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焔達が疑われてから、数週間経った休日の午後の事…。
裏庭にいた俺達が、畑の世話や雑草などの手入れをしていると、俺達を疑った人達や、見覚えのない数人の人々が現れた。
思わず、焔や琥珀、銀の側に駆け寄ってしまう俺。
怯えながらも、牙を剥くべきなのか戸惑っている様子だ。そんな彼らの背を撫でて宥める、今俺に出来るのはそのくらいだ。
静かに様子を伺っていると、紅葉さんが口を開いた。
「なんの御用かしら…? またこの子達を責めにでも来たのでしょうか…?」
いままで耳にしたことがない程、紅葉さんの声は冷たく響く…。
息を飲んで様子を伺っている俺。紫雫は木の上に獣化したままで、様子を見ているようだ。
先日の男性が気まずそうに口を開く。
「紅葉ちゃんに言われて、防犯カメラを設置してみたんだが、狐の姿はなかったよ。適当な憶測であたかも、事実みたいに話して悪かったね…」
「結局、なんの動物の仕業か、わかったんですか?」
「色んな動物が来て荒らしていたね。狸やハクビシン、猿とかね…。ただ狸の親子を見かけたんだが…、痩せ細っていて畑を荒らすのは困るんだが、話が通じたなら…、クズ野菜なら食わせてやりたいと思ってしまったよ。子供がいるせいか、子狸の痩せ具合を見てられなくてな…」
何やら、紅葉さんの視線を感じた。言いたいことがわかる気がしてコクリと同意すると、紅葉さんは満足そうに微笑む。
「家でクズ野菜買い取るから、その時お野菜で…。こちらの方に誘導する事は難しいかしら…? 餌をあげてそれでも荒らす子は、皆さんの仕事上、駆除も仕方ないのかもしれないけど。こちらに来た子達に関しては、私が一条の一族の名にかけて、責任を負うわ」
「承知しました。ではクズ野菜で誘導できない動物は駆除という事で構いませんか?」
「それはそちらに任せるわ。ただしばらく様子を見て頂戴ね? すぐに警戒を解くのは難しいでしょうし、その間の荒らされた野菜の保証もするから」
「仰せのままに…」
来た時が嘘のように、臣下の様な礼をして、去って行く人々を、木の上で俺と同じ様に、呆然と見つめる紫雫。
彼らが去った後、つい獣化したままの紫雫が呟いてしまうのも仕方ない。
「紅葉さんって何者なの…?」
「うふふ。ここら一帯の大地主の娘かしら…? ふふっ。まぁ、滅多にそんなの表には出さないけどね~」
内緒よ? そう言わんばかりに唇に指をあて、紅葉さんは言った。
「それより、畑を荒らしてる子達の説得だけど、暁くんや紫雫くんにお願い出来るかしら…、説得に応じてくれない子は仕方ないのかもしれない…。人を信用できなくて当たり前だもの…。でも、選ぶ機会くらいあげたいじゃない…?」
そう言って、儚げに笑う紅葉さんに頷くのを見、彼女も大切な何者かを失ったのかもしれないと感じた。
少しでもそんな思いをさせない為に、俺は紫雫を連れて説得の為に山を降りた。
途中で姿が変わるといけないからと、紅葉さんにたくさんの食料を持たされたのはまた別のお話。




