「ああ、確かに!これは思い至りませんでした!申し訳無いです」

「いいか、今後は言葉遣いに気を付けろ!」

怒りのピークが過ぎて多少は鎮まったか、ダズトはヤマダ君から一升瓶をもぎ取って(ようや)く着席する。そして鬱憤を晴らすかの如く、怒涛の勢いで酒を飲み始めた。

(『先輩らしくなさい』とは言ったけど、とんだ先輩風を吹かす様になったわねぇ……)

トラブルも無事に収まり安心したリィナであるが、未だ困惑の表情は消えずにいる。さてどうしたものかと、酒に浸るダストを見つめるのであった。


「あの~やっぱりお二人って、付き合ってたりするんですか?」

突如スズキ君がそろそろと手を挙げながら、大変ナイーブな質問を繰り出してきた。

 ダズトは一端は口に含んだお酒を、思わず噴き出してしまう。

「ブッ……はあ?んな訳ねぇだろうが!」

「うふふ……良い質問ね~♪そうね、私とダズトはもっと魂の深い所で繋がり合った仲なのよ☆」

リィナのセンセーショナルな言い回しに、ヤマダ君とスズキ君はアルコールで紅潮した顔を更に赤らめ、揃って「うわぁ」といった声を口に出した。

「おい、やめろ。勘違いさせる様な事言うんじゃねぇ、単なる仕事上の腐れ縁だろうが」

「もう四年も前になるわねぇ……ダズトと初めて出逢った運命の日から……」

「私も気になりますね、お二人の馴れ初めがどういった物であったのか」

必死で止めるダズト、それを無視して話を続けるリィナ。ついついロキも身を乗り出して話に聞き入ろうとする。

「おい、やめろ!マジでやめろ!何もねぇぞ!」

慌てふためくダズトに満足したのか、リィナはさも残念そうな感じを出しつつ片手を頬に当てた。

「あらあら照れちゃって、そんなに恥ずかしがる事でも無いでしょうに。仕方ないわね♪(みんな)ごめんなさい、これは私とダズト……二人だけの秘密なのよ☆」

「えーっ!?」

「そんなぁもっと聞きたいですよ!」

 色々文句も言いたかったが、取り敢えず話を畳んでくれてホッとするダズト。しかし、不完全燃焼のヤマダ君とスズキ君からはブーイングが飛び交った。ダズトとしては「黙れ」と一喝したい所であるが、藪蛇を突つくのを恐れここは沈黙に徹する。

「ふぅむ、心残りではありますが……お二人だけの大切な思い出というのであれば、これはやむを得ないですね」

天然なのかロキまでも無意識下でダズトの心をざわつかせに掛かるも、そこはやはりロキ。直ちに別の話題をリィナに振ってダズトを安堵させた。

「……では代わりにリィナさんが『ダーク・ギルド』へ入った由縁(ゆえん)をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「んふふ~☆もうロキ君ったら、今日はやたらアプローチが積極的ね?まさか乙女の過去を詮索しようだなんて……お酒の力かしら」

(なま)めかしく脚を組み替えたリィナが、妖艶な瞳でロキを見つめる。リィナもお酒が回り始めたか、少し頬が赤く上気し出していた。

「そうかもしれません。しかし折角、美しい女性と同席してお酒を嗜めるのですから、一つ話題の中心になって頂かない事には(いささ)か失礼かと思いまして」

ロキは微笑みワイングラスを傾ける。高貴かつ紳士的で爽やかな笑顔が、リィナの瞳に吸い込まれていった。

 並みの女性であれば胸がときめいたかも知れないが、ことリィナに限っては余裕を持ってロキの眼差しと渡り合っている。

「確かに姉さん程の魔力量があれば『ホワイト・ダガー』でもA級余裕ですもんね~」

「お給料がめっちゃいい、とかですか?」

ヤマダ君とスズキ君も不思議に思いリィナに視線を集めた。

 一般的な魔法しか使用出来ないとしても、リィナに潜在する魔力量は世界でもトップクラスであろう。間違い無く大国の魔法機関や国際的魔法学校でも引く手数多(あまた)な筈なのだ。そんな才女が、どうして闇の秘密結社などで世界中を暗躍しているのであろうか。

