筆頭眷属長
「マジで?」
A.はい。
管理者さんの話を聞く限り問題なく世界を渡れるらしい。《滅者の心臓》の力で、簡単に前世の肉体付近に転移出来るようだ。
何かしら条件とか色々重なんないと出来ないと思っていたけど案外簡単に出来るらしい。
帰りはどうなるんだ?
A.《滅者の心臓》を解析します。"回帰"を取得。…座標の固定化に成功。
これで帰還方法を確立しました。ですがその場合、今の肉体を元に座標の固定化をしているので、この肉体以外では戻ってこれなくなります。ですので死なないでください。
あっちで死んだら元の世界に戻れないってことね。でも大丈夫だろう…多分。
親にとやかく言われないし、こういう時独り暮らしは楽だな。今日は金曜日だからだいたい二日間行くとして、飯はいらないな。ま、何かあれば戻ってくればいいか。
A.それでは権能を意識して下さい。
俺は目をつぶり《滅者の心臓》を意識すると自分の内に自分を含めて八つの心臓のようなモノを感じた。一番遠く一番強い力を発する方へ意識を向けると、それが俺と言う存在の始まり…ウルス=ドラゴンの心臓であることが分かった。
これか。
A.はい、それを掴んでください。
俺は手を伸ばし握るよう意識すると、自分の中のあらゆるエネルギーが心臓の中心に向けて急激に収束していき、ドクンっと心臓が熱く高鳴った。
それと同時に視界が切り替わった。
~~ピコーン~~
(魔法スキル〈空間魔法〉を取得しました)
(魔法スキル〈転移魔法〉を取得しました)
(特殊スキル〈空間跳躍〉を取得しました)
~~ピコーン~~
(特殊スキル〈空間跳躍〉を解析。上位スキルへ進化しました)
(固有スキル〈次元跳躍〉を取得しました)
(称号"世渡り"を獲得しました)
「な!?こ、これは…」
スキル取得のアナウンスが聞こえた後、俺の居た部屋から別のところに移動していた。そこはとても広い空間だっが、目の前にいる存在によって狭く感じた。
それは禍々しく捻れた角、強靭な四肢、鋭い爪、八枚の翼を持ち、全身黒くとても大きな龍が居た。死して尚、その龍から発せられる"死"を連想させるほどの圧倒的なプレッシャーに腰を抜かしそうな程だった。
「これが俺の前世、ウルス=ドラゴンの姿なのか…。〈世界眼〉も通用しないし…」
〈世界眼〉を使っても見ることが出来なかった。俺は近づき触ってみたが、死んでいるように見えず、今にも目覚めて襲いかかってきそうだった。
「そう言えば厳密には死んでなかったな…」
少し離れ辺りを見渡すと、そこには金銀財宝の山が幾つもあった。金貨や銀貨だけでなく、武具や宝箱、芸術品など様々なものが無造作に山積みになっていた。
「こいつはすげぇな」
前世の姿にはビックリしたが、この財宝の山にも大層驚いた。
近くにあった黒と金色の金属で出来たガントレットを持ち上げてよく見ると、細工が細かくかなりの技術力で作られたことが分かった。
「かっけぇーな。でも、これって左手し「ガチャ」」
俺のすぐ後ろから物音がして、思わずガントレットを落としてしまった。すぐさま振り向くと巨人でも通るのかと思うほどの大きな扉がゆっくりと開き始めていた。
「何者だ!?」
(侵入者…ここはダンジョンの最上階だぞ!)
そこから出てきたのは怪物でも巨人でもなく、黒髪ボブヘアのクールな麗人だった。黒い手袋をつけ、スラリとした細身の体に黒い軍服のような衣装を身に纏いっていた。
その漆黒の瞳を見ていると底無しの穴のように吸い込まれそうな気がした。無表情気味な表情や整った顔立ちは、まるで作り物の人形のようにさえ感じてしまった。それに何となくだけど、彼女はかなり強い気がする。
すると俺に向けて尋常ならざる殺気を飛ばしてきた。だが、俺は一切怯むことは無かった。
少し前なら確実にびびってたよな…やっぱり前世の姿を見たからか?ってそんなことを考えている場合じゃなかった!
