そこで魔王を拾いました。
とある魔のつく王様は、魔法に失敗して集合住宅団地の近くにある公園で途方に暮れていた。
(ここ…どこだよ……)
魔素も魔獣もいない。気配すら感じない。
人間らしい姿はチラホラと見えるが、遠巻きに何ともいえない関心を向けられるだけで近寄ってこなかった。
(こす…ぷ、れ…? ふしん、しゃ……?)
奇妙なワードをいう人間達。正装ではないが、変な格好はしていないはずだが? と首を傾げる魔のつく王様は声をする方を頭を向けると小さな子連れの女性らは逃げていった。
(仕方ない。部下が痕跡を辿って迎えに来るまで待つしかあるまい)
魔のつく王様は、どっかりと公園のベンチに座る。
異変に気付いた部下がゲートを繋げてくれることを信じ、迎えが来るのを待った。
しばらくして、魔のつく王様のもとに来たのは、紺色の軍服を着た二人組の男性だった。
(初めて見る軍服だ。どこの国だか検討がつかん)
各国に部下を派遣する際、一応どこの国の軍服であるか頭に入れている魔のつく王様であったが、どの国との合致しなかった。
「ちょっとそこの…君……ここで何をしてるんだ?」
紺色の軍服を着た片方が声を掛けてきた。
少し良い淀んだのは、何かこう自分から発する威厳を感じたのかもしれない。
二人から殺気を感じなかったので、魔のつく王様は正直に話す。
「部下が来るのをここで待っている」
「部下、ですか。勤め先は?」
(勤め先…働いてる場所か……そうだな……)
「城だが?」
厳密にいえば『魔王城』と人間達は言っているらしい。
「は、はぁ…城、ですか……」
「自宅警備員……無職か」
「いや、城で国を守っている」
「このご時世ですから恥ずかしいことではないですよ」
なぜか魔のつく王様は、慰められ、二人組の男性に正直に質問に答えた方がいいと言われてしまう。
(本当のことなのだがな)
何とも釈然としない。が、二人組の男性は続けて口を開く。
「ここには何しに?」
「偶然立ち寄っただけだ」
「自宅は近いんですか?」
「どうなのだろうな。部下なら分かるかもしれないが」
「あなたの部下はいつ頃来るのですか?」
「さぁな。正確な時間までは分からん」
実際のところ知らんとしか言いようがない。
「あの…すみませんが、ちょっと署まで同行を願います」
魔のつく王様の言質に判断が迷った二人組の男性は、公園から別の場所…『署』という場所に連れて行こうとした。
(困ったな。あまりここを離れると部下の行き違いになる。それに人間はけっこう金を吹っかけてくれるからなぁ)
「ここからは離れならぬ」
「悪いですが、通報がありましてな。それに署の方で家族に連絡をいれるから…ささ、立って」
「だ、だが……」
魔のつく王様は、連れて行かれそうになる。
(あまり強硬手段を取りたくはないが………致し方あるまい)
男性らを地面に伸し、いったんどこかへ身を潜めようと考える。
まずは、近くにいる男性から行動に移そうとした時だった――。
「とーちゃん」
魔のつく王様達の方に駆け寄ってくる小さな影があった。
「こんなとこでなにやってんだよ、とーちゃん!」
見知らぬ子供が話しかけてきた。
子供と目が合う。どうやら、自分のことをとーちゃんと呼んでいた。
(子供をもった覚えはないが……)
しかし、これは好機だと思った魔のつく王様は。
「よくぞ! 迎えに来てくれた我が部下よ」
「とーちゃん、スマホ持っていけよな」
「ワハハハ、すまんすまん」
そんなやり取りを見た二人組の男性は少し呆れた様子で聞いてきた。
「君は…この人と家族なの? 部下って言われてるけど」
「うん! わ…ぼくのとーちゃん。売れない役者で今役になりきっている」
「どこに住んでるの?」
「そこのアパート!」
公園を出てすぐにある団地のアパートを指さした。
二人組の男性は顔を見合わせる。
「あまり不審な行動をしないように」と魔のつく王様に言ってその場を去っていった。
(オイオイ…平和ボケしているぞ。もし、奴隷商人だったらどうするんだ)
だが、こっちは助かったと魔のつく王様は思い、あらためて子供に向き直る。
「人の子よ。助かった」
「おっさん、ソレ、コスプレ?」
「こ、すぷれ? 我のことをいっているのか?」
「そういうロールプレイはいいから」
「ろー…る?」
「あ~~いいや。おっさんって悪い人? 悪い人じゃなかったら、何かくれよ。お金か食いもんが特にいいな」
「残念ながら今持ち合わせが無くってな」
本物の部下が迎えに来るまで待ってほしいと子供に話すと。
「おっさん…二時間以上ここで待ってるけど誰もこないじゃん。わ…ぼく、そこで見てたよ」
「ふむ。何かあったかもしれん」
「そう? もしかしたら、おっさん捨てられちゃったかもしれないじゃん」
「う~む、あやつらオレを捨てられるんか」
「その人らが来るって信じてるんだね」
「まぁな」
(ちょっとやりかねないと思ったが、そこは部下を信じないとな。宰相辺りは慌てるだろう。しかしながら、多忙だからな。いつ気付くかが問題だ……)
不安な顔にならないよう、魔の頂点に立つ身として威厳が保てないと平然な面をし応えた。
「オレの部下は優秀だからな」
動揺して一人称も『素』になってるが、気付かれてなければ小さな変化に過ぎない。
「そっか。でも、ここにずっといるとまたつうほうされちゃうよ?」
「それは困るな。たが、ここも離れるわけにはいかぬし」
「だったらさ、おっさん。わ、ぼくんちに来ない?」
二人組の男性に言ったアパートが本当に子供の家だと言う。
「わ、ぼくんちから公園見えるし、おっさんの部下? が来たらすぐわかるよ」
子供の提案に魔のつく王様は迷う。
(さて、どうしたものか。罠の可能があるしな)
上に立つ身。御身の安全を最優先になさいと脳内で宰相が注意してくる。
(いつ迎えにくるか分からないしな。せっかくご厚意だ。人の子の提案をありがたく受け入れよう)
魔のつく王様は、暇が嫌いだった。
山で遭難すれば、きっとその場に留まらずあっちこっちに探索するタイプの部類に入るであろう。
「うむ。人の子よ。家にお邪魔させてもらうぞ!」
魔のつく王様は、ワクワクしながら人の子についていく。
なお、この物語は、現実世界に転移した魔王と親に捨てられた少女が出会ったお話である。
ここまで、お読みいただきましてありがとうございました。