「……ふ~ん(みんな)して私に興味津々じゃない♪いつもなら軽くあしらうとこだけど……今夜は気分も良いし、少しだけ話しちゃおうかしら。あ、でも大した話でもないわよ」

リィナは最後に断りを入れると、空になったグラスを振った。氷とグラスが当たって甲高い音が鳴らされる。


「ラウメキアって聞いた事あるかしらん?」

リィナが新しく用意したカクテルに唇を寄せた。無言で首を(かし)げるヤマダ君に代わり、スズキ君が自分の持ちうる精一杯の知識を述べる。

「あー、確か寒い地方の国ですよね」

「『ラウメキア公国』北方の立憲君主制の国家ですね、小国ながら長い歴史と伝統があると窺っております」

「流石ロキ君、博識ね♪実は私、ロキ君には及ばないけどラウメキアの中流貴族出身なのよ☆」

リィナの発言に一同にどよめきが起こった。

「なんと」

「へ~!御令嬢って奴ですか」

「そう言われると、姉さんの動作や仕草って上品な感じしますもんね」

「ふふっありがとう♪でも誉めても何も出ないわよ☆」

先刻迄の妖艶な雰囲気は何処へやら、今のリィナはまるで少女の様な爛漫さを醸し出している。女性として様々な一面を併せ持つのも又、彼女の魅力の一因なのであろう。

 しかしここで新たな疑問が生まれた。小国とは云え貴族の令嬢が、事も有ろうに悪の組織に汲みするなどとは。何か退()()きならない事情が有るのではないかと勘繰らずには居られない。(たちま)ち各々が邪推も含めて、その訳を推察し出した。

(まさか、これ程明るいリィナさんに暗い過去が?だとすれば……この話題は失敗だったかもしれません)

(僕では想像も出来ないけど、貴族に生まれるっていうのも大変そうだもんね)

(稀によく聞く『没落した御家の再興の為』とかかな~?若しくは『借金の形に闇の組織に売られての復讐』みたいな)

ロキ・ヤマダ君・スズキ君の三人が割合深刻に考える中で、只一人ダズトだけがお酒を飲む手も止めずに鼻を鳴らした。

(けっ……どうせロクな理由じゃねぇぞ)

 一瞬、部屋中がシンと静まり返る。リィナは何処か遠い目をしながら、また一口だけカクテルを啜った。カクテルで湿らせた唇から遂に真相が語られる。

「ほら~こんなに凄い魔法の才能と美貌を持って生まれたら、世界征服の一つや二つしてみたくなるじゃない?」

「!?世界征服!?」

ほぼ全員が声を揃えて復唱した。勿論、驚きの余りにである。酔った上での冗談ともとれるのだが、リィナの口調は真剣その物であった。たまらず一同はあんぐりと口を開ける。ダズトのみが「ほれみろ」と言わんばかりに、その様子を横目で見ながら酒を飲み続けていた。

「そうよ~、あのまま普通に生活してても親の決めた何処(どこ)かの領主様と結婚するか、良くて魔法機関への出向・留学くらいだもの。……でも、そんなのつまんないわ」

 ダズト以外の者は全員開いた口が塞がらない状態であったが、リィナは構わずに語を継いでいく。

「ありきたりな言葉だけど『人生一度きり』だもの、そう思って十六の頃に家を出奔したのよ。……只そうは言っても、か弱い可憐な少女が独りで世界を従えようにも限界があるのよね~。そこで世界征服を標榜する組織『ダーク・ギルド』に入った……て訳」

(……改めて聞くとつくづくイカレた女だな。そもそもか弱くも可憐でもねぇだろ)

よもやダズトに気狂い呼ばわりされているとは露知らず、リィナは残ったカクテルを飲み干した。

「カッコいい……!」

「ぱねぇス!姉さん!」

一呼吸置いてヤマダ君とスズキ君から、リィナをリスペクトする声が上がる。そしてロキからも敬服の言が口を衝いた。

「ふぅむ世界征服ですか……スケールが大き過ぎて私などでは気後れしてしまいますが、リィナさんなら或いは成し遂げられるかもしれませんね」

三人の言葉を耳にして今度はダズトが驚愕した。酒を飲む手が止まり、信じられぬ目付きで訝しむ。

(本気で言ってんのか?コイツら……まさかな、酔っ払ってやがるんだろう)