~~ピコーン~~
(スキル〈威圧〉を取得しました)
(スキル〈殺気〉を取得しました)
(特殊スキル〈絶望のオーラ〉を取得しました)
(特殊スキル〈死のオーラ〉を取得しました)
(固有スキル〈王者の威圧〉を取得しました)
(固有スキル〈覇者の威圧〉を取得しました)
(固有スキル〈神威〉を取得しました)
~~ピコーン~~
(〈威圧〉〈殺気〉〈絶望のオーラ〉〈死のオーラ〉〈王者の威圧〉〈覇者の威圧〉〈神威〉を統合進化しました)
(原初スキル〈絶望之化身〉習得しました)
(称号"脅迫者"を獲得しました)
え?なんか凄いスキルが習得できたぞ。しかも称号が物騒だな。
俺は更に強めの殺意をぶつけてきた彼女に習得したばかりのスキルを使って、俺はそれを返すようにそれ以上の殺意をぶつけた。
(段階的に襲う威圧。最後のは私をも気圧されるほどの威力。しかし、その威圧からは想像も出来ないくらいの肉体の脆弱さ。何ともちぐはぐな人間だ。
そして私をも圧倒的に上回る底無しの魔力。まるであの方の権能を使っているかの…)
「っ!あ、貴方様は、もしかしてウルス様ですか!?」
俺の顔を見て怪訝そうな顔をすると、驚いたり悲しんだり喜んだりと表情を少しだけ変え、最後には感極まったかのように一筋の涙を流していた。
「えーっと、記憶とかはまだ思い出せていないんだけど、一応俺がウルス=ドラゴンらしい」
「いえ、姿形が違えども間違えよう筈がごさいません!これほどのオーラ、貴方様は我らが主に他なりません!!」
「ひっ」
一瞬で俺の目の前まで近づいて跪き、いきなり首を上げると凄い剣幕で熱弁してくるので思わず悲鳴が漏れてしまった。表情が無表情に戻っていたが、目が狂喜に似た何かを含んでおりそれが怖かった。
えーっとこの人は俺の部下?配下なのか?
A.はい、マスターの眷属の一人です。名をノア=クロムエルと言います。
管理者の話を聞く限りでは味方らしい。まあ、目に追えない速度で動く奴には到底勝てないから良かったと思うべきかな。
「メア!出てきなさい!」
彼女は不意に空中を見るといきなり大きな声をあげた。それに呼応するかのように空間が揺らぎ、少女が人形を抱えて出てきた。
所謂、ゴスロリと呼ばれる衣装に、腰ほどまでの髪は瞳と同じピンクいやマゼンダ色。まるで銀河の様にキラキラした光を発していた。
この子は最初からいたのか?スキルを使えば分かったかもしれない。それにしても、この世界には美女や美少女が大量発生してるのか?
「久しぶり~主様に会うのは何年ぶり?」
(本当に主様だ。人族に転生したのかな?魔力が異常すぎて人間には見えないけど)
「無礼者め!実体化してウルス様に跪きなさい!」
「も~、こう見えても僕の方が先輩なんだよ?ちょ怖っ、分かったから!」
ボクっ娘だ。
メアという少女が嬉しそうにふわふわと空中に浮かびながら俺に手を振ってきた。その態度に怒った美人さんが、まるでゴミを見るような目で少女に説教をした。怯んだ少女が諦めるように地面に降りてきて美人さんと同じ様に跪いた。
何かこのやり取りは懐かしいような気がする。
「筆頭眷属長第四席のノア=クロムエル」
「筆頭眷属長第三席のメア=ドリーム」
「「偉大なる我らが主の帰還を心よりお待ちしておりました。三千世界の全てに名を轟かせ、あらゆる者の頂点に立つ我らが王、我らが神よ!幾千幾万の時を経ても変わらぬ忠誠を再びここに捧げます!!」」
二人は姿勢を正しより深く跪き、大きな声で忠誠を示す。一般人だった俺にとっては内心物凄く慌てていた。
え?どうすればいいの?この人たち全然顔上げないんだけど!
