第1話 桜台旅人と女の子と死
僕は桜台 旅人、高校2年生です。しがない撮り鉄です。
青春真っ只中の高2ですが、運動部で汗を流す訳でもなく、塾で勉強に励んでいる訳でもなく。
帰宅部で、学校が終わったら即直帰からの写真撮影です。
とはいっても、成績は上位50位以内(300人中)に入っているので、基本的に親に文句を言われることはありません。
たまに、雨の日に撮影に出掛けてびしょ濡れで帰ってきたときは叱られますけどね。
…………
僕ははこれでも撮り鉄歴12年(現在17歳)で、写真の腕には自信があります。高校生ではありますが、
鉄道の写真集や雑誌などに自分の写真を載せてもらったこともあります。(趣味兼おこづかい稼ぎです)
なので、一応プロに片足突っ込んでます。まあ、クラスでこのこと知ってるの2人くらいですけど。
……………
撮り鉄と言っても、撮影スタイルは十人十色。
僕の撮影スタイルはいつも同じ場所に立って、ひたすらシャッターを切るものです。
もちろん他の人の迷惑にならないように撮影していますし、
線路内に入ることも怒鳴ることもしません。ほんとですよ?
最近ニュースになっていますが、あんな奴ら撮り鉄以前に鉄道ファン以前に人間として終わっていますからね。同じ鉄道ファンとして頭が痛いです。お前らのせいでこっちまで白い目で見られるんだよ!
お!ま!え!ら!の!せ!い!で!
全く…………どうにかなりませんかねぇ、ほんとに。
「はあ…」
思わずため息が漏れます。
………………
さて、話を戻しますと僕は今日も今日とて写真撮影。
いつもの踏切に向かいます。この踏切は、列車の本数が多い二路線の合流地点にあります。
なので、通る列車の数も種類も多いので、僕以外にも撮り鉄さんが二人ほどいます。
ちなみに、10年前から僕のお気に入りスポットでもあります。
「高さと……向きも……よし、オッケー。」
無事にいつものポジションにつけたのでカメラを回す…………といきたいのですが、今日は友達の鉄道ファンの少年のために動画を回します。
今は帰宅ラッシュ時なので、かなりの頻度で列車が通ります。
なので、通過する時間が噛み合って一度閉まると5分程閉まりっぱなしになるタイミングもあるんですよ。
このタイミングがこの踏切が「開かずの踏切」と呼ばれて、地元民から煙たがられてる所以なのです。
まあ、僕はそのタイミングを狙っているんですけどね。
そして、僕の記憶が正しければ次がそのタイミングの筈です。
『…カン、カン、カン、カン、カン、カン……』
お、鳴り始めましたね。
今から5分間動画を回しっぱなしにします。
踏切が閉まってから5分間、二路線の上下線合計で20本以上の列車が通ります。
ひっきりなしに電車が通るので動画を切るタイミングがないんですよ。
『…タタン、タタンタタン、タタンタタン………』
最初の各駅停車が来ましたね。
ここから怒涛の通過ラッシュです。
普通から始まり、急行、快速、特急までありとあらゆる列車が通ります。
……サラリーマンがイライラし始めていますね。こっちにきたばっかりなのでしょうか。
まあ、この踏切が「開かずの踏切」と呼ばれているのを知らなければ、そんなものでしょう。
ここの踏切は最後に一際目立つ観光特急が通ってから開き、そのあとは数分間開きます。
その観光特急も1日一往復しか走らないので何気にレアなんですよね。
なので、それがわかっている地元民(僕を含む)はその観光特急が通るのを静かに待っています。
お、来ました来ました。
『タタン、タタンタタン、タタンタタン、タタンタタン、タタンタタン、タタンタタン、タタン』
「……お~~」
なんか文字に起こすとゲシュタルト崩壊しそ……
…………………
コホン。
何度みても壮観ですね~やっぱり。うん。
……………………
いきなりのメタ発言失礼しました。
それはさておき、僕は動画の出来にも、通過ラッシュにも大満足です。
「いや~いつみてもイイな~」
これは少年にあげる前にコピーしておかなくては……!
「♪♪♪」
動画をコピーするためにルンルンで帰ろうとしたとき、
『カン、カン、カン、カン…………』
踏切が鳴り始めました。
「ん?」
あれ?そんな時間経っていましたっけ?
時計を確認します。踏切が開いてから数十秒しか経っていません。
「何でだ……?」
おかしいですね。
本来は数分間開く筈なのに。
何故このタイミングで踏切が?
地元の人も異常に気づいたのか、急に周りがざわめきました。
しかし、異変に気づいていない感じの人も見かけられますね。どういう事でしょうか。
良かった。自分だけが気づいている的な怖い話展開にはならなそうだな。と、頭のどこかで他人事みたいに考えている自分がいます。
「いや違うそうじゃない。」
そんな考えを振り払いつつ、踏切を見ると、
「!?」
女の子が踏切の中で右往左往しています!
周りの大人が呼び掛けていますが、その女の子はパニック状態なのか、キョロキョロするだけで、一向に踏切の外に出ようとしません。
しかも、肝心の女の子に近い大人は一向に声をかけようとしていません。いや、あれはもしかして……
「……!緊急ボタンだ!」
幸い列車はまだ来ていないらしく、視界には写っていないので、すぐに踏切の緊急ボタンを押したいのですが、近くにボタンがありません。
どうにかボタンを押す方法は…………
あっ!
踏切を挟んで反対側のボタンの近くに撮り鉄さんが!これはいけます!
「(お願いします!)」
反対側の撮り鉄さんに「ボタン押して!」とアイコンタクトを送ります。
すると、
「(わかりました!)」
撮り鉄さんが視線に気づいてくれた撮り鉄さんがアイコンタクトで返事してくれました。
すぐさま緊急ボタンへ向かい、押してくれました。
「ふう………」
間一髪間に合いました。
危ないところでした。ほんとに。
ボタンを押してくれた撮り鉄さんにお礼を言おうとした瞬間……
「!?」
強烈に嫌な予感がしました。
何故なら近づいて来る列車が
スピードを緩める気配すらしないからです。
もうボタンを押してから10秒程経っています。
本来は数秒で緊急連絡が来る筈なので、もうブレーキをかけ始めていないとおかしいのです。
「ああもうッ!!」
こうなってしまえば、もう誰かが助けに行くしかありません。
僕は全力でダッシュします。
列車が通るにはあと5秒程ある筈。
なら行ける……!
(間に合えッッ!)
なんとか女の子を拾い、目の前の撮り鉄さん(さっきボタンを押してくれた人)にパスします。
(よし……!)
なんとか間に合い、撮り鉄さんがキャッチしてくれました。
(間に合った!)
と安堵したのも束の間。
ふと横を見ると、
警笛も鳴らさずにトップスピードで突っ込んで来る、
さっき通過した筈の観光特急
の
何故かテールランプのついた至近距離の顔
が視界いっぱいに写され、
………………………
『ドンッッッ!!』
それが、僕が人生で見た最後の景色となってしまいました。
(父さん、母さん、兄さん、少年……)
(ごめんなさい)
…………………………
ああ、僕はどこへ逝くのでしょうか…………