言葉にこそしなかったが、最早ダズトは誰も信用出来なくなっていた。この場でまともなのは自分だけ、全員酒で正体を無くしているのだ……と、そう思う事にする。

「……ではリィナさんに特段、暗い過去がある訳ではないのですね」

「?無いわよそんなの。以前はそれなりに(きら)びやかな生活だったし、パパもママも良い人だったわ。……それでも戻りたいとは全く思わないけどね~」

ホッと一安心し胸を撫で下ろすロキ。しかしリィナは難しい顔をして眼を閉じると、グラス内で溶けて小さくなった氷を一つ口に含んだ。どうやらリィナにとって、絢爛たる生活は性に合わなかった様である。

「お金持ちエピソードとかあるんですか?」

「宝物の話とか聞きたいです!」

二人のリクエストにリィナは氷を舐めながら思索した。丁度、舌の上で氷が溶けきった時、何か思い付いたのか自分の胸に手を当てる。

「そうね~……あ、このブローチ。家を出る時に勝手に餞別として貰ってきたけど、国の重要文化財にも指定されていた家宝なのよ。多分ヤマダ君やスズキ君の生涯賃金分くらいの価値は有るわね」

 リィナが常に肌身離さず身に付けており、万が一の為に予備魔力を蓄えているこのブローチには、そのような云われがあったのだ。

「ひぇっ!生涯賃金!?視るのも怖い!」

「……さっき天文学的お値段の魔宝珠の話してたじゃない」

「あれは僕では想像も付かないから逆にいいんですよ!でも、具体的に生涯賃金なんて言われると……僕の人生と同じお値段?……ひいっ」

ヤマダ君は身をたじろがせ戦慄する。かつてない高価な品物に完全にビビってしまったのだ。対してスズキ君はというと、そのリィナのブローチに関心を寄せてしげしげと眺めている。

「前から思ってたんですけど、それ魔力そのものを蓄えておく魔道具ですよね?」

「そっかスズキ君は分かるのね……そうよ、これは魔力を蓄積する魔道具でもあるの。でもちょっと前に溜めておいた魔力を殆ど使っちゃって、今はチャージ中なのよね……誰かさんのせいで☆」

リィナの声はすこぶる明るかったが、チラリとダズトを見たその眼は笑っていなかった。

 リィナからの視線に気付いてはいるものの、今やダズトは完全に無視を決め込んでおり何の反応も無い。

「なる程なあー、魔法使いの人には便利な魔道具だ」

(たま)らなく魔道具に目がないスズキ君は、図らずもリィナの胸に釘付けになった。リィナは少女じみた顔を再び妖しく光らせ、スズキ君を茶化しに掛かる。

「アハ♪スズキ君、レディをそんな目で視ては失礼よ☆それともお姉さんのお胸がそんなに気になる?」

「……っ!」

リィナがこれ見よがしに胸を寄せると、スズキ君は恥ずかしさの余り、顔から湯気を噴き出して咄嗟にロキの陰に隠れた。

「いやはやリィナさん、健全な青少年を(たぶら)かすのは感心しませんね」

「あはは!ごめんなさい♪こんなにウブだとは思わなかったの☆」

ロキに注意されたリィナは、笑いつつも顔の前で両手を合わせる。

 最後にダズトが、誰にも聴き取れぬ程の小さな声でボソリと呟いた。

「……そんな大したモンでも無ぇだろうが」

それがブローチなのか、はたまたリィナの胸を指しているのか。その意味はダズトしか知る(よし)が無いのであった。



 宴も(たけなわ)。その後も宴会は大いに盛り上がりを見せ、楽しく親交を深めていった。そうして夜も更けていき、とうとうラストオーダーの時間とな相成る。全員が最後の飲み物を注文し終えた、その時であった。