「頭を上げてくれ。さっきも言ったが記憶を思い出していないから君たちのことを覚えていないんだ。それでも良いのか?」
「「御身に何があろうと我らの忠誠心は変わりません」」
「それじゃあ、これからよろしく」
「「はっ、畏まりました」」
「えーっと。そんなに畏まらなくていいよ」
先程よりも畏まった返事に俺は物凄く気まずくなった。このままだと話しづらいから顔を上げてもらいたい。
「やった~。この話し方疲れるんだよね!やっぱり、主様は優しいね。どこかの誰かさんとは違って!」
「貴方はもう少しちゃんとしなさい」
「そんな怒んないでよ~。僕の方が先輩なんだってば~」
「だったら、もっと上位者としての…」
またもや二人の言い合いになってしまった。でもやっぱり懐かしく感じる。少しだけこの光景を思い出せた気がする。あと二人いた気もするが…。
「確か他に二人居たような気がするが…」
「ご記憶が?」
「いや、うっすらと覚えている感じだ。他はまだ」
「畏まりました。二人とは恐らくウルベルト様とディアン様の事だと思います。今、御二人はここには居りません」
「ノアさん?は、二人の居場所知っているの?」
「ノアと呼び捨てで呼んでくださいませ。我らはウルス様の眷属ですので」
「うん、僕のこともメアちゃんでいいよ~」
「うん、分かったよ。これからはそう呼ぶようにするよ」
ちゃっかり"ちゃん"付けを希望する子もいるが、やっぱりここまで慕われるのは悪い気はしないがまだ慣れない。
「御二人は現在別々の所に居ます。第一席のウルベルト様は世界中を周り転々としており居場所が掴めず、第二席のディアン様は"死の魔境"と呼ばれる最果ての大陸に向かいました」
「死の魔境?」
聞き慣れない物騒な単語に首をかしげなから聞き返した。
「まず、ここは世界神が降り立った"始まりの大地"ルールス大陸の北東にあるカルテナ大陸です。世界で一番大きい面積をほこる大陸でもあります。"死の魔境"はルルース大陸の反対側にあり、絶対不可侵の領域です」
「絶対不可侵?」
「はい。その大陸の周りは毒潮に囲まれ、陸上も密林や砂漠、溶岩地帯、氷雪地帯など様々で気象も随時変化し、普通では考えられない超常的な天候もざらに起こる場所です。そこにいる環境を克服した多数の強い魔物が蔓延る大陸なのです」
げぇ、それは誰も近づけないな。そんな大陸に行ったら誰も戻ってこないんじゃないか?
「そのディアンって人は大丈夫なのか?」
「ええ、勿論です。私やメアでは束になっても勝てないほど強いです」
「古の魔物の一人だからね~。あのじいさんは伊達に年はとってないだよ~」
「古の魔物は多数いるのかな?」
「はい。世界神の眷属にそれぞれいるらしいですが、詳細は分かりません」
ふーん。そんな強い奴が複数いるかもしれないのか…。まあ、そうそう会うこともないだろう。にしても二人はどのくらいに強いんだろ?
俺は二人のステータスを覗いてみた。
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名前:ノア=クロムエル
年齢:3440
種族:神造魔生物
レベル:5750
[権能]:《変革》《蠱毒》
[オリジンスキル]:〈神造分壊〉〈天王之鎧装〉〈貫けぬ者なし〉
[ユニークスキル]:〈呪毒完全無効〉〈神格〉〈神力操作〉
[エクストラスキル]:〈武術の才〉〈武術の頂〉〈神闘気〉〈状態異常耐性〉〈不殺〉〈敵意感知〉〈覇者の威圧〉〈分身体〉〈超直感〉
[ノーマルスキル]:〈武術〉〈闘気〉〈仙術〉〈鑑定〉〈魔力操作〉〈霊力操作〉〈魔力感知〉〈霊力感知〉〈気配感知〉〈魔力遮断〉〈霊力遮断〉〈気配遮断〉〈身体能力強化〉〈暗殺術〉〈隠蔽〉〈隠密〉〈探索〉〈聖拳〉〈一騎当千〉〈自動反撃〉〈一撃必殺〉〈二撃必殺〉〈攻撃重過〉〈逆転の一撃〉〈不動〉〈衝撃波〉〈手刀〉〈指突〉〈気弾〉〈斬脚〉〈忠誠〉
