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神の堕とし子と魔法使い  作者: 白野 海
1/1

婚約者

 この世界には女神がいる。女神はほぼ全ての生きものの身体を創り出し、命を与えた。女神に愛された生きものたちは魔力を帯びて魔法を操り、世界に干渉する術を得た。

 けれどはるか昔の世界は、妖精が形作っていたという。妖精たちは、魔力とは違う力を帯び、それを独占していた。霊力と呼ばれるその力は、この世で唯一、命そのものを操ることができるという。妖精たちはその力を独占し、命あるものを悪戯に創り出してはまた悪戯にそれを奪い、生きものたちを苦しめていた。

 やがて女神の怒りに触れた妖精たちは、魔力によって守られたほとんどの生きものたちの命に触れることができなくなった。

それでも、今でも時々、妖精たちの言葉を借りて命を操る者が現れることがある。


 ——女神に取りこぼされてしまったその子を、神の堕とし子と呼ぶ。


(女神の創世記 第一章より)



 -・*・-



 鈴の鳴る音がする。

 王子が侍女を呼ぶ音だ。

 私は持っていた拭きかけのカップを置くと、できるだけ素早く、けれど走らず優雅に足を運んだ。行き先はもちろん、王子の執務室。ノックをして応えの声を聞くと、ゆっくりと扉を開ける。恭しくお辞儀をして、小さく口を開く。


「何用でしょう、殿下」

「リーシィ、来たか。なに、少しばかりお前に話したいことがあってな。面をあげなさい」


 ゆっくり顔を上げる。いつもどおり、陽光に照らされた金の髪と女神の色と呼ばれる翡翠の眼を持った美しい(かんばせ)がこちらを見ていた。

 否、いつもとは違う人が隣に立っている。

御付きの文官ではない。側仕えの騎士でもない。

白い滑らかな生地に、翡翠のヤドリギの紋様がついたローブ。濡羽色の長い髪に黄金の瞳と、まるで血統書付きの猫のような美しい顔をしたその人は、魔法師団長とか、イールス公爵閣下とか呼ばれている人だ。

 きっと私はあからさまに怪訝そうな顔をしていたのだろう、クスッと笑いをこぼした殿下が、公爵閣下をチラリと見た。

 公爵閣下はそんな私たちの様子を気にすることもなく、まるで無表情のまま、そこに突っ立っていた。


「互いに名は知っているな」

「無論です、殿下」


 そう無駄なく答える声にも、抑揚はない。まるで端正なお人形ですねと思いながら、私も控えめに頷く。史上最高の魔法使いと名高いかの美男子様のことなんて、平民でも知らない人はいない。そして私のことはといえば——彼とは反対の意味で、知らない人はいないだろう。


「そうか。それなら話は早い」


 満足げに頷いた殿下が、にっこりと笑った。幼い頃から幾度と見た、悪戯っ子の微笑み。私からすれば、嫌な予感と直結している。


「——お前たちは今日より婚約者となる。仲良くしなさい」


 そうしてその予感は、いつも必ず当たるのだ。

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