「そう言えば……スズキ君、こないだ買ったあの魔道具は持って来ていないのかい?」

「うん?この前買った魔道具……あっ!」

「何よ、面白い物でもあるのかしらん?」

急にざわつき出した二人、スズキ君が(おもむろ)に腰のポーチをまさぐり出す。

 この様な行為、普段の一行であれば決して警戒を怠らないのだが、どうせこの二人であれば何もないと油断しきっている。そして実際、警戒する必要など有りはしなかった。

「テケ↑テテン↑、魔力写真撮影機~!」

まるで青い狸を連想させるイントネーション。スズキ君が手のひらサイズの、黒い箱らしき物を取り出した。

「あ~!今流行ってるヤツね♪略してマジカメ。しかも最新型じゃない」

「流石は姉さん、お詳しい。最新型は解像度が段違いなんスよ」

まだ買ったばかりで扱いに慣れていないのか、スズキ君はカチャカチャとマジカメを弄くり回す。

 今の流行りと聞いて気になったロキが、顎を手で覆って仔細を訊ねた。

「その魔道具は何なのでしょうか?」

「これは目に見たまんまの景色を保存しておく事が出来るんですよ!試しに一つ先生を写してみますね」

いきなりスズキ君に魔道具を向けられて、ロキは僅かに緊張した。直ぐにカシャリという音が聞こえ、スズキ君がマジカメの裏面をロキに見せる。

「これは、確かに私!……ははあ、なる程マジカメ……ですか。便利な魔道具ですね、様々な用途に使えそうです」

理解の早いロキはこの魔道具が単なる思い出を残すだけの代物に留まらず、記録するという能力で医療や軍事などあらゆる分野での可能性を秘めている事に気付いた。

「今は持ち合わせてないですけど、魔力感光紙があればこの画像を紙に写す事も出来ますよ」

「ほう、凄いものです」

ロキは感心すると同時に封印されていた十五年、その間の世界の変化に思いを馳せる。事実、ここ十数年での魔道具の進歩は目覚ましかった。

「それを使ってみんなで記念撮影するんですよ!どうですか!?」

「あら~!いいわね☆名案よ♪是非撮影しましょうよ」

ヤマダ君の提案に、リィナは手を叩き喜んで快諾するのであった。


「は?知るか。オレを巻き込むんじゃねぇ、テメェらだけでやってろ」

予想していた通りの答えが、そのままダズトから返ってくる。しかし今回、その返答に対するリィナの更なる返しがいつもと大幅に違っていた。

「……ホントいつもいつも和を乱して、少しはこっちの気も考えなさいよ……!」

珍しく大声を出すリィナの迫力に、ヤマダ君とスズキ君は疎かロキまでも驚いて一歩退(しりぞ)く。

「何だと?リィナ!テメェ……!」

怒気を孕んだダズトの眼光がリィナを射抜いた!しかし今日のリィナはやはり普段と違う!一歩も引き下がる気配が無い!

「はあ?やるの?上等よ!掛かってらっしゃいな!」

リィナはかつて無い程に強気であった!付き合いが長いダズトでさえも、この様なリィナは今まで見た事が無く不審に思う!

(……!今気付いたがコイツ、完全に目が据わっていやがる……!)

 今までは楽しく飲んでいた為に気付かなかったが、リィナはすっかり出来上がっていたのだ!酔っ払ってリミッターの外れたリィナの両腕に凄まじい魔力が収束されていく!

 これほどの魔力で魔法を撃たれたら、この店は間違い無く爆散してしまうであろう!そうなれば明日の任務に支障を来すのは確実!ダズトの脳裏に最悪の事態が(よぎ)った!

(いっそ、どさくさに紛れてヤマダとスズキを始末すれば釣りが来るか!?……いや、リィナも相手にしてそれは難しい、逃げられるのがオチだ……クソッたれ!)

