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「また来るよ…!」
気まずくなったのか、常連の男性やお店にいた人達は、そう言ってお金を払うとそそくさと姿を消した。
「塩でも撒いてやろうかしら…」
お客さんの姿も無くなり、ポツリと残された俺達。そんな中に響く紅葉さんの声。
「僕達まだここに居てもいいの?」
クリクリした目をきょとりとさせて、呟く様に紫雫が言った。俺の気持ちの代弁でもあったその言葉に、紅葉さんは笑って言った。
「君達、やっと仕事覚えてくれ始めたのに、居なくなっちゃうつもりなのかな? 可愛いあの子達ともお別れなんて、私はイヤよ。許容出来ないわ!」
人気のなくなった店内。ソッとカウンター越しに紅葉さんの温かい手が伸びてきて、俺らの頭を撫でた。
「あんな人たちの言う事を気にしちゃ駄目。何も後ろ暗い事なんてしてないもの。堂々としてなさい?」
俺達は人間にただ生きてるだけで、追われ邪魔に扱われ、人間の事が嫌いだった。
でも、わかってくれる人もいるんだと、初めて知った。いや初めて理解したといった方がいいのかもしれない。
俺達も、人間という存在は皆同じなんだと決めつけていた。紅葉さんに出会う為のイヤな思い出なら、それも悪くないかもしれない。
溢れる涙を止められないまま、「この後もあるんだから、きちんと食べるのよ!」紅葉さんにそう言われ、泣きながら続きを食べる俺と紫雫。味はよくわからなかったけど、温かい味がした気がする。
「2人共なんか、ボロボロだし、今日はお店締めちゃおう~。んで、焔ちゃん達と遊んで心機一転、明日からまた頑張ろ~!」
「私もお店閉めたら、二人と一緒にご飯しよ~」
そう言うと、ドアの外側にかけてある『Open』の看板を『Close』へとひっくり返し、カフェの入口の鍵を締める紅葉さん。
敵わないなと思いながら、様子をみていると紫雫が座っている隣の席に準備した料理を置き、モグモグと咀嚼し始める。
「皆…、裏庭にいるかしらね~。突如訪れたもふもふタイムの到来に、紅葉さんはワクワクだよ~」
そんな事を、紅葉さんが頬を染めて言うから、涙混じりな俺達まで笑ってしまった。
こんな風に突然お休みにして、成り立つんだろうか。俺達のエサ代だって馬鹿にならないだろうに。
この後、こんな事をしたい! あんな事をしたい! そんな希望を告げる彼女に急かされながら、その日の昼食時間は過ぎて行った。




