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俺たちは、喫茶店にくる客に、食事や飲み物、デザートを出すことになれてきて、店でも問題なく、人形で過ごせるようになってきた。
今日の賄いは、あんまり甘くないパンケーキにとろけたチーズ、焼いて香ばしい香りのするベーコンと半熟の目玉焼きが、塩と粗挽きの胡椒で味付けられたものが添えてある。
またアイスクリームディッシャーで、丸く綺麗に取り分けられたポテトサラダも鎮座している。
それにミルクたっぷりのコーヒー。紫雫のも同じメニューだ。
ワンプレートに乗ったパンケーキなランチとコーヒーを紅葉さんに渡され、俺と紫雫は空いているカウンター席につく。
普段見かけるホットケーキは、メープルシロップなどバターが乗っていて、甘い印象だ。一口おずおずと口にすると、今まで紅葉さんに作って貰った甘いデザートなイメージを覆された。
ベーコンやチーズの塩分と、目玉焼きがほんのりと甘さをつけてるパンケーキに嘘のように合うのだ。
それら立派な昼食にと姿を変える。
「美味しいです」
俺が言うと紫雫も一口ポテトサラダを口にし、ウットリとした表情で一言。
「マヨネーズ美味!」
「紫雫くんの注視するって点そこだけなの!?」
なんて、呆れたように、紅葉さんが言う。
「食べて1時間ゆっくりしてね」
紅葉さんはそう言うと、カウンターで洗い物を始める。
モグモグと色んな表情を見せるパンケーキに舌鼓を打っていた時の事。
「この辺に野生の狐が姿を見せていて、近隣の畑とか荒らしてるらしい…」
琥珀達を見かけた人間が、言ってるのだろうか…。彼等は約束を守って荒らしてなんかいないはずだし、人間達が俺達の住処や領域に進出して来なければ、山を降りたりしなかったのに。
またこうやって俺達を追い出すのか……。でも、良くしてくれた紅葉さんに迷惑をかけるわけにはいかないし、ここから離れなきゃ駄目なんだろうな。
そうやって諦めかけた時、強めの声が響いた。
「ちゃんと調べてから言ってますか? それ。家で野生の狐を確かに保護していますけど、あの子達にはきちんとご飯あげてるし、裏庭の畑すら荒らさないのに、よその畑を荒らす? 言いがかりにしか聞こえませんけど。カメラで撮ったとか証拠はもちろんあるから言ってるんですよね?」
まさか狐を保護しているなんて寝耳に水な常連らしい男性は、ゴクリと息を飲んだ。
「噂を勝手に推測してしまったよ……。確かに予測で言うべき事ではなかったかな。気を悪くしてしまったみたいで、すまない」
「わかってくれたなら、良いんですよ。今度口にする時は、証拠がある時にしてくださいね? うちの子が間違った事してるなら、躾なきゃいけませんし。他の方にもお伝えいただけると助かります」
そういった紅葉さんの目は笑って無かった。絶対に焔や琥珀、銀を信じてる…。今後気軽にそんな噂を流させない。そういう気迫を感じた気がした。




