第3話 桜台旅人(魂)と神様と死の真相
死後の世界にて……………
『……それで、教えていただけますか?』
「うむ、もちろんじゃ。」
僕、桜台旅人は神様との対話の末、僕の死の真相について教えてもらえることになりました。
これで、あの女の子が何者かも知ることができそうです。
僕としては、無駄死にでもいいからトンデモストーリーが聞きたいですね。
「……………………」
おっと失礼。
緊張すると余計なことを考えてしまうのが僕の悪い癖でして。
「……来世までに直しておいた方がよいぞ。」
なるべく善処する意向を表明したく思います。
「あと、無駄死にでいいなんていうでない。それは、他の魂に対して失礼じゃぞ。」
『いや、それは少しでも気を紛らわしたいからですよ。僕も多少なりとも後悔していますし、事故ならともかく楽しむために殺したのなら僕はその神様を許せません。もし、そんな神様がいたら、僕の来世はダニでいいので、その神様を今すぐ地獄に送ってください。』
「……………………」
…絶句されてしまいました。まあ、本心ですからね。
オブラートに包んでも仕方ありませんし。というか隠してもバレそうですし。
と思って包み隠さず言ったんですけど少しストレートに言い過ぎましたかね?
……まあ教育にはよくありませんね。
『すみません、少しストレートに言い過ぎました。』
たっぷり10秒ほど間があったあと、
「……それで、話しても良いかのう?」
やっと解凍された神様に確認されました。
『お願いいたします。』
コホン、と咳払いを一つした後、
「その女の子はわしのひ孫にあたる子でのう。お主が死んだ日、あの子が下界、すなわち現世じゃな、を見たいと言い出した。」
ほう。なるほどなるほど。
「あの子の両親と両祖母はまだ早いと反対したのじゃが、わしと両祖父は何事も経験じゃ、と賛成したのじゃ。」
あ~、なんとなくわかってきましたね。
「わしは、ここの神々を統べる存在でのう。
わし自身は、別に気にしておらぬのだが、あの子の両親がこのことを気にしてのう。わしが言うならと、半ば無理矢理納得し、下界を見に行く許可を出した。
あの子はよほど嬉しかったのか、すぐさま降りて行ったわい。」
『そして降りてきた場所が……』
「そう、あの踏切だったのじゃ。」
『それも内側に、ですか。』
「そうじゃ。」
これで、女の子の正体と、突然現れた理由と、何故踏切から出なかったのかが判明しましたね。
まあ、踏切をよく知らない人(?)からしたらどっちが安全なのか分からなくてもおかしくないですしね。
でも、まだ疑問が残りますね。
『それで、その女の子が現れた時に不可解な現象が起きたのは何故なのですか。』
「それは……」
それは…………?
「明確な理由はわしらにも解らんのじゃ。」
ズコーーー!!
はい、お約束ありがとうございます。
「お約束とはなんじゃ?」
『うーん、日本のお笑いのルールというか。』
「……?」
『まあ、お気になさらず。』
「気になるんじゃが……」
『とは言っても、僕も上手く説明できる訳ではないですし………。』
「はあ、まあいいか。」
『それで、さっき「明確な理由は」と仰っていましたが、ならば大まかな理由はわかっているのですか?』
「おお、それなら解るぞ。」
『なら、その理由を教えて頂きませんか?』
「わかった。その理由としては、あの子が神であることと、あの子が直接下界に降りた事が関係しておる。」
ほう。あの女の子が神であることと直接下界に降りた事ですか…………。
「まず1つ目の、あの子が神であること、じゃな。何故かは解らんのじゃが、わしら神が下界に降りるとその周辺、だいたい……降りた地点を中心として半径5メートル、といったところかの。その範囲内で確実に時空が歪むのじゃ。」
ほう?何か話が難しい方向に……
「まあ、要するに神が降りたら変なことが起きると言うことじゃ。」
あ全然そんな事なかったわ
「時空が歪むといっても、主にそれは時間が数十秒から数十分間進むか、逆に巻き戻るか、物体が転移…言い換えればテレポートするか、のいずれかがほとんどじゃ。たまに、時間を超えてテレポートする事もあるがの。」
『すみません、質問いいですか?』
「うん?よいぞ。」