[魔法]:〈呪毒魔法〉〈暗黒魔法〉〈影魔法〉
[恩恵]:〈滅神の恩寵〉
称号:対神近距離戦闘兵器、"災厄"殺し、呪毒を喰らう者、呪毒神、滅神の筆頭眷属長
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名前:メア=ドリーム
年齢:<不明>
種族:夢魔神
レベル:9985
[権能]:《悪夢》
[オリジンスキル]:〈夢現之幻想〉〈夢ノ楽園〉
[ユニークスキル]:〈有幻覚〉〈実体化〉〈物理攻撃無効〉〈神格〉〈神力操作〉
[エクストラスキル]:〈魂眼〉〈予知夢〉〈蜃気楼〉
[ノーマルスキル]:〈魔力操作〉〈霊力操作〉〈魔力感知〉〈霊力感知〉〈気配感知〉〈魔力遮断〉〈霊力遮断〉〈気配遮断〉〈威圧〉
[魔法]:〈夢魔法〉〈睡眠魔法〉〈幻影魔法〉〈幻惑魔法〉〈精神魔法〉〈暗黒魔法〉
[恩恵]:〈滅神の恩寵〉
称号:元迷宮皇、名前持ち、惑わす者、"災厄"殺し、悪夢の支配者、夢魔神、滅神の筆頭眷属長
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うん、普通に強いな。基礎ステータスは省いたが、二人ともスキルが多い。でも、権能の数が俺と比べて少ないな。
A.権能は魂の大きさに影響を受けるので、マスターレベルの魂があれば多数の権能を持てます。
ふむ。ノアはスキルと権能が多いけどメアはレベルも圧倒的だな。何で年齢が見えないんだろう?
A.見ようとすれば隠蔽を破り見ることが出来ます。
いや、やらないよ!絶対見ちゃ行けない奴じゃん!ノアの年齢とレベルから考えると絶対にヤバイやつじゃん!
「どうしたのかな~、主様?」
「ひっ。な、何でもないよ」
ニコニコ顔なのに、何故か目が笑っていなかった。
怖いよ!何なの?俺の配下ってみんな怖いの!?ってか、俺の考え見透かされてんじゃん!
「そう言えば、ウルス様はこれからどうなさるのですか?」
「二日後にはあっちの世界に戻るつもり。その間に出来れば異世界を冒険したいと思っているんだけど」
「なるほど、ではレベルアップが必須ですね。今のウルス様の肉体は不安定ですので早めに「ストップ!」…どうかなさいましたか?」
「え、俺の身体って何か異常があるの?」
A.はい。マスターは圧倒的な力が器にギリギリ収まっている状態です。ですので器…肉体を強化しなければなりません。このままでは直に肉体が崩壊します。
なるほど、思ったより危ない状態だったのか。特に身体に異変は無いんだけど。
「その声はウルス様の権能ですか?」
え?二人にも聞こえたの?
A.はい。能力の共有を行いました。
やだ、管理者さんって優秀すぎじゃない!スキルが次々に取得出来るのも管理者さんの力?
A.1/3は正解です。残り二つの内一つは、〈天賦の才〉の能力。もう一つはマスターの潜在能力です。
三つの要因が重なっているからこんなにも簡単にスキルが手に入るのか。
「レベルアップって具体的にはどうするの?」
~~取得スキル・称号~~
スキル:〈絶望之化身〉〈次元跳躍〉〈空間魔法〉〈転移魔法〉
称号:世渡り、脅迫者
〈絶望之化身〉
ー 殺気や敵意を込め増幅させ威圧し絶望を与えるスキル。スキル保持者の魂により威圧の影響力が変わる。※ウルスの場合は物理現象にまで干渉する。ー
〈天賦の才〉
ー あらゆるスキルや魔法の取得を早め、より上位のモノへ進化を施す。加えて取得経験値増加、必要経験値現象。ー
《滅者の心臓》
ー"輪廻転生"→転生、能力継承&強化、死後の不滅化。
"再臨"→前世の肉体に蘇る。
"降臨"→前世の肉体を座標に転移。
"滅者の系譜"→眷属化、念話、能力譲渡。
"回帰"→"再臨""降臨"から元の肉体に帰還する。 ー