「おい、リィナ落ち着け!分かった!写真くらい好きに撮らせてやる……!」

結局ダズトは、酔っ払ったリィナを落ち着かせるくらいしか方法を思い付かなかった。これでダメならどうするか……とダズトは焦燥する。

「あら、そう……もう早く言ってよ~☆あはは!あ~面白い♪あはははは……ヒック、あはははは!」

幸いな事にリィナは簡単に魔力を引っ込めてくれた。変わって今度は何が面白いのか、大口を開けて笑い出す。笑い上戸というやつであろうか。

「おい!ロキ!水を持って来い!」

「あっはい!ただ今!」

ダズトはリィナの肩越しに指示を飛ばし、ロキにいち早く水を持って来るように叫んだ。ハッとしたロキがすぐさま回れ右で駆け出す。

「おっと、すみません先生!ついでに僕とヤマダ君の分もお願いします」

ロキの後を追ってスズキ君から追加注文が入り、振り返ったロキが了解して頷いた。

「分かりました。では、お冷やを全員分ですね」

「早くしろ!」

苛ついたダズトの声がロキを急かす、慌てたロキは大急ぎでお冷やを取りに向かうのであった。


「タイマーをセットして……これでヨシ!じゃあ(みな)さんいきますよー!」

スズキ君が小走りで一同の列に入って来ると、それぞれが思い思いのポーズを決めてマジカメのレンズに顔を向けた。

「そろそろかな!……せ~の!」

ヤマダ君の掛け声と共にカシャリと音が鳴る。

 早速スズキ君がマジカメの裏を見て確認すると、(みな)が笑顔で写っている中で、ダズトだけが仏頂面でそっぽを向いていた。

「あらダズトったら、()~ね~」

「ふん!写真には写ってやったんだ、文句を言われる筋合いはねぇぞ」

往生際の悪いダズトにリィナは呆れるも、ダズトはその仏頂面のままでぼやく。

「ま、いいわ☆むしろダズトらしいもの♪」

それでもリィナは撮れた写真をもう一度見るや、嬉しそうに口元を緩め満足気であった。


「今日はありがとうございました。お疲れ様です!」

「出来た写真は、次お会いした時にでもお渡ししますよ」

 店を出た後、ヤマダ君とスズキ君はそう言って一行と別れを告げる。二人は転移用の魔宝珠を放り投げると、文字通り光に包まれ帰っていった。

 リィナとロキも二人にお礼を言ったものの、あの写真を手にするのは難しいと思っている。次に出会うのは恐らく、明日の昼過ぎになるであろう。そしてその時は、命をやり取りする戦闘の真っ只中であるのは容易に想像出来た。


 帰り道、完全に酔い潰れたリィナはロキの背中に負ぶわれて帰路に就く。

「いやはや……しかしあの二人と戦うのが、少しやり(づら)くなって仕舞いましたね」

背に柔らかな温もりを感じながら、ロキは隣を歩くダズトに話し掛けた。

「関係無ぇ、立ち塞がるなら殺す……それだけだ」

ポケットに手を突っ込んだまま歩くダズトが、ロキを一瞥するとぶっきらぼうに応える。その通りダズトは戦場で合間見えれば、情け容赦無く剣を振るうであろう。しかしそれでも、ダズトが彼らを嫌っている訳では無いという事が、言葉の端々からロキにも伝わってきた。

「……運命とは時に残酷なモノですからね」

ロキが言うと妙な説得力を感じさせる。続けてロキは「ふぅ」と大きな息を()き出した。

 その拍子にリィナが寝返りを打つと、やたら幸せそうな寝顔をダズトの方へ晒す。それを見たダズトは何故だか無性に腹が立ってきた。

「大体リィナが甘ぇから、こんな面倒臭ぇ事になるんだよ」

すやすやと眠るリィナを苦々しい顔で睨む。

「思えばリィナさんが酔っ払った時、ダズトさんが解毒魔法でアルコールを抜いてあげれば良かったのでは?」

「……そうか、その手があったか……いや、わざわざ魔法で酒を抜いてやるのも癪だな……チッ!」

「……もう、ダズトったら……あんまり飲み過ぎちゃダメよ~……」

ダズトの舌打ちに反応したリィナが寝言を喋る、その内容にダズトは眉間に一際大きい皺を寄せた。意識せずとも堅く拳を握り、自分の顔の前まで持ってくる。

「おい、ロキ。コイツぶん殴っていいか?」

 流石のロキも、これには苦笑いで首を横に振るのであった。



 一時の休息を終えたダズト達、明日は遂に決戦の地へと赴く事になる。大陸を半周以上掛けて辿り着いたその先に、一体どのような結末が待ち構えているのだろうか。

 ロキとサリバンの決着の行方。今日の友は明日の強敵、ヤマダ君とスズキ君。もしかしたらまだ見ぬ手強い相手も居るのかもしれない。

 だがいずれもダズトには関係無い。全ての敵を切り払い「神の欠片」を手に入れるべく、ダズトはその剣を抜き放つのだ。それはまさしく、脅威と暴虐を以て無道を行くかの如く。

 もしこの世界に本当に神が居れば、この様な凶悪を決して許しはしないであろう。しかし、この世界の神の一部は(むし)ろダズトと共に在るのだ。これがどれ程恐ろしい事なのか、それを知るのは極一部の者達だけである。

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