『その、進んだり、巻き戻ったりする時間が、「数十秒から数十分」と言ってましたが、何故そんなに差があるのですか?』
「これに関しても、詳しい理由は解らんのじゃが、だいたい神の格、まあ神としての力の強さと考えてくれ。その神の格が高ければ高いほど時間が長くなるのじゃ。」
『なるほど。もう3つほど、質問いいですか?』
「よいぞ。」
『一つは、その神の格というのは時空が歪む範囲にも関係しますか。』
「関係するぞ。」
よし……
『もう一つは、その範囲内にいた人はその現象に気づきますか?』
「いいや、気づかんのう。」
よしよし……
『最後に、その時空が歪む範囲外にいた生物は、その時間が巻き戻るなどの現象を視認し、その現象に干渉し、されますか?』
「その通りじゃ。」
オッケー!予想通りです。
「ところで、何故こんな質問を?」
……………………
そういえば、言ってませんでしたね。
……というか相手の質問の意図も知らずに答えるとか知らないところで騙されてそうですねえこの神様。
「そ、そんなことないわ!第一、話してもいいことだけを話しておるわ!」
だそうです。
「それで、何故こんな質問をしたのじゃ?」
『今更ですか。』
「い、今更でもじゃ。」
それはまあ、言うなれば……
『ちょっとした答え合わせのために、です。』
フフッ、キマった……
………………………………
コホン。
皆さんも、さっきから何を言ってるんだ、と思っている筈なので(というかそうあってほしいですが)説明すると、
さっきの3つの質問で一連の現象の全ての謎が解けます。
何で解けるのって?そりゃ考えたのが作者だからですよ。
……………………
突然のメタ発言失礼しました。
……………………
すみません許してください。
……
いいですか。ありがとうございます。
えーと、ここで第一話の怪奇現象をおさらいしますと、
まず、いつもより踏切がいつもより早く鳴り始める。
次に、いきなり踏切の内側に女の子が現れる。
最後に、僕が通過した筈の観光特急に跳ねられる。
と、言う順番ですね。
いやいや、それはわかっているんだよといいたくなる気持ちもわかります。
ですが、もう少しお付き合いください。
まず、その女の子が神様であることと、怪奇現象が起こる理由は判明しましたね。
そして、踏切から観光特急までの流れは「時間が巻き戻った」と、考えれば説明がつきます。
ヒントは、「通過した筈の観光特急が走ってきた」事と、「本来最後尾の車両に点灯する筈のテールランプが先頭車両に点灯していた」事ですね。
これは、別々に考えると2つの怪奇現象が同時に起きているように見えますが、時間が巻き戻ることに着目すると?
つながりましたね。
そうです。少し前に通過した観光特急が、そのまま戻ってきただけだった、ということですね。
そして、残り二つの質問です。
これで、全ての謎が解けます。
1つ目は、「肝心の女の子に近い大人は一向に声をかけようとしていません」のところです。
つまり、踏切に近かった人は、時が巻き戻った範囲の内側に居たのでしょう。そのため、その現象自体を認識していなかった、ということですね。
ここで1つ伏線回収すると、
同シーンに「いや、あれはもしかして……」というところがありましたね。
(忘れた、または知らない、という人は第一話を参照してください。)
実は、あの続きを言うと、
「いや、あれはもしかして、存在自体に気づいていない…?」
なんですよ。
よって、踏切に近かった大人が何もしなかったのは、時空が歪んでいる範囲の中だったため、そもそも女の子を視認していなかったから。
ということですね。
二つ目は、「何故僕や周りの人が女の子を視認できたのか」ですね。
この謎は、最後の質問で解けましたね。
つまり、1つ目の謎とは逆に、僕達がいた場所が時空が歪んでいる範囲外だったため、女の子を視認できた。
ということでしょう。
最後は、「何故僕が女の子を助け出せたのか」と、「何故僕が観光特急に跳ねられたのか」ですね。
この謎も、最後の質問で判明しましたね。
そう。怪奇現象を視認できた生物は、その現象に干渉出来るのです。
よって、僕が女の子を助け出せた理由も、観光特急に跳ねられてしまった理由も、解けますね。
以上、答え合わせでした。
