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そして闇の栄光へ  作者: 瀬古剣一郎
序章
1/24

始まりの日

 漆黒、暗闇、虚無。熱さも寒さも感じず、どちらが上でどちらが下なのかも分からない、星のない宇宙とでも言えばいいのだろうか。

 男は考えた、此処はどこでいつから居るのか。どこから来ていずこへ向かうのか……そもそも自分は何者なのか。

 ふと気付くといつの間に現れたのであろうか、目の前に拳大(こぶしだい)の炎が燦々(さんさん)と揺らめいていた。鮮血のように真っ赤に輝く炎はどこかしら禍々(まがまが)しさすらも感じられる。はたして、男にとってこれは希望の光か、それとも地獄の炎か。

 しばらくの間、男は炎を見つめていたが不意に手を伸ばし炎を掴み――そのまま握り潰した。……残ったのは完全な闇、無音の空間。しかしこの男の声が静寂をかき消した。

「オレに指図するんじゃねぇよ」

大きい声ではないが力強く、だがぶっきらぼうに男が(つぶや)いた。


 水平線状に光が走り徐々に広がっていく。男は自分が目を覚ました事に気がついた。

(……夢……か、……ふん、くだらねぇもんを見たな)

ボロボロのソファに座り両腕を組んだ体勢のまま男は顔を上げる、眼下には同じくボロボロのテーブルの上に安物のウイスキーボトルと空になったグラスが置かれていた。男は右手で髪をかき上げながら左手でボトルを手に取りグラスにウイスキーを注ぐ、グラスの七割程の所でボトルは空になった。

 部屋の外でバタバタと音がした。男は少し顔をしかめて空になったボトルをテーブルに置く。ほぼ同時にバタンッと背後で扉が開き女がひとり入ってきた。

「あら、ダズト。てっきり自室に籠もっていると思ってたけど……リビングに居たのね、珍しい」

 ダズトと呼ばれたこの男、歳は二十代半ばだろうか、空色の短髪に少し浅黒い肌、精悍な顔立ちではあるが左頬に一条の刀傷が付いている。しかしそれ以上に目を引くのは、まるで名工に研ぎ澄まされた刃物の如く鋭い眼光であった。

「リィナか……何の用だ」

ダズトは振り向きもせずにそう答えると、ウイスキーを注いだばかりのグラスを口に近づけた。

「何って決まってるでしょう?仕事よ、し・ご・と!」

淡い薄紫色をした背中まで届く長い髪のリィナと呼ばれた女性は、大きな目をさらに大きくさせて呆れたような仕草でダズトに近づいていく。歳は二十前後だろうか、一見するともう少し幼そうにも見えなくはないが、どこか妖艶な雰囲気も感じられる――そんな女性であった。

 リィナが真横に来てようやくダズトは目線だけを声がする方へむけた。

「ついに私たちにもきたわよ『例のモノ』の回収指令が!」

「別にオレは興味ねぇな」

やや興奮気味のリィナとは対照的にダズトは安物のウイスキーを口に運びながら冷ややかに応じた。

「私もあなたが興味があるかどうかなんて興味ないわ、でも任務はしっかり果たしてよね。この件は絶対今期のボーナスに響くんだから☆それとも自信がないのかしら?」

リィナは一瞬ムッとしかけたが、すぐに笑顔を浮かべてやたら明るい口調でダズトを焚き付けにかかる。妙な反撃にあいダズトは不機嫌そうに舌打ちして残ったウイスキーを一気に煽る。飲み干したグラスをテーブルに置いて同時にやおら立ち上がると、(きびす)を返してリィナが今入ってきた扉へと向かった。

「オレのやり方はオレが決めるからな、足引っ張るんじゃねぇぞ」

リィナの脇をすり抜けざまにそう言うと、ダズトはそのまま部屋を出て行ってしまった。

「その自信、当てにさせてもらうわよ」

ダズトが部屋を出る直前。本人に聞こえたかは分からないが、リィナはふふっと笑いながらダズトの背中に声を投げ掛けた。

ひとり部屋に残されたリィナであったが直ぐにハッとする。

「ちょっと!どこ行くか知ってるの?」

まだダズトに受けた指令の内容を何一つ語っていないことに気付くと、リィナは急ぎ部屋を飛び出しダズトを追いかけて行った。

「待ちなさいよ~!」

リィナの声の響きが消えていく、部屋には壁掛け時計の振り子の音のみが静かに鳴り続いていた。彼ら、そして世界の運命が動き出した事を暗示するように。

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