甘ったれた失恋
「あんたのこと、異性として意識したことない」
ぼくの告白を切って捨てた彼女は、いつも通りにサバサバした笑顔で続ける。
「そんなことより、あたし、好きな人がいるんだ」
「……もしかして、ぼくのことだったり」
「しない。その人のことはちゃんと男性として好きなの。だから、付き合えるように協力して」
「今のぼくに頼むのか?」
「親友のお願いも叶えない度量だから、振られてしまうの」
からかう調子で耳をつねられる。
これまでと何も変わらない彼女の態度に、心底ホッとしている。
彼女は物心付く前からの幼馴染だ。
可愛らしくて頭も良い。性格に少々、いや、相当に難はあるが、高嶺の花と言っていい。ぼくにとっては、自慢の親友だった。
そんな彼女のことをいつからか、女性として好きになってしまった。
悩んだ。
彼女と顔を合わせるだけで頬が染まり、会話もぎこちなくなる。
このままではいずれ、友達でいられなくなる。
悩んだ末に、今日、告白することにした。
受け入れられないことは分かっていた。
彼女はぼくを振ってくれる。その上で、今までと変わらず接してくれるはずだ。
そうすれば、恋人にはなれなくとも、また親友に戻ることができる。
なんて、ずるくて情けなくて、甘ったれた失恋だ。
罪悪感を握りつぶすように、力強く胸を叩く。、
「仕方ないな。親友の頼みだ! 喜んで協力する」
「ありがとう。やっぱり、あんたは一番の親友ね」
彼女がにっこりと微笑んでくれる。
ああ。
胸が痛い。
彼女の笑顔がもうすぐ見れなくなるなんて。
--数年後。
「あの二人、ついに結婚するんだって」
「よかった。彼女も元気になってきたから、いい頃合いよ」
「けど、ちょっと羨ましいな。落ち込んだ自分をずっと支えてくれた彼と結婚なんて、まるでドラマみたい」
「わたしなら絶対嫌。幼馴染の親友が心臓を刺されて殺されるなんて」
息子に、親友の名前をつけちゃったりして。