「お主は死んでしまったから知らぬじゃろうが、実はお主が列車に跳ねられたあと、あの現象はすぐに終わったのじゃ」
あ、そうだったんですか。
「そして、あの一連の現象での死傷者はお主だけじゃ。」
そうですか。なら良かったです。
「さらに言うと、あの子は神じゃから列車に轢かれる程度では傷1つつかぬ。」
おっと、ここで新情報ですね。
この時点で、僕が完全な無駄死にであることが判明しました。
「我々神は、わしらが下界に降りた場合に起こる事を理解しておる。もちろん、他の生き物にどういう影響を与えるか、もな。」
もちろん理解していないとは思わないですが。
「だから、わしら神は他の生き物に影響しないところ……要するに上空じゃな、それもかなり高いところに降りるのじゃ。そこから、姿を消すなり準備をして、下界に向かうのじゃ。」
理解していると言うことは、ある程度の対策はされていて当然でしょうし。
「それは、当然あの子も分かっておった筈なのじゃが……。」
まあ、子供は興奮すると突拍子のないことをするのはこちらでもあるあるですからね。
それより、僕は1つだけ確認したいことがあるのです。
『あの子が直接下界に降り、混乱を引き起こしたのは、故意ですか?それとも過失ですか?』
「…それは……わざと騒動を起こしたか、そうでないか、と言うことか?」
そうですね。間違っていませんが、もっと言うのなら……
『どちらかと言えば、騒動を起こすつもりで故意に直接降りたのか、過失で直接降りた結果騒動が起きたのか、ですかね』
「ふむ……」
神様はしばらく考えていましたが、やがておもむろに頷くと、
「あの子の反省具合を見るに、その二択ならば恐らく「過失」であろう。」
そうですか。
「さっきも言ったように、あの子は下界に行くのが楽しみ―――ただそれだけじゃった。決して害意はなかった。ただ、あの子わしらの想像以上にはしゃいでしまった結果、今回の騒動を起こしてしまったのじゃ。」
なるほどなるほど。
「それに、今回の騒動はわしにも責任がある。まだ子供のあの子を一人で行かせたのは、わしじゃ。じゃから、頼む。身勝手な事は重々承知している。わしの事は幾ら恨んでもらっても構わない。じゃが、あの子は、あの子だけは、許しては貰えぬだろうか。」
『許しますよ。』
「いや、そう簡単に許せないのは重々承知しているが、どうか…………」
『いや、許しますって。』
「わしの事はどんなに恨んでも構わない。じゃが、あの子だけは…」
『だから、許すって言ってるじゃないですか。』
「頼む。この通りじゃ。許し……許す?お主、今許すと申したか!?」
『はい。だから、許しますって。』
「……本当かの?」
『ここで嘘ついてどうするんですか?』
「いや、その通りなのじゃが……1つ聞いてもよいか?」
『いくつでもどうぞ。』
「お主が……あの子許す理由を教えてほしい。」
『理由、ですか。そうですね…………いくつかありますが、やはり一番大きいのは過失であったことですかね。』
「ふむ?過失であったことが一番大きな理由なのか?」
『はい。』
「人の価値観にあれこれ言うつもりはないが、また、何故過失であったことなのか聞いてもよいか?」
『僕の価値観的に、最も許せないのは自分の快楽のために他人を傷つける事です。なので、逆に他人を傷つける気はなく、違う目的のためにした行動で人を傷つけてしまうことは基本的に咎めることはありません。』
まあ、余程危険とかだと流石に注意しますけどね。
「そうか……そうか。」
『それに、あの子も今回の事をたっぷり怒られて、反省しているのでしょう?』
「そうじゃな。少なくともわしの目からは反省していると思う。」
『なら、僕からは特にありません。まあ、強いて言うなら、次からは気をつけてねくらいです。』
「お主の寛大な心に感謝する。」
いえいえ。
「それで…………」
うん?まだ何かありましたかね?
「実は……もう1つだけお願いがあるのじゃ。」
『なんでしょうか?』
はて?何か頼まれるようなこともうない筈だと思うのですが……?
「実はの?少し言いにくいのじゃが……あの子がお主に会いたがっているのじゃ。」
え?
自分を殺めた犯人(神)との初対面……!
そこで旅人のとった行動とは……!?